米国関連

GPS妨害は無意味か? 米空軍、中国製「北斗システム」を偵察機「U-2」が利用中だと明らかに

米空軍のジェームス・M・ホルムズ大将は最近、高高度偵察機「U-2 ドラゴンレディ」が自国のGPSだけでなく中国の北斗システムまでバックアップに使用していることを明らかにした。

参考:Russian and Chinese Satellites Are Helping US Pilots Spy on Russia and China

米空軍でさえ欧州だけでなくロシアや中国の衛星測位システムまで利用中

米空軍のラングレー・ユースティス統合基地司令官ジェームス・M・ホルムズ大将は、ワシントンD.C.で開催された会議で高高度偵察機「U-2 ドラゴンレディ」はGPSが敵に妨害を受けたとしても、欧州のガリレオ、ロシアのグロナス、さらに中国の北斗システムを受信できる「時計」を身に着けているため困ることがないと明らかにした。

高高度偵察機「U-2 ドラゴンレディ」はロッキード(現:ロッキード・マーティン)のスカンクワークスが戦闘機F-104をベースに開発した高高度偵察機で、2万1,000メートルもの高度を飛行することが出来るため運用開始から数年間は敵の地対空ミサイルの性能が未熟だったこともあり非常に有効な偵察手段だったが、1960年にロシア製のS-75地対空ミサイルによって撃墜されてしまった。

しかし偵察機材の発達で敵空域に侵入すること無く情報収集が可能になったため、後継機であるSR-71が退役した現在でも現役機として活躍を続けている。

米空軍のラングレー・ユースティス統合基地司令官ジェームス・M・ホルムズ大将は最近、ワシントンD.C.で開催された会議で高高度偵察機「U-2 ドラゴンレディ」はGPSが敵に妨害を受けたとしても、欧州のガリレオ、ロシアのグロナス、さらに中国の北斗システムを受信できる「時計」を身に着けているため困ることがないと明らかにした。

出典:public domain グラスコックピット化された機体

米空軍は2018年、米国企業のガーミンが製造するWAAS(GPSの精度向上を目的にした衛星航法補強システム)に対応した「D2 Charlie Aviator Watch」を100本以上調達してU-2のパイトットに支給しているが、ホルムズ大将の話が真実ならU-2のパイトット達はガリレオとグロナスと北斗に対応した時計を機内に持ち込んでいることになる。

中国のサウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post) 紙は、これに反応して中国の北斗システムはGPSと異なり商用利用に対して信号に制限をかけておらず、フェーズIIIで予定されている衛星打ち上げが完了(2020年6月完了予定)すれば位置精度の誤差が10cm程度まで向上するらしい。

しかし中国では政府の方針で、全ての車両や商船に北斗システムを搭載するよう命じて動きをリアルタイムで監視・追跡できる体制(2017年時点で2,200万台の車両と5万隻の商船に設置済み)を確立しており、北斗システムを受信できるチップを搭載すれば中国の監視下に置かれる恐れもあるがサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙はこれを明確に否定した。

サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によれば、リアルタイムで監視・追跡を行うためにはと特別な中継機が必要になるため北斗システムを受信できるチップだけでは監視・追跡を行うのは不可能だと説明した。

どちらにしても米空軍が自国のGPSだけでなくロシアや中国の衛星測位システムまで利用しているとは皮肉な話だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain U-2ドラゴンレディ

完成した機体の引き渡しはいつ? 韓国空軍の戦闘機KF-16アップグレード作業に遅れ発生か前のページ

アーレイ・バーク級駆逐艦27隻退役へ? 米海軍、イージス艦に対する耐久年数延長計画を中止次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米国、国防予算20億ドルのヨルダンにF-16V×16機を42.1億ドルで売却

    米国務省は3日、ヨルダンにF-16C/Dブロック70(通称:F-16V…

  2. 米国関連

    F-35の価値を守るためロッキード・マーティンが反論、2.5万ドルの運用コストは実現可能

    米空軍がレガシーな航空戦力をF-35Aで更新するという前提を覆してシン…

  3. 米国関連

    軽戦車ではなく火力支援車輌、米陸軍がM10 Bookerを披露

    米陸軍は新たに採用する戦闘車輌を「M10 Booker」と命名したが、…

  4. 米国関連

    米紙、バイデン政権はウクライナ支援のため52億ドルの資金を持っている

    WSJは2日「ウクライナ安全保障支援イニシアチブの資金は空になり、国防…

  5. 米国関連

    米軍が開発を進める対ドローンセンサー網、実現すれば東京都全域を2.3億円でカバー可能

    米国防高等研究計画局(DARPA)は最近、最も検出が難しい「密集した都…

  6. 米国関連

    センサーとシューターの分離が進む米国、ネットワーク化された長距離精密火力の実用化に前進

    米陸軍は2030年頃までに有人ヘリと複数の無人航空機(UAV)による高…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    面白すぎるが、これも一時的なもんでしょう

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    アメリカ版のバックアップということではなく他国のシステムを監視しているということではないのでしょうか。
    sigintのように。

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    そこは相手もGPS使ってるんじゃないかなと思ったり

      • 匿名
      • 2020年 3月 10日

      記事中にもありますがGPSは有事の際にはアメリカの意思でスクランブル掛けられるんですよ。

      3
    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    U-2ってホント長生きだよね
    これと同じぐらい長生きしてる機体ってMig21ぐらいかな?

      • 匿名
      • 2020年 3月 10日

      おいおいB-52大爺さんを忘れるなよ

      • 匿名
      • 2020年 3月 11日

      E-2も。その派生機のC-2もね。
      たまには思い出してつかぁーさい。

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    敵のも使えばそうそう止められないもんね。

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    電波には 色 も ヒモ も付いていないから…
    飛んでいる電波を捕まえて位置や高度情報を得るのは、受信機さえあればね…
    GPS妨害された有事の際に敵方が測位精度を落としたり、停波したりすれば敵方は自分で自分の首を絞めることになるのだし…… (苦笑)

      • 匿名
      • 2020年 3月 10日

      GPSのスクランブルってもう知らない人が大分増えてきたのかな。
      元々GPSは米軍だけが高精度な測位精度で利用してて他国軍や民間人は意図的に誤差のある情報を利用してたんですよ。
      それを2000年の5月にスクランブル解除して誰でもフルの性能を利用できる様になったんです。
      とはいえ有事の際等にはアメリカの判断で任意の地域の精度を落とす事が可能、との事。
      GPSを利用した機器(カーナビ等)の説明書とかにも必ず注意書きがあるはずですよ。

      1
        • 匿名
        • 2020年 3月 11日

        GPSには軍用精度と民生向け精度に差があるとか…
        もありましたよね
        湾岸戦争の時だったかには、なぜか民生用の精度も上がったとか… (笑)

        元文章 で GPSの精度や停波… とは書いていませんが
        有事の際に 相手方が精度を落としたり停波したりできないはずだろうから…
        勝手に受信して利用できる物は使え ということかと…

    •  
    • 2023年 5月 31日

    「みちびき」は使わないのかな?

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  2. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  3. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP