欧州関連

第6世代戦闘機「FCAS」開発で仏独対立、要求性能の「食い違い」で開発資金確保が困難?

フランスとドイツが計画を主導し、スペインが合流した第6世代戦闘機「FCAS」プログラムは開発資金の調達で問題が生じている。

参考:Germany scrambles to secure funding for next-gen fighter research contracts

共同開発する第6世代戦闘機のステルス性能で揉めるフランスとドイツ

2019年6月のパリ航空ショーで、スペインがFCASプログラムに正式合流することが発表され、共同開発のための法的な枠組みを定める協定にフランス、ドイツ、スペインの3ヶ国がサインしたことで、本格的な開発に着手するはずだったが、開発資金の調達で問題が生じている。

出典: JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 パリ航空ショーで発表されたダッソーFCASのモックアップ

フランス、ドイツ、スペインの3ヶ国は第6世代戦闘機「FCAS」のデモンストレーター(技術実証機)フェーズへ進むため、各国が7,500万ユーロ(約90億円)つづ負担し、総額2億2,500万ユーロ(約270億円)もの開発費を、来年の1月までにエアバス社とダッソー社に与える予定だったが、ドイツ議会が未だに開発の支出を承認していない。

ドイツは第6世代戦闘機「FCAS」の共同概念研究の結論が出るまで、機体のステルス性能とセンサーの研究開発を行うべきではないという立場を見せており、これはフランスとドイツの間で機体のステルス性能について意見が対立しているためだ。

第6世代戦闘機「FCAS」プログラムは、人間のパイロットが乗り込む「有人機」と、共に任務を遂行する随伴機=「無人機」の開発を同時進行する構想だが、ドイツは第6世代戦闘機「FCAS」プログラムの中心である「有人機」よりも「無人機」のステルス性能向上が重要だと主張し、フランスは逆に「有人機」のステルス性能が高性能であれば、無人機自体の開発をキャンセルしてもよいと考えている。

そもそも第6世代戦闘機「FCAS」プログラムが、有人機と無人機で編隊を組み任務を遂行するという「概念」は、あくまで「構想」に過ぎず、正式な仕様は「未確定」なため、このような対立が生まれるのだ。

第6世代戦闘機「FCAS」の足を引っ張るのはドイツ議会?

これ以外にも、ドイツ議会はフランスに拠点を置くダッソー社に、開発の主導権=決定に関する優位性が与えられたことに不満で、フランスとドイツは同等の主導権=決定権を持つべきだとドイツ議会は言い出している。

フランスとドイツの両政府がこのような条件で第6世代戦闘機「FCAS」プログラムに合意したのは、もし両国が「同等の決定権」を保有した場合、仕様や要求性能の調整に時間がかかるという共同開発ならではの「弱点」を予め予防するという意味が込められていると言われている。

出典:Bundeswehr-Fotos / CC BY 2.0 ドイツ軍のレオパルド2戦車

もちろん、このままでは一方的にフランスが有利なため、両国が共同開発する「次期主力戦車(レオパルド3とも呼ばれている)」の開発主導権をドイツ企業に譲ることで「均衡」が保たれると両国政府は判断したからこそ合意に漕ぎ着けたのだが、ドイツ議会だけは、両国の政府間が決定したこの取引は「不均衡」だと見ている。

そのためFCASプログラムに必要な「エンジン開発」について、フランス企業のサフラン社が開発を主導し、ドイツ企業のMTU社がサポートに回るという開発の枠組みが両国政府間で合意したにも関わらず、ドイツ議会の議員たちは、この枠組を拒否し、ドイツ政府に対しフランスと同等の開発主導権をMTU社が持つことを要求しており、このようなドイツ議会の不満が開発資金支出承認の遅れに繋がっていると見られる。

このような事態を憂慮したエアバス社とダッソー社は共同で、第6世代戦闘機「FCAS」プログラムを主導するドイツとフランスに対し、デモンストレーター(技術実証機)フェーズへ進むための「決断」と技術実証機開発のための資金を支出することを求めた声明を「公開的(ダッソー社のホームページに掲載)」な形で発表した。

エアバス社とダッソー社は声明の中で、FCASプログラムの将来を切り開くのは政治的指導者の決定に掛かっており、これ以上、時間を無駄にすべきではない。防衛産業界はこのプログラムを前進させるため、すでに準備が出来ており団結していると主張している。

出典:Swadim / CC BY-SA 4.0 第6世代戦闘機「テンペスト」のモックアップ

フランスに拠点を置く両社が、今回このような声明を「公開的」に表明することになった背景には、英国の第6世代戦闘機「テンペスト」プログラムに最近、スウェーデンやイタリアが参加するなど「大きな前進」を見せているにも関わらず、デモンストレーターフェーズへの前進を未だに決断できない両国政府に対し「いい加減にしてくれ」と叫びたかったのだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:Tiraden / CC BY-SA 4.0 パリ航空ショーで発表されたダッソーFCASのモックアップと随伴機の無人機

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    仏独で兵器の共同開発するときに必ず発生するいつもの出来事、完全に予想通りの展開。
    日本は単独開発するから、こういった事態はあおきない。
    C-2とA400Mの再現。
    エンジンがサフラン社とMTUではどちらが主導してもF-3より2レベルくらい低性能な機体になりそう。
    これから一線級の戦闘機を開発できるのは日米だけだが、最近はアメリカも怪しい。

    • 名無し
    • 2019年 11月 19日

    仏独で兵器の共同開発するときに必ず発生するいつもの出来事、完全に予想通りの展開。
    日本は単独開発するから、こういった事態はあおきない。
    C-2とA400Mの再現。
    エンジンがサフラン社とMTUではどちらが主導してもF-3より2レベルくらい低性能な機体になりそう。
    これから一線級の戦闘機を開発できるのは日米だけだが、最近はアメリカも怪しい。

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    ゴネてる内容は違うけどユーロファイター開発のゴタゴタの再現ってだけ?
     そもそも、戦闘機、戦闘機用エンジンの開発能力が全く無いドイツが何を言ってるんだ? フランス・ドイツで組むんだからサフラン社(フランス)の低出力のエンジンを搭載して、かつ、艦載機を開発するってのは自明だったでしょう? とも思う。 ちな、ドイツには空母、揚陸艦は無い。
     単にドイツ(というか、現在のドイツの与党が)がアメリカの兵器を買いたくないってだけで始めた共同開発とか見えない。 バルト海とNATOの分担だけなら強襲揚陸艦/F35-B、ステルスのF-35Aが順当だと思う。 
     イギリスが抜けたのは慧眼、流石と思う(イギリスの方にも開発費の問題は有るけど)
     エアバスの開発能力(要素技術の開発能力、プロジェクト管理、もっと全体の設計って全方面でダメなのでは? って疑ってしまう。
     あのレシプロ・4発の、CASAって4発をやっていなかった会社に開発を任せたの、傘下のヘリ開発で遊星ギアが破損してる案件・・・などなど

      • 匿名
      • 2019年 11月 19日

      けどテンペストもうまくいくんですかねありゃあ
      あれも手こずりそうな感じが

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    主権や法だけは一体化したEUだけど心情とか価値観的には全く一体じゃないからそりゃねって感じだ
    共通通貨だとギリシャのように首が回らなくなる可能性が常にあるからな…

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    いつもの通りで飽きた。
    今のドイツに巨大プロジェクトなんて無理でしょ。

      • 匿名
      • 2019年 11月 19日

      今度こそあの空港は開港するんでしょうね?
      スペースジェット就航後も開港してないとかなっても驚かんぞ

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    ドイツ議会は政治的にももう安定してないしグダグダしてんなあ

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    同じ国の枠でやっても協同プロジェクトになると揉めるしコケがちなのに、国の枠を超えたらそりゃあねっていう
    どこかの国がリーダーシップを握って、他の国は金(と技術)だけ出すって形が一番

    ってF-35が示してくれたわけで

      • 匿名
      • 2019年 11月 19日

      F-35も開発が難航して当初の低予算での開発なんてお題目は結局は間違ってたことを証明しちゃったからね
      自国だけで開発するのが一番安上がりで確実なのかもしれない
      成功するかどうかは別としてだけど

      1
    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    議会がゴネ出してるのはメルケルのレームダック化が関係してるのでは。
    ナショナリズム煽ってるんか利益誘導なのか、そもそも議員の票に結びつくほどのものなのか知らんけど。

    • 匿名
    • 2019年 11月 19日

    知ってた定期
    いや知ってたけど初っ端から躓いてて大丈夫かいな?
    ポイントオブノーリターン過ぎてからゴタゴタすると七転八倒で面白いんだが
    こんな最初から揉めると損切りで中止しちゃうから面白くないんだよな

    • しゅしゅ
    • 2019年 11月 19日

    記事にもあるが、政府は戦車と戦闘機でそれぞれ主導権を持ちあう事で合意してる。それに対してドイツ議会が反対という形。

    ドイツの政党のくだらないアピールで頓挫しないで欲しいですね…

    • 匿名
    • 2019年 11月 20日

    過去の栄光は燦然と輝いては居るものの現在のドイツに航空機のイメージは無いし、お互いに得意な分野で主導権を譲り合う形の政府間合意(暗黙の了解?)は正にwin-winであるように(とりあえずは)見えるけどなぁ。
    まぁドイツもエアバスに一枚噛んで着々と航空機製造の実力を蓄えてきていたようだから、ここで譲っていては次いつになるの?という思いもあるのでしょう。戦車は戦車でフランスも相当の実力者であるからそのときになれば揉めるような気もするし。この構図を日米に例えるならば、フランスが米でドイツが日のような立ち位置になっちゃっているんでしょうね。
    共同開発は経費負担軽減のために必須だ、みたいな論調をよく見るけれど、F-35のような形であれもっと直接的な共同開発であれ色々と揉めて開発費が高騰する流れでしかないなら全く意味がないな、とは思いますね。

    • 匿名
    • 2019年 11月 20日

    日本だって独自開発してほしいけれども、資金的に厳しいから国際共同開発しかないよな
    せめてテンペストは上手くいってくれると良いのだが…

      • 匿名
      • 2019年 11月 20日

      目下F-3(仮)と、それと共同運用される無人機を独自開発しているのですがそれは

        • 匿名
        • 2019年 11月 20日

        日本だって技術実証機(第五世代の)を作っただけでFCASと立ち位置は大差ないかそれよりも進んでないぞ
        F-3の要件もこれから具体化するわけで、その前に出したのはボーイングかどこかに「何したいのか分からん。完全に迷走してる」とまで言われる始末だし全く笑えない

    • 匿名
    • 2019年 11月 21日

    これから一線級の戦闘機を開発できるのは日米だけだが、最近はアメリカも怪しい。

      • 匿名
      • 2019年 11月 22日

      面白くない冗談を何度もしつこいですよ

      戦闘機の技術の話なら、米ロ中がトップ3であることは明白で、その次も様々な論はありますが日本ではないでしょう

        • 匿名
        • 2019年 12月 05日

        お前さんの頭の中では中国は技術大国だと思ってるらしいが、世の中には金を出しても買えないものがある。
        基礎が無いのにいくら金をかけてもちゃんとしたエンジンは作れない、その金も大部分は関係者に抜かれているのでは話にならない。
        ご自慢のJ20が日本近海に来ないのを不思議の思わないのかな、エンジンに信頼性が無く遠出が出来ないのもあるが、マッハも出せず肝心のステルス性が第四世代機と変わらないことがバレるのを恐れているのが真実だと思うぞ。
        戦闘機は米がトップでロシアは一段下、中国はロシアの劣化コピーに下手な絵を加筆しただけ。
        これからは世界経済が縮小に向かうからテンペストもFCASも多分完成しない、どちらも資金的にも技術的にも問題が山ほどある。
        アメリカもF-35に金をかけすぎてしまっている、F-3はゴーサインさえ出ればいつでも全力で突っ走ることが出来る、下手すると米英独の戦闘機はF-3の派生型になる可能性もある。

    • 匿名
    • 2020年 8月 31日

    戦後のドイツ人て実は日本に結構ライバル意識(というより敵意)持ってるらしいからなあ。

    共に奇跡の復興を遂げた経済大国とはいえ、GDPは常に日本が上(人口が多いからだけど)、昭和期の造船は雲泥の差、鉄道でも新幹線に水を開けられ、落日の感はあるが電子機器や家電でも上、タメと言えるのは自動車産業や化学工業くらい?

    航空機でも日本はF-2辺りからP-1・C-2・X-2と着実に開発を進めF-3を準備万端で開始しようとしてるのは、ドイツ人からすると面白くないかもしれない。

    工業立国としてのプライドと危機意識も、こうした我儘の背景にあるのかも知れない。

    フランス人てプライド高くて見栄っ張りと思われがちだけど、実は現実的で地に足が付いたところがある。

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