軍事的雑学

軍事的雑学|戦車もない、無線機もない、人もいない、ドイツ軍にNATO任務遂行は不可能?

ドイツのDie Welt紙(ディ・ヴェルト)は、2021年、NATOの対ロシアを目的に組織されたVJTF(高高度即応統合任務部隊:Very High Readiness Joint Task Force)の指揮を引き継ぐドイツ軍は、能力、準備が不十分で、とても義務を果たせる状態ではないと報じています。

参考:German military short on tanks for NATO mission

レオパルド2戦車、定数44輌に対して実際に配備されているのは9輌

NATOが新しく組織したVJTFとは、NATO即応部隊(NRF:NATO Response Force)の一部で、即応部隊の先導的役割を果たすため、2014年に設立された比較的新しい組織で、定員は5000人。

ロシアのクリミア併合を目の当たりにしたNATOは、既存のNATO即応部隊の即応性をより高める為、VJTF(高高度即応統合任務部隊:Very High Readiness Joint Task Force)を設立し、既存のどんなNATO即応部隊よりも、迅速に、素早く、行動を開始することが可能なよう最高の準備状態を維持している。

VJTF部隊は、命令が下れば数時間以内に行動を開始し、2日以内には、NATOにとってロシア正面にあたる、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニアへ展開する。NATO即応部隊の主力が到着するのは、5日から7日後だ。

と、いうのが建前になっている。

VJTFの基盤戦力となるのは、ドイツ陸軍第1装甲師団隷下の第9装甲教導旅団を中心とした2,700人。これにオランダ、ノルウェーの部隊が脇を固める。

Attribution: Bundeswehr-Fotos / CC BY 2.0 ドイツ陸軍のレオパルト2A5

しかし、最高の準備状態を維持しているはずの第9装甲教導旅団には、44輌配備されるはずの「レオパルド2」戦車が、たったの9輌しかなく、14輌配備されるはずのマルダー歩兵戦闘車が、たったの3輌しか配備されていない。

さらに、第9装甲教導旅団には、戦闘車両を維持するためのスペアパーツが欠如し、暗視装置や擲弾発射器などの戦闘装備、防寒服や防護ベストなどの基本装備、その全てが欠けていると、Die Welt紙は指摘した。

このような問題は陸軍だけでの話ではなく、ドイツ空軍もNATOの義務を果たすため苦労している。

空軍の主力機ユーロファイターと、トルネード戦闘機、CH-53輸送ヘリなのどの航空機は、年間120日しか使用できない。残りの245日は、整備と修理のため地上に留まっている。

 

無線機すら不足するドイツ軍の惨状

ドイツ議会に提出された軍の報告書によれば、陸海空軍の戦車、艦船、航空機は、保有している数の50%以下しか、実際に利用できない。

NATOの任務としてリトアニアへ駐留していたドイツ軍部隊には、なんと無線機が不足していた。

現在のドイツ軍部隊には、何かしらの機能不全が存在し、完璧に準備された、装備が行き渡った部隊は存在しない。

この問題の原因は、未だにスペアパーツが不足し、ドイツ産業界の軍用品へのメンテナンスは衰退の一途を辿っていて、必要なあらゆる物の調達に時間がかかり過ぎている為だ。

報告書では、今、必要なのは『絶対的な調達スピードの加速だ』と指摘している。

出典:pixabay

もう一つ、ドイツ軍が頭を悩ませている問題がある。

新兵が足りないのだ。

ドイツは2011年に徴兵制から志願制へ移行し、若い人材を民間企業と奪い合う過酷な競争に突入した。

その結果、毎年の人材確保は困難を極め、2018年に加わった新兵の数は、たった2万人で、前年と比べて3000人も減少し、これはドイツ連邦軍始まって以来、史上最低の数字だ。

政府は2025年までに、現在の181,000人から198,500人へ増員し、定員を満たすための現役要員を必ず確保すると約束しているが、肝心の新兵は予定の数すら集まらず、苦肉の策として、除隊する兵士の契約を再延長することで、兵士の自然減少分を食い止めているに過ぎない。

これはドイツ軍が高齢化の一途を辿っているという意味だ。

その中でも、人材のつなぎ留めが難しい、民間企業と待遇の差が激しい部門、すなわち、IT部門、医療部門、人事部門、物流部門では、熟練したスペシャリストが足りず、これもドイツ軍が頭を抱える問題になっている。

現在、ドイツ軍では、21,500ある役職ポストが空席のままだという。

 

まともに動く戦車も、飛行機も、船も足りず、無線機や防弾ベスト、防寒服などの基本的な装備にすら事欠き、若い人材さえ集まらないというドイツ軍を、一体どのようにして立て直すのか?

ある意味、興味はつきない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Attribution: Boevaya mashina / CC BY-SA 4.0 Leopard 2 A7

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 4月 23日

    4 Dezember 2009 Nr. 794 
    兵役給与(Wehrsold)/月

    1~3カ月 282.20ユーロ
    4~6カ月 305.40ユーロ
    7~9カ月 328.50ユーロ
    *このほか、住居、食事、衣服、医療などにかかる費用はすべて国が負担。クリスマスボーナス(172.56ユーロ)、“退職金”(690.24ユーロ)なども支給される(非課税)。非軍事的役務にも相当額が支給されるが、食事や衣服などの現物給付がない分だけ、実際の受給額は多い。月額500~550ユーロ程度。

    徴兵制から志願兵制へ
    志願兵には、役務に従事した期間に応じて 777.30~1,146.30 ユーロ/月の給与及び
    手当に加え、クリスマス手当(19.20 ユーロ/月)、退職金(76.80 ユーロ/月)が支払わ
    れ、これらはすべて所得税が免除される。また、宿泊、食事、医療、帰省は無償とな
    るほか、原職復帰が保障されて兵役に従事することができる。外国への派兵に際して
    は、30~110 ユーロの日当が支払われる。

    人件費増に加えて、

    2015 年までに83 億ユーロの支出を削減するという目標

    で、軍の調達費が大幅に削られたんじゃないだろうか。

      • 匿名
      • 2019年 5月 19日

      2006年から恩給費を軍事費に加算するようになったらしい。
      2005  240億ユーロ
      2006  279億ユーロ
      30~40億ユーロ支払っているらしい。
      (個人ブログからのデータなので信憑性はいまいち、2006年以降、恩給費を軍事費に加算するようになったので見た目が増えただけで実質的には変わっていないそうなので)
      (自衛隊は恩給費を軍事費に計上していないらしい)

    • 匿名
    • 2019年 4月 23日

    ドイツ軍の装備調達が遅れているのは、連邦国防省の職員数が4000人弱と少なすぎてまともに機能してないからだと思う

    • 匿名
    • 2019年 4月 23日

    国防費をケチった分をどこに回してるのだろう。ドイツは債務が無くて財政黒字だとか言ってた様な気がするけど・・・。

    • 匿名
    • 2019年 4月 24日

    財政黒字そのものが目的とかしている
    企業じゃないんだから利益を出す必要はない

    ロシアと正面で対峙しているリトアニア駐留の舞台ですらそれなんだから
    EUの求心力が離れるのは当然だ

    • アナベル・加トー少佐
    • 2019年 4月 28日

    統一により国民の半数が共産主義者w
    東独は西に勝利したな=リベラリズムに名を借りたアカども

    • 匿名
    • 2019年 4月 29日

    まあ、これは日本も全く同じ状況なんだけどな
    ミリヲタ「戦車の定数増やせ!」 現職「そもそも人が足りな過ぎて戦車増やすどころじゃねーよ!」

      • 匿名
      • 2019年 5月 05日

      そもそも自衛隊の人数が少なさ過ぎるのが問題だよなあ。
      戦争が起きた時に311クラスの震災が起きたら自衛隊対応できんの?って話よ。少子化で国内の人間がどんどん減るわけだし。

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