インド太平洋関連

F-22再生産を支持した豪州、今度はステルス爆撃機「B-21 レイダー」購入を検討か?

オーストラリアは、米空軍が開発中のステルス爆撃機「B-21 レイダー」購入を真剣に検討している。

参考:US open to deal on new strike aircraft

独自の長距離攻撃手段を確立したいオーストラリア

近年の軍事用装備は、要求される高度な性能を実現するためコスト負担は右肩上がりだ。

この問題は米国も例外ではなく、装備の研究開発や調達、維持や近代化のためコストは軍事予算を圧迫し続けている。

米空軍が開発中のステルス爆撃機「B-21 レイダー」は、あまりに高価過ぎて21機しか調達できなかった「B-2 スピリット」の失敗を教訓に、効率的な開発体制によって研究開発費を圧縮し、機体の調達価格を引き下げようとしているが、最も効果的なのは量産数を増やすことだ。

出典:Public Domain Northrop Grumman B-21 Raider

米空軍は当初、B-1とB-2を退役させる代わりにB-21を100機程度調達、76機のB-52Hと合わせて9個爆撃飛行隊体制を維持するつもりだったが、これでは中国の軍事力増強に対応できないと考えた米空軍は、爆撃機編成の飛行隊を現行「9」から「14(+5個飛行隊)」に増やすよう米議会に要請している。

もし米空軍の要請通り、爆撃機編成の飛行隊を現行「9」から「14」へ増やす場合、76機のB-52Hと200機のB-21が必要になり、1機あたり約5億5,000万ドル以内といわれるB-21を、もう100機調達するには単純計算(量産効果で価格は当然下がるかもしれないが今回は無視)で550億ドル(約6兆円)もの追加コストが発生する。

オーストラリアの戦略政策研究所は、米国の「B-21プログラム」にオーストラリアが参加すれば、B-21の機体単価を引き下げることに繋がるはずだと主張し、オーストラリアメディアは、米国のロス商務長官がオーストラリアへのB-21販売を否定(※1)しなかったため、米国はB-21を売る気があるかもしれないと報じている。

※1補足:オーストラリアのレイノルズ国防大臣は、米国に対し「長距離攻撃手段」として「新しい攻撃機」を購入したいと要求し、米国のロス商務長官は「米国もオーストラリアにもっと多くの航空機を販売したい」と答えただけで、B-21に特別言及したわけではなく、言及しなかったことを「オーストラリアへのB-21販売を否定しなかった」と言っているだけ。

オーストラリアは過去、最大15トンもの兵器搭載能力を有し無給油での航続距離は4,000km以上を誇ったF-111を運用し、独自の「長距離攻撃手段」を確立していたが、F-111の退役に伴いF/A-18E/Fを調達、さらにステルス戦闘機F-35Aを導入中だが、どちらもF-111を完全に置き換えるだけの兵器搭載量や航続距離を有しておらず、オーストラリアは「長距離攻撃手段」を失ったままだ。

出典:Public Domain F-111

インド太平洋地域では近年、ロシア製「S-400」などの高度な防空システムが急速に普及中で、オーストラリアは、より強固になった接近阻止・領域拒否(A2/AD)空域に侵入可能な信頼できる「長距離攻撃手段」を求めており、米国の「B-21プログラム」への参加=B-21を導入できれば、これほど信頼できる「長距離攻撃手段」は他にないと言いたいのだろう。

これとは別に、海軍が調達を予定しているコリンズ級潜水艦の後継艦「アタック級潜水艦」に、長距離の移動能力や対地攻撃能力を要求したのも、F-111退役で失った「長距離攻撃手段」として潜水艦を利用するという意図が読み取れる。

オーストラリアメディアの中には、アタック級潜水艦による「長距離攻撃」は、攻撃で巡航ミサイルなどの対地兵器を使い尽くせば再装填のため帰港する必要があり、そのための移動に時間がかかりすぎるのが欠点だと指摘し、再装填から数時間で再び再出撃可能なB-21とは比較にならず、B-21が如何にオーストラリアにとって必要な「長距離攻撃手段」かをアピールしているメディアもある。

確かにオーストラリアは、米国が「B-21プログラム」で負担するコストを軽減できるという主張には一理あるが、これは日本がF-22を導入しようとしたときの論理と同じで、B-21もF-22も輸出することを前提に作られていないため、恐らくオーストラリアの希望は叶うことがないだろう。

過去、オーストラリアはF-22の再生産にも賛同していた

米議会は米空軍に対し、F-22の製造ラインの再構築及び、近代化を施したF-22の調達に掛かる費用の調査を行うよう命じ、米空軍は昨年、その調査結果を議会に報告した。

F-22の生産ラインの復旧、サプライチェーンの再確立、熟練した生産要員の確保及び再訓練、旧式化したF-22の主要システムの再設計などに掛かる費用は、70億ドル(約7,580億円)から120億ドル(約1兆3,000億円)が必要で、近代化されたF-22の製造再開までに、約5年程度の時間が掛かる。

出典:Public Domain アラスカのエルメンドルフ空軍基地所属のF-22

空軍は近代化されたF-22を197機調達した場合、機体単価は約2億1,600万ドル(約234億円)から約2億6,600万ドル程度(約288億円)と見積もっており、F-22の製造ラインを再構築及び、近代化されたF-22の取得に掛かる総費用は、最大で約644億ドル(約7兆円)が必要なると見積もっている。

仮にF-22の輸出型が完成しても、2億ドルを超える高額なF-22を購入出来る国は限られ、そのような国はすでにF-35を導入中なため、もしF-22が売れるということはF-35をキャンセルするということを意味し、米国の防衛産業にとってプラスな話とは言えないが、これに反応した国が1つだけあった。

やはりオーストラリアだ。

オーストラリアはF-22の再生産を支持しており、米国、オーストラリア、日本の3ヶ国で、再生産されたF-22を最低でも388機、米国が197機、日本とオーストラリアで191機を購入することがF-22再生産のために役立ち、将来的には、英国やカナダなどファイブアイズの国も再生産されたF-22を導入すれば、再生産に必要な費用を削減できると主張したことがある。

B-21にしろF-22にしろ実現するかどうかは別にして、中国拡大に備え、国防分野へ大規模な投資を行おうというオーストラリアの意志だけは本物だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Jordan Castelan B-2ステルス爆撃機

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 11月 07日

    これからはどうか? は知らないけど(豪州の国内事情、経済情勢をあまり知らないから)、
    今までの豪州の政治は安定してないよねえ、親・中国政権、親・アメリカ政権とコロコロ変わってる。 なので対・中国の軍事政策もよくわからない。
    (ダイアモンド構想では参加してるけど・・・)

     あの、特殊工作員を載せる小型潜水艇を要求仕様に上げてた潜水艦もそうだけど、昔から小競り合いをしてる。+東南アジアの覇者を狙ってるインドネシアがまずは念頭にあるんだろうけど・・・それは安定したドクトリンなのかな?

    1
    • 匿名
    • 2019年 11月 07日

    南太平洋へ中国の支配が及ばないよう長距離爆撃機を必要としているのはわかりますが、アメリカと同様にF-111のリプレースでF-15Eを買えばいいところをB-21やF-22を欲しがっているのはステルスと無給油での航続距離を重視している、ということでしょうね。

    F-15Eは航続距離がF-111の7割程度なので空中給油が必須ですから、S-400/500のような長射程SAMを配備している地域へ空中給油機を派遣するリスクを考えると、単独で行動可能なB-21を欲しがっているのでしょう

    • 匿名
    • 2019年 11月 07日

    恐らくオーストラリアは日本人が思っている以上にアメリカからの信頼が厚いのだろうと感じるのですが(序列としてはイギリス>カナダ>オーストラリアというところでしょうか)、その辺りの実情などもそろそろ知っておくべき情勢なのかもしれませんね。

    • 匿名
    • 2019年 11月 07日

    遅ればせながら中国の驚異に気付いたって事とインドネシアの発展に危機感持ったのかな?
    中国はアメリカとか日本に任せときゃそこまで驚異でもないけど
    インドネシアと揉めると完全に孤立無援になる地政だもんな

    • 匿名
    • 2019年 11月 07日

    売ってくれるなら日本にも欲しいですねB-21。
    取得を計画中の長距離AAMやスタンドオフ兵器のキャリアーとしてF-35や将来戦闘機の強力な支援機になるかと。

    1
    • 匿名
    • 2019年 11月 08日

    B-52の再生産はさすがに誰も言わないのかw

    でもどうせ航空優勢下での弱い者イジメしかしないのにB-21は無駄なんだよねえ。

      • 匿名
      • 2019年 11月 09日

      空対空ミサイルキャリア任務にも使う計画なの。

    • 匿名
    • 2019年 11月 10日

    原潜作るとかB21にF22も買うとか
    そんな経済規模かよオージー

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