欧州関連

揉めていた第6世代戦闘機「FCAS」開発条件で進展? エンジン開発でフランスがドイツに譲歩

フランスとドイツが開発を主導している第6世代戦闘機「FCAS」プログラムは、両国が開発の主導権を巡って対立し開発に必要な契約が遅れていたが両国は妥協点を見つけ、次のステップへ進むことに合意した。

参考:Safran and MTU to create joint venture for FCAS engine

仏独が対立し開発が行き詰まっている第6世代戦闘機「FCAS」プログラム

2019年6月のパリ航空ショーでスペインがFCASプログラムに正式合流することが発表され、共同開発を行うための法的な枠組みを定める協定へも3ヶ国がサインし、先行していた英国主導の第6世代戦闘機「テンペスト」プログラムを追い抜き本格的な開発へ進むかに見えたが、その後の動きは完全に行き詰まりを見せていた。

エアバス社とダッソー社は2040年までに第6世代戦闘機「FCAS」を完成させるため、1日でも早くデモンストレーター(技術実証機)フェーズへ進みたいのだが、肝心のドイツとフランスが揉め始めて、一向にデモンストレーターフェーズへ進むための「GOサイン」が出ず、両社は両国の対話をただ眺めている=打つ手がない状況に置かれている。

この問題はフランスに拠点を置くダッソー社に開発の主導権=決定に関する優位性が与えられたことにドイツ議会の議員達が不満を持ったことが原因で、要するにドイツ議会の議員達はFCASプログラムについて、フランスとドイツは同等の主導権=決定権を持つべきだと考えている。

出典:Bundeswehr-Fotos / CC BY 2.0 ドイツ軍のレオパルド2戦車

そもそも、フランスに開発主導権を譲った形で両国政府が合意したのは、もし両国が「同等の決定権」を保有した場合、仕様や要求性能の調整に時間がかかるという共同開発ならではの「弱点」を予め予防するという意味もあるが、両国が共同開発する「次期主力戦車(レオパルド3とも呼ばれている)」の開発主導権をドイツに譲ったからだ。

それなのにドイツ議会だけは同等の決定権を要求して譲らず、具体的な妨害工作に出た。

FCASプログラムに必要な「エンジン開発」について、フランス企業のサフラン社が開発を主導し、ドイツ企業のMTU社がサポートに回るという開発の枠組みについて、ドイツ議会の議員たちは政府に対しフランスと同等の開発主導権をMTU社が持つことを要求、その人質としてフランス、ドイツ、スペインの3ヶ国が「FCAS」のデモンストレーターフェーズへ進むために負担するドイツ分7,500万ユーロ(約90億円)の支出について承認を拒否している。

このような動きに対しエアバス社とダッソー社は、FCASプログラムの将来を切り開くのは政治的指導者の決定に掛かっており、これ以上は時間を無駄にすべきではないと悲鳴にも近い声明を発表し、両国の対立解消を訴えた。

フランスがエンジン開発で譲歩するもドイツ議会が納得するかは未知数

今週、両国政府は妥協点を見つけるため話し合い、遂に合意に達したと発表した。

合意内容を簡単にまとめると、エンジンの研究と開発の第1フェーズまではフランス企業のサフラン社が主導し、ドイツ企業のMTU社がサポートに回るが、サフラン社とMTU社は2021年末までに50対50の合弁会社を設立し、その後のエンジン開発と生産を共同で行うことになる。

要するに、フランスはエンジンの初期開発における主導権と引き換えに、それ以降はドイツと同等の開発主導権を持つ合弁会社で開発や生産を行うと譲歩した形になったのだ。

ただ、フランスにとっては名を捨て実をとったと言えなくもない。

出典:public domain ラファールB

第6世代戦闘機「FCAS」で開発される機体を戦闘機「ラファール」の更新用として採用するフランスとしては、艦載機としても使用する前提で設計を行う必要があり、艦載機の設計経験があるサフラン社が初期開発を主導することで、エンジンの仕様を方向づけられば、ドイツと同等の開発主導権を持つ合弁会社の下で開発を続行しても、大きく設計や仕様が変わることはないと見ているのだろう。

ドイツとしても、議会が要求するフランスと同等の開発主導権をMTU社が持つという要求が、初期開発段階を除いて達成できるため議会を説得できると考えたのだろう。

問題は、この合意内容でドイツ政府が議会を納得させられるかだ。

あくまでもこの合意は両国の政府間によるもので、ドイツ議会がこれで納得せず、デモンストレーターフェーズへ進むために負担するドイツ分7,500万ユーロ(約90億円)の支出を拒否すれば、来年の1月までにエアバス社とダッソー社に与えるはずの開発費2億2,500万ユーロ(約270億円)が支給できない。

そうなれば、いきなり「FCAS」の開発スケジュールに穴が空くことになる。

しかも、今回の合意ではFCASプログラム全体の開発の主導権については何も触れられていないため、仮にエンジン開発については今回の条件でドイツ議会が納得しても、機体の開発についてもフランスと同等の開発主導権を要求してくれば、両国政府はどのように対応するつもりなのだろうか?

ドイツ政府はフランスから引き出した合意内容で、果たして議会を抑え込む事ができるのか注目される。

 

※アイキャッチ画像の出典:JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 第6世代戦闘機「FCAS」モックアップ

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    ドイツ議会は国防をズタボロにすることに余念がないね。
    やはり共同開発は可能なら避ける方がのぞましいようだ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    すったもんだの末に結局フランス単独開発になって、ドイツは離脱してテンペストのお溢れに預かる
    っていう未来が見えるのは俺だけかな?

    1
    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    ドイツ議会が狂犬すぎる…
    そもそもドイツにまともに戦闘機エンジン開発能力ないのになにイキがってるんだよ

      • 匿名
      • 2019年 12月 06日

      そこは日本としては気持ちは分かってやらないとだめなのでは

        • 匿名
        • 2019年 12月 07日

        エンジン開発に成功してる日本がドイツの何をわからないとダメなので?

          • 匿名
          • 2019年 12月 07日

          「まともに開発能力もないのにいきがって」たからこそようやく最先端に追いつきつつある(つってもまだ十年単位で遅れを取ってるけど)わけで
          ドイツの姿勢を笑うことは過去の日本を笑うことにほかならない訳だが

            • 匿名
            • 2019年 12月 07日

            予算(と政治が許せば)開発できると企業側が前々から言ってて、ホントかよ?と皆が思っていたが結局それが事実だったことが判明しただけ。

            • 匿名
            • 2019年 12月 08日

            第四次F-Xの頃はまごうことなきゴミを戦闘機に載せようとしてたことも知らないのか・・・

            技術はいきなり降って湧いてくるものじゃなくて、堅実な積み重ねがあってこそであり、その過程で「オマエにゃ無理」と言われる段階は必ずある
            日本もそれを言われ続けながらも歯を食いしばってようやく「予算があれば」まで到達したんであって、お前のその考えはドイツはもちろんIHIの技術者たちにも失礼だわ

            • 匿名
            • 2019年 12月 08日

            軍用向けは最近漸く追い付いたのだけど、民生なら1970年代後半にロールス・ロイスから国際共同開発を提案される程度には開発力を得ているよ。
            ちなみにこの時の開発分担は、ロールス・ロイスと日本側で50対50。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    やっぱりというか、なんというか…良くも悪くも先行きが察せられる。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    空中分解するだろう。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    主導権争いは欧州共同開発における日常的光景である。
    フランスが抜けてタイフーンとラファールの様になるのならまだマシ。
    開発計画自体が空中分解しタイフーンとラファールをマイナーチェンジし続けて自分達を誤魔化すのか、開発計画を何十年もだらだらと続けて気付いたら世界には第7世代戦闘機なんて物が配備されているなんて事も。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    要は「俺が作るんだ=利益と技術を独り占め」と言うエゴしか感じられない話だね。
    それだったら「何故最初から単独開発しないんだよ?予算が足りない?じゃあ最初から揉めるなよ(笑)」と突っ込むしかないレベル。
    フランスもフランスだけど、ドイツの主張は駄々っ子同然で「そこまで言うなら、いっその事、日本のF-3の導入を検討すれば?」と皮肉を言いたくなる…空自のF-3はコンセプトが煮詰まっていないと言われているけれど、構成要素の開発状況を考えると下手をすればFCASや英国主導のテンペストよりも先に試作機が初飛行しかねないぞ。

    1
      • 匿名
      • 2019年 12月 07日

      日本の構成要素の開発状況、1,943億円を投資済みなのは伊達ではない、と言った所ですね。
      ﹙テンペスト初期投資の予定額約2,900億円、の2/3程度を日本は消化済み﹚

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    タイフーンをフライアブルな状態に留める能力すらないのに次期主力機開発で主導権要求など
    どこかのニダ国の性癖が伝染したのではないか
    冫(゚Д゚) 主導権を奪ったあと中華を引き込むためか……!

    1
    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    これドイツはエンジン開発技術が欲しいんじゃないの?
    基本設計フランスに任せちゃうと結局技術が手に入らんのでゴネてるだけなような?
    やっぱジェットエンジン作れるってものすごいアドバンテージなんだな

    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    戦後航空宇宙の分野で日本以上に制裁を受けて現在でも自国だけでで航空機開発できないドイツが何を言っているんだかとw
    その意味では朝鮮戦争での航空機産業を復活できた日本は南トンスルランドに感謝する必要があるがw

    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    まだまだ揉めるでしょう。
     開発費などの事を考えたら、EU諸国が買ってくれる事がMUST、必須、買ってくれないなら成り立たない。
     だけど、カタパルトを搭載した制式空母を持ってるのはフランスだけ、カタパルト、着艦フックに対応した艦載機を作るなら機体の強化は必須でもある。
     一番シンプルなのはフランスがEUの他の国と同じく軽空母/強襲揚陸艦にシフトして、F-35Bを購入する(現在各国はハリアーを運用中、今後はF-35B)、そしてFCASは地上の空港からの運用ってタイフーンの後継にする・・・まあ、フランスはそんな方向転換はしないだろうなあ。
     MTU(ドイツ)はタイフーンのエンジン製造(EJ200)に参画してるだよね 出力はM88、F414(F-18E/F)と同程度の70kNあたり 、アメリカのF100/F110/F119/F135は100kN以上

      • 匿名
      • 2019年 12月 07日

      一番シンプルなのはフランスがEUの他の国と同じく軽空母/強襲揚陸艦にシフトして、F-35Bを購入する>
      実を言うと、1980年頃にフランスがラファールの前身に当たる仏独英共同の戦闘機開発計画ECAに参加した当初、フランス海軍では空母自体をV/STOL方式かSTOBAR方式に切り替える事を考えていて、空母フォッシュに英国から借りたハリアーMK.52を積んでテストした事がある。
      その後、CTOL方式の原子力空母シャルル・ドゴールの建造を決めた時もフランス海軍は当初、ラファールの艦上機型では無くF/A-18ホーネットを米国から輸入する事を第一候補にしていた経緯があるので(イカロス出版・世界の名機シリーズ「ダッソー・ラファール」の記述より参照)、今後FCASが揉め続ける様だとフランスもそれ位の方向転換をする可能性が微粒子レベルであるかも知れないよ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    ドイツと組むのがそもそもの間違いだった気がする。

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