軍事的雑学

狙われれば最後? ロシア・台湾が開発した「極超音速」空対空ミサイルの実力

現時点で「極超音速」の領域で作動する実用化された空対空ミサイルは、ロシアの「R-37M」、台湾の「天剣2型C」しかなく、ダクテッド・ロケットエンジンを搭載した欧州の空対空ミサイル「ミーティア」でさえ最高速度はマッハ4+程度だ。

空対空ミサイルの「極超音速化」は絶対的では無いが、ノーエスケープゾーン(回避不能ゾーン)の拡大や、射程が長距離化する空対空ミサイルの着弾までの時間を短縮するという意味で、空対空ミサイルの重要な性能の一つだと言える。

極超音速で作動する空対空ミサイルを運用しているのはロシアと台湾のみ

ロシアの極超音速空対空ミサイル「R-37M」は、米海軍のF-14が運用していたAIM-54 フィニックスばりの大型空対空ミサイルで、最高速度はマッハ6.0、使い捨てのロケットブースターと連結し発射すれば、射程を300kmから400km程度まで延長することも可能という代物だ。

補足:ロシアにはもう一つ極超音速で作動する空対空ミサイルがある。そのミサイルは「R-77-PD」で、ロシア版AIM-120といわれる「R-77」をベースにラムジェットを搭載した「R-77-PD」はマッハ5.0に到達するだろうと言われているが、1999年に開催されたモスクワ航空ショーで一度だけ展示されて以来、後続の情報がなくロシア軍に配備されているのかも不明だ。ロシアの最新鋭ステルス戦闘機「Su-57」への搭載も考慮した「R-77」の発展型にあたる「K-77M」の射程は200kmまで延長され、アクティブ・フェイズド・アレイ式のシーカーを搭載し、その発展型のラムジェットを搭載した「K-77ME」を開発中といわれているが、極超音速に到達しているのかは今の所、不明

Attribution: Chang-Song Wang / CC BY-SA 3.0 F-CK-1 C/D 経国

台湾の「天剣2型C」は、特殊な台湾の外交事情による産物だ。

台湾は中国との関係上、最新の戦闘機の購入が難しく、未だにF-5や、F-16A/Bを目標に台湾が開発した「経国」を運用しており、これらの能力的に劣る機体性能を補うために、台湾が開発した空対空ミサイル「天剣2型」の射程を100km程度まで延長し、マッハ6.0で作動するよう改良した「天剣2型C」を完成させた。

このミサイルは、旧式のF-5や経国で運用される予定で、中国空軍の航空優位を相殺することが可能だと台湾では言われている。

補足:中国空軍の空対空ミサイルで射程が長いものだと200km以上あるので、マッハ6.0で作動する「天剣2型C」でも、射程が100km程度では、中国空軍の航空優位を相殺するというのは現実的に難しいだろう。

両者の「極超音速」空対空ミサイルは運用思想が異なる

この様にロシアと台湾の空対空ミサイルは「極超音速」で作動するという共通性を持ってはいるが、用途においては全く異なる特性を持っている。

Author:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 ロシアの空対空ミサイルR-37

ロシアの「R-37M」は本体が非常に大きく、長射程+極超音速の組合せで戦闘空域の後方に陣取る、大型で高価な早期警戒機や空中給油機との交戦を目的に設計されたミサイルで、通称「AWACSハンター」などと呼ばれており、一方の台湾の「天剣2型C」は小型で、主に戦闘機との交戦を想定した設計だ。

Author:RudolphChen / CC BY-SA 3.0 天剣2型の初期型タイプ

但し、双方とも個体燃料による加速のため、機体から切り離され固体燃料の燃焼により数十秒で最高速度に到達する。

そのため、最大射程を飛翔し着弾する瞬間まで「極超音速」が維持される仕組みではなく、射程が100kmと短い天剣2型Cは、最高速度のマッハ6.0に近い「極超音速」域が維持できるため、ノーエスケープゾーン(回避不能ゾーン)の威力が発揮できるだろう。

しかし、ロシアの「R-37M」は射程が長いため、最大射程を飛翔し着弾する瞬間の最高速度は「極超音速」ではない可能性が高い。

恐らく、長射程の「R-37M」が大型機との交戦を想定しているのは、小型な戦闘機に向けて最大射程で発射しても、目標に到達する頃には「極超音速」域から通常の超音速(マッハ1.0以上)域に速度が落ち、機動性の高い戦闘機に回避される可能性が高いからだろう。

そう言った意味では、ダクテッド・ロケットエンジンを搭載した「ミーティア」の方が、速度の調整が可能で、巡航時は燃料消費を抑えながら飛翔し、目標へ着弾する際のみ、最高速度へ加速するなど柔軟なコントロールが出来るためノーエスケープゾーン(回避不能ゾーン)の効果が高いと言える。

ミーティアを「極超音速」化すれば最強の空対空ミサイルか?

もし、ダクテッド・ロケットエンジンを搭載した空対空ミサイルの極超音速化が実用化されれば、ノーエスケープゾーン(回避不能ゾーン)が更に拡大し、もはや人間が乗った航空機で可能な機動程度では、かわすことすら不可能なので、ミサイルの誘導に対するジャミングや、対ミサイル用のデコイによる対抗手段が今以上に発達するはずだ。

実際、米軍やイスラエルでは「AN/ALE-50」という曳航式のデコイを装備しており、ボスニアやコソボでの紛争や、アフガニスタンで使用された実績があり、B-1爆撃機のような大型機にも敵の誘導ミサイル対策として搭載されているほどで、現在では最新型の「AN/ALE-55」に移行しつつある。

似たようなシステムは、欧州のタイフーンにも採用(輸出型のみ)が決まっている。

米軍がAIM-120の後継として現在「AIM-260」を開発中だが、「極超音速」や「ラムジェット」化は行わないと言われており、どれだけ最高速度を高めてノーエスケープゾーンを拡大させても、対抗手段がある以上、無理なミサイルの「極超音速」や「ラムジェット」化は、本体の大型化に繋がり、ミサイルの携行本数に制約を受ける可能性がある。

そもそもステルス戦闘機の場合、ウェポンベイのサイズがネックとなり、ミサイル自体の大型化が難しいので「極超音速」や「ラムジェット」化が行えないのかもしれない。

結局の所、空対空ミサイルVS対抗手段の「矛と盾」の関係性において、どちらかが「一方的」に有利になると言うことはないだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 10日

    もし仮にレーザー兵器の実用化が成功し、最低でも大型航空機に搭載できるレベルになれば文字通りゲームチェンジーで、こうしたミサイル兵器の開発すら根底から覆されるわけで、軍事兵器の開発において最先端技術の追求がいかに大切か理解できます。

    レーザー兵器主体の戦闘では当然レーザー兵器へ特化した防衛策も必要になりますが、そうなると逆に「単なる鉛玉」が有効になってくる可能性もあって、その極みでもある超電磁砲、レールガンは必然的にレーザー兵器と併存して開発されるかもしれません。

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