軍事的雑学

2019年ミリタリーニュース10選、装備の低稼働率に悩まされたドイツ軍の改革

2020年を迎えてしまったが、今回も航空万能論的に2019年最も印象に残ったミリタリーニュースを10本選び、1つづつ振り返っていく最終回だ。

2020年、ドイツ軍は改革によって最悪の状況から抜け出せるか?

ドイツのデア・シュピーゲル誌は、ドイツ軍の主要装備が依然として故障に悩まされている現状を赤裸々に報じている。

ドイツの前国防相フォンデアライエン氏(現:欧州委員長)や、その後を引き継いだクランプカレンバウアー氏によって軍の改革は続けられているが、軍が装備する低調な稼働率の問題は一向に解決する兆しが見えない。

出典:Olaf Kosinsky / CC BY-SA 3.0 de クランプカレンバウアー国防相

クランプカレンバウアー国防相は、ドイツには飛ぶことの出来る飛行機もなく、走行可能な車両もなく、海へ乗り出すための船もないと言われていることについて「うんざり」しており、ドイツ軍の装備や機器の調達を担当するドイツ連邦軍装備情報技術運用庁の改革に乗り出した。

2006年から7年間、メルケル首相の軍事政策顧問を務めたエーリッヒ E. ヴァッド准将は、ドイツ軍とイスラエル軍の国防費を比較し、この問題は「資金不足」ではなく「官僚主義」に染まった軍指導者が多すぎるのが原因だと指摘、ドイツメディアは冷戦終結後、ドイツほど軍の規模を縮小した国はなく、多くの兵舎を閉鎖し、徴兵した兵士を服務期限前に大量解放したことで、軍を維持するために必要なノウハウが失われ、施設や装備は適切に維持することが出来ず、その結果、組織崩壊に繋がったと報じている。

出典:MoiraM / stock.adobe.com

要するに、行き過ぎた官僚主義とやり過ぎた軍縮がドイツ軍崩壊の真犯人というわけだ。

クランプカレンバウアー国防相は、ドイツ連邦軍装備情報技術運用庁の職員の前で「ドイツ軍は笑いものではないはずだ」と語り、ドイツ軍の装備や機器の調達システム改革への決意を示し、必要な装備や機器を、より速く、より簡単に、必要とされる所へ直接届けることを掲げたが、改革を円滑に行うため「大きな改革」ではなく「小さな改革」を多く行うと言っている。

果たして、この改革によって軍の状況は改善されるのだろうか?

ドイツのデア・シュピーゲル誌は、軍が直面している装備の稼働率について興味深い情報を報じている。

出典:Sirpa Marine / CC BY-SA 3.0 多用途ヘリ「NH90」

デア・シュピーゲル誌によれば、軍の主要装備は依然として故障との戦いを継続しており、特にヘリコプターや航空機、戦車の稼働率が軍の足を引っ張っている。

海軍や空軍が導入した多用途ヘリ「NH90」は、複雑すぎる技術的な問題により75機中31機は修理中か定期的なメンテナンスを受けている最中で、44機しか使用できないとされているが、実際に稼働しているのは9機(稼働率12%)だけと報告された。

陸軍が導入した攻撃ヘリ「ティーガー」は、地上軍を空から支援するために欠かせず、海外派遣されるドイツ軍の任務に不可欠な装備だが、保有している53機の内、実際の飛行任務に耐えられるのは12機(稼働率22%)に過ぎない。

出典:public domain ドイツ陸軍 攻撃ヘリPAH-2(ティーガー)

輸送ヘリとして導入した71機の「CH-53G(D型ベースの輸出型モデル)」は、海外派遣部隊の輸送を支える重要な戦力だが、これも実際に飛行可能なのは18機(稼働率25%)に過ぎず、特に不足しているのは敵からのミサイル攻撃に対する自己防衛装備を搭載したタイプだが、新型機導入話が進行中のため改修計画は存在せず、海外派遣された「CH-53G」はリスクに晒され続けている。

さらに最新の装甲歩兵戦闘車「プーマ」は現在までに284輛が陸軍に引渡されたが、実際に稼働可能な67輛(稼働率23%)しかなく、空軍が運用を続ける93機の戦闘機「トーネード」は、依然として保守パーツ不足に悩まされており、実際に飛行可能なのは20機(稼働率21%)に過ぎない。

出典:Boevaya mashina / CC BY-SA 4.0 装甲歩兵戦闘車「プーマ」

このような問題を指摘するドイツ軍の報告書は、2014年まで連邦議会に提出されていたため公の場で議論されていたが、前国防相のフォンデアライエン氏が「機密」に指定したため、限られた人間しかドイツ軍の実態を把握することができない=問題を国民やメディアの目から隠しているとデア・シュピーゲル誌は指摘している。

さらに軍は装備の平均稼働率が70%以上で、これは海外の国と比較しても非常に優秀な数字だとアピールしてきたが、これは実際の現場で起こっている事実を反映している数字だとは言えず、結局、批判を恐れ実際の数字よりも良く見せようとすればするほど問題の改善は遅れ、装備の稼働率は低下し、問題がさらに悪化するという悪循環に嵌っているのだ。

恐らく、根本的な問題点に気づいているクランプカレンバウアー国防相は、問題の報告書を一般に公開し、公表されるドイツ軍の稼働率と、実際の稼働率の差についても抜本的な改善を検討しているというが、果たして、今年(2020年)少しでも状況が改善されるのか注目される。

 

※アイキャッチ画像の出典:fotogenix / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 1月 02日

    ドイツ軍が立ち直るのはしばらく無理だろうな~…
    保守系が再興してきてるとはいえまだリベラルも強いし
    政権交代したとしてもいきなり軍事費増額すればそこを攻撃材料にされるから思い切った手を打てない
    10年は現状維持なんじゃなかろうか?そしてその間にもノウハウは失われていくと…

    • 匿名
    • 2020年 1月 03日

    安価な労働者として移民を入れたが結果は中産階級が崩れていき雑経費も増える、最終的にEUは瓦解するだろう、軍事力を含めて悲惨な未来しか見えない。
    ブレグジットは大正解だと思う、伊達に長い間帝国をやっていたわけではない。

      • 匿名
      • 2020年 1月 03日

      「安価な労働者」なら、本来中産階級とは競合しないと思います。
      既に中産階級が崩れ二極化が進行している中、「安価な労働者」の層が移民と競合する、と時系列を入れ換えるのなら同意出来ますが。

      ブレグジットは、悲観的に見ています。
      ソフト寄りならEU崩壊を加速する方向に、ハード寄りなら英国経済や政治が悲惨なことになるかな、などと空想しています。

      その余波が日本まで波及しない様に、欧州の問題は欧州内で完結して欲しいですけど。

        • 匿名
        • 2020年 1月 05日

        ドイツはEU(とユーロ)の恩恵を全力で受けてる側だけどな
        優れた工業力、東欧から調達した安価な労働力、他の加盟国に引っ張られて安くなった通貨
        全部合わせたら「世界でも有数の生産性を誇る国」が出来上がる

        ドイツ軍の崩壊はあくまでも組織マネジメントの大失敗だと思う

    • 匿名
    • 2020年 1月 03日

    ヘリ稼働率25%+装甲歩兵戦闘車稼働率23%+戦闘機稼働率21%=軍装備全体の稼働率69%
    なるほど

    • 匿名
    • 2020年 1月 03日

    ヘリ稼働率25%+装甲歩兵戦闘車稼働率23%+戦闘機稼働率21%=軍装備全体の稼働率69%
    なるほど

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