インド太平洋関連

そうりゅう型潜水艦が豪州入札で敗れた「フランス新型潜水艦」の問題点

フランスは12日(現地時間)、フランス北西部、コタンタン半島に位置するシェルブール=オクトヴィルの造船所で、新型のシュフラン級原子力潜水艦の1番艦が竣工式を迎えた。

参考:France launches first Barracuda-class nuclear attack sub

原潜としては中途半端、通常動力型としては優秀なシュフラン級

シュフラン級原子力潜水艦は、現在、フランス海軍が運用中のリュビ級原子力潜水艦(2,400トン)の後継艦で、艦体が大型化し水中では5000トンを超え、潜航状態での作戦期間はリュビ級の45日から70日以上に、原子炉の核燃料交換周期はリュビ級の7年から10年へ延長されるなど、原子力潜水艦としての基礎性能が大幅に向上している。

フランスは、このシュフラン級原子力潜水艦を6隻調達する方針で、運用・保守費用を除いた6隻の調達価格は約103億ドル(約1兆1000億円)で、1隻あたりの調達価格は約17億ドル(約1830億円)になる。

出典:public domain 原子力潜水艦に搭載されたドライデッキ・シェルター内部

シュフラン級原子力潜水艦で特に目を引く点は、フランス海軍の特殊部隊「海軍コマンドー」の隊員を潜航状態の潜水艦から出撃・回収するためのエアロックと、小型潜水艇など水中機材ための格納庫を組合せた「ドライデッキ・シェルター」が搭載可能な点と、潜行状態から航空機を迎撃するための空対空ミサイル「MICA」の水中発射型を搭載・運用できる点だ。

従来、ドライデッキ・シェルターの利用は、特別に改造された潜水艦でしか不可能だったが、潜水艦から特殊部隊を運用する需要が増え、米海軍の最新型バージニア級原子力潜水艦では、全艦でドライデッキ・シェルターの利用が可能になっており、隠密性の高い潜水艦と特殊部隊の組合せによる陸上作戦は、潜水艦の新たな活用方法として注目を集めている。

潜水艦の魚雷管から、巡航ミサイルや対艦ミサイルを発射する要領で、フランスが開発した短距離空対空ミサイル「MICA」を発射し、潜水艦が潜航する海域を飛行する航空機(恐らく低空を飛行する対潜哨戒機)を迎撃することも可能で、日本のそうりゅう型潜水艦を破り、オーストラリアに採用されたシュフラン級原子力潜水艦をベースに開発される「シュフラン級通常動力型潜水艦(豪州名:アタック級)」では、小型の無人偵察機も潜航状態から発射可能だ。

出典:public domain バージニア級原子力潜水艦

シュフラン級原子力潜水艦を一言で言えば、従来の攻撃型原潜の能力を維持しながら、限定的ながらも水陸両用作戦を単艦で実行可能な能力を併せ持つ次世代の潜水艦と言え、米海軍のバージニア級原子力潜水艦に近い存在だ。

但し、シュフラン級原子力潜水艦には、攻撃型潜水艦としての欠点があり、それは弾庫容量(魚雷や対艦ミサイル、巡航ミサイルなどを搭載できるスペースのこと)が非常に少ない点だ。

2,400トン程度と原潜としては非常にコンパクトだったリュビ級原子力潜水艦では、18発(4基の魚雷発射管装填分も含め)分の弾庫容量しかなく、シュフラン級原子力潜水艦は5000トン程度と艦体が大きくなっているにも関わらず、24発分の弾庫容量しかない。

出典:public domain ロサンゼルス級原子力潜水艦の魚雷発射管室

米海軍のロサンゼルス級原子力潜水艦では、魚雷発射管装填分も含め22発分の弾庫容量しかなく、魚雷の他にも対艦ミサイル「ハープーン」や、巡航ミサイル「トマホーク」など攻撃手段が多彩になればなるほど、22発分しかない弾庫容量が問題になり、次級のシーウルフ級原子力潜水艦では52発分の弾庫容量を確保した。

最新のバージニア級原子力潜水艦では、やり過ぎたシーウルフ級原子力潜水艦の性能を落としコストを下げ、新たな任務への対応に船体スペースを割く必要があったため、シーウルフ級原子力潜水艦に比べ弾庫容量は減少したが、それでも38発分のスペースを確保しており、英国のアスチュート級原子力潜水艦は38発分、ロシアの攻撃型原子力潜水艦は30発から40発分以上の弾庫容量を確保していると言われている。

この様に、同じ攻撃型原潜と比べても、シュフラン級原子力潜水艦の弾庫容量不足は明らかだ。

もちろんバージニア級やアスチュート級は、シュフラン級よりも大型だからこそ弾庫容量が優れているのかもしれないが、逆を言えば、他国よりも小さな艦体に、特殊部隊を収容するためのスペースや機器の保管庫、ドライデッキ・シェルターを搭載するための接続部、弾庫容量を圧迫する空対空ミサイル「MICA」の搭載など、余計なものを搭載したしわ寄せが、もろに弾庫容量を直撃している。

原子力潜水艦に比べて大きさの小さい通常動力式の潜水艦の弾庫容量は20発前後だと見られ、これは艦体の大きさの差というよりも、通常動力式潜水艦の作戦期間が短いためだ。

作戦期間の長さに比例して、作戦への参加や、敵との交戦機会が増加するため、原子力潜水艦は作戦期間の短い通常動力式潜水艦よりも、多くの弾庫容量が必要というわけだ。

要するに、シュフラン級原子力潜水艦は空母護衛という攻撃型潜水艦としての任務に加え、流行りの特殊部隊を用いた隠密作戦の支援にも使用できるなど「多任務に対応した次世代攻撃型原潜」だが、実際には、原潜特有の作戦期間の長さを活かしきれない、通常動力型潜水艦並の弾庫容量しか持っていない「中途半端」な原潜の可能性が高い。

但し、オーストラリアに輸出する通常動力型の場合、作戦期間が原潜よりも短いため弾庫容量の少なさは欠点になりにくく、シュフラン級が本当の意味で輝くのは「通常動力型」の方かもしれないが、50年近く通常動力の潜水艦を建造しておらず、果たしてトラブル無く、きちんと動くものが出来るのか確証はない。

 

※アイキャッチ画像の出典:pixabay

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 14日

    通常動力の艦内レイアウト的には優れているんでしょうけど、ねえ

    • ななしさん
    • 2019年 7月 14日

    個人的には売れなくてよかったと今でも思ってます。
    最高機密を敵か味方かも怪しい国で現地生産とか怖すぎ。
    出せて、あさしお級まででしょ。

    • 2019年 7月 15日

    オーストラリアは敵対する国がほとんど無いし、24発も搭載できれば十分でしょ
    それを使い切るような状況なら大戦になってるから、そうなると主役は米軍、益々出番がなくなる

    • oominoomi
    • 2019年 7月 15日

    海上自衛隊でも、今後は潜水艦を使った浸透作戦を実施できる様になって貰いたいです。
    新設される護衛艦・掃海艇部隊に潜水艦を加えれば、水陸両用作戦能力が大きく高まるのではないでしょうか?

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