米国関連

数に数で対抗か?米国、中国の対艦ミサイルを無力化する新兵器

米国の国防高等研究計画局(DARPA)と、レイセオンが開発を進めている小口径高速誘導砲弾「MAD-FIRES」は、砲弾を再び戦場の主役に連れ戻すかもしれない。

参考:Raytheon unveils interceptor that would defeat Chinese anti-ship missiles

低コストな精密誘導砲弾で、航空機やミサイルの迎撃を狙う「MAD-FIRES」弾

米国の国防高等研究計画局(DARPA)とレイセオンは、米海軍の沿海域戦闘艦が搭載しているMk.110(57mm速射砲)で使用できる、小口径の高速誘導砲弾「MAD-FIRES」を開発中で、この砲弾で航空機、無人機、ミサイル等を迎撃でき、水上艦の生存能力を大幅に向上させることを狙っている。

簡単に言うと、現在、迎撃用ミサイルでしか対応できない対艦ミサイルや、対艦巡航ミサイルに対して、Mk.110から発射できる砲弾を精密誘導するため誘導装置とフィン、射程を延長するためのロケットモーターを組み込み、ヒットトゥキル(直撃)方式でミサイルを迎撃するというものだ。

出典:Public Domain Mk.110 57m単装速射砲

MAD-FIRES弾の利点は、精密誘導可能な砲弾を、毎分220発の発射速度を誇るMk.110(砲塔内に120発)から発射するため、単体の攻撃は勿論、同時多数攻撃に対しても十分な迎撃弾を瞬時にバラ撒ける上、同様の用途で使用される近接防空ミサイル「RIM-116」や、艦対空ミサイル「RIM-156(SM-2)」よりも低コストで調達(予定)できるため、防空コストを大幅に削減することが出来る。

防空用にRIM-116ランチャー(21発内蔵)しか装備していない沿海域戦闘艦にとって、この高速誘導砲弾「MAD-FIRES」が実用化されれば、垂直発射システム「Mk.41」を搭載していない沿海域戦闘艦でも、より多くの脅威と、より遠距離で同時に交戦が可能になる。

似たような用途の砲弾として、既にイタリアのオート・メラーラが、対空目標用の76mm砲DART誘導砲弾を実用化し、米海軍でも、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦等に搭載しているMk.45から発射可能な誘導砲弾「MS-SGP」を開発したが、これは主に陸上攻撃用途で、対空目標への使用は想定されていない。

今回、レイセオンはMk.110から発射される高速誘導砲弾「MAD-FIRES」で、中国軍(と思われる)の水上艦、潜水艦、爆撃機から発射された対艦ミサイル迎撃を想定したイメージ動画を公開した。

出典:レイセオンが公開した動画のスクリーンショット

その内容は、中国軍からの複数のミサイルで攻撃を受けた米海軍艦艇(フリーダム級沿海域戦闘艦ぽい艦艇を含む3隻)が、Mk.110で大量の高速誘導砲弾「MAD-FIRES」を発射、精密誘導された砲弾は中国軍のミサイルを直撃し無力化していくというものだ。

出典:レイセオンが公開した動画のスクリーンショット

ここまでの情報なら、これは画期的なアイデアに見えるが、果たして、57mmと小さな「MAD-FIRES」弾が、ロケットモーターによるアシストがあるとは言え、近接防空ミサイル「RIM-116」や、艦対空ミサイル「RIM-156(SM-2)」の代わりになるほどの射程を持ち得るのか?

流石に、Mk.110(57mm速射砲)の通常弾と同じ8,500m程度の射程では、ロケットモーターを組み込んだ意味がない。

数値が公表されていないので推測になるが、そもそもMk.110を搭載している沿海域戦闘艦には、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦が搭載している「AN/SPY-1」にような長距離で目標を探知できるレーダーが搭載されていない以上、「MAD-FIRES」弾に「RIM-156(SM-2)」ほどの長い射程を求めてみても、オーバースペックになるだろう。

射程よりも重要なのは、音速で向かってくるミサイルが目標の場合、対処時間が非常に限られるため、最大仰角で射程し距離を稼ぐよりも、水平射撃で如何に最短時間で目標に到達できるかが重要になる。そのため最大仰角で発射し約100kmの射程を叩き出す陸上攻撃用途のMk.45用誘導砲弾「MS-SGP」とは、そもそも弾道が自体が異なる可能性が高く「MAD-FIRES」弾の射程を推し量る材料にならない。

既に実用化済みのDART誘導砲弾(射程約8,000m)は、砲弾が76mmと大きいが、射程を延長するためのロケットモーターを採用していないため、これも「MAD-FIRES」弾の射程を推し量る材料にならない。

出典:Public Domain RIM-116

結局、沿海域戦闘艦に「RIM-116(射程約15,000m)」が搭載しているという点と、「RIM-116」や「RIM-156(SM-2)」をコスト比較の対象にしているという点を考慮すれば、15kmから20km程度の射程距離ではないかと考えている。

必要以上の高スペックを求めれば、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦のAGS 155mm砲の二の舞になり、低コストで調達できるという「MAD-FIRES」弾のメリットが失われてしまえば本末転倒だ。

21発しか装填できず、撃ち尽くせば戦闘中の再装填など非現実的な「RIM-116」に比べて、Mk.110砲塔内に即応弾が120発もあり、予備弾も加えれば濃密な精密誘導砲弾の弾幕を低コストで作り出せる「MAD-FIRES」弾の登場は、ミサイルの普及とともに隅に追いやられた感のある「砲弾」を再び戦場の主役に連れ戻すことになるかもしれない。

但し、指向性エネルギー兵器(通称:レーザー兵器)の実用化がなれば、再び消えゆく定めだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 24日

    ズムウォルトと沿海域戦闘艦を退役させた方が良いのでは

    • 匿名
    • 2019年 7月 24日

    防空ミサイルと競合ではなく、ciwsとの間を埋めて壁を一枚増やすのが目的かと。

    誘導爆弾みたいな外見だけど、どーやって誘導するんだろう?推進薬すらろくに入らそうなのに。

      • 匿名
      • 2019年 7月 25日

      撃ちっ放しだろうから赤外線誘導でしょうな。
      基本的に誘導無しでも直撃させるつもりの射撃で目標の直近に砲弾が飛ぶから、後は微調整するだけなんで案外命中率は高いかも。
      サイズ的に適合するか分らないけどRAMの赤外線センサーと誘導系(スピン安定させてる砲弾を1軸で制御する)を使いまわしできれば結構安くあがるんじゃないかな。

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