欧州関連

日空母にも早期警戒ヘリは必要?英海軍が開発進める「早期警戒型マーリン」の状況

英海軍クイーン・エリザベス級空母の目や耳となる新しい早期警戒システムを搭載した「マーリン HM.2」開発中だが、問題が発生し同空母の本格的な運用が始まる2021年までに間に合わない可能性がある。

参考:Fears raised over £269m aerial radar system that will be the ‘eyes and ears’ of Royal Navy’s Queen Elizabeth aircraft carriers

クイーン・エリザベス級空母を守る新しい早期警戒ヘリ「マーリン HM.2」

戦後、通常型空母を廃止した英国は、STOVLタイプの戦闘機シーハリアーとスキージャンプ勾配を採用したインヴィンシブル級軽空母を建造したが、この空母は米海軍や仏海軍が採用しているような早期警戒機(E-2)の運用が出来ず海上における早期警戒能力を失ってしまい、フォークランド紛争で高い授業料を支払う羽目になる。

1982年に発生したフォークランド紛争時、英海軍は航空機による早期警戒の代わりとして水上艦による早期警戒網を敷いたが、レーダーピケット艦を務めていた駆逐艦「シェフィールド」がアルゼンチン海軍による攻撃で撃沈され、航空機による早期警戒の必要性を再認識し開発されたのが早期警戒システムを搭載したシーキングAEWだ。

シーキングAEWは米国製「SH-3シーキング」に吊り降ろし式のレドームを搭載させ360度の探索が可能な機体だが就役から30年以上が経過しており、新たに建造したクイーン・エリザベス級空母でも固定翼の早期警戒機運用が出来ないため、新しい早期警戒型ヘリを開発することにした。

出典:U.S. Navy photo courtesy of the Royal Navy by LPhot Kyle Heller

開発を請け負った米国のロッキード・マーティンは、新しい早期警戒システムを搭載した「マーリン HM.2」をクイーン・エリザベス級空母の本格運用が始まる2021年までに届けると言っているが、新しく開発された早期警戒システム「クロウズネスト(Crowsnest)」のセンサーが敏感過ぎて調整に手間取っており、その影響でシミュレーターの開発が遅れ、未だにシステム操作員の訓練すら開始できていない。

英国メディアは英海軍にとって早期警戒ヘリ「マーリン HM.2」はクイーン・エリザベス級空母を守るための重要な防衛システムであり、本来なら2018年にテストが開始されるはずだったが、実際にテストが開始されたのは2019年4月で、もはやスケジュールに余裕はなく、プロジェクトを主導している政府のスケジュール管理能力を批判している。

予定されている空母クイーン・エリザベスの太平洋派遣(2021年頃を予定)に間に合うのかは微妙なところだが、いずも型護衛艦の空母化を行う日本も同艦に搭載できる早期警戒機の調達を考えなければならず、SH-60Kをベースに国内開発するのも手だが、英国の運用状況みて問題がないようなら早期警戒ヘリ「マーリン HM.2」やイタリア海軍が開発した早期警戒ヘリ「EH101 AEW」を調達するのも選択肢の1つだ。

果たして日本は、空母化したいずも型護衛艦に搭載する早期警戒機を検討しているのだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン

盗まれた契約を取り返せ?独次期フリゲート艦「MKS180」建造が裁判沙汰に発展か前のページ

韓国との「KFX」共同開発は中止? インドネシア、仏戦闘機「ラファール」を購入か次のページ

関連記事

  1. 欧州関連

    たった5分で破られたナゴルノ・カラバフ紛争の停戦、アルメニアもアゼルも攻撃を再開

    現地時間10日正午に発効したナゴルノ・カラバフ地域の人道的停戦は、たっ…

  2. 欧州関連

    初飛行に近づくバイラクタルKızılelma、BAYKARが地上滑走シーンを公開

    トルコのBaykarはジェットエンジンを備えた無人戦闘機「バイラクタル…

  3. 欧州関連

    英国防省、無人戦闘機の技術実証機「モスキート」製造をキャンセル

    英国防省は24日、初飛行が2023年に予定されていた無人戦闘機の技術実…

  4. 欧州関連

    フィンランドとスウェーデンのNATO加盟、トルコは両国の加盟を否定

    まもなくフィンランドやスウェーデンはNATO加盟手続きを開始する予定で…

  5. 欧州関連

    英国、第6世代戦闘機「テンペスト」プログラムにフランスを加えるのは不可能

    英国の防衛産業団体は第6世代戦闘機「テンペスト」プログラムにフランスを…

  6. 欧州関連

    ウクライナに対する歴史的な共同安全保障? G7が枠組みをまもなく発表

    英国政府は12日「G7が長期的なウクライナの安全保障体制に関する枠組み…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    自衛隊は外征しないから本土からE-2飛ばすんでしょ
    いつか本格的な空母を建造した時に載せることはあるかもしれないけど
    すくなくともいずもに早期警戒機が載ることは無いと思う

      • 匿名
      • 2020年 1月 21日

      それなら戦闘機も陸から飛ばせばいいだけ。
      陸から届かない離島で使うんだから、船独自の警戒機は必須。

      9
    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    かなり昔のMig31やSu-27ですらデータリンクで自分が見ていないものも見れるんだから、今の時代ならF-35のセンサーで十分な気はするけどねぇ
    航続時間が問題だろうけど
    アメリカ海軍のCECとかほとんど一緒じゃないのかな?
    まぁ自由に利用できるとは限らないけど

    1
    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    US-2にレーダー積んで離陸時は空母からクレーンで海面に下ろして……
    無理があるか。

      • 匿名
      • 2020年 1月 22日

      秋津洲も建造しよう。

      3
    • WYUKI
    • 2020年 1月 21日

    アメリカの空母(空母に限らずですが)は老朽化でドックに入る期間が長くなる一方。
    海軍の実働艦艇数は下がる一方。
    ですが近々の日本近海。
    海自/米海軍共々、出動の頻度は高まる一方。
    トランプでなくとも(=トランプなら猶更ら)同盟国に派遣要請するのは見え見えなここ数年。
    いずもが外征しない保証は無い様な気がするのは当方だけ?
    太平洋~インド洋~ライフラインを云々いうなら日本も空母を一隻派遣しろ。
    っと、フランスやイギリス(当然アメリカも)から云われても御可笑しくない。
    だとしたら。
    いずもにAEWヘリ。
    必要かも。
    勿論。
    必要にならない様、政治が動くのが一番なのだが。
    与党も野党も安全保障は選挙の際に票にならない、選挙資金にならないので誰も関わりたがらない。
    これが今々の日本の一番に哀しい現実。

    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    オスプレイのAEW機とかも言ってたけどどうなったんだ?

      • 匿名
      • 2020年 1月 22日

      オスプレイにE-2Dの機材が積めないかな。
      発着艦装置を専有しないから、空母にも有用だと思う。

      4
    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    EV-22とかオスプレイのAEW化計画あるのに、なんでどの国も開発実行に移らないんだろ?
    ヘリなんかよりすごくいいだろうに。

    1
      • 匿名
      • 2020年 1月 22日

      オスプレイAEWが実現してないのはヘリAEWの代表的ユーザーのイギリスが
      この記事の安価な対潜哨戒機から吊り下げる早期警戒システムを選定したためだと思う

      • 匿名
      • 2020年 1月 23日

      対空ミサイルの長射程化によりAEWの生存性が脅かされている現状、E-2以下の性能の専用AEWの価値が恐ろしく低くなっているからでは?
      ヘリでは実用上高度3000m程度が限界で、その高度における水平線の距離はたったの200kmでしかなく、近年の300kmを越える長射程対空ミサイルに一方的にアウトレンジされますので。
      V-22にレーダーを吊るすにしろ、与圧が無いのでヘリコプター以上に上昇するのは運用面で問題が有り、結局はヘリコプターと運用高度が変わらないという問題が。少数のAEW型の為だけに胴体を再設計するのも費用対効果で得策ではないということでしょう。
      結局は、平時は対潜ヘリのレーダーで警戒するか、必要ならば装備を換装して専用対空レーターを吊るし、戦時の艦隊外周警戒はF-35Bのセンサーとデータリンクで対応する、がF-35B軽空母の現実的で効果的な警戒手段となるのでしょう

      6
    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    E-767を本土から飛ばすのではないの?それか、一時EA-18Gみたいな電子戦機の導入の話が出たことがあるから、そういうことを考えているのかも

    1
    • 匿名
    • 2020年 1月 22日

    US-2で早期警戒機を作ったらええのにね
    とりあえず、余計な金かかるから空母機動部隊までは行かなくていいでしょ。
    必要要素を揃えていつでも出来ますよ状態で金を抑えて、中国に予算圧力かけるのが一番、対費用効果が高い

    1
      • 匿名
      • 2020年 1月 22日

      秋津洲もペアで作らないと!

      2
    • 匿名
    • 2020年 1月 22日

    マーリンHM2は対潜哨戒ヘリで、一部の機体が早期警戒システムを吊り下げるという話だったような
    専任の早期警戒ヘリとする案は高価で採択されてなくて。

    • 匿名
    • 2020年 1月 22日

    無人潜水艦にレーダー積んでピケット艦にすればいい。自分に向かってヤバそうな奴が飛んで来たらさっさと潜る。
    艦隊に同行なんて無理だから先に配備して浮いていればいい。安いぞ。

      • 匿名
      • 2020年 1月 22日

      潜水艦でなく、唯の無人艇で数を揃えた方が良い。

      1
      • 匿名
      • 2020年 1月 23日

      30FFMの整備目的はそこにあります。
      30FFMには無人哨戒艇が2隻、既存のヘリを無人機化したMQ-8Cが2機、潜水艇は分かりませんが随時載せるのだと思います。いずれにしても潜水艇か水上艇かというよりも三次元の立体索敵を実施するという計画ですね。

      1
    • 匿名
    • 2020年 1月 22日

    早期警戒ヘリ採用するなら例の無人ヘリ使うんじゃないの?
    その辺も含めて総合で検討や検証するとは思うけど
    早期警戒ヘリ導入の可否は自衛隊・政府の判断みるしかないね。 こっちは買えないもんw

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 06日

    日本近海(日本の制空権内)での運用では、早期警戒ヘリは全く必要ないけど、必要なのは海外遠征時だと思う。
    例えば航海の自由作戦とか、海外での共同演習、友好的な外遊時に航空機によるAEWが必要なのでは。
    良くF35Bをセンサーとして使えば早期警戒機はいらない、という意見があるが、それなら英クイーンエリザベスでも
    必要ないわけで、問題になってるってことはやはりF35Bでは不足する何かがあるのだろう。
    (具体的に何かは分かりません。詳しい人教えて!)
    日本が海外でのプレゼンスをするためには、いずもとかがに各2機くらいは用意する必要があるのでは?

    3
  1. もしも可能ならばクロウズネスト計画で英国に技術協力持ち掛けてみるのも一つの手かも知れませんね

    1
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  2. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  3. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  4. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP