軍事的雑学

日本にも影響?ロシア製防空ミサイル「S-500」がNATOに及ぼす「衝撃」な影響

もう間もなく実戦配備されると予測されているロシアの新型防空ミサイル「S-500 プロメテウス」は、西側空軍の戦術に深刻な影響を与える可能性がある。

S-500は西側空軍に深刻な影響を与える可能性が高い

ロシアが開発した新型防空ミサイル「S-500 プロメテウス」は、S-400の性能向上版だと言われていたこともあるが、姿を現したS-500は完全に「新型」の防空ミサイルだ。

現在、西側標準の地対空防空システムは、航空機や巡航ミサイル、弾道ミサイル終末段階(ターミナル・フェイズ)の下層迎撃を「パトリオット・システム」がカバーし、弾道ミサイル終末段階の上層迎撃を「サード・システム」がカバーする多層迎撃体制になっている。

出典:航空自衛隊 パトリオット・システム

ロシアのS-400は西側の「パトリオット・システム」、S-500は「サード・システム」に相当するが、性能はロシアのS-400、S-500が勝っている。

しかも、米国の「サード・システム」は弾道ミサイルの迎撃に特化しているが、S-500は弾道ミサイルの迎撃はもちろん、極超音速巡航ミサイルの迎撃、低軌道上の衛星迎撃、長い射程距離を活かした高価な大型軍用機の迎撃まで行える。

この中の「長い射程距離を活かした高価な大型軍用機の迎撃」が、西側空軍の戦術に深刻な影響を与える可能性がある。

S-500が装備するのは、X周波数帯のアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーで、目標の探知距離は約800kmもあり、S-500が運用する迎撃ミサイルの射程は最大600kmに達すると言われている。

これを欧州にあるロシア領の飛地である「カリーニングラード」と、ウクライナから奪った「クリミア半島」にS-500を配備すれば、冷戦終結後にNATOへ加盟した東欧諸国(バルト三国、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア等)、ドイツ、ギリシャ、トルコまでがS-500の監視下に入り、ドイツ上空や、黒海に面した周辺諸国上空を飛行する航空機を迎撃することが可能になる。

ここで目標となるのは早期警戒機、空中給油機、輸送機など、大型で価値の高い航空機だ。

特に空中給油中、一定の速度で直線に飛行する必要がある空中給油機など、S-500の監視下では「カモ」でしかない。

出典:pixabay

こうなると西側のF-16、F/A-18、F-35、グリペン、ラファールなどの航続距離が比較的短い戦闘機は、攻撃範囲が非常に限定され、攻撃効率が低下するしかない。

早期警戒機も、当然、S-500の脅威を受けるため後方に下がることを余儀なくされ、前線に物資を届けるための戦術輸送機も活動範囲が制限され、例えば、前線に近い場所まで物資輸送を担当する戦術輸送機「C-130」が、600km以上後方までにしか物資を輸送できないとなれば、兵站システムを考え直す必要も出てくる。

更に付け加えるなら、ロシアのGPS信号へのジャミング技術は完全に実用化の域に達しており、昨年のNATO演習中に大規模なGPSに対するジャミングが行われたが、現在、イスラエルでは3週間ほどGPSの受信が不可能で、軍事分野だけでなく民間航空機への影響も出ている。

イスラエル軍はシリアの基地から誤信号は発信されていると見ており、シリアの背後にはロシアの関与があると確信している。

イスラエル軍では、既にGPSに頼らない誘導兵器の開発が完了しており、GPSを利用したスマートな誘導兵器は、もはや役に立たない可能性があり、米軍は、ロシアのGPS信号へのジャミングに対抗するため新しいシステムを開発中だが、どこまでロシアのジャミングに対抗出来るのか、現在のところ未知数だ。

この様に、従来までの常識や戦術は、ロシアによって無力化されつつあり、西側(特に米国)は、新たな技術的飛躍と変革に迫られていると見ていいだろう。

S-500の登場は日本にとっても他人事では済まされない

これは欧州だけの話ではない。

もしロシアが、S-500を中国に売った場合、日本と中国との対立が激しい尖閣諸島は勿論、沖縄本島、九州の一部までS-500の監視下に入ることになり、東シナ海でも欧州と同じ事が起こりうる。

中国の杭州辺りにS-500を配備されれば、航空自衛隊の早期警戒機や、空中給油機が東シナ海で活動するのは容易では無くなり、仮に、尖閣諸島で軍事衝突が起きた際、中国本土に配備されたS-500を破壊することは、現在の「専守防衛」の考え方からすれば不可能に近い。

補足:防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃を行わず、侵攻してきた敵を「自国の領域」において軍事力(防衛力)を以って撃退する方針のこと

日本が手を出せない場所から、東シナ海上空を一方的に攻撃出来るようになれば、一体、日本はどの様に対抗するつもりななのだろうか?

S-500は生産が始まったばかりで、当分の間はロシアも自国配備を優先させるため輸出は行わないだろうが、S-400が輸出されているように、いずれS-500も拡散することになるのは目に見えている。

出典:航空自衛隊 早期警戒管制機 E-767

能動的に対抗するなら専守防衛という考え方自体を「再考」する必要があるだろうし、受動的に対応するなら、早期警戒機や空中給油機をステルス化するという方法もあるが、常時、強力な電波を放出している早期警戒機のステルス化は恐らく不可能だ。

侵攻してきた敵を「自国の領域」に限定して対応するのは、技術的・軍事的に大きな格差がなければ成り立たず、現在の中国と日本の間に、技術的・軍事的に大きな格差は存在せず、一部の分野では中国の方が遥か先を進んでいる。

日本の安保を政局の道具としてではなく、本気で考えるなら、真剣にこの辺りの事を国会で討議する必要があるのだが、真剣に討議できる国会議員が果たして存在するのは謎だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:US Air Force / Senior Airman Keifer Bowes

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 07日

    昔から思ってたんだが長距離ミサイルって必然的に巨大化するから撃墜が容易になったりしないの?
    特に対空ミサイルだと高高度を飛びそうだし

    • 匿名
    • 2019年 7月 07日

    いくら射程があっても低空侵入されたら意味無いんじゃ?

    • minori252
    • 2019年 7月 13日

    RAMが艦隊防空の一端を担っているんだから、同様に赤外線誘導方式のAIM-9やAAM-5でも航空機のミサイル防衛ができそうな気がする
    戦闘機を随伴させておけばS-500の迎撃は案外簡単なんじゃないだろうか

    特に早期警戒機は自身のレーダーでS-500を発見できればAIM-120やAAM-4でも迎撃するタイミングがあるわけだし

    そういった意味では発見が困難なミサイルの開発が大きな意味を持っているかもしれない

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