欧州関連

S-400はトルコにとっての独立宣言? ステルス機開発加速、中国からJ-31導入検討

ロシアから導入する防空ミサイル「S-400」は、トルコにとっての「独立宣言」だと、トルコの国営放送「アナドル通信社」が報じた。

参考:S-400 systems ‘a declaration of Turkey’s independence’, minister says

トルコの乱暴な「プランB」、第5世代戦闘機開発の加速に、中国のJ-31導入を検討?

米国はトルコが7月31日までに、ロシア製防空ミサイル「S-400」の導入を撤回しなければ、F-35供給・製造プロジェクトから排除することを決定した。

この決定に対し、トルコのスレイマン・ソイル内務大臣は「トルコにとって、S-400は自由と独立の宣言だ。私達は米国にミサイル防衛システムを要請したのに、米国は私達に与えなかった。彼らが約束を破った。」と話した。

Attribution: Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 ロシア製防空ミサイル S-400

そもそもトルコが「ミサイル防衛システム」を欲しがる理由は、化学兵器を搭載したシリアの弾道ミサイルによる攻撃を恐れており、現在、NATO所属のパトリオット部隊(米国、オランダ、ドイツ)がトルコに派遣され、トルコ国内で弾道ミサイル迎撃任務についており、この状態を解消するため、米国に「MIM-104 パトリオット PAC-3」を売って欲しいと要請したのだ。

しかし、当時のオバマ政権と米国議会は、クルド人の人権を守らず排除しようとするトルコを快く思っておらず、さらにトルコは、国内でのパトリオット共同生産を要求し、生産に必要な技術移転の範囲で米国と合意できなかったため、交渉が決裂してしまった。

補足:国内に1300万人前後のクルド人を抱えるトルコにとって、テロ組織であると同時に、30年以上トルコ国内でクルド人自治に為に戦った「クルディスタン労働者党(PKK)」を、せっかくシリア北部へ追い出したのに、そのPKKの息がかかっている、シリア国内のクルド人民防衛隊(YPG)を支援する米国が邪魔で仕方がない。トルコにすれば、シリア国内のクルド人勢力が勢いを盛り返し、トルコ国内のクルド人と結びつけば、再び国内のクルド人の分離・独立運動に火がつく可能性があり無視できない問題の一つ。

米国から「ミサイル防衛システム」の入手に失敗したトルコは、同じ技術を持つ、もう一つの国、ロシアから「S-400」を入手するための交渉を開始した。

Attribution: Kremlin.ru / CC BY 4.0 エルドアン大統領とプーチン大統領が2015年6月13日にバクーで二国間協議中

この動きを察知した、現在のトランプ大統領は、トルコにパトリオットを与えてロシア接近を阻止しようと動くも、トルコを快く思わない米国議会が反対し、有効な手段が講じられないまま時が過ぎ、トルコとロシアの間で、S-400導入に関する契約は完了してしまった。

手遅れ感のある2018年12月、米国務省はトルコへのパトリオット販売を承認すると発表したが、トルコは「ワシントンの提案は、ロシアの提案ほど良くない」と一蹴し、ロシアからの「S-400」導入継続の意思を見せた。

米国は、今年に入って、トルコのS-400導入に対し圧力を掛け続けている。

米国防総省は、F-35開発パートーナー国で、F-35を構成する部品の約8%を製造しているトルコ企業を、F-35生産プログラムから排除し、F-35の機体供給も停止すると警告し、最近、国防長官代行のパトリック・シャナハン氏がトルコへ宛てた書簡で「7月31日までにS-400導入を撤回しなければ、米国国内で行われている、トルコ人パイロットとメカニックに対するF-35の訓練を停止する」と通知した。

引用:TURKISH AEROSPACE トルコが開発中のTFX

トルコメディアは、F-35が手に入らない場合に備えて、プランB、C、Dが既に準備されており、現在、国内で開発中の第5世代戦闘機「TFX」の開発を加速し、ロシアのステルス戦闘機「Su-57」か、中国のステルス戦闘機「J-31」の導入を検討するだろうと報じている。

ロシアのステルス戦闘機「Su-57」はともかく、行き詰まりを見せているトルコの第5世代戦闘機「TFX」開発が、果たして加速するのか非常に疑問な上、中国のステルス戦闘機「J-31」は、まだ完成もしていないのに、どうやって導入を検討するのか非常に謎だ。

最近、ロシアのユーリー・ボリソフ副首相は、第5世代戦闘機「Su-57」が輸出へ向けて計画が動いているが、これはロシアが採用した後の話で、Su-35が上手く行っているのに、自らその市場を衰退させる理由がないと話し「ロシアがSu-57を採用する前に、決して輸出許可を発行することはない」と付け加えた。

トルコの乱暴な「プランB」は、非常にギャンブル性の高いバックアッププランになりそうだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:Attribution: wc / CC BY-SA 4.0 2014年珠海航空ショーでの瀋陽J-31

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 6月 12日

    ロシアは技術を売ってくれないでしょうが
    中国は経済の痛み方によっては売り渡しそうですね。
    トルコの欲しい技術を持っているかは判りませんが。

    • 匿名
    • 2019年 6月 12日

    トルコがS400とJ31を買うとなったらNATOからの追放、トルコに対する関税発動は避けられないでしょうね
    イラン情勢もトルコの身の振り方一つで動きそうですしクルドへの非公式な支援も出てくるでしょうねぇ
    中東戦争勃発かもしれないですね

    • 匿名
    • 2019年 6月 12日

    威勢よく独立うんぬんというけれど、新たに手を組む相手が、オスマン・トルコ帝国の時代からの宿敵ロシアとはね。
    有為転変と言うべきか、貧すれば鈍すると言うべきか…。

    • 匿名
    • 2019年 6月 12日

    もうアメリカはオワコン
    EUもトルコもアフリカ・アラブもどんどんアメリカ追従路線から離れていくこの流れに日本も乗り遅れるな!

    • 匿名
    • 2019年 6月 12日

    問題の根源をたどっていくと、トルコ政府のクルド人虐殺の問題が発端です。
    アメリカはクルド人虐殺を企てるトルコ政府には装備を売らないでしょう。
    代案がロシアからS-400を購入とは、トルコ政府はロシアがシリアの同盟国なのをお忘れなのかと。
    クルド人虐殺の意思を捨てない限り、ロシア、中国にいいように翻弄されるのが見て取れます。。
    いずれ韓国にも声がかかるでしょうかね。

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