米国関連

ボーイングが空中給油機に革命を起こす? KC-46A空中給油作業無人化に繋がる技術を開発

もしかすると日本も導入する空中給油機「KC-46A ペガサス」の空中給油作業が無人化するかもしれない。ただし、ボーイングがRemote vision system 2.0を完成させたらの話だが・・・

参考:Boeing’s KC-46 tanker now has a pathway for autonomous aerial refueling

ボーイングの空中給油機KC-46Aは空中給油に革命を起こすかもしれない

米空軍とボーイングは先週、空中給油機KC-46Aのリモートビジョンシステムに関する不具合を解消するため新規に開発したハードウェアとソフトウェアで構成された「Remote vision system 2.0(RVS 2.0)」に入れ替えることで合意した。

この合意を発表した米空軍の担当者は、このRVS 2.0には新たに高精細度の「4K画質カメラ」やレーザー光を使用して対象物までの距離や形状を検知可能なセンサー「LiDAR」などの追加が含まれており、この修正は手動で行われているKC-46Aの空中給油作業を半自律的もしくは完全に人の手が必要ない自律的空中給油を実現させる契機になるだろう話した。

現在、KC-46Aに搭載されているリモートビジョンシステム(RVS 1.0)では特定条件で映像の歪みが発生するため、空中給油を受ける航空機の機体をKC-46Aのフライングブームで損傷させる可能性が指摘されているが、新しい4KカメラとLiDARがこの不具合を解決する鍵になる。

出典:U.S. Air Force Staff Sgt. David Salanitri  KC-46Aの空中給油シミュレーター

ボーイングはRVS 2.0について、LiDARから得られる情報はKC-46Aと空中給油を受ける航空機の間にどれだけの距離や空間があるのかを数値化してブームオペレーターに伝えるため、このデータを利用する自律的なアルゴリズムを開発してインストールすれば訓練された人間によって操作されている空中給油作業を無人化することができ省力化に繋がると考えており、RVS 2.0が完成後の次のステップに自律的な空中給油作業のアルゴリズム開発を含めることに前向きだ。

しかし、ボーイングがKC-46Aの自律的な空中給油作業を実現させるアルゴリズム開発話を持ち出したのには理由がある。

空軍から受注したKC-46Aの開発にかかる予算は最大で49億ドル(約5,310億円)に固定されており、空軍と協議を行い開発作業の進捗に合わせて段階的に予算が解放されていく仕組みなので不具合などへの対応で追加作業が発生はボーイング負担で対応しなければならない。

今回のRVS 2.0開発合意で米空軍は保留していたボーイングへの支払い約9億ドルを解放することになるが、ボーイングはすでに35億ドル(約3,800億円)以上の自己資金を投じているためKC-46A開発プログラムは完全な赤字に陥っており、仮に執行が保留になっている予算が全額ボーイングに支払われても黒字化することは恐らく難しい。

そのためボーイングはKC-46Aから利益を発生させるには固定されて開発予算49億ドル以外から新たに金を引っ張る必要がある。

元々RVS 2.0はRVS 1.0に問題がなければ開発する必要のなかったものなのでボーイング負担だが、自律的な空中給油作業のアルゴリズム開発はKC-46A開発プログラムに含まれていないので米空軍が興味を示して欲しがれば、ボーイングが望んでいる「新しい開発予算枠」が設定されることになるためKC-46Aから待望の利益を発生させることが可能になるというわけだ。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Keith James KC-135の空中給油作業

さらに言えば米空軍が採用しているフライングブーム方式の空中給油は米海軍が採用するプローブアンドドローグ方式に比べて空中給油機の設備や人件費の面で高コストになりやすく、空中給油作業を無人化できれば米空軍としてもコスト削減につながるため悪い話ではなく、ボーイングとしては上手くそこを突いた提案だ。

補足:フライングブーム方式は時間あたりの給油量が多いため爆撃機や大型輸送機などを運用する米空軍に採用されている。逆に小型機中心の米海軍は時間あたりの給油量は少なくても安価なプローブアンドドローグ方式を選択した。ただしロシア空軍はプローブアンドドローグ方式で大型爆撃機Tu-160に空中給油を行っている。

ただこれはRVS 2.0開発が成功した後の話なので、まずは不具合だらけのRVS 1.0をRVS 2.0に置き換え安定的にKC-46Aが空中給油を行えるようにしなければならない。

ここで再び躓けばKC-46A開発プログラムはボーイングに前代未聞の赤字を発生させることになる。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force Photo by John D. Parker 

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    まずはまともな機体を作ってどうぞ

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    既存のシステムを新造してはダメなんでしょうか?

    アメリカ軍は革新的なシステムに悩まされてますが、まだ懲りないようです。

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    こういう作業こそ手動操作したデータを集めてディープラーニングで最適化出来そうなものだけどな

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    最近のボーイングっていい話があるのか

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    ボーイングの赤字はどうせ誰かが補填する必要があるわけだし(補填は規定事項と決め付け)、どうせFMSで追加料金(つまり日本負担)だろうと見ていたのですが、良い言い訳を作る感じなのかな

    • 匿名
    • 2020年 4月 10日

    ブローブアンドドローグ方式で送れる単位あたり燃料を倍増させるような技術開発の方向じゃダメなんですかね。電子戦機のように海空共通機材にできるし、輸出上も有利だろうに。

      • 匿名
      • 2020年 4月 12日

      今のアメリカならその方向に進むと
      給油中の戦闘機のキャノピーに
      燃料をぶちまける事故多発しそう

      • 匿名
      • 2020年 4月 13日

      誰もが考えるだろうけど誰も出来ないってことはダメなんだろうね。
      あまりににも広く普及してしまってるが故に今更サイズも規格も弄れない、っていう大前提があるからホースやプローブの径を太くするって手も使えない。
      何より、プローブ&ドローグ方式の問題点は受油側で位置合わせをしなければならない関係で運動性の低い大型機では接合そのものが難しい上に危険なんだよ。
      風に煽られてフラフラ動くドローグにプローブの先端を合わせる難易度の高さ故に米空軍は大型機用にフライングブームを開発したんだし(むか~しは米空軍もプローブ&ドローグだった。F-100とかにはプローブが付いてたよ)やるとなったらドローグに制御翼つけて電子制御でドローグの方をプローブに合わせるシステムにするしか無いでしょ。

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