軍事的雑学

軍事的雑学|ゲルマン魂はどこへ?装備も金も意思もないドイツ軍はNATO弱体化の元凶

NATOはロシアに加盟国の結束を乱され、米国はNATOが真剣にロシアから欧州を守る意思があるのか疑い、ロシアは弱体化したNATO解体=「NATO崩し」を狙う。

弱体化したNATO再建の足を引っ張るドイツ

NATO(北大西洋条約機構)とは、米国にとって最も重要な同盟相手であり、冷戦時代に、共産主義のソビエト連邦から西ヨーロッパを守るため共に支え合った戦友だ。

それにも関わらず米国のトランプ大統領は、なぜNATO(北大西洋条約機構)を見限ろうとしてるのか?

冷戦集結後のNATOは、存在理由だった最大の脅威(ソ連)を失い、NATOが対処すべき脅威を「周辺地域の紛争」と再定義し、紛争予防と危機管理に重点を移したため、対ソ連との正面戦争に備えていた軍備を縮小した。

出典:Public Domain

その結果、NATO加盟国の軍縮が行き過ぎ、2014年、突如、新生ロシアの軍事的復活を告げる狼煙「クリミア併合」に驚くことになる。

NATO最大の存在理由だった、最大級の脅威が再びその姿を表した瞬間だ。

NATOは、ロシアとの軍事的緊張に対応するため直ぐにでも動くかと思われたが、冷戦終結後に嵌った平和ボケと、行き過ぎた軍縮による米国依存のNATO構成戦力に慣れてしまい、経済優先のぬるま湯から、中々抜け出すことが出来ないでいた。

しかし、この現状を大きく変える存在が登場した。

出典:Public Domain

2017年にNATO不要論を掲げて米国大統領選に勝利したトランプ大統領だ。

トランプ大統領は、NATO離脱をちらつかせながら、NATO加盟国に軍縮により落ち込んだまま国防費を、大幅に増額することを要求した。

冷戦終結直後と、2017年を国防費GDP比で比べてみると、以下の通りだ。

NATO主要国の国防費
国名 1990年:国防費のGDP比 2017年:国防費のGDP比
米国 5.28% / 約3060億ドル 3.1% / 約6100億ドル
英国 3.85% / 約210億ポンド 1.80% / 約365億ポンド
独国 2.74% / 約340億ユーロ 1.20% / 約395億ユーロ
仏国 3.42% / 約350億ユーロ 2.30% / 約515億ユーロ

NATOは2017年、加盟国に対して国防費を2024年までにGDP比2%まで増額することを公約として掲げたが、既に2%以上の国防費を支出している仏国を除くと、国防費を引き上げ公約を達成できた国は、英国やギリシャ、ロシアの脅威を受けるポーランド等、7ヶ国に過ぎない。

トランプ大統領は、国防費2%を達成した国に感謝を述べたが、同時にNATOの主要国で、経済大国でもある「ある国」に対してだけは辛辣な批判を口にした。

 

ロシアや中国につけまれたドイツを疑う米国

歴史、地理的条件、経済力を総合すれば、ドイツはNATOの中心的存在であるべきはずなのに、トランプ大統領は、ドイツが真剣にNATOの一員として、欧州の安全保障を考えているのか疑問に思っている。

Attribution: Bundeswehr-Fotos / CC BY 2.0 ドイツ陸軍のレオパルト2A5

疑問を抱かせるのに十分な疑問点は3つだ。

1つ目の疑問点は、ドイツはNATO加盟国の中で最大の経済大国にも関わらず、安全保障のコストを負担しようとしない。2024年までにGDP比2%まで増額する公約を完全に無視しているドイツは、2024年までにGDP比1.5%まで引き上げると言っている。

2つ目の疑問点は、目を覆いたくなるほど悲惨な状況に置かれたドイツ軍だ。予算がなさすぎて、保守パーツのストックがなく、タイフーンの稼働率が一時的に10%台に落ち、ドイツの戦車「レオパルド2」も予算不足で半分以上が動かない。数年前には保守部品のせいで、海軍が保有していた6隻全ての潜水艦が稼働できなくなった。

3つ目の疑問点は、ドイツの政治・政策においてロシアと中国を擁護する姿勢だ。選択肢はあるにもかかわらず、ドイツは、ロシアとドイツを繋ぐ天然ガス用のパイプライン「ノルド・ストリーム」を建設し、大量の天然ガスを輸入している。ドイツは、中国のファーウェイの危険性を訴える米国を無視して、国内の5Gネットワーク構築のためファーウェイを擁護している。

ドイツは結果的に、NATOが提供する軍事力に格安乗車し、安全保障よりも経済効率を優先するあまり、事実上、ロシアと中国をNATO圏内に引き込んでいると言っていい。

中国のファーウェイは一度、合法的にEU加盟国に食い込むことが出来れば、EU加盟国の協定によってファーウェイの技術を他のEU加盟国で使用することが認められる。そうなれば、米国はNATO加盟国との通信に安全を保障できなくなる。


ロシアが狙う「NATO崩し」は成功するのか?

ロシアのNATO崩しは、これだけではない。

NATO加盟国で、欧州と中東を結ぶ要衝、黒海の番人であるトルコにもロシアの手が伸びている。

クルド人・キプロス問題で、NATOやEUと衝突するトルコに、防空ミサイル「S-400」を売りつけ、米国との衝突をお膳立てし、結果的にNATOから脱退するよう仕向け、トルコのロシア陣営組み込みを狙っている。


出典:Public Domain

しかも、米国が欧州や地中海の問題に集中できないようにするため、恐らく中国と手を結び、イラン問題や、北朝鮮問題の裏で支援を行い、米国の力を分散させようとするはずだ。

ここまでのロシアの動きは一体何を意味するのか?

恐らく、クリミア併合を非難するだけで何も行動を起こさなかったNATOを見て、プーチン大統領は、ロシア再吸収を恐れる旧東欧圏の後ろ盾であるNATOを崩し、失った勢力圏を取り戻したいのだろう。

果たして、ロシアのNATO崩しは成功するのか?それともNATOは結束を取り戻し、ロシアの欧州進出を防ぐことができるのか?

米国は、もはや米国の金で「世界の隅々」まで守る気はなく、今後、米国が守るのは米国の国益だけだ。

日本も、安全保障について今一度、よく考える必要がある。

 

※アイキャッチ画像の出典:Attribution: AMB Brescia / CC BY 2.0 レオパルト2A7+

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 5月 15日

    ヨーロッパの状況が解る良い記事ですね。
    面白かったです。

    • 匿名希望
    • 2019年 5月 15日

    平和呆けですね、日本も余所の事は言えませんけれど。

    最近、若者の一部は危機感に目覚めた様ですけれど、
    日本の防衛費(諸外国の軍事費相当)も、GDP比2%に
    満たないですし……北にロシア、西に特亜3国と、脅威も
    同様です。いや、NATO以上にアメリカ頼り……とも、
    言えますか。

    中国の周囲への侵略意欲と覇権は判りますが、
    ロシアが何を考えているのか?が、怖い所ですね。

      • 匿名
      • 2019年 5月 15日

      ロシアが何を考えているのか?

      軍事力を収入に繋げたいのです。

      日本相手だとそれを経済協力とか呼んでますが

      要は 死にたくなければカネを出せ でしょ

    • 匿名
    • 2019年 5月 15日

    次の50年はロシアとチャイナの世紀。

    • 匿名
    • 2019年 5月 15日

    日独(2017年)の比較ですが
    日本 454億ドル GDP比0.9%
    ドイツ 443億ドル GDP比1.2%

    物価、人員、装備等の違いがあるとはいえ国防費が近い日本としては無視できない記事ですね。

    • 匿名
    • 2019年 5月 16日

    日本はそろそろ中国かロシアのどちらに取り込まれるか、真剣に考えなきゃいけない時期に来ていると思う

    アメリカ?
    アレはもう終わった国だから

      • 匿名
      • 2019年 5月 16日

      むかしむかし
      「アメリカなどオワコン。時代はドイツ」
      「アメリカなどオワコン。時代はソ連」

      と言っていた愚かな人達がいたらしい

    • 匿名
    • 2019年 5月 16日

    前にも同じ様な事を書きましたが、上の方のコメントにある様に、日本とほぼ同じレベルの軍事費
    兵員は自衛隊22.5万人、ドイツ軍18万人。日本と違って差し迫った脅威の認識は無く、
    冷戦終了以後、30年間絶賛軍縮中。陸海空すべて純減。核は無し、大規模な海外派遣もアフガン以来無し

    何でこれでそんなに予算に困っているのでしょうね?
    「失われた20年」の間に、自衛隊員よりドイツ軍将兵の人件費の水準が、相対的にえらく高まっているとか・・?

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