インド太平洋関連

米国もお手上げか? インド「S-400」導入に続き、「Su-57」導入を検討中

インド空軍は、ロシアの第5世代戦闘機「Su-57」を大規模に購入するかもしれないと、Military Watchが報じている。

参考:India Reiterates Interest in Su-57 Purchases – Large Scale Acquisition Under FGFA Possible

優先度は高くないが、インドが将来的にSu-57を導入する可能性は高い

インド空軍の関係者は、最近、量産が決定したロシアの第5世代戦闘機「Su-57」について、ロシア空軍で量産機が運用に入れば、SU-57の購入をより積極的に検討すると話した。

5月、プーチン大統領は、2028年までにSu-57を76機発注する方針を発表したが、翌月の6月、産業貿易大臣のデニス・マントゥロフ氏は2028年までに76機のSu-57を受け取るだろうと、Su-57の量産速度をアップさせた。

2028年までにSu-57を76機発注した場合、全てのSu-57を受け取るのは2030年以降になるため、マントゥロフ氏の発表は、2020年半ば頃には複数のSu-57配備が始まることを意味している。

インドはロシアからのSu-57購入について、量産速度が加速したロシアで製造されたSu-57を購入する案と、ライセンス生産が前提だったFGFAプログラムの元、インド独自の技術や要求を反映したSu-57を生産する案を検討している。

補足:FGFAとは、ロシアのスホーイと、インドのヒンドスタンによる第5世代ジェット戦闘機開発計画の総称で、開発費用の高騰や、ワークシェアの比率、要求仕様に関する両国の食い違いなどで計画は破綻したと言われていたが、実際にはFGFAプログラムは中止されておらず、今だにロシアとインドは共同で第5世代戦闘機開発について協議を行っている。

ロシアで製造されたSu-57を購入すれば、契約がシンプルで、一番早くSu-57を受け取れるかもしれない。

プログラム自体が打ち切りになったと言われている「FGFAプログラム」は完全に死んだわけではなく、完成したSu-57をベースにFGFAプログラムを再始動させ、Su-57をインド仕様に改良する方法もあるが、新たに発生する費用を考えた場合、Su-30MKIの二の舞になる可能性が高く、インド空軍はロシアで製造されたオリジナルのSu-57を導入する可能性が高いだろう。

導入したSu-57をインド国内で実際に運用し、能力を検証した上で、大規模な購入、国内でのライセンス生産(ロシアが認めるかどうかは別問題)を検討するかもしれない。

但し、SU-57の購入を検討すると言っている割には、インドにとって第5世代機の導入は優先度の高いプログラムではない。

出典:Attribution: Alan Wilson / CC BY-SA 2.0 Su-30MKI

インドと周辺国の国境地域に、第5世代戦闘機が配備される様子はなく、周辺国の第4世代機で構成された航空戦力に対し、インド国内でライセンス生産が行われているSu-30MKIは、十分な優位性を保っており、数が十分ではない中国のステルス戦闘機「J-20」は、インド方面ではなく、南シナ海や台湾海峡方面に優先的に配備されると予想しているためだ。

補足:Su-30MKIとは、Su-27の発展型であるた複座型の多用途戦闘機Su-30のインド輸出バージョンで、インドで生産されたシステムや西側の電子装置を採用しているため、機体の調達コストが約6,200万ドル(約67億円)と高価で、約2200万ドル(約24億円)のオリジナルSu-30に比べて高すぎるという批判と、西側戦闘機と比較して保守コストが非常に高いため、インドはSu-30MKIの調達を272機で打ち切ることを決定している。

ロシアは現在、Su-57を使って第6世代戦闘機の必要要素、AIをシステムに統合し、人間が耐えられる9Gを超える空中機動が可能な自律飛行や、レーザー兵器の研究を行っており、この辺りの開発状況も考慮しながら、Su-57の購入時期を吟味しているのかもしれない。

S-400とF-35の共存を否定しなければならない「本当の脅威」は?

インド太平洋戦略を進める米国にとって、S-400の導入に加え、ロシア製のステルス機をインドが導入するとなれば当然、面白くないだろう。

インドは、2018年10月、中国、トルコに続いて、ロシアから防空ミサイルのS-400「トリウームフ」を購入する、総額50億ドルの契約を結んだ。

米国は、インドに対しS-400導入を諦め、代わりに弾道ミサイル迎撃システム「THAAD」と、防空ミサイル「パトリオット」を購入するよう提案しているが、インドがS-400導入を諦めたという話は聞こえてこない。

インドのThe Economic Times紙は、インドにS-400を諦めさせる切り札として、米国は「THAAD」や「パトリオット」などの防空ミサイルに加え、ステルス戦闘機「F-35 ライトニング II」を提供するかもしれないと報道しているが、これは非常に難しい。

出典:Peter Hermes Furian / stock.adobe.com

そもそも、S-400とF-35の共存は、F-35のステルス性能を守るために不可能だと言われているが、ロシア軍が駐屯しているシリアのフメイミム空軍基地には、問題のS-400が配備されているため、イスラエルの大半は、S-400のレーダーによる監視下に置かれていると言ってもいい。

もっと言えば、地中海上に浮かぶキプロス島には、英国空軍のアクロティリ基地があり、最近、英空軍のF-35Bが配備されISIS掃討作戦に参加したが、シリアのフメイミム空軍基地に非常に近く、ISIS掃討作戦のためシリア上空を飛行したとすれば、確実にS-400のレーダーによってレーダー反射に関するステルス性能のデータを採取されているだろう。

勿論、S-400のレーダーの数km先で採取するデータと、数百km以上先で採取データでは精度の違いが生じる可能性があり、一概に同一視できないが、それでもデータを採取されていることに違いはない。

S-400とF-35の共存を否定しなければならない「本当の脅威」は、S-400のレーダーによってF-35のレーダー反射に関するステルス性能のデータが採取されるよりも、ロシア製の防衛装備品を採用している国に出入りするロシア人技術者になりすまし、物理的にF-35に近づき、秘密を暴こうとする工作員の方だ。

もし、後者が「本当の脅威」なら、ロシア製兵器を大量に導入しているインドがS-400の導入を諦めても、F-35を提供する可能性は非常に低いと言わざるを得ない。

果たして、ロシアがSu-57のライセンス生産を認めるのかは謎だが、米国がインドに対し、F-35のライセンス生産を認める可能性は0に等しく、価格面でも、条件面でも米国が、インドとロシアの間に割って入るのは相当難しいだろう。

極端なことを言えば、ロシアとインドが政治的に衝突でもしない限り、インドのSu-57導入を阻止できる可能性は限りなく0だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:scaliger / stock.adobe.com

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コメント

  1. インドの防衛装備品は定見がなく特に航空装備には混乱あるのみと言っていいでしょう
    航空基地ごとに合衆国、ロシア、フランス、ユーロとバラバラで導入決定の方針が一貫しているとはとても言えません
    これでは十分な整備、訓練ができるとは思えず、士気の維持にも特に気を配る必要があるでしょう。

      • 匿名
      • 2019年 7月 20日

      部隊運用を本気で考えてるとは思えない
      汚職が酷いんでしょうね
      ただこれだけ多様だとアグレッサー部隊の充実度は世界一かもしれないw

      • 匿名
      • 2019年 7月 23日

      15億人の連邦国家ですので各州が平均的発展途上国レベルに在ります。特に問題も無く配備運用できるはず。中立的国際関係を維持できる利点は大きいでしょうし、兵器供給国との関係が悪化しても壊滅的戦力低下は防げます。そして、将来の国産化の夢に向けたサンプリングでもあるでしょうから、意気揚々と買い漁るのも理解出来ます。
      確かに、機密扱いの先進的兵器は手に入らないでしょうが、核ミサイル持ちの巨大国家に仕掛けてくる先進国はもう在りませんので大きな問題では無いはず。強かな戦略の上での軍備であると観て居りました。

    • 匿名
    • 2019年 7月 20日

    アメリカに近づきつつあるインドにロシアが最新鋭機をそのまま出すか、といえばこれもまた疑問です。その上、インドが旗色をハッキリさせることも恐らく無いでしょう。

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