米国関連

戦闘機生産ライン存続の危機? ボーイング、米空軍F-15EX導入「最大の後ろ盾」失う

米国の国防長官代行、パトリック・シャナハン氏が国防長官への指名を辞退したとトランプ大統領が発表した。

シャナハン氏辞退でボーイングの戦闘機生産ラインの存続は、もはや風前の灯

国防長官のポストは、前任者のジェームズ・マティス氏が辞任して以来、当時、国防副長官だったパトリック・シャナハン氏が国防長官代行を務めながら、国防長官就任に必要な米国議会上院の承認プロセスを進める予定だったが、今回の突然とも言える、承認プロセスからの撤退を受け、2018年12月から続く、世界最大の軍事組織のトップ不在が、もう暫く続く見込みだ。

当面、陸軍長官のマーク・エスパー氏が国防長官代行を務める予定だ。

今回の国防長官への就任辞退は、空軍のF-15EX導入に影響を及ぼすだろう。

シャナハン氏は、トランプ政権下で国防副長官に就任する以前、30年間もボーイングで勤務し上級副社長にまで上り詰めた人物で、空軍に対し、ボーイングのF-15EX導入を働きかけたのではないかと疑いを掛けられ告発された。

その結果、国防総省の調査に乗り出し、不当にボーイングを宣伝したり、競合他社を貶めるような行為をしておらず、シャナハン氏は倫理違反を犯していないと判断されたが、告発をされたという意味を考えれば、空軍による今回の唐突なF-15EX導入要求と、それに呼応するような動きを見せるボーイングを疑うなと言う方が無理がある。

国防総省の調査ではシロと判断されたが、それでも、国防総省内におけるF-15EX導入への後ろ盾だったシャナハン氏が去れば、空軍のF-15EX導入が怪しくなる。

出典:Public Domain 2019年2月11日、アフガニスタンを訪問した国防長官代行のパトリック・シャナハン氏

元々、米国議会や軍の中でF-15EX導入推進派は主流ではない。

それにも関わらず、当然、2020年予算要求案に8機分のF-15EX導入費用が盛り込まれ、予算要求案の提出前後から始まった、空軍の一部と、ボーイングによる連携のとれたF-15EXアピールは見事なものだった。

当初、導入の根拠として挙げた導入価格や運用コスト面でも、ロッキード・マーティンのF-35に追い上げられ、F-35A大量導入の方針を掲げる空軍が、今更、なぜF-15EXを導入しなければいけないのか、その理由を明確に説明出来ずにいるのに、ここに来てシャナハン氏を失えば、F-15EX導入推進派は空中分解するだろう。

私生活に関する問題や、DV疑惑なども就任辞退の要因に挙げられるが、ロッキード・マーティンのF-22とF-35に破れ、海軍向けのF/A-18E/Fと海外向けのF-15QAを除いて、主力戦闘機製造から追いやられたボーイングが、起死回生のために送り込んだシャナハン氏辞退で、戦闘機生産ラインの存続は、もはや風前の灯だ。

ただ、ボーイングやF-15EXの事情は置いておいたとしても、現在、米国はイランと一触即発の状況だけに、国防長官の不在をできるだけ早く解消してもらいたい。

しかし、米国のある上院議員によれば、新しい国防長官候補の承認プロセスには数ヶ月は掛かる見込みで、今すぐにトランプ大統領が国防長官候補を指名して、承認プロセスに入ったとしても、8月には議会が休会してしまい、9月なれば予算関連の審議が始まるので、新しい国防長官候補の承認プロセスは、さらにずれ込む事が予想される。

もはや、年内に新しい国防長官が誕生するかどうかも怪しい雲行きだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

マッハ4.0以上で飛行可能なステルス迎撃機、年内にも「MiG-41」開発に着手か?前のページ

エンジンが無いトルコ第5世代戦闘機「TFX」、試作機に「GE製F110」搭載次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    コストと性能面でF-35Aに対抗不可? 米空軍が採用してもF-15EXの海外輸出は困難

    米空軍が採用を決めた戦闘機F-15EXについて米国メディアは、コストや…

  2. 米国関連

    米国、ウクライナ向けに総額20億ドルの安全保障支援を発表

    米国はウクライナに対する総額20億ドルの安全保障支援を発表、この支援に…

  3. 米国関連

    米空軍はF-35Aを重視、将来戦力として期待されなくなってきたF-22A

    米空軍から将来戦力として期待されなくなってきたF-22A、将来のステル…

  4. 米国関連

    米空軍、中国に対して確固たる制空権を確立するには「マンハッタン計画」の再現が必要

    空軍協会主催のカンファレンスに登場したマーク・ケリー大将は「確固たる制…

  5. 米国関連

    米国が韓国から155mm砲弾を購入か、ウクライナ提供分の補充目的

    米国と韓国がウクライナに送るための155mm砲弾について協議を行ってい…

  6. 米国関連

    米国が明かしたロシアのウクライナ侵攻計画、偽のテロ攻撃で侵攻を正当化

    米国のブリンケン国務長官は17日、プーチン大統領はウクライナ侵攻を正当…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 6月 19日

    シャナハン氏は、軍歴のない防衛産業出身者を国防長官に起用しないという暗黙の了解がある理由をクリティカルにやってしまったという感じですね。
    F-15EXは誰が見ても無理筋だったんでしょう。同じボーイングでもF/Aー18E/F購入は疑われていないですし。
    いずれにせよ、兵士からすれば事実はともかく吸血鬼に映るので正式に国防長官になっても持たなかったと思います。
    ちなみに米国で気高いとされる価値観は「自己犠牲」と「家族愛」なんですが、軍務経験なし、DV疑惑・・・相手を貶したいときは逆にここを重点に攻めるわけです(苦笑)

    • 匿名
    • 2019年 6月 19日

    もう戦闘機を複数の兵器メーカーが開発、製造(世代毎でメーカーを変えて発注)って時代ではないのでは?
    開発期間も長いし、機能も高度になってるから、当然ながら要素研究のレベルから色々なメーカーが参画してて、その段階でキッチリと決まってる事も多々あるでしょうから・・・
     戦闘機(空軍、海軍)はLM、爆撃機はノースロップ・グラマン
    ボーイング(旧MD)は無人機関係、旅客機を改造した系(警戒機、給油機などなど)、サーブとの合弁会社での高等練習機、標的機(げんざいはF-16A/Bベースでのをボーイングが担当してる)って住み分けになるのでは? 

    • 匿名
    • 2019年 6月 20日

    ノースロップ・グラマンも戦闘機からは手を引いてて、ボーイングまで戦闘機開発をやめたらアメリカの戦闘機開発がロッキード・マーティンだけになるから、それはまずいのかもしれない(まさかUSAFが主力戦闘機を外国から買うわきゃないし)

    ただそもそも、今後、そう頻繁に戦闘機開発をするのかと言うと何とも言えないわけで

    • 匿名
    • 2019年 6月 20日

    日本のFー35批判派の中には、アメリカでさえFー35は欠陥機だからFー15EXを導入すると批判していたのもいたな
    そもそもアメリカがこれを導入するにしても、日本とは全く事情の異なるアメリカを引き合いに出すのは無理がある
    そしてFー15EX導入自体がボーイングを維持するためだったとなれば完全に見当違いな批判だった事が明らかになるな

    1
    • 匿名
    • 2019年 6月 20日

    残念ながら、無理筋F35批判みたいなことをする輩はそもそもマイノリティ出身で、数打ちゃ当たる、通れば儲けもの程度にしか考えていないので、最終的な結論がどうなるかなどの長期的視点は皆無、ましてや自己批判なんてあり得ないのです。それ故にマイノリティなのですが。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  2. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  3. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  4. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  5. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
PAGE TOP