ロシア関連

ロシア製戦闘機を買うと損をする? SU-30SMを導入したベラルーシの後悔

ベラルーシ空軍はMiG-29BMの後継機として、多用途戦闘機「SU-30SM」の引き渡しをロシアから受けているが、ベラルーシの軍事アナリスト達はSU-30SMではなく、米国のF-16の方が経済的に優れていると同空軍の決定を批判した。

参考:Russian Su-30 fighter jets criticized by Belarus, they want F-16

ロシア製戦闘機の価格は見せかけ?トータルコストでは西側戦闘機よりも高くつく

ベラルーシの軍事アナリスト達は、西側製戦闘機に比べてロシア製戦闘機の購入価格は安いが、ライフサイクルコストまで含めて比較すると西側製戦闘機を選択するほうが安上がりだと述べた。

通常、西側戦闘機のライフサイクルコストは機体価格の2~2.5倍だと言われており、このルールに従えば「SU-30SM(機体価格5,000万ドル)」のライフサイクルコストは、約1億ドル~1億2,500万ドルの範囲で収まるはずなのに、ロシアは約1億8,500万ドル~2億1,000万ドルを要求してくるため、ライフサイクルコストは機体価格の3.7~4.2倍となる。

西側製戦闘機に比べてライフサイクルコストが高額なのは幾つかの理由があるが、その理由の一つに挙げられるのがエンジンの耐久性だ。

出典:public domain アラブ首長国連邦空軍のF-16F Block 60

今回導入した「SU-30SM」に搭載されているエンジン「AL-31FP」は、設定された35年の機体寿命が尽きるまでに6基(購入時に搭載されている2基を含む)のエンジンを必要とするが、米国のF-16が搭載しているエンジンGE製「F110」は、購入時に搭載されているエンジンのみで機体寿命が尽きるまで飛行できる。

なんとMiG-29BMの場合、機体寿命が尽きるまでに8基のエンジンが必要になったという。

結局、ロシア製のジェットエンジンは、西側に比べ燃費が悪く、交換用エンジンを多く必要とするため、導入してからの費用が高くつくと不満を漏らした。

もし、この数字が正しいのであれば、SU-30SM(機体価格5,000万ドル)の1機あたりのトータルコストは最大で2億6,000万ドル(約284億円)となる。

米国のF-16の最新型V仕様(Block70)の純粋な機体価格は不明なので仮に6,000万ドルと仮定した場合、トータルコストは最大で2億1,000万ドル(約230億円)となり、7,000万ドルと仮定した場合でも、トータルコストは最大で2億4,500万ドル(約268億円)でSU-30SMよりも安い。

出典:public domain F-35A

当初1億ドルを越えていた第5世代戦闘機F-35Aも、約7,790万ドル(約84億円)まで価格が下がってきているので、この価格でトータルコストを計算すると最大で2億7,265万ドル(約298億円)となり、SU-30SMとあまり変わらない。

プーチン大統領は最近の会議で、第5世代戦闘機「SU-57」を76機調達する方針だと述べ「20%のコスト削減がこの計画を可能にした」と言葉を続けた。76機のSU-57を約26億3,000万ドル(約2,880億円)で調達するということは、1機あたりの価格は約3,460万ドル(37.8億円)で、多くの軍事専門家が口を揃えて「安すぎる」と話した。

ここまで価格が安くなったのは、SU-57の研究開発費が上乗せされておらず、機体を製造する統一航空機製造会社に対し「利益率」を減らすようプーチン大統領が命じた為で、その結果、SU-57の価格は20%以上下がったと言われている。

要するに海外輸出するために、意図的に機体価格を引き下げて見せ、導入後のライフサイクルコストを引き上げることで利益を確保する狙いがあるのだろう。

今回の話を総合すると、ロシアの第5世代戦闘機「SU-57」は機体価格こそ安いが、導入後のライフサイクルコストは機体価格の5倍や6倍以上に設定され金を毟られるのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Alex Beltyukov / CC BY-SA 3.0 SU-30SM

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 11月 30日

    ということは、中国機も似たようなもんなんでしょうね
    エンジンが弱点というのはずっと以前から言われているし

      • 匿名
      • 2019年 11月 30日

      おロシアの輸出エンジンはモンキー・モデル
      かつ、最新のエンジンはモンキー・モデルさえ輸出されていない
      中国が冶金、と運用時の管理(ブレードの設計寿命の前・・・どのくらいかは知らんで検査して、ダメなら交換)でロシアを上回ってる(技術が上)なら、輸入エンジンのメンテは簡単、国産エンジンの推力はロシアを軽く上回れるでしょう。
      特許とか、契約は踏みにじる国だから

      3
        • 匿名
        • 2019年 11月 30日

        中国に関してはAL-31の分解再生するためのエンジンデポを2001年に国内に建設してる。Su-35を運用しているので、交換用のAL-41F1Sも輸入してる。インドもMiG-29Kの稼働率上げるために、エンジンデポ作る話があったはずだけど続報ないな。

        1
    • 匿名
    • 2019年 11月 30日

    西側はスペックを過小気味に見せ、東側はスペックを過大に見せる
    といういつものお約束だな

    とはいえ、他の兵器との連携だとか基盤の整備とかもあるし、トルコの例を挙げるまでもなく兵器と政治は切っても切り離せないのを考えると旧東陣営がロシア兵器を買うのが非合理的とも言い切れないと思うけど

    5
    • 匿名
    • 2019年 11月 30日

    本体を安くして交換用のインクで儲けるプリンターメーカーのようだ

    14
    • 匿名
    • 2019年 11月 30日

    外見がかっこいいからデザイン料だと思おうぜ
    どうせ戦争が起こって実戦に使われる事はないだろう
    使いもしない実用性などよりも外見の美しさに注意を払ったことを誇ろう

    4
      • 匿名
      • 2019年 11月 30日

      お前それグルジア国民の前でもそれ言えるの?

      9
    • 匿名
    • 2019年 12月 01日

    SU-30Mにすれば操作系統変更に伴う人材育成に金や時間がかからないという利点もある。
    ただ、確かに中長期的に見ればソフトウェア面も含めFー16の方が経済性、将来性は高い。
    恐らく政治的にロシア製を選ばざるを得ないのだろう。

    4
    • 匿名
    • 2019年 12月 01日

    結構面白いテーマ
    いま、ある程度余裕があり将来不透明なら西側兵器を買うべきだし、エンジン交換時のアップデートに期待したり、将来は金持ちになる自信があるならロシアの最新型もありかもしれない
    (私は嫌だが)

    1
    • 匿名
    • 2019年 12月 01日

    ロシアの隣国だし、将来的にもNATO入りは無いだろね
    ウクライナにもF16売ってないんだよね?
    じゃあ、ベラルーシはもっと無いんじゃないかね?

    4
    • 匿名
    • 2019年 12月 01日

    そもベラルーシはロシアに併合予定でしょ?
    べったりじゃん

    2
      • 匿名
      • 2020年 2月 11日

      この国って独裁政権ですよね?
      批判記事を書かせることでガス抜きさせる、もしくは言論の自由があるといいたいのでは?

      1
        • 匿名
        • 2020年 2月 15日

        LM社の戦闘機の価格はエンジンレーダー等の各種装備を省いた機体のみの価格です。
        調べればすぐわかります。

        1
    • 匿名
    • 2019年 12月 05日

    結局のところ政治的にベラルーシに西側兵器を買う余地はない気がする

    2
    • 2020年 2月 09日

    アメ製の欠陥ゴミ兵器をリボ払いで買わされるジャップヒトモドキが悔しそうw

      • けつのあななめろ
      • 2020年 5月 25日

      KFX計画はどうなりましたか?

      8
    • 匿名
    • 2020年 2月 15日

    Su-30と言えばイギリスとの演習で
    ユーロファイターに圧勝したあのSu-30か。
    ユーロファイターのレーダーはプレナーアレイ式だから
    走査に時間がかかり、レーダー波を逆探知されやすい。

    Su-30はバルスPESAレーダー装備だから機械式の
    プレナーアレイ式レーダーのF-15Jにも勝てる。
    しかもSu-30は管制機能付きだから周辺の友軍機がレーダー切って
    逆探知を避けながら戦える忍者戦法もAEWを使わずに実行可能。

    あと機内に9.4tの燃料積んで増槽なしで4000kmも飛べる。
    運用状態で増槽積まなくていいから本来増槽で潰される
    ハードポイントにその分大量のミサイルを積むことができる。
    推力偏向ノズル付きで機動性も高い。

    長距離哨戒、制空、対地攻撃まで何でもこなすことができるのがSu-30。
    以上の点からSu-30は世界でベストセラーになり、
    21世紀以降に最も多く生産された戦闘機(620機)である。

    1
    • 匿名
    • 2020年 2月 15日

    LM社の戦闘機の価格はエンジン・レーダー等の各種装備を省いたものです。
    調べればすぐわかります。
    F-16block70の価格は100億を超えています。

    • 匿名
    • 2020年 5月 16日

    ベラルーシの立ち位置では西側兵器を買えないでしょ、
    下手するとロシア地上軍が押し寄せてくるし、たぶん西側も黙認するよ
    独裁政権同士でも信頼関係はないからね

    3
    • 匿名
    • 2020年 6月 12日

    こうして見ると、ロシアは戦時の事を考えるドクトリンというのがあるのですかね
    機体寿命までエンジンが持つというのは平時の訓練で過ごすのが異常なんでしょう。
    戦時を考えると今どきの兵器は戦中に大量生産出来ないでしょうが。

    1
    • ハヤタ
    • 2020年 8月 05日

    格安プリンタとインクみたいですね

    プリンタ本体は安いがインクが高い❣️

    2
    • チョビ兄さん
    • 2022年 3月 02日

    これは冷戦時代のソ連のドクトリンに基づく整備法であり、戦車にも適用されています。例えばMig21は胴体前部以外、主翼やエンジンなど全て交換するようになっています。そのため時間のかかるオーバーホールを必要としない、つまり滑走路に並んでいる機体はすぐに出撃できるというように稼働率を上げるために考え出されたものです。

    3
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