軍事的雑学

極超音速兵器開発で先行するロシア、原潜から世界で最も非常識な兵器「ジルコン」試射か?

ロシア海軍は今年1月、マッハ9.0で作動する極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」をアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートから試射したばかりだが、今度は水中発射型をヤーセン型原子力潜水艦「セヴェロドヴィンスク(K-560)」から試射すると報じられている。

参考:Гиперзвуковой «Циркон» запустят из-под воды

ロシアは水上艦に続き潜水艦から極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」の試射を予定

ロシアが開発した世界で最も非常識な兵器と呼ばれる極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」は、固体燃料ブースターで超音速まで加速後にスクラムジェットに点火し極超音速まで再加速し、最高到達速度はM8.0~9.0と言われシロモノで、最大射程は1,000kmを超えるとも言われている。

この兵器が「世界で最も非常識な兵器」と呼ばれる所以は、マッハ9.0まで加速できる極超音速にもあるのだが、現時点で最も非常識な点は極超音速ミサイルの小型化を実現した点だろう。

出典:mil.ru / CC BY 4.0 アドミラル・ゴルシコフ級フリゲート

マッハ9.0で作動する極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」の全長は8m~10m程度と言われており、西側の艦艇に搭載して運用される対艦・対地ミサイルより大きいが、特別な改造を行うことなくロシア海軍が採用している汎用型の垂直発射装置「3S14UKSK」から運用可能なため、実用化さえしてしまえば大半のロシア海軍水上艦は極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」を運用することが出来るようになる。

今の所、西側諸国の海軍が極超音速ミサイルを搭載した例はない(陸上発射型を含めて実用化例は無い)が、かろうじて米海軍が極超音速滑空体を搭載した「プロンプトストライク(Conventional Prompt Strike)」を2028年に実用化してバージニア級原子力潜水艦やズムウォルト級ミサイル駆逐艦に搭載することを計画しているぐらいだ。

関連記事:10年掛かっても完成しないズムウォルト級駆逐艦、極超音速ミサイル運用艦に改装?

関連記事:米海軍、バージニア級原潜ブロックVに極超音速兵器「プロンプトストライク」を搭載

ただプロンプトストライクは大型なため、バージニア級原子力潜水艦「ブロックV」から採用予定のバージニア・ペイロード・モジュール(VPM)と呼ばれるチューブか、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦に至っては汎用規格の垂直発射システム「Mk.57 PVLS」を全て撤去しなければプロンプトストライクを統合することができないため、実用化できても搭載できる艦艇が限られてしまうのが欠点で、それを解消したのがジルコンだ。

もちろんプロンプトストライクは、地球上のあらゆる目標を1時間以内に破壊することができる極超音速兵器で射程1,000km程度のジルコンとはコンセプトが異なる。しかし米国でもジルコンほど小型化された極超音速兵器は研究こそしても実用化の目処は立っていない。

だからこそ「世界で最も非常識な兵器」と呼ばれるのだ。

ロシアはヤーセン型原子力潜水艦から試射を行いジルコンの水中発射能力実証に成功すれば、ロシア海軍は水上艦だけでなく潜水艦からもジルコン運用が可能になるため、西側の水上艦や沿岸部の防衛目標は厄介極まりない脅威と向き合うことになる。

現在、2021年に期限切れを迎える核兵器軍縮条約「新戦略兵器削減条約(New START)」の延長に向けて米国とロシアは交渉中で、当面ジルコンなどロシアの極超音速兵器に対抗手段のない米国はNew STARTで極超音速兵器に制限を加えようと画策しているがロシア側はこれを拒否しているため、この先も不均衡な状況が続くことになるだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:mil.ru / CC BY 4.0 ヤーセン型原子力潜水艦

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    マッハ9で作動するミサイルが、固定目標ならまだしも動く水上艦に当たるとは思えない。
    しかし、西側としてはこういうのを作られてしまった以上、対抗兵器を作らなければならないことはとても厄介。

      • 匿名
      • 2020年 3月 13日

      全く同感です。
      米海軍は共同交戦能力を獲得するセンサー・ネットワークで移動目標を追尾できますが、ロシアはCEC同等のシステムを構築したとは聞いたことがありません。現在のところは突出した技術で西側を委縮させる意図かもしれません。

      ミサイル攻撃・防衛にはCECが必要となるため、ロシアのCEC開発に関する動向には興味があります。

        • 匿名
        • 2020年 3月 14日

        >現在のところは突出した技術で西側を委縮させる意図

        そんな深読みしなくても、こいつに対抗するためにどれだけ金が必要か。
        かつでソ連が対鑑ミサイルで、アメリカがSDI計画や大型空母でやっていたことと同じなんじゃ? ある種の非対称戦だよね

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    ついにジャムと化したロシア軍 おそろしや
    ついでにミサイル打ち尽くした後に、自身もミサイルと化す無人母機も作ってほしい。
    これそこロマンってやつですよね。

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    試射したとの話は聞きますが目標に命中したのでしょうか。
    それ以前に極超音速の速度が出たのでしょうか。
    その点が重要かと。

    • 七面鳥
    • 2020年 3月 13日

    極超音速兵器って、フェアリイ空軍じゃないけど、誘導どうするんだろ?
    そもそも、索敵と照準がセットで運用されないとどうにもならんし……
    適当な座標に向けて極超音速兵器すっ飛ばすだけならICBMで間に合うし。
    1000km先(水平線の向こう、なんてもんじゃねぇ)を発射側から探知し続けて誘導するのか、適当に撃って適度に中間誘導して最後は自分で突っ込ませるのか……衛星か無人機か、どっちにしても中間誘導システムが必須で、多分そこが弱点ですかね。
    「当たらなければどうと言う事は無い」にならないよう、頭のいい人が色々考えた末の試射なんでしょうけれど。

      • 匿名
      • 2020年 3月 14日

      DF-21Dにしろ超音速ミサイルにしろ、目標に当たっている実験の画像とかの情報がまったくないですよねえ。
      Vapor weaponなんじゃないかと。

        • 匿名
        • 2020年 3月 14日

        確かにこの手のもので命中の画像(動画)は見当たりませんね。
        ホントに当たるんでしょうか。

    • wyuki
    • 2020年 3月 13日

    こいつに限らずですが。
    大気圏内で極超音速。
    先端部分はあっという間に500~600℃オーバー。
    (あのSR-71がそうだったそうです。
    果たして何度迄上昇するのか知らん?)
    その温度に耐え得る構成。
    単に外皮だけでなく、通常or核弾頭/信管/誘導装置等々。
    本当に出来ているのか?
    大いに疑問です。

      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      何が問題なのかあなたは分かってますか?
      あなたの自家用車ではあなたのつま先から1m未満に1000℃の熱源がありますが、あなたは運転席に座って鼻歌交じりには鼻くそをほじれるでしょう?

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    西側に比べて金も技術も未来も無いから
    妄想が先走ってハッタリばかり
    ロシアも中国化しているな
    マッハ9か・・・。
    飛ばしても命中すればいいね!
    目標に命中すればね!

      • 匿名
      • 2020年 3月 15日

      宇宙開発技術の多くの面でロシアの方が西側より高かったことが、冷戦後の情報公開の結果、明らかになっている。
      勿論すべての分野ではないが、ロケット関連に関しては多くの面でロシア側の方が優れていた。
      更に投資や研究を継続していた東側と、冷戦後は停滞していた西側との差が出たに過ぎない。
      勿論あくまでも、ロケットやミサイルの類の話で合って他の方面の技術はその限りではないが。

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    中国もだけど、ロシアの何も確認できない一方的な発表を信じるようなことはないが、かといって何がハッタリで何が事実なのかはこちらには分からない。同じような兵器がこちらにないのだから、ロシアに発表通りのことが出来るとも出来ないとも言えない。なにせ比べるものがないんだから。
    そうなると、全てが発表された能力・機能ではなくても、こちらとしては発表内容に対応できる対策をとらざるをえないという事なんだろうか?
    試射の様子を衛星で観測して、能力・機能を類推するようなことをやっているのかもしれないが、結局、ロシアからもアメリカからも何も情報が洩れてこないのだから、考えるだけ無駄だろうな。
    アメリカや本邦の兵器開発が効率よく目標通り行われ、ロシア・中国に対応可能なことを祈るしかない。
    発表された能力が、物理的な限界を超えているように思えたり、機能がどうやって実現されているか分からなくても、結局は確かめるすべがない。ロシアの超兵器なら可能なのかもしれないし、一流のハッタリなのかもしれない。
    まあ、どっちにしろやっかいですわな。

      • 匿名
      • 2020年 3月 14日

      アメリカも自らの情報収集能力を公開出来ないし、予算獲得の手段にもなるからなー

      • 匿名
      • 2020年 5月 15日

      何が言いたいの?

    • 匿名
    • 2020年 3月 13日

    ロシアには旧ソビエトのレゲンタと超音速ミサイルの運用実績があるから
    ミサイル単体の速度だけで無理とか困難と判断できないところが面倒な兵器だ
    できっこないとかありえないと言い切るには、シクヴァルの存在があるし

    • 匿名
    • 2020年 3月 14日

    同種装備で対抗しなくも他に手はあるし経済で締め上げれば詰む
    資源輸出国としてイケイケでも所詮は資源輸出国

    • oominoomi
    • 2020年 3月 15日

    ソ連軍参謀本部に一人の参謀が飛び込んで来て叫んだ。
    「同士!我々は世界に冠たる技術力で、ついに持ち運び出来る超小型核爆弾を完成させたぞ。」
    「よし、その爆弾をトランクに積めてアメリカに送り、NYやLAを吹き飛ばそう!」
    すぐに彼らは作戦を練り始めた。
    「同士、残念ながらその作戦は実行不可能だ。」
    暫くして、黙って考え事をしていた参謀が口を開いた。
    「アメリカに着くまで壊れないトランクなんか、我が国では作れない。」

    ロシアお得意のハッタリ兵器ではないかと思うんですが、この国の技術水準って本当に分からないとこがあるので不気味です。

      • oominoomi
      • 2020年 3月 15日

      もとい、「同士」→「同志」

      • 匿名
      • 2020年 3月 15日

      座布団三枚!

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日

    逆に見れば、西側のやってる小型ステルス巡航ミサイル開発がロシア中国には難しいのでは
    非対称を仕掛けるということは、まともには戦えないって意味もあるはず

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