インド太平洋関連

インドに最適な戦闘機は「グリペンE」? 技術移転が可能でコストは「ラファール」の半分

スウェーデンに拠点を置く航空機・防衛産業企業のサーブ社は、自社の戦闘機「グリペンE」は完全な技術移転が可能で、フランスの戦闘機「ラファール」導入に掛かる費用の半分で済むとインドに訴えた。

参考:SAAB wants to offer Gripen at half of Rafale cost, with full tech transfer, local production

インドの戦闘機導入を巡って繰り広げられる戦いに、勝利するのは何処だ?

この話は、2012年にインド空軍が老朽化したMiG-21を更新するための多用途戦闘機導入プログラムを立ち上げ、フランスのダッソー社製戦闘機「ラファール」を選んだことまで遡る必要がある。

出典:public domain ラファールB

当時、インド空軍が「ラファール」を選択したのは、既にダッソー社製戦闘機「ミラージュ2000」の運用経験があり、インド空軍内でフランス製軍用機のロジスティックが確立されているため導入コストの削減に有利だったという点と、他の候補よりもフランスが技術移転に対し寛容だった点、ラファールに使用されている技術や装備のほどんどが、米国の武器輸出規制外という点が有利に作用したと言われている。

インドは126機導入するラファールの内、18機をフランスから輸入し、残りの108機をインド国内で生産し引渡すという契約で、掛かる費用は200億ドル程度(約2兆2,000億円)を想定していたが、フランスはインド国内で生産されたラファールに対する品質を保証しないと言い出しインドと揉めるが、この間もラファール導入費用は上昇を続け、最終的に300億ドル(約3兆3,000億円)を越えることになる。

結局、インドは契約を破棄し、新たに36機のラファール導入契約をフランスと結ぶが、この導入費用は約88億ドル(約9,540億円)で、1機辺りの費用は約2.4億ドル(約263億円)という「世界一高価」な戦闘機となってしまった。

参考:この金額には機体以外の保守パーツ、パイロットやメカニックの訓練費用、地上シミュレーター装置一式、空対空ミサイル「ミーティア」や巡航ミサイル「ストームシャドウ」などの武器パッケージ、インドが要求した機能追加作業(イスラエル製のヘルメット搭載ディスプレイ、レーダー警報受信機、電波妨害装置の統合)が含まれているため、約88億ドル=機体価格ではない。

インド国内でも、この契約については批判が多い。

結局、インド空軍は新たに114機の戦闘機導入プログラムを立ち上げることになり、今回、サーブ社が言及したのはこのプログラムについてだ。

このプログラムには、ロッキード・マーティン社がF-21(インド向けのF-16V仕様バージョン)、ボーイング社がF/A-18E/F、ダッソー社がラファール、サーブ社がグリペンE、エアバス社がタイフーン、ロシアがMiG-35とSu-35を提案しており、サーブ社は導入が失敗に終わった「ラファール」を引き合いに出し「グリペンE」の優位性を説明した。

完全な技術移転が可能な「グリペンE」なら、インド国内での製造が可能でコストは「ラファール」の半分で済み、ブラジル空軍向けのグリペンEを現地で製造しているという「実績」も強調した。

さらに「グリペンE」の強みとして挙げたのは、インドが導入したラファール用の武器パッケージを、そのまま流用可能な点だ。

サーブ社は空対空ミサイル「ミーティア」が開発された際、試射の80%は「グリペン」が用いられ、ミーティアを開発したMBDA社も、グリペンが最もミーティアを運用するのに適した機体であることを認めていると主張、ただし英仏が開発した巡航ミサイル「ストームシャドウ」だけは未統合なため使用することが出来ないが、インド空軍が望むなら統合も可能だと話している。

出典:MilborneOne / CC BY-SA 3.0 SAAB 2000 AEW&C

ここまでならサーブ社の「グリペンE」は、インド空軍にとって有力な候補に映るかもしれないが、サーブ社がパキスタンに売った早期警戒機「SAAB 2000 AEW&C」が今年の2月、インド攻撃に使用されたことが問題化している。

インドメディアも、敵対国に兵器を売る国とインドがビジネスを行うのは難しいと報じており、サーブ社はインドをなだめるため今後、パキスタンと新規での兵器取引は行わないと言っているが果たして、どこまで信用してよいのか謎だ。

どちらにせよ、インドの求める技術移転や国内での製造という基本条件をクリアしても、インドの宿敵であるパキスタンと兵器取引(特に最近)がある以上、グリペンE採用の可能性は非常に低いのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:shooting88 / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 26日

    グリペンEのエンジンはGE F414ですからアメリカの許可が必要ですが、エンジンも含めて技術移転可能なんでしょうか。
    F-21でP&W F100やGE F110の現地生産の許可が取れてるならF414も問題ないのか、ライセンス生産より良い条件で契約するのか気になるところです。

    グリペンEは航続距離が伸びたとは言え、インド領土の大きさと合うのかも微妙な気がします

    • 匿名
    • 2019年 10月 26日

    敵対国に兵器を売る国とインドがビジネスを行うのは難しい、ねぇ…それなら、この戦闘機導入計画に参加しているメーカーの提案の内、ロッキード・マーティン社のF-21は完全にアウト(近年、パキスタンへF-16C/Dブロック52+を売却した実績あり)だし、フランスだって過去に潜水艦をパキスタンへ売った実績があるから、ダッソー社のラファール案もヤバいのでは?(と言うより、何故ラファールを36機買ったのかと言う疑問が)
    となると、残る機体の内、タイフーンは余りにもアレな機体だし、MiG-35は以前のコンペで負けているから望み薄と思われるので、この計画は個人的な予想だと、最近P-8AにCH-47とAH-64の納入実績で、インドでは好調なボーイング社のF/A-18E/Fか、現在Su-30MKIを大量調達中で、改良型の開発にもインドが興味を持っていると言うスホーイのSu-35Sの一騎打ちになりそうな気がするけど、どうなるのだろうね。

      • 匿名
      • 2019年 10月 27日

      グリペンEを排除したい勢力が言ってる戯言レベルでは?

      • 匿名
      • 2019年 10月 27日

      F-21がF-16から改名した理由も、パキスタンとの関係みたいですからね
      「パキスタンに売った奴とは別物だから!」ってことで

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