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極超音速飛行が第6世代機の必須条件に?革命的な「極超音速エンジン」のテストに成功

英国のリアクション・エンジン社は、超極音速空気呼吸エンジン「サーブル・エンジン」に用いられる冷却装置「プリ・クーラー」のテスト結果を公表し、M5.0相当の環境下で作動することを確認したと発表した。

参考:REACTION ENGINES TEST PROGRAMME FULLY VALIDATES PRECOOLER AT HYPERSONIC HEAT CONDITIONS

第6世代戦闘機の必須条件に「超極音速飛行」が挙げられる日がくる可能性

サーブル・エンジンとは英国のリアクション・エンジン社が開発中の新型エンジンで、大気圏内ではジェットエンジンとしてM5.0以上で作動し、大気圏外ではロケットエンジンとしてM25で作動するという「極超音速複合予冷空気呼吸ロケットエンジン」のことだ。

出典:Science Museum London / CC BY-SA 2.0 サーブル・エンジンの断面図

2つのエンジンの仕組みを両立させる為に重要なのは、高温で流入してくる空気を如何に管理するかだ。

リアクション・エンジン社が開発した革命的な冷却装置「プリ・クーラー」は1,000度に達する高温の空気を、たった1/100秒で-150度Cまで冷却できるため、理論上、M5.5の極超音速で飛行中でもエンジンの過剰加熱を防ぐ事ができる。

今回、米国で実施された試験は米国国防高等研究計画局(DARPA)がリアクション・エンジン社と締結した「高温気流試験」の一部で、M5.5の極超音速域=1,000度に達する高温の空気を「プリ・クーラー」が冷却できるのかを確認する試験だ。

このテストで「プリ・クーラー」は、音速の5倍の速度に相当する環境下で設計通りの性能を発揮することが確認された。

サーブル・エンジン社の共同設立者であり、最高技術責任者のチャード・ヴァービル氏は今回のテスト結果について「同社の技術は極超音速域での動作が検証され、M5.0まで加速可能な初めての空気呼吸エンジン開発という目標実現へ近づいた」と語った。

同社は現在、サーブル・エンジンのテストを行うための新しい施設を英国に建設中で、これが完成すればサーブル・エンジン本体のテストに取り掛かる予定だ。

英国の国防省は今年、同社がサーブル・エンジンのために開発中の「プリ・クーラー」技術が、既存の戦闘機エンジンを大幅に強化することが可能か検討するプログラムに資金を提供すると発表した。

出典:Jason Wells / stock.adobe.com

このプログラムはロールスロイス社が主導しているが、当然、サーブル・エンジンを開発しているリアクション・エンジン社も含まれており、既存の戦闘機エンジンとは、ユーロファイター・タイフーンに搭載されているEJ-200のことを指している。

要するにサーブル・エンジンは当初、スペースプレーンでの使用を想定して開発されたため大気圏内外で作動するよう設計されていたが、革命的な冷却装置「プリ・クーラー」の性能に注目したが軍が、大気圏内で作動する既存のジェットエンジンの性能向上に同技術を取り込もうとしているのだ。

英国防省のスポークスマンは、極超音速推進システムの開発は世界的な関心事で過去、英米等の航空戦力は、敵対国に対し圧倒的優位性をもち敵対国空域へのアクセスは比較的容易だったが、進化した防空システムの登場により敵対国空域へのアクセスは難しくなってきており、再び、敵対国空域へのアクセスを取り戻すには、進化した防空システムをM4.0以上のスピードで「回避」するのも1つの方法だと語った。

どちらにしても、サーブル・エンジンが完成してみないと何とも言えないが、もし言及されているような性能を実現出来た場合、現在、英国が主導し開発計画が進行中の第6世代戦闘機「テンペスト」に、サーブル・エンジン(プリ・クーラーの冷却技術を採用した新型エンジン)搭載が選択肢に入ってくるだろう。

そうなれば、第5世代戦闘機の必須条件に「超音速巡航=スーパークルーズ」が含まれていたように、第6世代戦闘機の必須条件に「極超音速飛行=ハイパーソニック」が含まれることになるかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Riko Best / stock.adobe.com

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コメント

    • ソクラテス
    • 2019年 10月 23日

    極超音速じゃないんですかね…(困惑)

    • 細井一憲
    • 2019年 10月 23日

    極超音速予冷空気ロケットジェットエンジンが,遂に誕生したんですね👍😁❤️

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    数字が凄すぎてピンとこねえw
    いよいよ漫画アニメの世界になってきたな

      • 匿名
      • 2019年 10月 23日

      果たして人間が操縦出来るのでしょうか?
      ドローン?
      すると、最早ミサイルとは?

    • きふみ
    • 2019年 10月 23日

    ミサイルならいざ知らず、戦闘機となると中の人は大丈夫なんでしょうか…

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    tokyoexpress.infoにCG、概念図、構造が出てますが、
    戦闘機、無人戦闘機のエンジンとしては無理よね
    大気圏外のロケット・モードでは搭載してる液体酸素、液体水素を使う・・・
    この燃料タンクでは戦闘機のサイズに収まらない。
    プリクーラーは液体ヘリウムを封止した円筒状のブツ
    当然、これも熱を取ると消耗する(温度が上がって気体になる)から、液体ヘリウムの補充か、コンプレッサーで圧縮して液体に冷やす必要がある。 
    サーブル・エンジンはコンプレッサーで圧縮、こっちもデカい。
    日本のリニアも電磁石を冷やすが、これもコンプレッサーで液体に戻す・・・結構な大きさ

      • 匿名
      • 2019年 12月 30日

      これにつきますね。
      熱交換による冷却では、
      「極低温の液体燃料を気化しつつ消費して
      短時間で大気圏を飛び出すのが目的の
      宇宙機の下段」には有効だけど、
      大気圏内で継続的に作戦行動する
      戦闘機では役に立たない。
      敵地上空を1発飛び越えて任務完了する
      偵察機・爆撃機としてなら実用化可能かも
      しれないが、偵察なら衛星、爆撃なら
      各種ミサイルの方が有効でしょう。
      むしろミサイルの最終段での加速に使うのが
      有効かもですね。

      1
    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    超極音速ではなく極超音速ですよ

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    網張っとくだけで自滅しそうだが、、、

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    きっと金食い虫なんだろうな

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    サーブルエンジンを搭載すれば宇宙戦闘が可能になるよ!やったねテンペストちゃん!
    さておき、吸気↔️ヘリウム↔️液体水素燃料の熱交換で冷却してるようだけど応用・・・できるかこれ?

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    極超音速”戦闘機”とは言ってもほぼ直線番長な気がする。
    前方から同じ速度で向かって来る敵機は相対速度がM10? ミサイルを発射するとその初速はM5+ミサイルの速度?
    もう、訳が分からない。
    爆弾を落とそうとも初速はM5でどれ位手前から切り離せば良いの?そこまで距離が有れば照準はスナイパーで出来るの?
    寧ろ、敵機と相対したらチャフの様な少し重量が有って尚且つ滞空する様な物を散布すると敵機は避けられずM5で
    チャフのような物に激突して少なからずダメージを与えそう。
    知らんけど。

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    空気冷却のために燃料に液体水素を使うんじゃ戦闘機用には使用不可能だろう、燃料タンクがでかくなりすぎる。

    • 名無しさん
    • 2019年 10月 23日

    このエンジンを積むとしたら、第6世代戦闘機は大型化して
    昔のF111かそれ以上になるかな?

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    なに、無人にすればどうということはない。

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    ひょっとしたらだけどテンペストの開発事業も捗るかも。共同開発国も増えるのかな?

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    「熱の壁」対策とステルスって、両立するものなのですかね?
    RO位ならともかく、LOやVLOのレベルで。

    • 匿名
    • 2019年 10月 23日

    もはやミサイルですね。
    MIRVみたいな物でしょう
    極超音速飛翔体といいなぜ比較的に低高度を飛びたがるんでしょうか

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    AC5のアークバードみたいに低軌道に降りて物資の受け取り偵察探知、レーザーでの精密破壊とかやりたい放題したいのかと

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