軍事的雑学

サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相

ちょうど1年前(2019年3月20日)、仏空軍の戦闘機「ラファールB(複座型)」の射出座席が作動して搭乗していた64歳の民間人が空中に放り出されるという事故があったのを覚えているだろうか?

参考:Fighter jet crash averted by defect in civil ejection incident

ラファールが民間人を空中に放り出した「世にも奇妙な事故」の真相が明らかに

当時の報道によれば仏空軍第113サン=ディジエ=ロバンソン空軍基地に所属した戦闘機「ラファールB」1機が訓練飛行のため離陸した直後、後部座席に搭乗していた男性(64歳・民間人)の射出座席が作動して機外に放り出されて男性は怪我を負ったが幸いにも命を失うことはなく、射出座席作動で破損したキャノピーで軽症を負ったパイロットも無事に生還した。

しかし射出座席がなぜ作動したのか?民間人が戦闘機になぜ搭乗していたのか?など奇妙な点が多い事故で、現地仏メディアもVIPやジャーナリストが国防大臣の許可を受け取材や広報目的で軍用機の搭乗するケースがあるが、その際には事前に健康チェックを行い触れてはいけないもの、緊急時の手順、退避の手順など念入りな講習が行われるため今回のような事故は起こらないはずだと首を傾げていたが、ようやく真実が明らかになった。

フランス航空事故調査局がまとめた事故調査の報告書によれば、事故当日の飛行訓練に民間人を搭乗させる「許可」は事故にあった男性が働いていた防衛産業企業によって申請され軍当局が許可を与えた正式なものだったが、これは取材や広報目的でもなく男性自身が望んだものでもなかったらしい。

これは定年退職を目前に控えた男性に対し同僚達が退職祝いとして企画したものでサプライズを演出するため男性には全く知らされないまま計画が進められ、何も知らない男性は当日同僚に連れ基地を訪問し、ようやくそこで「退職祝い」としてラファールに乗せられることを知った。男性としては戦闘機に乗ることを断りたかったが自分の為に用意してくれた同僚達を失望させたくなかったためラファールに乗ることを受け入れたらしい。

要するに男性は戦闘機に乗る心の準備をするヒマも仲間の手前辞退することも出来ずラファールに乗る羽目になったのだが、結果から言えばここまでの悪夢はまだまだ「序章」に過ぎない。

男性はラファールに乗るため軍医の診察を受けた結果、肉体的が耐えられる負荷は+3Gまでだと判断されたのだが、この軍医の判断は連絡がつかなかったためパイロットには伝わっていなかった。

さらに簡単なレクチャーを受けだけの男性は耐Gスーツを正しく着用できておらず、ラファールの後部座席に座った男性を射出座席に固定するはずのハーネスは緩んだままで、男性が使用したヘルメットには酸素マスクすら取り付けられていなかったにも関わらず、これに誰も気が付かないままラファールのキャノピーは閉じてしまったのだ。

その結果、+3G制限を伝えられていないパイロットはラファールを47度(一般的な旅客機は10度~15度の角度で離陸する)という急角度で離陸させていまい、+4G以上の負荷によって男性の体は後部座席に強く押さえつけられた後、今度は-Gの発生でハーネスが緩み射出座席に固定されていない男性の体は浮き上がることになる。

この状況下で肉体的にも精神的にも準備が出来ていない男性にパニックに陥るなというのは酷というものだろう。結局、パニックに陥った男性は意図せず射出座席のレバーを作動させてしまい意味もわからず空中に放り出されることになったという訳だ。

これが世にも奇妙な事故の真相だが、この事故はラファールの欠陥まで暴くというオチまでついている。

通常、複座型のラファールは前後どちらかが射出座席のレバーを作動させれば両座席が射出される仕組みになっている。しかし今回の事故ではレバーが作動したにも関わらず後部座席しか射出されず前部座席は微動だにしなかったのだ。

出典:public domain

結論から言ってしまえば射出座席が射出されなかったお陰でパイロットは空中に放り出されずに済み、仏空軍は約7,000万ユーロの機体を失わずに済んだと言える。しかし機体の異常で緊急脱出しなければならない状況なら、今回の欠陥で貴重な人命を失っていたかもしれない。

報告書でもこの点について言及しており調査の結果、後部座席射出の衝撃で前部座席を射出するためのシーケンスセレクターが破損しためパイロットの射出座席が作動しなかったと指摘、早急な改善を要求している。

以上のことから、今回の事故はサプライズ過ぎた退職祝いと空軍の人為的ミス、それも初歩的なミスを幾つも重ねた結果によって引き起こされたもので男性にとってはトラウマ級の災難だったに違いない。

きっと彼は今回のことで友人が仕掛けるサプライズにはろくな事がないということと、友人に対する気遣いよりも自分の命を守る=断るための勇気を持たなければならないことを学んだはずだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:Tim Felce / CC BY-SA 2.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    何という話だ・・・規律の低下がものすごいな。
    エイプリルフールのウソと言われたほうがまだ信じられる。

    6
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    いいねを押したいと思ったけど、ボタンも何も無いのでコメント書きます。

    たまたま流れ着いて最初期から見てますけど、この記事は過去ナンバーワンの出来だと思います。こちらは、全般にしっかりしてて落ち着いた記事が多い印象ですが、その中でもピカイチですね。
    これからも楽しみにしています。
    頑張って更新続けて下さいね。

    7
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    死人でなかったからだけど笑える顛末だ
    それと退職祝いにラファール搭乗出きるのってはちと羨ましい

    10
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    大草原w

    3
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    いろいろひど過ぎて笑える

    2
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    まさかこの軍事情報サイトで今年一番爆笑するとはな〜

    4
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    いやもう、これってパワハラでしょう。

    ナショジオのメーデーとかで番組にしてくれないかな?

    5
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    不謹慎だとは思うが、ここ数年で一番爆笑した。
    よくある再現ドラマでやってほしい。ビデオとか撮ってたんじゃないの?

    3
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    全ての流れが完全にドリフ大爆笑
    加藤茶がピッタリ

    3
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    記事タイトル見てサプライズパーティーとして射出したのかと思ったw

    1
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    昔のこった4月バカネタが帰ってきたのかと思ったよ

    2
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    いろいろあってもラファールはカッコいい!

    3
    • 匿名
    • 2020年 4月 11日

    ラファールの射出座席は、何の訓練も受けていない人間がいきなり射出されても生還できるほどの安全性が有ると分かった(某)

    8
    • 匿名
    • 2020年 4月 12日

    あらゆる意味でグッダグダな事故だな……
    運良く人命が助かりダメダメな機器の故障で戦闘機が助かったのが救いと言えば救い…

    4
    • 匿名
    • 2020年 4月 12日

    別の誰かが連絡や確認してるだろうから、ヨシ!

    4
    • 匿名
    • 2020年 4月 12日

    何十重の意味で欠陥な組織、機体だな。

    3
    • 匿名
    • 2020年 4月 12日

    こういう悪ふざけはイギリス人がやりそうだけど。
    高価な機体と地上の被害が出なくて不幸中?の幸いでしたね。

    4
    • 匿名
    • 2020年 4月 12日

     俺は飛行機大好きだし出来れば戦闘機に乗ってみたい、例えば空自で退役間近のF-4なんか乗れるものなら乗って見たいけど、まともな講習はおろか興味も無い人間をいきなり基地に連れ出して戦闘機の後席にって、嫌がらせじゃないのって思うなぁw

    5
    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    いやもう何処から突っ込めばいいんだこれ・・・

    2
    • 匿名
    • 2020年 5月 28日

    >全ての流れが完全にドリフ大爆笑

    ドリフのコントは、あれですべて入念にリハーサルされてコントロールされたものを、それを感じさせないように生の舞台で演じてるプロのお笑い。
    この事故を例えるなら、録画収録なのに毎回失敗ばかりの、ひょうきん族のお笑い。

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