米国関連

中国牽制目的?米国、条約失効に伴い「日本へ中距離ミサイル事前配備」検討

1987年に米国とソ連(現在はロシア)の間で締結され、30年以上維持されてきた中距離核戦力全廃条約(INF)が8月2日失効した。

参考:U.S. Defence Secretary says he favours placing intermediate-range missiles in Asia

中距離核戦力全廃条約失効で、日本に中距離ミサイル事前配備?

米国の国防長官マーク・エスパー氏は、アジアに地上発射型の中距離ミサイルを配備したいという意向を明らかにした。

これはオーストラリアを訪問中のエスパー氏に対し、報道陣が「アジアへのミサイル配備を検討しているのか」という問いかけに「そうしたい」と応え、ミサイル配備時期に関しても「数ヶ月以内」と具体的な時期を明言したことによるものだ。

但し、エスパー氏は「予想以上に時間が掛かる場合がある」とも付け加えた。

米国国内の報道では、条約失効から数週間以内に中距離ミサイルの試射を再開し、18ヶ月以内に配備が始まるだろうと予想しており、中国牽制のため日本や韓国に新しく開発される中距離ミサイルを配備する可能性についても指摘している。

出典:public domain 中距離核戦力全廃条約調印式

そもそも中距離核戦力全廃条約(INF)とは、射程が500kmから5,500kmまで、核弾頭及び通常弾頭を搭載する地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを全て破棄するというものだが、この条約では「地上配備型」に限定しているため、海上発射型や水中発射型の巡航ミサイル「トマホーク」や空中発射型の巡航ミサイル「AGM-129」は、この条約で制限を受けない。

この条約の影響で、米軍が軍事作戦を行う場合、作戦目標(国全体や施設など)の近隣に基地を確保できれば空軍機を派遣できるが、もし適当な基地を確保出来ない場合、空母艦隊を派遣するか、艦艇(潜水艦を含む)や、爆撃機などの移動式プラットフォームに頼るしかない。

要するに、目標を攻撃するため目標に近づかなければならないという意味だ。

出典:Tyg728 / CC BY-SA 4.0 中国の大陸間弾道ミサイル 東風-31

米国とロシアに限定した中距離核戦力全廃条約(INF)の欠点は、中国の台頭に対応できていないため、中国の中距離ミサイルの射程内に侵入しなければ攻撃が行えないという点で、条約の失効はこの構造的不利を解消するだろう。

今後、米軍は中距離ミサイル射程内へ接近するというリスクを軽減でき、必要な地域に対し、中距離ミサイルを事前配備しておけば、わざわざ艦艇や爆撃機を派遣する必要がなくなり「即時対応」も可能になり、軍の運用効率が向上し、軍事作戦のコスト削減にも繋がる可能性がある。

問題は、中国牽制のため中距離ミサイルを日本に事前配備する必要があるのかだ。

5,500kmまでの射程を持つ中距離ミサイルなら、グアムから発射しても中国の首都北京を射程に収めることが可能だが、中央アジア寄りのウイグル自治区の辺りまでには届かない。もし沖縄に事前配備すれば中国全土を射程に収める事が出来るが、日本に事前配備するなら日本政府の同意が必要になり、果たして同意が得られるのか謎だ。

最悪、日本への事前配備が難しいとしても、グアムから空中発射型の中距離ミサイルを搭載した爆撃機を沖縄付近まで飛ばせば良いだけなので、日本への事前配備に必要以上に拘る必要は無いかもしれないが、即応性の確保という観点から言えば、米軍にとってグアムよりも中国に近い日本への事前配備は理想的かもしれない。

出典:public domain 準中距離弾道ミサイル MGM-31 パーシング

冷戦時代、米国とソ連という2ヶ国のプレイヤーしかおらず、その両者で結ばれた中距離核戦力全廃条約は、中国、北朝鮮、イランなどの国が核兵器や弾道ミサイル、巡航ミサイルを保有することを想定しておらず、もはや時代に合っていない。

もし核軍縮条約や中距離核戦力全廃条約に代わる新しい軍縮条約を作るなら、今度こそ全世界の国が参加した条約にしなければならないと考えれるが、当分の間は、この狂気の競争が続くだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:chagpg / stock.adobe.com

無力化される可能性が高い韓国F-35A、北朝鮮の新型兵器ほぼ迎撃不可能前のページ

欧州第6世代機は第5.5世代機? 米国F-35&ロシアSU-57による無人戦闘機制御次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米太平洋空軍、E-3は味方を有利にするほどJ-20を遠距離で検出できない

    米太平洋空軍司令官はミッチェル航空宇宙研究所との対談で「E-3は味方に…

  2. 米国関連

    テスト内容が馬鹿げているため、米原潜の高強度鋼データを32年間も偽造した理由

    米原潜に使用されていた高強度鋼のデータを32年間も偽造して納品し続けた…

  3. 米国関連

    フィリピン国防相は米国提案のF-16Vは高すぎると批判、空軍は「他の選択肢」を検討中

    フィリピンのデルフィン・ロレンザーナ国防相は米国務省が販売の可能性を承…

  4. 米国関連

    150km先を攻撃可能なGLSDB、ウクライナへの到着は年内ではなく来年

    今年2月にウクライナへの提供が決まった長距離攻撃兵器「GLSDB」は年…

  5. 米国関連

    米海軍、アメリカ級強襲揚陸艦やフォード級空母ベースの軽空母案を検討中

    米海軍のジェイソン・ロイド少将は「海軍は軽空母にどのような能力を要求す…

  6. 米国関連

    米軍、運用コスト削減に失敗するとF-35維持に年間1.7兆円もの負担が必要

    米国の政府説明責任局はF-35の運用コスト削減が達成されない場合、20…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 8月 04日

    核でなく通常弾頭のミサイルを配備するって話だよね?
    ワンチャンあるとしたら難航してる買収が済んで基地化が進められた後の馬毛島じゃないかな無人島だし
    ここならキルギス側のごく一部を除いた中国ほぼ全土とロシアの半分が5500kmの射程内
    ただ数ヶ月では済まないだろうけど

    1
      • 匿名
      • 2019年 8月 04日

      米は通常弾頭だけとは断言しないだろうけど、日本は・・・

    • 匿名
    • 2019年 8月 04日

    元々冷戦時、ソ連製の国を跨ぐミサイルに欧州がビビってできた条約。北朝鮮・中国がミサイル作り出して無意味になった。
    本来なら欧州あたりが中国・北朝鮮含む枠組みを作るはずなのだが、情報がイマイチ少ない。欧州は東アジアに無関心のようだ。

    これから東アジアで中距離ミサイル冷戦が始まるかも。

    • wyuki
    • 2019年 8月 04日

    弾頭が核にせよ、通常(劣化ウラン弾は核?通常?)にせよ。
    日本から他国へ放つ弾道ミサイルやら巡航ミサイル。
    船なり飛行機で持ち込むのは一歩譲るけんど(今迄にも何等かの形で持ち込まれている筈)。
    地上に常設されるのは避けたいのが、日本人の本音ではないか知らん。

    •  
    • 2019年 8月 05日

    地上配備なあ。地上配備はターゲットになりやすいからなー・・
    取り敢えず核ミサイル原潜の定期寄港、もしくは常駐から始めよう

      • 匿名
      • 2019年 8月 06日

      高価で貴重なSSBNの常駐とか、沈めてくれと言っているようなものなんですがそれは
      オハイオ級SSGNやその後継、バージニア級が時々寄港して存在をアピールする程度でしょう

    • 匿名
    • 2019年 8月 06日

    やったらやったでとんでもないリスク負う羽目にあうわけで、相当なもんアメリカさんもよこしていただかないと。アメリカ本体は傷付かないで日本だけダメージ負えばいいなんて、そんな都合のいい話はない。
    地元の反発も当然あるだろうし、余程のものもらわんとやってられないですわ。

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  5. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
PAGE TOP