米国政府にとって武器は同盟国やパートナー国の安全保障に影響力を行使する政治的ツールであり、防衛産業界や海外市場でも「米国が武器開発や武器輸出に干渉してくる国際武器取引規則(ITAR)を回避できるシステム」がトレンドとして定着し、これが米防衛産業界の頭痛のタネになっている。
西側諸国は程度の差はあっても「安全保障における影響力の分散化」はもはや避けられそうにない
米国政府にとって武器は同盟国やパートナー国の安全保障に影響力を行使するための政治的ツールであり、そうなりえるのは恩恵を与えるスタンスの対外有償軍事援助(FMS)や同盟国やパートナー国の武器開発や武器輸出に干渉する国際武器取引規則(ITAR)の存在が大きく、ITARの弊害として有名なのが英国のASRAAMだ。

出典:Geoffrey Lee/MOD / OGL v1.0
米国とNATO主要加盟国(英国、西ドイツ、フランス)は1980年8月「欧州は独自の視界外空対空ミサイル開発計画を放棄してAIM-120を採用すること」「米国は英独が開発を進めていた短距離空対空ミサイル=ASRAAMをAIM-132として採用すること」で合意、米国と欧州はAIM-120とASRAAMの相互採用だけでなく共同生産も想定していたため、ASRAAMの生産には米ヒューズ(現在のRTX)が関与することになっていたが、ASRAAM開発からドイツが離脱し、米国もAIM-9Xを開発してASRAAMを採用しなかったため、この合意内容は1990年までに事実上崩壊している。
英国は合意が崩壊してもASRAAMを単独で開発し、2003年にAIM-9Xが登場するまでASRAAMに匹敵する交戦距離を備えた短距離空対空ミサイルは存在せず、英国はASRAAMの海外輸出に大きな期待を抱いていたものの、合意時代に予定していたヒューズ製シーカーの採用を単独開発になっても維持したためITARの規制対象になってしまい、米国がサウジアラビアへの輸出を承認しなかったためドイツのIRIS-Tに商機を奪われてしまう。

出典:MBDA
ヒューズ製の赤外線シーカー技術は合意時代の共同生産=ワークシェア配分の過程で英BAeがヒューズに技術を移転したものだが、赤外線シーカーの製造技術はヒューズの方が優れていたため、単独開発になってもヒューズ製シーカーを採用してしまいASRAAMの海外輸出に関する自由=武器主権を失った格好で、この問題が解決したのは2022年に英国製シーカー採用のBlock6が登場してからだ。
さらに欧州諸国はウクライナ戦争を通じて「購入した米国製システムやITAR規制に引っかかる独自システムの自由のなさ」を痛感して「武器システムの主権確保が如何に重要か」を再認識した結果、2023年頃からITAR規制を回避する代替技術の開発、既存システムからITAR規制に該当する技術や部品の排除、ITARフリーで設計した武器システムの開発が活発になり、現在の防衛産業界や海外市場でITARフリー志向という概念は定着してきた感がある。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Jennifer Nesbitt
ハネウェル・エアロスペースのジム・カリアー最高経営責任者はファーンボロー国際航空ショーで「この動きはEU内で起こるべき拡大トレンドであり、ある種の布告のようなものだと見ている。どのように資金を提供するか、どこに資金を提供するか、そしてより主権的な関与を望むという点について欧州は非常に明確な姿勢を示してきた。これは今後も継続的なトレンドになるだろう」と、Zone5のトム・カニュースキ最高経営責任者も「残念ながら、米国のITARが自国の技術的貢献に悪影響を及ぼすという認識が広まっており、欧州は米国製システムを敬遠することでITARの問題を回避できると考えている」と述べた。
航空宇宙産業協会のエリック・ファニング氏もファーンボロー国際航空ショーで「米企業にとってITAR改革は常に大きなテーマであり、今こそ改革を求める時期だ」「欧州側からはITARフリーの装備品購入や開発に関する動きについて多くの議論が出ている」「我々はそのような状態になることを避けたいと考えており、だからこそ米国のシステムを改革しなければならないと考えている」「米国の技術が悪意ある者の手に渡らないようにしなければならないため改革は複雑なプロセスになるが、現行のITARがより良いものにできないと考えている者はいない」と述べたが、これは欧州市場でのシェアを失うかもしれない産業界からの懸念に過ぎない。

出典:Lockheed Martin
繰り返しになるが、米国政府にとって武器は同盟国やパートナー国の安全保障に影響力を行使するための政治的ツールであり、エルブリッジ・コルビー国防次官は米防衛産業界への影響を懸念する声に「率直にいって量においても質においても米防衛産業に匹敵する国は存在しない。大統領が言うように米国は最高の装備品を作っており、競争相手が到底敵わない規模で生産している。どちらかと言えば米国防衛産業へのアクセスは権利ではなく特権なのだ」と一蹴し、米国製兵器の購入をやめて武器の国産化に乗り出すことに反対はしないものの「米国排除=手を組んで米国製兵器排除に繋がる動きに国防費を投資するな」と釘を刺している。
この手の問題について「欧州が米国製システムと手を切れる訳が無い」と極端な見方をする人もいるが、これは欧米の情報機関が軍関係者が「ロシアが数年以内にNATOを攻撃してくる可能性がある」と警告している意図を「NATOとロシアの全面戦争」と間違って解釈するのと同じで、欧州がITARフリーを目指すのは米国製兵器離れであっても「米国もしくは米国製兵器と完全に手を切る」という意味ではなく、安全保障や外交における政治的自主性を取り戻すため米国依存を引き下げるのが本質で米国と敵対する意思はなく、現在の欧州で議論されているのは「どこまで米国依存=影響力を引き下げるか」というバランスの調整だ。

出典:BAE Systems Australia
そして米防衛産業も北米市場(955億ドル)に次ぐ欧州市場(ロシア抜きで674億ドル)を完全に失うのは得策ではなく、NATO加盟国は国防支出の新基準=総額5.0%に合意して着実に支出を増やしているため、今後も欧州市場の規模は成長する可能性が高く、米企業も欧州企業と提携して現地生産やITAR規制に引っかからないシステムの共同開発を模索しているため、トランプ政権がITAR改革に動かなければ米防衛産業は独自の動きを強化してくるだろう。
システムを構成する部品、素材、デュアルユース技術の面で米国抜きを達成するのは簡単ではないが、今後も輸出市場ではITARフリーかどうかが潜在的な顧客を引き付ける要素になり、あのイスラエルですら米国援助を段階的に削減=米国依存を引き下げて安全保障面や外交面での「選択の自由」を追求する予定で、西側諸国は程度の差はあっても「安全保障における影響力の分散化」はもはや避けられず、この変化の度合いはITARフリーシステムの取引量で計ることができる。
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アメリカ兵器が平時でいくら量の供給が可能だとしても、有事に必要な量を確保できないなら果たしてアメリカ兵器の量のメリットはあるのだろうか?いやない。WW2で米軍が圧倒的だったのは高度にシステム化された兵站線がその本質であって、スペックシートでは決して敵兵器に優位とはいえなかったM4戦車も結局のところ血の滲む効率化とそれを前線に運び続けられたからこそ戦果を上げたのであって…。必要な時に必要な場所にない兵器の数はないのと同じか、書類上は存在するだけむしろ害にすらなる。現場に必要なのは最優秀兵器ではなく目の前の敵兵を撃ち倒すだけの弾薬だ。
いや、Epic Furyをその有事だと言って、湾岸戦争の4倍ものトマホークを消費し、迎撃ミサイルもスゴい数を使いまくってるわけですが。
埋戻しできるかが問題ですが、トランプは知ったこっちゃないと思っていそう。
ITARフリーは単にアメリカ製武器の納期問題。納期どおりに来ないから融通の議論になっている。
じゃあ代わりにアメリカが全部面倒を見る帝国を維持するか?と言えば「そんな負担に耐えられない」と生まれたのがトランプ大統領なのでドル、石油、軍事のアメリカ覇権セットを維持しようとする事自体矛盾していると思う。どの道属州の自立を求めた以上、今までの本国の立ち位置ではいられない。
有事に『使えません!』これでは話しになりませんからね…。
国産は、価格面(安い・高い)の論争ばかり見かけますが、輸入リスクとして安全保障名目に止められるのがリアルだなと。
半導体・マスク・消毒液・米・茶なども分かりやすいですが、需給が崩れればでとんでもなく高騰しますし、そもそも製造が止まるものもでるわけで…。
『ペニシリンの国産化』こういったニュースも話題になりましたが、有事を見据えれば国産化をすすめていくのは、地味ですが非常に大事だなあと感じています。
まあこれでも品質は悪いしサポートも悪いし性能も低いでまるでいいとこ無しのロシア製兵器に比べたら全然マシだけどね
次の155mm砲弾でも思ったのですが、アメリカの製造業がスポンジ化してる中、アメリカファーストを掲げると、アメリカはどこまで影響圏を後退させるのだろうかと思ってしまう。
アメリカ大陸に引っ込んでもカナダや南米の支援なければ実体産業が死にそうなので、お金のあるロシアになるのかなと。
核で恫喝しつつ相対的に高い資金力で頬を叩くまで衰退しそうです。
イスラエルが有人戦闘機を開発するって話がありますが、これもイラン攻撃で出来たアメリカとの亀裂とITARフリーの流れを反映した物なんですかね。アメリカに対する牽制の意味もあるいと思いますが。