米国関連

視界外戦闘も可能、F-35のステルス性能を損なわない新型「AIM-9X」は万能か?

ドックファイトで活躍することを前提に設計されたAIM-9「サイドワインダー」は、視界外戦闘が可能な長距離ミサイルへと変貌を遂げた。

採用:The AIM-9X Sidewinder May Finally Evolve Into A Completely New And Longer-Range Missile

AIM-9はステルス戦闘機を攻撃するのに最適な手段へ進化

短距離空対空ミサイルとして開発された赤外線誘導のAIM-9「サイドワインダー」は、中距離空対空ミサイルのAIM-7「スパロー」と合わせて西側の標準的な空対空ミサイルとして使用されてきたが、AIM-120「アムラーム」の登場と、視界外戦闘が重視されるようになった結果、F-35の標準的(ウェポンベイのみに携行兵器を搭載したステルス性能を優先した場合)な空対空ミサイルから外れてしまった。

しかし状況が変化し、再びAIM-9の活用が注目されている。

これは現在、簡易的な電子攻撃にも使用ができるAESAレーダーを搭載した第5世代戦闘機(中国のJ-20やロシアのSU-57)等に対して、AIM-120(アクティブ・レーダー・ホーミング方式による誘導)による攻撃は効果=命中率が低下するという欠点を補うため、射程が大幅に伸びたことで中間誘導を採用し、発射後のロックオン能力を獲得したAIM-9XブロックⅡ+が効果的という意味だ。

出典:U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Darnell T. Cannady AIM-9X

AIM-9Xの開発は2015年に「ブロックⅢ」の開発が中止になったが、ブロックⅢで実現されるはずだった各機能の開発は個別に継続されており、AIM-9XブロックⅡ「+」という形で改良が進んでいる。

最新のAIM-9XブロックⅡ+は、AIM-120とおなじデーターリンクを装備し、母機からのレーダー誘導によって赤外線誘導が難しい長距離からの発射が可能になり、目標に近づくと赤外線誘導によってロックされるため短距離空対空ミサイルではなく、完全に視界外戦闘が可能な長距離ミサイル化を実現している。

特にF-35の場合、サイドキック採用によってウェポンベイに収容できるAIM-120が6発に増える「ブロック4」まで、AIM-120を4発までしか携行できず、AIM-9を携行するには機体に搭載する必要があり、折角のステルス性能が台無しになってしまうが、AIM-9XブロックⅡ+はこの問題を克服することができると言う。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Keifer Bowes 翼端パイロンに搭載されたAIM-9X

AIM-9XブロックⅡ+はステルスコーティングが施され、F-35の斜めに傾けられた翼端パイロンに搭載される場合、レーダー反射断面積の増加をある程度抑制できるようになるらしく、AIM-9XブロックⅡ+はブロックⅡよりも高い生存性を可能にすると国防総省が議会に報告している。

最も最適なのは当然、ウェポンベイ内にAIM-9XブロックⅡ+を収容することで、サイドキック採用でAIM-120を4発、AIM-9XブロックⅡ+を2発携行するのが理想だが、今の所、ウェポンベイ内にAIM-9XブロックⅡ+を収容する計画はない。

しかし「ブロックⅢ」で実現されるはずだった改良された弾頭と、更に強化されたロケットモーターの採用が行われれば、AIM-9XブロックⅡ+は、長距離で敵のステルス戦闘機を攻撃するのに、より最適な手段へと進化するだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo/Tech. Sgt. Brandon Shapiro

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 05日

    サイドワインダーブロック3ではブロック2の射程60%増しだった予定なので、射程は約70kmでスパロー最終型/アムラーム初期型並みですね。
    AIM-120Dは120kmと言われていますから、差は縮まりましたが、棲み分けられる範囲ではありそうです。

    • 匿名
    • 2019年 9月 05日

    以前の記事ではAIM120Dでも射程が足りないという話でしたがこれが出来たとして武装搭載量の拡大以外に役に立つのでしょうか

    • 匿名
    • 2019年 9月 06日

    ミサイルを撃ち尽くした戦闘機は、丸腰で無力だからな。F-35は強力なセンサーとステルスによる生存性で、それでも役立つとは言われているが、果たして?
    機外にAIM-9Xを搭載した状態でも十分なステルス性が保たれ、且つ自衛に十分な射程が確保されているならば、搭載しているAIM-120を全弾気がね無く撃てて戦闘力が5割10割増しの計算になるが(自衛用に2発AAMを残す場合)
    特に、ウェポンベイが小さくてサイドキックが適用できないF-35Bでは大きなメリットが有る

    • 匿名
    • 2019年 9月 06日

    ミサイルキャリアとしてF-15を改修するという案はないのでしょうか?

    • 匿名
    • 2019年 9月 06日

    ミサイルは長射程を目指して巨大化しているように感じるが、細長くする方向にはいかないのかな
    束にしたミサイルでマクロス並みのミサイル数量を再現できないかしら

    • 匿名
    • 2019年 9月 07日

    35Bへのレーザー兵器搭載は継続して研究されてるのかな? 検討だけ? 弾数制限ないし、レーザーなら確実に対処出来て合理的と思ったけど小型化としょうしゃ

    • 匿名
    • 2019年 9月 07日

    35Bへのレーザー兵器搭載は継続して研究されてるのかな? 検討だけ? 弾数制限ないし、レーザーなら確実に対処出来て合理的と思ったけど小型化と照射時間がネックなのかな?く

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