軍事的雑学

世界で最も非常識な兵器? マッハ9.0で作動するロシアの極超音速対艦ミサイル

ロシア海軍は、マッハ9.0で作動する極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」の試射を準備中だとミリタリーウォッチが報じている。

参考:Russian Naval Modernisation and the Vital Role of Zicron Hypersonic Cruise Missiles

M9.0で作動するロシアの極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」

極超音速対艦ミサイル「3M22ジルコン」は、加速用の固体燃料ブースターで超音速に到達後、スクラムジェットにより極超音速へ加速しM8.0~9.0という驚異的な速度で飛翔するため、ミサイル本体の周囲にはプラズマを帯びたガスが発生、所謂「プラズマステルス」と言われる状態となりレーダーによってミサイルの接近を探知することが非常に難しいと言われている。

低空を飛行する場合の射程距離は250kmから500km程度、高高度で飛行する場合は最大で750kmと言われていたが、ロシアメディアは最大射程を1,000kmまで延長することが出来る「新しい燃料(固体燃料なのか液体燃料なのは不明)」が開発されたと報道しており、それを裏付けるようにロシアのプーチン大統領自ら(2019年2月)、ジルコンの最大射程は1,000kmに達すると述べている。

このミサイルは2017年に生産が開始され、2018年に配備が始まったと言われており、すでに多くの艦艇(潜水艦を含む)で運用が開始されている可能性が高い。

これに対し西側で最も使用されている対艦ミサイルは米国が開発した「RGM-84 ハープーン」だ。

出典:public domain RGM-84 ハープーン

ハープーンは最新型のブロックII(RGM-84L)でも射程が270kmしかなく速度は亜音速(850km/h)という代物で、ロシアの極超音速対艦ミサイルと比較した場合、互角に戦える性能だとは想像し難い。

ただハープーンの後継として開発されたAGM-158C LRASM(亜音速で作動し最大射程は800km前後、開発当初は超音速化も検討されていたが断念)は、ロシアのように「スピード」ではなく、外部からの情報供給が絶たれた状況下でも「自律的」に目標を識別し攻撃を継続出来るよう設計されており、コンセプトが異なりすぎて、同一線上で比較しても意味がないと思う。

ロシアのように目標までM9.0で飛翔し、敵の反応(対処)時間を奪ってみても命中しなければ意味がなく、苛烈な電子妨害下で自律的に作動したとしても、着弾まで時間がかかれば敵に物理的な対処(ミサイル等による迎撃)機会を与えるだけ、どちらも一長一短だ。

3M22ジルコンの誘導システムがどれだけ電子妨害に耐えうるのか、AGM-158C LRASMに搭載されたハードキル回避能力はどの程度効果があるのか、この辺りが勝負の分かれ目になるだろう。

潜水艦に搭載した極超音速誘導弾は対中国抑止に有効

日本は空対艦ミサイル「ASM-3(M3.0、射程200km前後)」をベースに、射程を400km以上に延長した新型の対艦ミサイルを開発することを決定済みで、これは日本でも研究開発が進む「極超音速誘導弾」や「超音速滑空弾」が実用化されるまでの繋だと思われる。

では、日本が開発する「極超音速誘導弾」は、どの程度の性能が必要になるだろうか?

日本の安全保障上、当面考慮しておくべき脅威が中国と北朝鮮であると言うことは、誰(日本国民)が見ても明らかで、特に今回の新型対艦ミサイルを開発する契機となったのは、中国海軍が艦隊防空の多層化(西側レベルと同等)を実現したため=より遠距離から対艦ミサイルを発射する必要性が生まれたためで、使用が想定される環境は当然、東シナ海(尖閣諸島)だ。

尖閣諸島は中国の沿岸から約400km程度しか離れていないため、陸上から発進する戦闘機で十分エアーカバーを提供できる位置にあり、特に中国の芜湖湾里空軍基地(安徽省蕪湖市)には最近、中国空軍の中でも精鋭として知られる「第9航空連隊」が中国初のステルス戦闘機「J-20」を受領し実戦配備についている。

※アイキャッチ画像の出典:Attribution: Alert5 / CC BY-SA 4.0 エアショー中国2016でのJ-20

作戦半径が1,000km以上あると言われるJ-20は、芜湖湾里空軍基地から出撃しても沖縄や九州近海までを作戦半径に収めるため、新型対艦ミサイルの射程程度では、同ミサイルを搭載した航空機が尖閣諸島周辺を航行する中国海軍艦艇を射点に収めるまでに、当然、中国の戦闘機から妨害を受ける。

出典:航空万能論GF管理人が白地図専門店の地図を加工して制作した地図

もちろん同ミサイルを搭載した母機を護衛するため戦闘機(F-15やF-35)が出撃するだろうが、敵の脅威範囲外から攻撃を実施するに越したことはない。

そうなると日本が開発する「極超音速誘導弾」の射程は少なくても800km以上、出来れば1,000km程度は必要になるだろう。

航空機搭載に拘らなければ、ミサイル本体の大型化も可能で九州から直接、東シナ海(尖閣諸島)の海上を航行する艦艇や、尖閣諸島に上陸した戦力を叩ければ非常に使い勝手が良いが、目標の位置を観測するための手段を別に用意する必要があるため、日本も独自に超音速無人偵察機などを開発する必要が出てくる。

ただし、このような兵器を陸上(九州)に配備すれば、必ず中国は尖閣諸島上陸前に、これを破壊するため攻撃を行うのは目に見ており、果たして、このような兵器の陸上配備が認められるのかは怪しい。

そうなると潜水艦発射型の極超音速誘導弾を配備するのが理想的だが、果たしてこのような兵器の保有が政治的に認められるのか陸上配備同様、未知数だが、もし保有が認められれば、中国に対し非常に有効な抑止として機能するのは間違いない。

 

※アイキャッチ画像の出典:alexyz3d / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    超高速はいいけど、誘導できるのかしら……?

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    実戦の洗礼を受けてみんことには、なんともなー。

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    アメリカのプラズマステルスには放射性物質を使っていた、ロシアなら躊躇なく使うだろう。

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    最近極超音速が流行っているけど原型は戦前ドイツで考案された対蹠地爆撃機ゼンガーが原型なんだな
    素材の進化でエンジンが実用化され実体化したが理論自体はずっと昔からあったのは宇宙開発の歴史まんまだな

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    盛大にプラズマを発生させるのにステルスであるわけが無い、物凄い光と電磁ノイズを撒き散らしながら飛ぶとしか思えない。
    大気圏再突入状態と同じでは外部との通信が出来ないだろう。

      • 匿名
      • 2019年 10月 15日

      ですよね
      プラズマを帯びた状態だと、レーダー・GPS・赤外線・制御信号、何れも受信が難しそう

      • 匿名
      • 2019年 10月 16日

      プラズマの特性として、下記があるみたい。

      ①プラズマ振動周波数より低い電波がプラズマに入射されると、金属の様に単純に反射する
      ②プラズマ振動周波数と同じ場合は、電波はプラズマに吸収されるか、周波数の異なる電波に変換される
      ③プラズマ振動周波数よりも高い場合は、プラズマを透過して、すり抜ける

      ちなみにプラズマ振動周波数:ω_pe [rad/s]は、
      ωpe={﹙ne * e^2 /﹙me * ε0﹚}^0.5
      ne:電子密度, e:電子の電荷, 
      me:電子の質量, ε0:真空の誘電率

      プラズマステルスは②の特性を利用する様だけど、1950年代から検討されてる割に、未だ日の目を見ないね。

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    >南シナ海(尖閣諸島)
    南じゃなくて東では?

    • 匿名
    • 2019年 10月 19日

    対地なら分かるけど、そんな高速で動いてる船に当たるのかな
    カチューシャみたいに面制圧するような兵器なのだろうか

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