軍事的雑学

実際には「韓国版S-400」か? 韓国、弾道弾迎撃ミサイル「韓国版THAAD」開発を正式決定

韓国は、米陸軍が装備する弾道弾迎撃ミサイルシステム「THAAD」よりも高性能な「韓国型THAAD」の開発に着手することを決定した。

参考:[김수한의 리썰웨펀]軍, 마침내 ‘한국형 사드’ 만들기로 결정…K-11 복합형소총 개발은 중단

韓国型THAADではなく「韓国型S-400」が正しいかもしれない

韓国はこれまで米国のミサイル防衛体制(通称:MD)に参加すれば、周辺国(中国・ロシア・北朝鮮)を刺激するという理由で、米国のMDには参加せず独自に周辺国を刺激しない形でミサイル防衛を行おうと「韓国型ミサイル防衛システム」の開発を行ってきた。

韓国型ミサイル防衛システムは、敵の弾道ミサイル迎撃を「終末段階(ターミナル・フェイズ)」に限定しているのが特徴で、米国が実施している「中間段階(ミッドコース・フェイズ)」での迎撃は手を出さないという意味だ。

出典:public domain 中間段階での迎撃を担当するSM-3ミサイルを発射したタイコンデロガ級巡洋艦

補足:確実に韓国へ落下する弾道ミサイルのみを対象とした迎撃を行う=米国や日本へ向けて発射された弾道ミサイルの迎撃能力を保持しないとアピールすることで周辺国を刺激しないという論理

韓国は、この韓国型ミサイル防衛システムの計画に従い、終末段階下層で弾道ミサイルを迎撃する「パトリオット(PAC-3形態)」の国産化バージョン「M-SAM」を開発済みで、すでに量産化され部隊への配備が始まっている。

終末段階上層で弾道ミサイルを迎撃する「THAAD」の国産化バージョン「L-SAM」研究は2018年11月で終了しており、当然、直ぐに本格的な開発に取り掛かるものと見られたが、1年ほど計画がストップしてしまう。

この1年の停滞は何を意味するのか?

韓国は新しく調達するイージス艦に「SM-3 BlockⅡ(当初はSM-3級と濁していた)」を搭載すると決定したことで、自ら「周辺国を刺激しない形でミサイル防衛を行う」という韓国型ミサイル防衛システムの理想を放棄してしまった為、THAAD導入という選択肢が浮上することになり、国内開発か米国から導入するのかについて検討を行っていたらしい。

しかし、韓国はTHAAD導入ではなく国内で「L-SAM」を本格開発することを決定した。

出典:public domain THAADミサイル

では、なぜ韓国はTHAADではなく、国内開発を選んだのか?

米国の「THAAD」は弾道ミサイル迎撃に特化したシステムで、サウジアラビは「THAAD」導入費用に約150億ドル(約1兆6,000億円)を要求されており、これは弾道ミサイルだけでなく航空機や巡航ミサイルの迎撃まで対応したロシアの「S-400」や「S-500」と比較し「割高」だと批判される部分で、多くの国がロシア製防空システムを希望する要因になっている。

補足:契約内容を揃えることができないので素直に比較は出来ないが、サウジアラビが支払うことになる約150億ドルには、360発のTHAADミサイル、7基のTHAAD(AN/TPY-2)レーダー、16基のTHAAD射撃管制装置、要員の訓練、保守部品やサポート費用などが含まれ、インドが導入する「S-400」5セット分のコストは約54億ドル(約5,800億円)だ。しかもロシア製の「S-400」や「S-500」は用途の異なる複数のミサイルで構成されているため、レーダーや射撃管制装置は同じでも使用するミサイルを切り替えれば航空機や巡航ミサイル、さらには弾道ミサイルまで幅広く対応可能だが、複数のミサイルを運用するため、規模や移動・展開、保守や補給面では複雑で手間がかかると言える。

出典:public domain AN/TPY-2レーダー

因みに韓国メディアによれば、ミサイル48発と発射台6基、AN/TPY-2レーダーなどで構成されるTHAADシステム1セットを導入するには約1兆5000億ウォン(約1,400億円)が必要だと報じている。

韓国もこの点を問題視し、国内開発を選んだものと思われる。

韓国が本格的な開発に取り掛かる「L-SAM」には、総額約1兆ウォン(約900億円)近い予算が投入される予定で、米国の「THAAD」とは異なり、弾道弾を迎撃ミサイルと航空機や巡航ミサイルを迎撃するミサイルが開発することになっており、ロシアの防空システムに近い構成になる。

出典:Vitaly V.Kuzmin / CC BY-SA 4.0 ロシアの防空システム「S-400」

そもそも韓国が開発した「M-SAM」防空システムは、ロシアの協力によって獲得した「S-300」や「S-400」の技術が多く使用されており、ミサイルのコールドローンチ方式による発射技術や、レーダー「92N6A」に使用されたフェーズド・アレイ型のレーダー技術などがその代表例であり、ベースの「M-SAM」に改良を加えて開発されるのが「L-SAM」だ。

補足:ロシアの技術協力は、ロシアが韓国から30億ドルの借款を現金で返済する代わりに、軍事機器や技術などによる現物償還を提案したことで始まった「ヒグマ事業」によるもの

そのため当然、参考にしてくるのは米国の「THAAD」ではなく、ロシアの「S-400」や「S-500」なので、韓国型THAADではなく「韓国型S-400」と言ったほうが正しいのかもしれない。

最大の問題は「M-SAM」を開発した当時はロシアから直接、技術指導や協力を受けられたが、今回の「L-SAM」開発は、ロシアが残した技術的遺産だけで開発に挑戦するという点で、果たして、ロシアの技術を改良するだけで終末段階上層での弾道弾迎撃という技術的な難問を無事クリアできるのか謎で、これまで魔除けのような存在であった「韓国型ミサイル防衛システム」の理想は既に失われており、米国からの売り込み圧力も高まるだろう。

順調に開発が進めば「L-SAM」の開発は2024年に完了し、2028年までに量産が行われ実戦部隊での運用が始まる。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain THAADミサイル

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    昨今の日韓情勢を考えると、日本を大規模に攻撃できるミサイルシステムの開発のための隠れ蓑なのではと穿った考えを持ってしまう。

      • 匿名
      • 2019年 12月 09日

      PAC3の国産化がM-SAMで、ロシアの協力によって獲得した「S-300」や「S-400」の技術が多く使用されてる?

      なんじゃそりゃ?
      PAC3の情報がロシアに漏れてるじゃん(笑)

      • 匿名
      • 2019年 12月 10日

      同感です。
      更に近い将来起こりうることは、この「韓国型S-400」が韓国東岸に設置され、日本海・竹島近辺にスクランブルが発生した場合、仮にF-35のレーダー反射パターンのデータを採取されないかが心配です。
      いまのところスクランブル業務はF-15でまかなっている現状ですが…

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    できるかな?
     PAC-3は直撃型、PAC-2は散弾銃型(ターゲットの直近で弾頭が破裂して、破片で巡航ミサイル/航空機などを破壊する)、PAC-3相当を開発するなら高度なレーダー技術が必須
    かつ、事前に位置情報を把握する軍事衛星、偵察機なども必要

     S-400/S-300にも色々あって、韓国がパクって完成させたと言われるL-SAMは、天弓・Block-1=S-400/9M96系 射程20km程度 巡航ミサイルまで、破片による破壊,
    天弓・Block-2=S-400の9M95E系 射程40km、マッハ1.5、破片による破壊と言われてる

    S-400系で限定的ではあるが弾道弾への対応が可能と言ってるのは40N6系、48N6系 (クソ長い射程、マッハ10あたりまで対応? これって矛盾してるSpecなのよね)

      • 匿名
      • 2019年 12月 09日

      直撃型だと、高度なレーダーだけでなく、予測型誘導制御も欲しくなるかも。
      日本の場合、対ステルスもあり空対空ミサイルにも実装しようと開発中の様だけど。

        • 匿名
        • 2019年 12月 09日

        単純に、THAAD配備を断る為の言い訳じゃないですか。
        アメリカには、自国開発するんでいらないといい、
        中国には開発するふりするだけですという
        そもそも敵国(北にあらず)は打ち落とすべきミサイルなんてろくにもっていませんし

        • 匿名
        • 2019年 12月 09日

        小銃や戦車、榴弾砲も満足に開発出来ない、衛星も打ち上げられないやつらが、何を妄想してるんだよ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    同盟国が狙われてても、見捨てるってこと?

      • 匿名
      • 2019年 12月 09日

      同盟国?北朝鮮の事ですか?
      日本は韓国の仮想敵であって同盟国ではありません
      文在寅が安倍とトランプの前で日本は同盟国ではないとハッキリ宣言しましたから

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    開発って、実弾試験はどうするの?
    またまた、500km/h程度の模擬標的で行って、
    あとはシミュレーションで当たるとか言って終わり(笑)

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    自分とこでまともなロケットも作れないのに迎撃システム独自にやろうとかアホだよ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    終末段階でフェイントかけてくるミサイルもある昨今わざわざ中間での迎撃オミットするとかアホかな?
    日本より発射地点に近くてより優位に初期対応出来るのにやらないのは
    本気で迎撃するつもりがないんだろうし対アメリカ向けにやってるだけのポーズなんだろうな…

    • 匿名
    • 2019年 12月 09日

    韓国は既にモンキーモデルのS-400ミサイルをノックダウン生産・配備している.

    • 怪しい
    • 2019年 12月 10日

    GSOMIA延長は西側の新式装備を買って中国・ロシアに手土産にするためかな?

    • 匿名
    • 2019年 12月 10日

    中国からTHAAD配備への圧力きついのと、強力な民族主義政権で自国開発したいのと色々思惑あるんだろう。

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