年内更新終了を宣言した後も酒を飲みながらダラダラ更新を続けてしまい気づけば「大晦日」を迎えてしまったが、今度こそ年内最後の更新となる2020年を振り返る記事で最も印象深かった記事をランキング形式で紹介したい。
第3位:日本の国産防衛装備品が初めて輸出契約を獲得
2014年に武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」が閣議決定され日本は本格的に国産防衛装備品の海外輸出や国際共同開発に乗り出したのだが、実際のセールスには繋がらず「防衛装備移転三原則の閣議決定によって移転(輸出)条件を緩和したに国産防衛装備品の輸出実績はゼロままだ」と批判されきた。
しかし今年8月にフィリピンとの間で国産レーダーの輸出契約が成立したことで「輸出実績はゼロ」に終止符を打つことに成功、特に今回のレーダー輸出は日本の円借款を利用したものではなく米国やイスラエルと競合した中で獲得したものなので政府開発援助(ODA)を活用したを巡視船輸出とは全く意味が異なり、日本の防衛産業界にとって輝かしい「マイルストーン」になるだろう。

出典:J/FPS-3警戒監視レーダー 防衛省
関連記事:日本、フィリピンとの間で国産警戒管制レーダー輸出契約が成立
第2位:米海兵隊の主力戦車M1A1エイブラムスの廃止
米海兵隊は大規模な部隊再編計画「Force Design 2030」を今年3月に発表、2030年までの10年間で主力戦車M1A1を装備する戦車大隊の全廃、歩兵大隊を3個大隊削減、砲兵大隊を16個大隊削減、水陸両用車中隊を2個中隊削減、F-35を装備する飛行中隊の定数を16機から10機に削減、MV-22とCH-53Eを装備する飛行中隊を各1個飛行中隊廃止、AH-1Zを装備する2個飛行中隊廃止、調達を予定していたF-35B/CとCH-53Kの調達を各130機分キャンセル、総兵力の7%にあたる約1万2,000人の兵士を削減する計画だ。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Patrick King
ただ計画発表当初、再編内容があまりに大胆なので管理人は正直「絵に描いた餅」で終わるのではないかと思っていたが、既に米海兵隊の第1戦車大隊はすでにM1A1エイブラムスを手放し終え、第2戦車大隊は保有している全てのM1A1エイブラムスを倉庫に移動させはじめて部隊閉鎖のための荷造りを始めており、戦車大隊に所属していた兵士は専門技能を活かすため陸軍に転属するか兵科を変更して海兵隊に残るか、それとも早期退役を選択するかを選ぶことが出来るらしい。
この辺りの変わり身の早さは流石といったところだが、海兵隊タイムズによれば米海兵隊がM1A1エイブラムスの廃止を決断した理由に無人航空機(UAV)の活躍を挙げており、その一例としてトルコ軍とシリア政府軍の戦いを紹介している。
トルコは国境沿いに位置する「イドリブ」を拠点に活動している反政府組織をシリア政府軍から守るため、国産のUAVを動員してシリア政府軍の戦車や装甲車を100輛以上破壊して部隊を壊滅に追い込むことに成功した。勿論、シリア政府軍も無抵抗にやられたのではなく戦車や装甲車を建物や茂みに隠してカモフラージュを施しトルコ軍による攻撃を回避しようとしたが、上空を飛行するUAVに搭載されたセンサーや赤外線画像の前には無意味で次々と位置が特定され遠距離から放たれた精密誘導兵器によって破壊されてしまったのだ。
Asil milletimiz emin olsun ki; İdlib’de barış ve huzur için toprağa düşen Aziz şehitlerimizin hesabını sormaya devam edeceğiz!#MSB #TSK pic.twitter.com/hutEL7g0Ey
— T.C. Millî Savunma Bakanlığı (@tcsavunma) February 29, 2020
このような戦場では先に発見して攻撃をしかけた方が決定的な優位を占めることが出来るため隠れている敵を見つけ出す「偵察」が非常に重要になる。
そのため米海兵隊はUAVや精密誘導兵器が飛び交う戦場で活動を継続できる新しいシステムや兵器体系は、UAVから隠れ精密誘導兵器の攻撃から逃げる必要がある戦車や装甲車より重要性が高いと位置づけており、海兵隊総司令官のデビッド・バーカー大将は「戦車を使用した戦闘能力は長い歴史を持っているが、国が海兵隊に要求する将来の戦いにおいては不適切な装備だと結論づける十分な証拠がある」と語ったが、同時に「地上戦から戦車が消えることはなく今後も陸軍によって戦車や装甲戦力が提供され続けるだろう」と述べた。
とにかく米海兵隊にとって2020年は大きな転換点となった年に違いない。
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第1位:予想よりも10年早く次世代戦闘機のプロトタイプを完成させてきた米空軍
米メディアは空軍が開発に取り組んでいる次世代戦闘機が姿を見せるのは「2030年代に入ってから」と主張してきたが、この予測は「デジタル・センチュリーシリーズ」と呼ばれる斬新な開発アプローチの登場によって完全に覆されてしまった。
米空軍でロジスティックスを担当しているウィル・ローパー次官補は今年9月、次世代戦闘機のプロトタイプを秘密裏に設計・製造して既に試験飛行を行っていると明らかにして「米空軍はプロトタイプに関する情報を分析して1年で実機を完成させ試験を行うことが出来ることを証明した」と語り、今回のプロトタイプはコンピュータを駆使したデジタルエンジニアリング、ソフトウェアのアジャイル開発、オープンアーキテクチャを採用した空軍初の航空機だと主張している。

出典:Air Force Photo by Master Sgt. Jeremy Lock
特に興味深いのは従来の手法で開発したF-35を50年維持・運用するよりも、デジタル・センチュリーシリーズと呼ばれる斬新な開発アプローチで8年毎に新しい戦闘機を開発・調達するほうがコストを節約できるという点だ。
ローパー次官補によれば最も新しい戦闘機F-35Aのライフルサイクルは約50年(8,000飛行時間+)で、デジタル・センチュリーシリーズは8年毎(以前は5年毎)に新しい戦闘機を購入して16年毎に新しい戦闘機と交換していくサイクルを採用するため米空軍は毎年50~80機の戦闘機を購入し続ける必要があり、デジタル・センチュリーシリーズの戦闘機開発コストはF-35よりも25%、製造コストは18%増加してしまう。
しかしアップグレードコストは79%・維持コストは50%も削減することが出来るため、ライフルサイクルコスト全体で見ればF-35を約50年維持・運用するよりも約10%ほどコストを節約することが出来るらしい。

出典:US Air Force / Photo by: Staff Sgt. Kate Thornton
要するに50年運用する戦闘機を1種類開発して維持するよりも10%割安なコストで8年毎に能力が向上した新型戦闘機を調達(50年で6種類)し続けられるという意味で、新しく設計した戦闘機の方が新しい技術を取り入れやすく能力の異なる戦闘機を揃えることができ、これに対応する中国やロシアの戦闘機開発能力を飽和させることが出来るといっているのだ。
但し、デジタル・センチュリーシリーズのアプローチを本当に次世代戦闘機に採用(2022年頃に決定されるらしい)するのは決まっておらず、米空軍が従来の開発アプローチ(開発した戦闘機にアップグレードを施しながら長期間運用するアプローチ)を選択する可能性も残されているため蓋を開けてみるまでは何とも言えないが、デジタルエンジニアリングを駆使した航空機設計から後戻りすることだけはないだろう。
関連記事:米空軍、次世代戦闘機のプロトタイプを製造して試験飛行中だと明かす
ランキング外:結果的に退職祝いとしてラファールの後部座席から射出されてしまった男性の不運
2019年にフランス空軍の戦闘機「ラファールB(複座型)」の射出座席が作動して搭乗していた64歳の民間人が空中に放り出された事件の報告書が今年4月に発表され、不謹慎ながら管理人は笑いを堪えながら記事を書いたのを今でも鮮明に覚えているのでランキグン外で紹介したい。
この事件を簡単に説明すると仏空軍第113サン=ディジエ=ロバンソン空軍基地に所属した戦闘機「ラファールB」が訓練飛行のため離陸した直後、後部座席に搭乗していた男性(64歳・民間人)の射出座席が作動して機外に放り出されるという謎の事故が発生、ただ外に放り出された男性は軽症で幸いにも命を失うことはなくパイロットも射出座席作動で破損したキャノピーで負傷したが無事に生還することが出来た。
問題は射出座席がなぜ作動したのか?、民間人がなぜラファールの後部座席に座っていたのか?だが、フランスでは国防大臣の許可を受けたVIPやジャーナリスト等が取材や広報目的で軍用機に搭乗することが可能で事前に健康チェック、緊急時の手順、退避の手順など念入りな講習が実施されるため「射出座席が作動して機外に放り出される」という事故は発生するはずがない。
その疑問を解明したのが今年4月に提出されたフランス航空事故調査局による事故報告書だ。

出典:Tim Felce / CC BY-SA 2.0
まずラファールへの搭乗許可は正式なもので事故にあった民間人男性が働く防衛産業企業によって申請されたものなのだが、これは取材や広報目的といった類でも男性自身が自ら望んだものでもなく、定年退職を目前に控えた男性に対し同僚達が退職祝いとして企画したものだった。
しかもサプライズを演出するため当人には全く知らされないまま計画が進められ何も知らない男性は当日同僚に連れられ基地を訪問、ようやくそこで「退職祝い」としてラファールに乗せられることを知ることになる。この男性は特に戦闘機への憧れがあった訳でもないので同僚のサプライズを断りたかったのだが、自分の為に用意してくれた同僚達を失望させたくなかったため渋々ラファール搭乗を受け入れたらしい。
問題はここからだ。
事前に健康チェックで「男性が肉体的に耐えられる負荷は+3Gまで」と判断されたがパイロットに伝わっておらず、簡単なレクチャーを受けだけの男性は耐Gスーツを正しく着用することに失敗、ラファールの後部座席に座った男性を射出座席に固定するはずのハーネスは緩んだままで、男性が使用したヘルメットには酸素マスクすら取り付けられないままキャノピーが閉じられてしまう。
結局、医師から連絡を受けていないパイロットはラファールを47度(一般的な旅客機は10度~15度の角度で離陸する)という急角度で離陸させていまい、+4G以上の負荷によって男性の体は後部座席に強く押さえつけられた後、今度は-Gの発生で射出座席に正しく固定されていない男性の体は浮き上がることになる。
この状況下で肉体的にも精神的にも戦闘機に搭乗する準備が出来ていない男性に「パニックに陥るな」というのは酷というもので、当然パニックに陥った男性は意図せず射出座席のレバーを作動させてしまい意味もわからず空中に放り出されることになったという訳だ。
さらに今回の事故はラファールの複座型に潜む不具合まで暴いている。
複座型のラファールは前後どちらかが射出座席のレバーを作動させれば両座席が射出される仕組みを採用しているのに、今回の事故ではパイロットが座る前部座席は射出されていない。
そのためパイロットは空中に放り出されずに済み空軍は約7,000万ユーロの機体を失わずに済んだのだが、これが本当に緊急脱出を必要とする状況なら貴重な人命を失っていたかもしれないため調査が行われ、後部座席射出の衝撃で前部座席を射出するためのシーケンスセレクターが破損したのが原因でパイロットの射出座席が作動しなかったと指摘、早急な改善を要求している。
きっと事故にあった男性は今回のことで「友人が仕掛けるサプライズにはろくな事がない」ということと「友人に対する気遣いよりも自分の命を守る=断るための勇気を持たなければならないこと」を学んだはずだ。
関連記事:サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
以上が管理人が選ぶ2020年最も印象深かった記事のランキングだ。
流石に正月はおせちと酒をやるので更新はしないつもりだが、箱根駅伝に飽きたらパソコンを弄るかもしれない。
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Patrick KingM1A1エイブラムスに別れを告げる海兵隊第2戦車大隊の兵士
気が付けばアメリカ海兵隊は陸軍化っうか何でも屋じなってたからなぁ。
M1戦車が要らないっていうのは、海兵隊って何ぞや、沿岸部へのアプローチだろ・・・という原点回帰で、兵站負荷が他の装甲車両と比べられたんだろう。
ただ、もしディーゼルエンジンだったり、44tで抑えられてる10式戦車だったら結果違うんじゃないかとも思うな。
砂浜だと装輪車両は動けなくなるリスクもあるし。
2021もよろしくお願いします。
ランキング外記事はまさに事実は小説より奇なりで、非常に味わい深く大満足でした。僕はどちらかというとこち亀の江崎教授系統のネタに感じましたが、部長がパイロットに偽装した両津に射出されるでもいいかな。
それでは良いお年を!
こち亀ならギャグでも、実際はパニックホラーですからね。
下手したら冥土の土産に成りかねませんでしたから。
平時は安全第一と行きたいところです。
やっぱりラファールの件はひどすぎて笑う
メーデーで取り上げられそうなぐらい関係者が尽く現場猫並のガバガバっぷり。
ランキグン外
揚げ足取りワロタ
最後の最後まで、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
そして皆様、良いお年を!
戦闘の様相が大きく変革しそうな、ナゴルノ・カラバフ紛争での
UAVの活躍が、個人的に印象的だったわ。
納得の1位
レーダー輸出は嬉しかったな(・∀・)
2021年、中共ウイルスが収束しますように!
一年お疲れ様でした
一位のニュースは読んだ時驚いた思い出
ランキング外はまあ…色々とカオスw
管理人様お疲れさまでした、良いお年を。
あ、ラファールの件は個人的には第1位ですw
三菱というザ・日本と日本政府を怒らした韓国と断絶は、上位の記事でないのか
地球上から消える朝鮮だろうな
新年おめでとうございます。
一部の方々の妄想には添わないのですが、日韓の国交断絶はあり得ないでしょう。
韓国の反日は無くなることはないでしょうが、次かその次位で保守系大統領が誕生して、適度(?)な反日路線に修正されるのだと思います。
何よりもこのブログは、管理人さんのバランス感覚の下で、特定の政治的立場に偏らず軍事技術情報を交換・論評して楽しむ場と捉えています。
ただの反韓をされたいのなら、お仲間がひしめいているサイトに行ってください。
2021年はこんな人達が湧いて来ないことを祈っています。
横槍な上にここでの韓国ネタに興味はないのですが、しかし保守系大統領になったら反日が修正されるは大きな間違いです。ご存知保守系大統領朴槿恵に至るまで、代を重ねる毎に反日が苛烈になった上に傾中に拍車がかかりました。これはもう派閥云々の次元ではなく、あまねく国民に反日・離米教育が深く行き渡ったことを意味します。
従ってこの先も教育制度が抜本的に変革されるような強力な事態が起きない限り、それは日本の場合は敗戦でしたが、この先も大差ないか悪化する傾向は変わりません。
だから「適度な反日」と書かせて頂きましたが、ご理解頂けなかった様ですね。
何よりも、こんな政治的立ち位置で如何様にも変わる不毛な議論から離れて知的なやり取りを出来たらと考えていたのですが、脱力する様な返信でがっかりです。
悪化した前例しかないのに、適度も何もないでしょうに。
みなさま良いお年をお過ごしください
航空万能論さんへ
今年も良い記事を掲載して頂いてありがとうございます
来年もよろしくお願いします
管理人様
今年も一年間お疲れさまでした。
個人的に今年の印象に残った記事は炎上しそうな時にしっかりとした対応をされた管理人様です。
公平なジャッジに敬意を表します。
また訪れる皆様にも親切なご教授に感謝致します。
良いお年をお迎え下さい。
勤勉で草生える
今年も頼みます
あけましておめでとうございます。2021年も「航空万能論」の弥栄をお祈り申し上げます。
だらだら更新楽しみにしてやす。
明けましておめでとうございます
今年も楽しみにしています
ラファールの一件は我々にも大きな教訓を残してくれましたね(白目)
こういうほのぼの(?)軍事ニュースに笑える一年でありますように
私にとっての1位は
「KFX.インドネシア1抜けぴっぴ」ですっ!
あけましておめでとうございます
2020年だとやっぱナゴルノ・カラバフ戦争だなあ
初めてだよ開戦から終戦までずっと実況し続けた戦争は
複雑なコーカサス事情もだいぶ勉強できたなあ
2020年は、中国共産党による災厄が世界を覆った年でした。2021年は平和になると良いですね。
ボノムリシャール廃艦が驚きでした
ベルナップ以上だったのですね
皆が誇りを取り戻せるよい年になりますように