軍事的雑学

狡猾な欧州が仕掛けた罠? NATO加盟国が引き上げた「国防予算」を巡って欧米激突

米国はNATOへの支払いを、ドイツの負担割合と同等程度まで引き下げることを決定したと米国のCNNが報じている。

参考:Trump administration to cut its financial contribution to NATO

NATO加盟国が増やした防衛予算を獲得するのは米国か欧州か?

NATOは現在、各加盟国が国防予算とは別に国民総所得に基づいて決定された負担額をNATOに拠出し、その資金はNATOの組織維持や軍事作戦の運営資金として使用されている。

出典:Public Domain NATO

CNNによれば、NATOの運営資金約25億ドル(約2,730億円)の内、米国は約22%に相当する資金(約5.5億ドル:約600億円)を提供しているが、新しく合意された費用分担方式によって、米国の負担割合は約16%(約4億ドル:約440億円)まで削減されることになり、米国に次いで最も多く負担しているドイツ(約14.8%:約3.7億ドル)とほぼ同額になる予定だ。

NATO運営資金の不足分に関しては、新しく合意した費用分担方式によって米国以外のNATO加盟国が平等に負担し、カバーすることになる。

米国は節約された資金を、ロシアと国境を接するウクライナやジョージア(旧グルジア)などへの軍事支援プログラムに投資する予定だが、今回の決定はNATOにおける米国の突出した負担を減らそうとするトランプ大統領の考えを反映するもので、今後、資金だけでなく実質的な戦力の偏りの是正へ繋がる動きだと言える。

出典:Gage Skidmore / CC BY-SA 2.0 トランプ大統領

米国は現在、NATO加盟国に対しGDP比2.0%以上の国防費支出を求めているが、本音はGDP比4.0%以上、要するに現在の2倍以上の国防予算を支出することを目標にしており、増加した国防予算が米国製防衛機器の購入に向かうことを期待していた。

しかし、欧州では増加した国防予算を米国経済に吸い取られるのを防ぐための動きがあり、米国との対立点になっている。

EU加盟国は、数十億ユーロ規模の兵器開発基金を立ち上げ、EU加盟国同士による用途の似た兵器開発で協力することを目指しており、この基金にアクセスできるのは欧州企業に限定(一応、例外はある)されているため、基本的に基金を利用して開発される兵器プロジェクトに米国の防衛産業は参加できない。

出典:Italian G7 Presidency 2017 / CC BY 3.0 it 欧州連合(EU)

この仕組の狡猾なところは、EU加盟国の内、22ヶ国がNATOに加盟しているため、基金に流れ込む資金の大半はNATO加盟国として増やした国防予算が原資と言う点だ。

しかも、その資金はEUという異なる枠組みの中で投資されるため、NATO加盟国だがEUの枠組みの外にある米国(厳密に言えばカナダも)だけ蚊帳の外に置かれると言うことで、米国はこの仕組に憤慨している。

NATO加盟国にしてみれば、トランプ大統領の要請に応じて国防予算を引き上げることに同意はしても、増えた予算の使い道に関して口を挟まれたくない、米国の防衛産業に吸い上げられれば、欧州の富が米国に流出するだけで欧州に経済的メリットがなく、EUという金庫に一度収めることで米国の手を届かなくしてしまおうと言う訳だ。

この仕組の最も良くできているところは、EU加盟国の中には非NATO加盟国もあり、そのような国の資金も基金に流れているため、米国が文句をつけても正論でかわしやすいという点だ。

出典:Photo by: U.S. Air Force

恐らく米国は、この仕組で欧州が譲歩しなければNATOにおける米国の負担を、今後も米国以外のNATO加盟国に背負わせることで圧力を掛け、それでも動かない場合、米軍の装備調達から欧州企業を排除するかもしれない。

現在、米軍の装備調達にはBAEシステムズ社、サーブ社、ラインメタル社など欧州に拠点を置く防衛企業が多く参入しており、受注額も少なくない。

補足:最近では、米空軍が採用した次世代の訓練機「T-7Aレッドホーク」にサーブ社(ボーイングとの共同受注)が、空軍の次世代電子妨害ポットの開発をBAEシステムズ社が受注している。

欧州も米国も自国の防衛産業維持のためなら何でも利用する、これが防衛産業の実態である。

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain NATO

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 11月 29日

    日本には決して真似のできない芸当ですね。

      • 匿名
      • 2019年 11月 30日

      いや、問題の記事を読めば分かるが、その「真似の出来ない芸当」を欧州がやった結果、米国と問題になっている訳で、日本がこれを真似したら、米国から「韓国と同類」と思われてしまう。

    • 匿名
    • 2019年 11月 29日

    世界最大の軍事力と、それに匹敵すると自称するヨーロピパの化かしあいなど真似する意味がない

    • 匿名
    • 2019年 11月 29日

    欧州人にルール作らせるとこうなるからなぁ
    スポーツやモータースポーツだととても分り易いルール変更やってくるからな
    それでいて自分達だけ抜け道使ってスルッとルール違反するという外道ぶり
    これでいざロシアが侵攻開始したらアメリカに泣きつくだろうことが容易に想像できるから救えねぇ…

      • 匿名
      • 2019年 11月 30日

      対するアメリカも、どストレートに「EUの金でアメリカの兵器を買え」って圧力掛けてるんだからどっちもどっちというかなんというか。
      結局のところ、ダメージを受けるのは国家間の信頼で、トランプお得意のディール()のお陰で結局全員が損してるんだよなぁ

        • 匿名
        • 2019年 11月 30日

        確かに損はしてるかも知れませんけど、互いに引ける案件ではないでしょう。個人的にはまだアメリカの言い分が理解出来ますが、さてどうするんでしょうね、これ。

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