軍事的雑学

FMS契約の不備? 豪州、事故で失った電子戦機「EA-18G」賠償を要求するも米国が拒否

オーストラリア空軍(以下、豪空軍)は昨年、エンジン火災によって導入が完了したばかりの電子戦機「EA-18G グラウラー」を失い、米海軍に対し1億2,500万ドルの賠償を求めたが、あっさり断られてしまった。

参考:No compensation for faulty Growler aircraft that burst into flames as submarine price adds billions

誰に責任があるのか?炎上したEA-18Gの賠償要求を断った米国

豪空軍所属の電子戦機「EA-18G グラウラー」は2018年1月、米空軍主催の演習「レッドフラッグ」に参加するため、ネバダ州ラスベガスの北東7マイルにあるネリス空軍基地から離陸しようとした際、搭載されたGE社製エンジン「F414-GE-400」が火を吹き炎上、機体が激しく燃え回復不可能なダメージを受けた。

後の豪空軍と米空軍の共同調査で火災の原因は、エンジンの高圧タービンが破裂したためだと判明、豪空軍関係者によれば「この種の事故としては最悪の事故」と語ったが、なぜ当該部品が破裂したのかについては公式に言及されておらず、この事故で豪空軍は「EA-18G」と同機の主翼下に搭載されていた戦術電波妨害装置「AN/ALQ-99」を2つ失うことになり、機体と装備品を合わせた被害額は1億2,500万ドル(約137億円)に達する。

出典:Hunini / CC BY-SA 4.0EA-18Gに搭載された戦術電波妨害装置「AN/ALQ-99

豪州では、この事故は人為的なミスが原因ではなく、事故の半年前(2017年8月)に調達が完了したばかり新造機なので、恐らくエンジンの技術的な不具合が事故原因ではないかと(※立証はされていない)言われてお入り、この損失を取り戻すための「オプション」が契約上存在するのかについて、米国側に問い合わせることになった。

豪国防省は、EA-18Gの賠償は米海軍を通じて、開発メーカーのボーイングや、エンジンの開発メーカーのゼネラル・エレクトリック、当該部品を製造したサプライヤーに請求されるだろうと述べていたが、結果は全く期待外れのもので、米海軍によれば豪米政府が交わした契約上、EA-18Gの事故に対する責任は米国側になく、この損失は豪州の納税者が負担するしかないと指摘した。

さらに、米海軍でも同様の事故があった場合には賠償が得られないと付け加えた。

国防政策で全く良いところがない自由党による政治利用が透けて見える

豪国防省の高官は、EA-18Gを失うまで米国と交わした契約の詳細について何も知らなかったと話し、この契約についてはリンダ・レイノルズ国防大臣も「自由党政権ではなく労働党時代に結ばれたものだ」と語り、野党への攻撃材料に利用している。

そもそも国防省関係者が「契約の詳細について何も知らなかった」と発言すること自体が奇妙で、国防大臣が契約の責任を前政権に押し付け時点で、政権側が事故を政治利用しようとしているのでは無いかと勘ぐりたくなる。

出典:public domain総選挙前に辞任に追い込まれたターンブル前首相

要するに豪州の現政権(自由党)は、今年5月の総選挙に辛うじて勝利し政権維持に成功したものの、一時は野党の労働党に追い上げられ政権交代を噂されるほど薄氷の勝利だったので、現政権は野党の勢いを削ぐ必要があり、それにEA-18Gの事故は利用されただけだ。

EA-18Gは、2013年まで政権を担当していた労働党が対外有償軍事援助(FMS)方式で調達したものであり、基本的に米国側(米海軍)の責任は豪州の発注を、米海軍機としてボーイングに発注し、同機の引き渡しを受けチェックを行い、米海軍のパイロットによって豪州まで輸送し、現地で豪空軍に引渡すまでの責任しか負っていない。

もし、この過程でEA-18Gが火災を起こし失われたのなら米海軍は契約上、米国政府の予算で代替機を発注し豪州に引渡す義務があるが、同機種・同エンジンで再現性のある製造ミスでも無い限り、引き渡し完了以降の事故まで米国は責任を負うことはない。

恐らく、ボーイングやゼネラル・エレクトリックが瑕疵を認めなければ「欠陥」ではなく「事故」でありサポートの対象外と言う意味だ。

豪州は、これまでFMS方式による兵器調達を何度も経験済みで、引き渡し後に失ったEA-18Gの賠償が受けられないことぐらい知っているはずなのに、あえて契約(FMS)に問題があったかのように立ち回り、EA-18G導入の契約に署名した労働党の責任にしたいと言う意図が透けて見える。

豪議会では、現在導入中のF-35についても、何の保証もないまま導入されていると問題視し始めているが、EA-18Gと同じ論法で責任を追求するなら、2002年にF-35開発プログラムへ資金を出資する契約に署名した自由党(当時)に責任があることになるが、これも労働党の責任だと現在の自由党が批判しており、もはやロジックが破綻しているとも言える。

出典:public domain米海軍のEA-18G グラウラー

今回の件を受けて豪国防省は、既存の契約を全て見直すと言っているが、米国が豪州の要求を受け入れるかは不明で、仮に要求(万が一のときの賠償を契約に盛り込むこと)を受けれいたとしても、そのための原資は豪州に請求されるだけである。

今のところろ豪州は、失ったEA-18Gを新たに調達し直すのか、11機のまま運用を続けるのか明らかにしていない。

豪州の現政権はコリンズ級潜水艦の更新用として選択した「アタック級潜水艦」のプログラム総費用が2,250億豪ドル(約16兆7,000億円)も必要だと批判され、ドイツから調達を決めた装甲歩兵戦闘車「プーマ」は1輛あたり約2,500万ドル(約27億円)もするが、同じ「プーマ」を導入する英国は約1,000万ドル(約11億円)で調達していると批判されたりと国防政策について全く良いところがない。

集中する批判を交わすためのスケープゴートとして、EA-18Gの賠償「1億2,500万ドル」が大きく取り上げたれたに過ぎないと管理人は見ている。

 

アイキャッチ画像の出典:public domain豪空軍のEA-18G グラウラー

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 02日

    こういうとこでエゴ丸出しの殿様商売してるからボーイングは軍用機事業の傾きが止まらないんじゃ・・・

    • 匿名
    • 2019年 12月 02日

    >豪州では、この事故は人為的なミスが原因ではなく、事故の半年前(2017年8月)に調達が完了したばかり新造機なので、恐らくエンジンの技術的な不具合が事故原因ではないかと

    豪州が同件を技術的な不具合と本気で考えているのなら、該当機と同一ロットの機体か場合によっては同国が使用しているF414-GE-400搭載機を飛行停止にしてるのでは?

    • 匿名
    • 2019年 12月 02日

    例え瑕疵があったとしても、保証で100億円負担する事になるなら、取り敢えず断るだろ

    • 匿名
    • 2019年 12月 02日

    高圧側のタービンの軸も外に飛び出したみたいですね。
    不幸だったのはそれが機体だけでは無く、観測+妨害ポッド(3つあるのかな?)の内の2つを破壊。
    引き渡し、実運用試験(アメリカ)、フェリー飛行にによる豪州本土へ・・・ってイベントの後だからなあ、瑕疵を言われてもねえ
    (そもそも、豪州空軍の整備部隊の検査、整備能力の問題かもねえ)

    まあ、管理人さんのコメントどおりで、オーストコリア政府(間違っていないよ)が本領を発揮してるだけだよなあ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 02日

    結局国内生産できる国が強いということですかね

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