サウジアラビア軍はパトリオットシステム等の防空システム、早期警戒管制機や複数の地上配備センサーを備えているのに反政府組織によるUAVや巡航ミサイルを使用した攻撃を阻止することが出来ないのは何故だろうか?
参考:Yemen’s Houthi Rebels Strike Airliner In New Drone Attack On Saudi Airport
パトリオットなどの既存の防空システムでは低RCSでロストしやすいUAVや巡航ミサイルの攻撃を防ぐのは難しいのかもしれない
サウジアラビアは豊富なオイルマネーを背景に欧米から大量の武器を調達して国軍の強化に努めており、国土や国民を敵の攻撃から保護する防空能力も非常に充実しているというのが一般的な評価だ。
サウジアラビア空軍は早期警戒管制機(E-3A×5機/サーブ2000AEW&C×2機)を運用して空から監視の目を光らせており、サウジアラビア防空軍は米国製の早期警戒レーダー「AN/FPS-117」を筆頭に複数の地上配備型センサーによる早期警戒網を構築、15億ドルの費用を投じて弾道弾迎撃システムTHAAD(迎撃ミサイル×360発/射撃管制システム×16基/AN/TPY-2×7基)を整備、パトリオットPAC-3やクロタルNG(R460 SICA)等の防空システム以外にも超低高度から侵入してくる目標を捕捉して迎撃するのに適しているスカイガードシステムを備えているのだがイエメンの反政府組織フーシによる攻撃阻止に失敗し続けている。
特に有名なのは2019年9月に行われた石油施設への攻撃だが反政府組織フーシによる攻撃は途切れることなく続いており、今月10日にはイラン製の自爆型無人航空機(UAV)を使用してサウジアラビア南西部のアブハ国際空港に攻撃を行い駐機していた旅客機を破壊したと報じられているが、ここで重要なのは駐機していた旅客機が破壊されたことではなく何度も繰り返し行われているアブハ国際空港への攻撃をどうしても阻止できない点だ。
イエメンとの国境から120km離れた場所に位置するアブハ国際空港はサウジアラビア空軍のキング・ハーリド基地から僅か17kmしか離れておらず、同基地にはF-15Sを装備した第5航空団が展開しているためサウジアラビア防空軍の防空システムによって同地域は厳重に守られているはずなのだが、フーシの巡航ミサイル(Kh-55の模倣品)やイラン製の無人航空機(Sammad-3やQasef-2K)による攻撃を阻止することに失敗し続けて毎回被害を出している。
サウジアラビア防空軍の詳しい配置やフーシによる攻撃手法の詳細については詳しく明かされていないが石油施設への攻撃に関する報告書には「複数方向から同時にやってくるUAVとミサイルの群れはレーダーを混乱させ対処能力を飽和させる」と指摘しており、サウジアラビアは超低空を飛行してくるUAVや巡航ミサイルに対して保有している機材は効果的ではないと判断してイスラエル製のアイアンドーム導入に動いているらしい。
さらに興味深いのはイスラエルが中東の米軍基地でミサイル防衛システム「アイアンドーム」を使用することに許可を出した点で、このニュースを報じたアジア・タイムズ紙は「米陸軍のパトリオットシステムは射点から着弾までの距離が超短距離の弾道ミサイルやロケット弾の迎撃に対応しておらず超低空を這うように飛行する目標への対処も苦手で、このギャップを埋めるため開発したLPWS(艦艇に採用されているファランクスを車載化したもの)は高速で接近してくる標的を無力化するには威力と射程が不足しており海外に展開中の米軍を保護する能力に欠けている」と指摘している。
要するにイスラエルから導入したばかりのアイアンドームを中東の米軍基地に持ち込むのも、アイアンドームのライセンス生産版「SkyHunter(レイセオンとイスラエルの共同生産)」の製造準備を急ピッチで進めているのもパトリオットシステムの能力不足を決定付ける証拠だと言いたいのだ。
さらにアジア・タイムズ紙は「弾道ミサイル、巡航ミサイル、ロケット弾、無人航空機などによる攻撃から拠点を確実に保護できる多層的な防空システムを保有してるのはイスラエルだけ」と指摘して、米国はステルス戦闘機の開発や調達に天文学的な資金を注ぎ込んでいるに中国やイランが保有する大量のミサイルやUAVから拠点を守るための努力を怠っているのは憂慮すべき事態で国防総省と議会に責任(幾つか存在したパトリオットの代替システム開発が政治的な要因で潰されたため)があると言っているのが非常に興味深い。
つまりサウジアラビア防空軍の実戦結果や米陸軍のアイアンドーム導入から推測される結論は「パトリオットなどの既存の防空システムでは低RCSでロストしやすいUAVや巡航ミサイルの攻撃を防ぐのは難しい」ということなのだが、果たしてアイアンドームはパトリオットに不足している部分を補うことができるのだろうか?
イスラエルが開発した「アイアンドーム」はロケット弾や砲弾の検出・追尾・迎撃に特化した防空システムとして開発されたため、特に同システムに接続されているレーダー「EL/M-2084」は低RCSの目標検出や追尾に優れた能力を発揮すると言われているのだがアイアンドームは巡航ミサイルやUAVを迎撃するようには設計されていない。
そこで低RCSの目標検出や追尾能力を拡張して巡航ミサイルやUAVの迎撃に対応したアイアンドームを開発、2020年1月にフィールドテストを実施して巡航ミサイルやUAVの動きをシミュレートした模擬目標を100%迎撃するに成功した。
参考:Upgraded Israeli Iron Dome Defense System Swats Down 100 Percent Of Targets In Tests
補足:英国も独自のカウンタードローンシステム「スカイセイバー」にアイアンドームの技術を取り入れることを決めてイスラエルから技術を購入している。因みにEL/M-2084は単体でも販売されておりカナダやフィンランドなど多くの国が採用している人気のレーダーだ。
恐らく現時点でアイアンドームほど低RCSの目標検出や追尾能力に優れた防空システムは存在しないので、ライセンス生産版「SkyHunter」が軌道に乗れば他の西側諸国もUAV対策としてアイアンドーム導入に動くかもしれない。
関連記事:アイアンドームが欲しいサウジ、イラン包囲網を構築したいイスラエル
※アイキャッチ画像の出典:Israel Defense Forces / CC BY-SA 3.0
それこそベトナム戦争時代から、非対称戦争への対応は言われ続けてるのに。
ゲーム感覚で戦争をとらえてる人間は、相手も自分と同じルールで闘うと思い込んで敗北していく
ゲームみたいな遊びでないし、ルールをいかに破るかが戦争のポイントなのにね
陸続きの国は辛いね
米軍は外征軍だから対応急がないとまずいし
日本は海上でのハエ叩き装備を急がないとね
以前別の記事にも書いたが、
PKOの陸自基地にも同様の脅威は存在すると思うから日本も早急に迎撃態勢の構築を望む。
「平和目的だから攻撃される事は無い」なんて外国では通用しない。
>アイアンドームは巡航ミサイルやUAVを迎撃するようには設計されていない。
本邦は、巡航ミサイルを落とすことに執念を燃やしてる感があり、
中SAM・短SAM・AAM4はもちろん、AAM5にすら対巡航ミサイルの能力を付与しようとしている様だけど、
対小型UAVに対してはどの程度効果があるのですかね?
それ答えられるの中の人だけでしょ。巡航ミサイルだってピンキリだしね、ステルス性持つものまであるにしても排気は結構あるだろうしサイズだって大きいんだから探知に関してはまだハードルは低くないか?低廃熱の小型UAVはそれ専用に調整しないと探知は難しいと思う。個人的には対砲迫レーダー調整すれば大抵のUAVは検知できると思うんだよなぁ。
トマホークでRCSが0.1~0.01㎡程度の様ですね。
AAM4は、巡航ミサイルより小型のターゲットドローンに次々と直撃して、近接信管の評価に支障を来したとの話しも。
言えてる
無人兵器は、21世紀のゲームチェンジャーだし、安価で効率よい汎用兵器になりうるから、それへの対抗兵器は、これから続々と出てくると思う。
イスラエルの兵器をサウジアラビアが導入するって一昔前なら絶対に考えられなかった。アメリカの相対的国力低下やシェールガス実用化で中東情勢が急速に流動化しているのがよく分かる一例だと思う。
対立してだはずのアラブの盟主とイスラエルがともにアメリカから軍事援助、兵器購入してたという経緯をどう読むか、バランスという呼び名でコントロールされていただけさ
中東こそ世界の闇の縮図なんだよ
トランプ政権が仲介してイスラエルとアラブ諸国の関係が改善されてたからなあ
米国は本土攻撃される機会があまりないから、
防衛システムの開発・構築がおざなりになってきたのかな?
BC攻撃に対してもコロナ対応を見る限り、思ってたほどじゃなさそうだし。
あと、多くの戦争で制空権を取っているのも一因かと。
元々はロケット弾を迎撃するためのミサイルだからドローンなら楽勝だろう
オーバースペックでさえある
オーバースペックだから逆に困ってるって一面もあるんだけどね
1万ドル以下の対ドローンミサイルが欲しいね
ミサイル自体が簡易ドローンみたいなもんだからなぁ
コストで逆転は厳しそう
「ミサイル」の時点でそれなりに高価になるからね。
セミアクティブ誘導の「ちっこいJDAM-ER」や「砲弾」に
「投網弾頭」なら誘導性能もほどほどでいいだろうし、
ミサイルよりはコストダウンできるんじゃなかろうか。
コスパが悪すぎるのと第二波で本格的なミサイルとか航空機で攻撃されたときにパトリオット切らしてたら詰むっていう問題がある
ラムジェット砲弾の小型化、あるいは安価なマイクロミサイルの開発が望まれるところですね。
サウジさん金かければ何でもできると思っているから…
金が無くてもどこまでやるか?
近年いささか懐の淋しい日本国としては、サウジアラビアよりも民兵、テロリストの手法からの学びを増やすほうが得策に思う
ドローンは低速なせいで一定速度以下の目標をノイズとしてフィルターで除外してる防空システムだとシステム上でノイズとして処理されてレーダーに映らない問題があるらしい。
アルメニアが苦戦したのも露系の防空システムが低速目標をフィルターで除外してしまうのが原因の一つだったらしいんだとか。
ただイスラエルはパトリオットで問題なくドローンを迎撃してるらしいんでパトリオットがこの問題を抱えてるかは微妙。
サウジの場合ハードウェアよりも錬度や士気に問題がある可能性が高い気がする。
低RCSで低速だと、鳥とかいるので、厄介だよね。
ステルス機のステルス踊りではないけど、
低速UAVの中には、鳥クラスのRCSで且つ鳥を模した飛行をするものも出てくるかも。
鳥サイズじゃ攻撃には使えんだろ
暗殺ようならともかく
鳥クラスのRCS=鳥サイズ
ではないんだよなあ・・・
ともかく、鳥サイズだとしても使えないは言い過ぎですね。
電子装備を黙らせるだけで全く無力化されてしまう兵器は多数あります。
そんな低価格なもので飽和攻撃でもされたらやってられないわけです。
X-2が鳥サイズのRCSなので、気合いを入れたらそのくらいの機体サイズもあり得るかと。
サウジアラビアの砂漠に鳥がどのくらい飛んでるの?
よく鷲が飛んでますよ。旅客機に乗って
本当の事をいうとソウゲンワシが海を避けて陸上を飛んでいる
二次大戦における複葉艦載機の活躍のお話のようですな、
サウジは封建制の時代のような印象です。
兵器が進歩しても人間はそれほど進歩していないということなんですかねえ?
人間は進歩しないよ、
大昔のことわざがそのまんま現代に通用するのはそういうこと
のど元過ぎたら熱さ忘れる
だから何回でも同じような失敗をやらかす
レーダーに探知されにくいプレペラでの低空侵入は、アルメニアがアゼルにやられたばかり
サウジアラビア防空軍のwiki情報を信じるなら地対空ミサイルホーク、地対空ミサイルMIM-104 パトリオット、35mm連装スカイガード対空システムの3つで防空している感じで機関砲の射程外をカバーするような短距離ミサイルって無いんだね。そりゃアイアンドーム買おうと思うわ。スカイガードがどれ位あるかは知らんが最低限アイアンドームのレーダーさえあればまだ対処はできるのか?