インド太平洋関連

韓国企業に勝算は? ステルス戦闘機「F-35ライトニングⅡ」部品整備受注のラストマッチ開幕

米国防総省は2020年中にもステルス戦闘機「F-35ライトニングⅡ」の3段階に別れた部品整備の「3段階地域整備業者選定」提案依頼書(RFA)をF-35導入国に対し配布する計画だ。

参考:F-35 부품정비 수주 가능성은

2021年に選定結果が発表されるF-35の部品整備「3段階地域整備業者選定」

ステルス戦闘機「F-35ライトニングⅡ」は約3,000機もの量産が計画されており、すでに同機の運用は9ヶ国で開始され開発元のロッキード・マーティンだけでは同機の整備需要に到底対応できないため、米国、イタリア、日本、豪州に機体やエンジンのオーバーホールを行う整備拠点(MRO&U)を設けて同機の整備需要に対応する計画になっている。

本来、この整備拠点は雇用と利益を発生させるため、F-35プログラムに参加(出資)した国の中から地理的要素を加味して選定されるのだが、日本はF-35プログラムに参加していないにも関わらず整備拠点の誘致に成功したのは、単純に日本が相応の費用負担を行いFACO(最終組立・検査施設)を設置した(と言うよりも強引に割り込んだ)したという点と、日本や韓国に展開する米空軍のF-35Aや海兵隊のF-35B、日本に配備された空母に搭載される予定のF-35Cなど少なくないF-35が東アジアに展開するため、オーバーホールを米国本土や豪州に移動して受けるより日本に整備拠点を設けたほうが効率的だという点が評価され整備拠点の誘致につながった。

ただし膨大なF-35を円滑に運用するためには、同機に搭載されている機器や部品の調整や整備が必要になり、これ全てロッキード・マーティンや当該部品を製造した企業に送っていては時間も掛かる上、F-35の製造自体に影響を及ぼす可能性がある。

そのため整備拠点とは別に、F-35を導入した国の企業を対象に同機に搭載されている機器や部品の整備を「地域別」に委託する方式が取られており、この整備事業に参加を希望する企業を選定するのが米国防総省が実施している「地域整備業者選定」だ。

出典:pixabay

地域整備業者選定は3つレベルに分かれていおり、2016年に1段階目11分野65個、2019年に2段階目17分野398個に対する地域整備業者選定が実施され、いよいよ最後の3段階目の地域整備業者選定が2021年に行われる予定で、それに参加する企業を募集するため提案依頼書(RFA)の配布が2020年中に行われる。

この3段階目は300を超える分野の部品整備が開放されると見られており、韓国メディアは早くも受注の可能性について報じている。

韓国企業は1段階目の地域整備業者選定で「射出座席」分野の整備事業者に選ばれ、2段階目の地域整備業者選定では新たに3つの分野(航空電子、機械、電子機械)の整備事業者に選ばれており、3段階目の地域整備業者選定ではこれまで以上の成果獲得に期待しているが、韓国はF-35プログラムに参加(出資)していないため大きな期待をしても失望に終わるだけという声もある。

実際、1段階目の地域整備業者選定で韓国は「射出座席」を構成する1つの部品整備を大韓航空が受注したに過ぎず、F-35プログラム参加国のオーストラリ企業は64個の部品整備受注に成功しているため、F-35プログラムに参加していない国がF-35を導入しただけでは、F-35経済圏で利益を挙げるのは難しいという意味だ。

因みに最近の韓国メディアは、韓国空軍のF-35Aのオーバーホールについて日本か豪州に依存するしかないと冷静に報じている。

昨年、日本はF-35プログラムへの正式参加を打診して拒否される

日本も韓国と同じようにF-35プログラム非参加国だが、昨年、F-35プログラムへの正式参加を打診したことがある。

昨年の7月、防衛省の鈴木整備計画局長は米国防総省に対し、F-35プログラムの正式な開発パートナーに参加できる可能性と条件(責任と権利、コストの共有、承認プロセス等)について情報提供を要求したと海外メディアを中心に報じられた。

当時、ロシア製防空システム「S-400」を導入したトルコがF-35プログラムから追放される可能性が現実味を帯びてきた時期で、同時期に日本はF-35追加導入を発表し、開発国である米国を除けばF-35を最も多く導入する国となり、海外メディアは日本が大量のF-35導入を背景にトルコの後釜(F-35部品製造)を狙っているのではないかと分析していたが、日本が参加を検討したのはF-35の部品製造に参加できるという経済的な理由からではなく、空自のF-35A墜落事件が契機になったのではないかと管理人は考えている。

出典:航空自衛隊

日本が昨年4月に墜落したF-35Aの事故原因調査に時間が掛かったのは、F-35プログラム非参加国の日本が調査に必要な情報(これまでにF-35Aで発生したトラブルの詳細データ等)を入手するには米国に依頼する以外に手段がなかったためで、F-35プログラムの参加国になれればF-35に関する情報に直接アクセス出来るようになり、さらに言えばF-35の仕様についても口を出すことができ、国産兵器の統合も容易になるため、日本はF-35プログラムへの参加を検討したのだろう。

しかし、日本の要請は「F-35のシステム開発実証段階で開発に参加をした国に限られる」とF-35ジョイント・プログラム・オフィス(JPO)担当者に完全否定されしまう。

一応、開発パートナーの参加条件は国防総省が作ったものなので、究極的に言えば国防総省は参加条件を書き換える事ができるとF-35プログラム元高官が指摘しているが、成功が確約されていない初期段階で出資をした国から見れば、日本の要求は後出しジャンケンに近いため理解を得ることは難しく、結果論から言えばF-35プログラムへの参加を見送ったのは失敗だったと言う他無い。

これは日本だけに限った話ではなく、当時F-35プログラムへの参加を見送った国の殆どが後悔しているのだから。

 

※アイキャッチ画像の出典:航空自衛隊

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    >成功が確約されていない初期段階で出資をした国から見れば、日本の要求は後出しジャンケンに近いため理解を得ることは難しく、結果論から言えばF-35プログラムへの参加を見送ったのは失敗だったと言う他無い。

    「成功が確約されていない初期段階」の頃だと、日本は武器輸出がNGじゃなかったけ?
    見送ったというより、当時の国是から出資を諦めた状態。
    結果から見ると、リスク回避で出資を見送ったのと同じだけど。

    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    こうなるとやはり、国産機の開発能力向上と国産機の完成・量産がますます大事になってきますね。

      • 匿名
      • 2020年 1月 19日

      以上酸っぱい葡萄コメントでした☆

        • 匿名
        • 2020年 1月 21日

        煽るしか能のない低俗コメント

        3
    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    まあ日本がF-35プログラムに参加できないのは不便な部分も多いけど、そのおかげで
    「自由にいじれる国産の機体であるF-3が必要」という名分が立つという側面もあるよね。

    1
    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    この業者選定だけど、日本は当初2019年度一杯で止める予定だった国内FACOでの組み立て作業を当分継続すると昨年末に決めたから、この業者選定に参加するのは難しいんじゃないか?
    (註・名古屋にあるFACOは閉鎖後、整備拠点として衣替えする予定だった為、FACOが存続するなら整備拠点を別に作る必要がある。尚、IHIが担当するF135エンジンの組み立ては予定通り2019年度末で終了するので除外する)

    因みに私見だけど、昨年日本がF-35プログラムへの正式参加を打診して米国に拒否された件、あれはトルコのF-35プログラム追放の件と三沢基地の第302飛行隊が起こした墜落事故は無関係で、実は「F-2後継機(F-3)の国内主導開発へ向けて米国に対して仁義を切った」のだと思う。
    あれで日本政府は「我が国がF-35プログラムへ参加出来ない以上、自国の戦闘機を輸入だけで賄うのは運用上問題がある為、F-2後継機については国内主導で開発しますのでF-2の時の様に横槍を入れないで下さいね?」と言える立場になったから、米国もこの件で文句を言おうにも言い辛くなったのではないだろうか。

    3
    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    日本の本命はF-22で、対地攻撃機の35には魅力を感じなかっただろう
    たとえ当時に三原則がなくても35の開発に参加する気はなかったんじゃないかな

    その後F-22の輸出が断られて手に入るステルス機の選択肢が35以外になくなり、
    また増長する中国や北朝鮮領内への爆撃の必要性が出てきたのは皮肉だろうが

      • 匿名
      • 2020年 1月 19日

      F-3の研究が進んだ結果日本に求められるのは航続距離とデータリンクに優れた機体という
      将来戦闘機の方向性が明確になった事で空戦面でもF-35の方が合致したのは不幸中の幸いでしたね。

    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    リンク> 対空、対地、対艦の任務に対応し、2019年
    > 現在、各国が運用中の戦闘機にも見られる
    > 多用途能力、いわゆるマルチロールファイ
    > ターのはしりと言っても過言ではない機体
    > でした。初飛行は1977(昭和52)年で、2006
    > (平成18)年までの29年間、日本の空の防衛
    > に貢献しました。

    F-1は対地攻撃能力をもっていたのに?

    • 匿名
    • 2020年 1月 21日

    昨今の情勢と元々の地理的なことから韓国が担当できるのは他国が簡単に出来る事に限られるんじゃないのかな。
    要は、韓国が裏切ったり機能不全に陥った時に容易に他国等で代替がきく内容じゃないと任せられないって事。
    後、情報流出の懸念。 ま、その点は日本も大概酷いですけどね。

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