軍事的報道

420隻体制の中国海軍に対抗不可? 自由を奪う「3つの呪い」で自滅する米海軍

2035年までに中国は420隻もの艦艇を擁する大海軍建設を進めており、これに対抗するためトランプ大統領は海軍に対し2030年までに355隻体制を確立することを命じているが、海軍を取り巻く状況はお世辞にも上手くいっているとは言えない。

参考:Navy & Marines Caught By Surprise By Esper’s Budget Cuts

海軍の自由を奪う3つの呪い「355隻体制」「国境の壁建設費用」「コロンビア級原潜の調達」

トランプ政権はメキシコとの国境沿いに「壁(通称:トランプウォール)」を建設するための予算を捻出するため、国防総省に割り当てられた予算の一部を取り上げ流用する動きを見せており、その中でも最も被害を被っているのはトランプ大統領から2030年までに355隻体制を確立することを命じてられている海軍だ。

トランプ政権は今月始め突然、国防総省の装備調達予算から38億ドル(約4,150億円)をトランプウォール建設費用に回すため装備調達削減を命じた。

出典:U.S. Navy photo illustration courtesy of Huntington Ingalls Industries アメリカ級強襲揚陸艦3番艦「ブーゲンヴィル」

海軍が削減を命じられたのはアメリカ級強襲揚陸艦4番艦(LHA-9)建造に割り当てられた6.5億ドルの予算削減(恐らく建造中止ではなく発注・起工が遅れるという意味)と、対潜哨戒機P-8A 1機、戦闘機F-35B 2機、遠征高速輸送船1隻の調達削減、計13.1億ドル(約1,400億円)だ。

関連記事:F-35B運用能力が向上?ウェルドックを取り戻した「アメリカ級強襲揚陸艦」の実力

補足:陸軍は各種車輌の調達を縮小して2.1億ドル削減、空軍は戦闘機F-35A、輸送機V-22やC-130Jの調達削減や軽攻撃/偵察機プログラム中止などで6.7億ドル削減、海外緊急事態対応(OCO)基金(通称:戦争基金)から計16億ドルを削減し、海軍削減分と合わせて計38億ドルの費用を捻出する。

ただ、この動きに議会が反対しているため本当に2021会計年度予算に反映されるかは未だ未知数だが、355隻体制を確立しようとする海軍を苦しめる問題は他にもある。

海軍は2021年からオハイオ級原子力潜水艦を更新するためコロンビア級原子力潜水艦を建造しなければならないのだが、同艦の建造費用は非常に高価で艦艇建造予算の大部分(5年間で平均31%、単年最大40%)を割り当てる必要があり、海軍は2025年までのコロンビア級原潜以外の艦艇調達を半分に削減(21隻→11隻)することを決めた。

出典:public domain コロンビア級原子力潜水艦

この問題は数年前から指摘されていた部分で、海軍も国防長官に対し「海軍の予算とは別にコロンビア級原潜建造費用を割り当てて欲しい」と説得を繰り返してきたが、結局、この説得は失敗に終わり海軍は自らの予算からコロンビア級原潜の建造費を捻出しなければならなくなったため、2025年までの艦艇調達を削減したのだ。

その結果、2025年までに海軍が手にする艦艇は305隻となり、2026年から2030年までの5年間で50隻もの艦艇を調達する必要が出てきた。

海軍は2030年までに355隻体制を確立するためには艦艇建造予算があと1,300億ドル(約14兆円)必要だと必死に訴えているが、これは海軍の年間予算を10年間10%程度増額してくれという意味で、陸海空軍(海兵隊、統合軍を含む)の中で最も多くの予算を割り当てられている海軍の予算をこれ以上引き上げれば陸空軍から反発を招く恐れがある。

なぜ海軍の予算増額を訴える声が議員達の心を動かさないのかについては、過去の海軍に失態に原因がある言わざるを得ない。

出典:public domain ズムウォルト級ミサイル駆逐艦

米海軍が調達中のジェラルド・R・フォード級空母はコストの超過問題(計画当初51億ドル→80億ドル→現在130億ドルを突破)に晒され、多額の予算が注ぎ込まれたズムウォルト級ミサイル駆逐艦や沿海域戦闘艦プログラムは完全に失敗してしまい、もはや議会は海軍の主張や提案を全く信用しておらず、恐らく貴重な国家予算を浪費するだけの盗人とでも思っているのだろう。

関連記事:10年掛かっても完成しないズムウォルト級駆逐艦、極超音速ミサイル運用艦に改装?

これについては海軍の自業自得としか言いようがないが、幾ら海軍を冷遇したところで中国の脅威は少しも減ることはない。

結局、海軍の自由を奪う3つの呪い「トランプ大統領が掲げる355隻体制」「国境の壁建設費用」「コロンビア級原潜の調達」が、中国海軍に対抗するため必要な海軍の「柔軟性」を阻害しており、これは海軍のみならず米軍を弱体化させる元凶だと言っても過言ではない。

少なくとも今直ぐ355隻の縛りから海軍を解放しなければ、10年後、355隻体制の確立のためモスボール状態の予備艦隊から老朽艦を数合わせのため現役に復帰させることになるだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo courtesy of HII by Lance Davis

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    無人の海中ドローンとかで水増ししましょう

      • 匿名
      • 2020年 2月 28日

      まさしくですね。
      355隻なんて根拠のない数字、水増しで達成しとけば十分。
      海中だと開発費掛かるから水上、デッカいラジコンボートを魚雷か対艦ミサイル搭載・発射だけ出来る様にして「無人魚雷艇/ミサイル艇」と称して配備しとけばいいのでは。

      • 匿名
      • 2020年 2月 28日

      中国側もブルーウォーターシップは420隻中270隻だが…

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    はーそうですかではすまない
    日本がその分を埋めるくらいの いやそれ以上の増勢をしないと
    米国以上に中国拡大の影響を直接うけるのは日本だもの
    米国が投げ出さないよう むしろ引っ張っていくくらいの態度と行動が求められる
    何でも他人任せ 他人事な日本どうにかならんのか

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    我が祖国である中国海軍は米海軍をこえるのか、米国の歯ぎしりが聞こえる。

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    SDI(レーガン大統領政権下でのスターウォーズ計画)だよね
    相手国が公表した軍事の拡張計画、親兵器の開発計画は丸呑みにして(真偽は別にして)対応策を建てて、実行するのが普通のドクトリン、本当に実現されたなら、もう対応できないからね
    これでソ連は滅亡した(経済的にダメになった)

    だけど、これで滅亡するのは中国では? 急峻な軍事拡張+アメリカによる経済封鎖・・・
    もっと昔なら太平洋戦争開戦前の日本が受けた仕打ち(原油を確保するルートを断たれた)

      • 匿名
      • 2020年 2月 28日

      只、冷戦時代のソ連と今日の中国は、一つ大きな違いがあるよ。
      冷戦期のソ連は、軍事優先と共産主義の縛りがキツ過ぎた為に1970年代以降の経済は滅茶苦茶になっており、そんな中でSDIに対抗しようとした結果、滅亡へと突き進んだ。
      これに対して、今日の中国は「政治は共産主義、経済は資本主義」と言う「建前と本音の使い分け」が功を奏しており、その実態は兎も角、世界経済に少なからぬ影響力を持っているので、冷戦期のソ連よりも手強いと言わざるを得ない。
      下手をしたら中国は、米国による経済封鎖を逆手に取って「戦争準備を目指した軍備拡張を進めて、米国との軍事バランスを変えた後、米国に対して短期決戦を仕掛けて勝ってしまう」シナリオさえ考えているかも知れない。

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    コロンビア級を止めて、バージニア級で代替すればいい。

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    アメリカは今後モスボール艦を無人艦化し、ドローンで数を揃えて時間をしのぎ、
    その間に、中国に対して関税攻撃と続けて経済成長鈍化工作をやり、軍備費削減を狙いつつコロナウイルスに頑張ってもらい
    中国420隻大艦隊計画を破綻させてしまえ
    でも、コロンビア級がどれだけの費用圧迫と建造計画が狂うか判らんからこいつが爆弾だ
    新規建造ではなくてオハイオ級を元に改良する程度で済めば費用も時間も計画値に近づくと思うが

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    こういう文脈で同盟国に対する負担増要請が出てくるわけですね。困ったものです。

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    トランプが本当にやりたがっているのは貿易不均衡と不法移民対策で
    それ以外は全てが選挙対策以上の意味は無いと思うので355隻体制については簡単に撤回するのでは?
    就任当時はF-35をキャンセルするって騒いでましたよね

    • 名無しの観戦武官
    • 2020年 2月 29日

    既に計画は出てるけどブルーウォーターシップの頭数が欲しいならアーレイバークじゃなくて最新型OHP級を作るべきなんだよな。
    まずイージスシステムを諦めるだけでも結構安上がりになると思うが。
    駆逐艦がアーレイとズム、巡洋艦がタイコンしかないのが昔の空母打撃群思想で止まってるのが目に見えてるもん。
    その点LCSに手を出しすぎたけどどうみても小さかったし2種購入も無駄だった。考えは悪くないがな。
    とりあえずLCS売却してズムの予算カットすれば捻出できるんちゃう?
    個人的にあっちで資金調整してもらわないと日本がアメリカのズムとジェラルドとLCSのツケを払わされてるようで不愉快だ。

      • WSO
      • 2020年 3月 20日

      >アーレイ

      普通は「バーク級」といふ

      >タイコン

      普通はタイコ級といふ

      >ジェラルド

      普通はフォード級といふ

      で、今さらAWS(イージス・ウェポンシステム)載せてないOHP改級なんぞこさえるアイディアは、それこそ全世界的にミサイルの高性能化(射程・速度)が進む現在と近未来においていかにも素人考えだなァ、という印象。

    • oominoomi
    • 2020年 2月 29日

    予算不足なら海上自衛隊の方が経験豊富です。
    海自に学びましょう。
    取り敢えず頭数を揃えればいいんだから、「後日装備」という手があるじゃないですか。

    • 匿名
    • 2020年 2月 29日

    膨大な艦艇を自在に動かすには世界規模での指揮通信機能を必要とする
    ために盛んに中華衛星を打ち上げているがそう簡単に形成出来るようならソ連も米帝も苦しんでいない

    • 匿名
    • 2020年 2月 29日

    中国が太平洋インド洋さえ押さえればいいのに対し、大西洋北海と地中海迄抑えなければいけないアメリカの差もあるんでしょうね。
    そうなると今後はいっそう日本への要求がきつくなってくる。素早く後方基地たるオーストラリア、第2戦線であるインドと軍事同盟を結んでいかないと、予算的にも火力的にも厳しいですね。

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