米国関連

アーレイ・バーク級駆逐艦27隻退役へ? 米海軍、イージス艦に対する耐久年数延長計画を中止

米海軍は議会に提出した報告書の中で、イージスシステムを搭載したアーレイ・バーク級駆逐艦の耐久年数延長計画をキャンセルすると明らかにして物議を醸している。

参考:Destroyers left behind: US Navy cancels plans to extend service lives of its workhorse DDGs

艦艇の総数を増やせと言うトランプ大統領と減らしたいと言う米海軍

米海軍は議会上院の軍事委員に提出した報告書の中で、35年に設定されているFlightIIまでのアーレイ・バーク級駆逐艦の耐久年数を45年に延長する計画は費用対効果が悪いと述べ、同艦に対する耐久年数延長計画をキャンセルする動きを見せている。

この耐久年数延長計画はアーレイ・バーク級駆逐艦FlightⅠの21隻とFlightⅡの7隻に対してシステムの近代化ではなく、船体強度の補強や推進機関や電気関連の補修を行い耐久年数を10年延長するという内容で、これをキャンセルするということは、1番艦「アーレイ・バーク」は2026年に退役してしまい、2034年までにFlightⅠからFlightIIまでの27隻が全て退役してしまうことになる。

出典:public domain アーレイ・バーク級駆逐艦FlightⅠ ジョン・ポール・ジョーンズ

しかも米海軍は今後5年間、高価なコロンビア級原子力潜水艦の建造費を捻出するため他の艦艇調達数を大幅に削減(21隻→11隻)すると発表しており、この中にはアーレイ・バーク級駆逐艦Flight IIIの調達も含まれているため、今回の計画キャンセルは弾道ミサイル迎撃能力を持つ駆逐艦戦力(32隻※)が大幅に減少してしまうことを意味する。

関連記事:米海軍、コロンビア級原潜建造のためイージス艦や攻撃型原潜調達を大幅削減

補足:弾道ミサイル迎撃能力は全てのアーレイ・バーク級駆逐艦(就役66隻/建造中・契約済み6隻)に付与されている訳ではなく、2018年時点で32隻のアーレイ・バーク級駆逐艦しか対応していない。これとは別にタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦5隻が弾道ミサイル迎撃に対応している。

さらにアーレイ・バーク級駆逐艦の耐久年数の延長計画キャンセルはトランプ大統領が掲げる海軍艦艇の355隻体制にも大きな影響を与えるのは必至だ。

米海軍は2030年までに355隻体制を確立することを義務づけられているが、先の艦艇調達数大幅削減の影響で2025年までの艦艇保有数は305隻にとどまるため、2026年から2030年までの5年間で50隻もの艦艇を建造しなければならないのに、新たにアーレイ・バーク級駆逐艦が退役を始めれば355隻体制確立のための必要とされる新造艦の数が増えてしまう。

※出典:public domain コロンビア級原子力潜水艦

結局、米海軍は何処へ向かおうとしているのかは不明だが、もはやトランプ大統領が掲げる355隻体制を達成するつもりがないことだけは確かだ。

今後5年間の艦艇調達数の大幅削減やアーレイ・バーク級駆逐艦の耐久年数延長計画をキャンセルは議会の承認が必要なので確定したとは言えないが、米海軍としては現在の大型艦中心で稼働率が低い戦力構成を、メンテナンスが行いやすく稼働率の高い小型艦艇で構成された戦力構成に生まれ変わらせたいと考えているのかもしれない。

関連記事:荒れた海で運用不可? 米メディア、米海軍の小型艦による中国対抗策は無意味と警告

米海軍が進める小型のフリゲートFFG(X)や無人戦闘艦を中心に据えた編成には批判もあるが、アーレイ・バーク級駆逐艦の建造費用は当初約10億ドルだったがFlight IIIの建造費用は約20億ドル(約2,200億円)まで上昇したため、これを量産して中国に対応するのは予算的に不可能だ。

トランプ大統領に対する反旗ともとれる米海軍の規模縮小方針は、果たして議会を納得させることができるだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain アーレイ・バーク級駆逐艦FlightⅠ 1番艦アーレイ・バーク

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    金が無いならそりゃそうなる

    退役した艦はスプルーアンスやペリー級の様に売るのかね?
    イージス艦が日韓の様な一流海軍を持たない中堅国に広まるなら中々面白いんだが

      • 匿名
      • 2020年 3月 10日

      スプルーアンス級は一隻も売却された事は無い。キッド級と勘違いしているのでは?
      イージス艦が中堅国に広まるのは全く面白くもなんともない、寧ろ日本の国益的にはよろしくないないと思うが。
      更に言うなら日本はともかく、韓国の沿岸警備海軍は間違っても一流海軍ではない。

      1
        • 匿名
        • 2020年 3月 10日

        海軍を保有する国は144ヶ国あるが韓国海軍は予算や配備艦艇名実ともに上位1割に入るぞ国産艦艇の輸出も積極的で割と堅実な造り米欧から大型艦買えない国に人気だしな
        偏差値で言うと63、十分一流でおk

        • 匿名
        • 2020年 3月 10日

        凝り固まったイデオロギーで目が曇ってますねぇ
        無知と偏見は目を曇らせ思考を鈍らせる、先の大戦もその様な将校の話はよく回顧録で読んだものです

      • 匿名
      • 2020年 3月 11日

      釣りでしょ、これ?

      >イージス艦が日韓の様な一流海軍を持たない中堅国に広まるなら中々面白いんだが

      もうちょっと勉強してからコメントしなはれ。
      海上自衛隊のイージス艦は独自の運用要求を加えているので無理ですな。改装するにも耐久年数延長と併せてやる必要があり、費用が新造艦建造と比較してメリットが無い。

      台湾は中国の弾道ミサイルに対抗して、ミニ・イージス艦ではなくイージス艦を要求してきた経緯がある。台湾に売却のほうが米国、台湾双方にメリットがある。

        • 匿名
        • 2020年 3月 11日

        そいつは日韓以外、と書いてる様にしか見えんが

          • 匿名
          • 2020年 3月 11日

          韓の一字を見て逆の意味に捉えてしまった。すまんかった。> 元コメントの方

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    日本もこんごう型の後継を考えないといけない時期が近づいてますよね
    アメリカのイージス調達数減少で日本にspy6レーダーを買えという圧力かけてきそうな予感

      • 匿名希望
      • 2020年 3月 11日

      以前(イージス・アショアや、まや型の頃)は、SPY-6レーダーは売れない、だったから……言ってる事が真逆ですね。
      まぁ……海自も、こんごう型DDGのバトンタッチ先の艦を考えないといけない時期だから……ある意味、悪い話ではないとは思いますが?

        • 匿名
        • 2020年 3月 11日

        レセオンはAN/SPY-6(V)1・レーダーは9セットを製造契約済みみたいです
        アーレイ・バーク級駆逐艦・Flight-IIIの一番艦
        アメリカ級の3番艦(2021年就役?)への搭載は決まってますね

        なお、
        AN/SPY-6(V)2 1面の回転式 ニミッツ級空母、強襲揚陸艦用
        AN/SPY-6(V)3 3面固定式、フォード級空母、フリゲート艦用 
        ってのも環境試験中

        AN / SPY-6(V)4:アーレイ・バーク・フライトIIAのアップグレード用 これがキャンセルかな?

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    一隻2200億!?
    フライト3ってそんなに高いのかよ
    そりゃ最近の流行がフリゲートになるのも頷ける

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    トランプの落選に賭けてるのでは?

    • 匿名
    • 2020年 3月 10日

    アメリカがイージス艦フライト3の開発費を早く償却するがために
    いずれ日本に押し付けて来るぞ、アメリカで2200億するなら
    日本が導入させられるとなるといくらになるやら
    本当にそんな高価なイージスシステムロシアと中国に必要か?
    オーバースペックすぎないか?

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    フライト1.2って格納庫無いから使い勝手悪いし買い替えたいんだろうな
    その頃にはトランプも引退してるだろうしなんとかなるだろ的な思惑を感じる

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    Flight IIIの建造費用は約2,200億円。
    一方、まや型護衛艦は、1,680~1,730億円。
    どっかの翻訳サイトでなんで日本はそんなに安いとつぶやいてたな。
    まや型でも高いのに…
    早く安いイージスシステム作ってほしい。

      • 匿名
      • 2020年 3月 11日

      FCS-3改。

        • 匿名希望
        • 2020年 3月 11日

        迎撃しなきゃいけないミサイルが、全て音速未満なら……選択肢にしても良いけれど。FCS-3Aは、探知距離が短過ぎる。
        それに、イージスシステム(米国製)と、FCS-3等の似非イージスシステムっぽいシステム(米国以外の各国製)の違いとして、よく言われる事だけれど、
        最終的な人の判断を仰がないか?仰ぐか?って、問題もある。システムさえ動いていれば、CIWSらの様に、人の許可無く迎撃を実行するのか?あくまでも、
        最終的な判断は人に委ねて、お報せと迎撃実行時の誘導を行うだけなのか?は、1分1秒を争うタイミングで致命的な差が出る。
        まぁ……20年以上前の遅いコンピューターでなら、人の判断の方が早かった可能性もあるけれど。今なら、まずコンピューターの方が早い。

      • 匿名
      • 2020年 3月 11日

      フライトⅡAの米軍調達価格は1000~1100億円くらいだぞ
      フライトⅢが高いだけ

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    フライトIIIの建造費用は約2,200億円。
    一方、まや型は1,680~1,730億円。
    これでも高いので、早く安いイージスシステムを作ってほしい。

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    アメリカは他国間の貿易協定を回避する裏技で軍事費名目の開発製造が入ってるからなぁ。

    軍事費以外でやると補助金をいれて各種産業を保護してるとWTOに他国から訴えられるのは確実だからね。

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    日本の場合、CEC導入で初めて「有事に米軍があてにできる」保障を得たようなもので、
    米軍があてにできて初めて高い装備調達費に正当性が与えられる
    韓国の様に政治的迷走によってムダ金使う場合は論外だが

    • 匿名
    • 2020年 3月 11日

    フライトI、フライトIIでは対潜能力に問題もあるだの話だろう。
    あのシリーズはオリバー・ハザード・ペリー級とワンセットにしなければ、能力が半減というか、能力の発揮ができないだけの話だろう。

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