軍事的雑学

通信を切って自艦位置をステルス? 米イージス艦艦長が突然解任された事件の真実

米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」艦長の解任理由を米メディアのサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙が報じ大きな注目を浴びている。

参考:Navy says destroyer captain removed after lying to San Diego fleet command about ship’s position

駆逐艦艦長が太平洋艦隊司令部に自艦の位置情報を虚偽報告して解任?

古今東西、予定されいない軍の指揮官交代や突然の解任劇の裏にまともな理由があった試しがない。

最近では空母「セオドア・ルーズベルト(CVN-71)」のクロジャー艦長が「艦の指揮能力を喪失」したという理由で解任されたが、実際には新型コロナウイルス(COVID-19)の艦内感染を食い止めるため海軍上層部に対し適切な処置を要請する内容の手紙を外部に漏らしたためだと言われており、空母の乗組員や米メディアは元艦長のとった行動は「英雄的」だったと評価している。

本当に彼の行動が「英雄的」だったのかは賛否が分かれるが、このように肯定的な評価を受けるのは非常に稀な例だろう。

今回紹介するのは話の主人公は、今年1月に艦長職を解任された米海軍のジョンボブ・ボーエン中佐で、彼は2018年6月からアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」の艦長として艦を指揮していたのが今年1月に突然「艦の指揮能力を喪失した」という理由で解任されサンディエゴの司令部付きに飛ばされてしまったのだ。

出典:U.S. Navy ジョンボブ・ボーエン中佐

当初、彼がなぜ艦長職を解任されなければならなかったのか詳しい理由が明らにされていなかったのだがサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙が12日、ボーウェン艦長が海軍に対して「嘘の報告」を行ったため解任されたと報じて大きな注目を集めている。

彼がどんな嘘をついたのか簡単にまとめると、昨年9月に彼が指揮する駆逐艦「ディケーター」はハワイの真珠湾からカリフォルニアの海軍基地へ向けて航行中、艦の右舷シャフトに異常が発生したため艦を停止させてメンテンスを行うことになったのだが、彼は艦が海上で停止していることを太平洋艦隊(第3艦隊)に報告せず、あたかも順調に航行を続けているように装った虚偽の位置情報を報告し続けたというものだ。

この嘘は駆逐艦「ディケーター」がカリフォルニアに到着後、匿名の通報で海軍が知るところになり調査が行われボーウェン艦長の偽装工作の全容が明らかになった。

ボーウェン艦長は4時間ほどかかったメンテンスと艦が予定されていた位置に復帰するまでの間、正確な位置情報が太平洋艦隊(第3艦隊)に自動送信されるのを防ぐため戦術データ・リンク「Link-16」と海軍向けの汎地球指揮統制システム「GCCS-M」の機能を無効にするよう指示、さらに乗組員に駆逐艦「ディケーター」が順調に航行していた場合の位置を計算させ定期的に太平洋艦隊(第3艦隊)に報告させることで海上に停止している事実を隠したのだ。

艦長の間違った指示に疑問を感じた乗組員が太平洋艦隊(第3艦隊)に報告するべきだと進言したが、彼は「4時間以内の遅れなら報告しなくても問題ない」と退けたと乗組員が証言している。

では、なぜ彼は艦が海上に停止している事実を隠そうとしたのか?

彼は海軍の調査に対しても、この質問だけには「答えたくない」と話しているため虚偽報告の動機については依然不明のままだが、彼は「何も問題ない(4時間以内の遅れは問題ないというボーウェン艦長のみの認識)のに、わざわざ第3艦隊に知らせる理由がない」と話しているため自身に対する評価を落としたくなかったのかもしれない。

ただ彼は今回の虚偽報告について「第3艦隊に報告する必要はない」と発言した事実だけを認め、Link-16やGCCS-Mを無効にしたり虚偽の現在位置を報告することは命じていないと否定しており、見方によっては部下に責任を擦り付けようとしているとも受け取れるため、空母ルーズベルトのクロジャー元艦長ように乗組員や米メディアがボーウェン艦長を擁護することだけはないだろう。

恐らく多くの米国人は、空母「ルーズベルト」のクロジャー元艦長のことを自身を犠牲にしてでも艦の乗組員を助けようとした「英雄」として記憶するだろうが、駆逐艦「ディケーター」のボーウェン艦長に対しては乗組員を犠牲にしてでも自身の保身を図る「愚か者」として記憶するに違いない。

どちらにしても今回の件で一番の被害者はボーウェン艦長の間違った指示に結果的に従ってしまった駆逐艦「ディケーター」の乗組員であり、艦の士官クラス達は今後の昇進や配属先で酷い扱いを受けることだけは間違いない。

結局、今回の件で彼らは馬鹿な上司の馬鹿な指示に従えば自身も無傷ではいられないという教訓を学んだことだろう。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦「ディケーター」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    日本の会社でもよくある話ですよね。
    でも、部下(士官)だった場合にどうするべきかってのは非常に難しいと思います。
    上官に「正しい報告をすべき」と抵抗すれば、上官が受け入れたとしても厳しい評価をされるでしょう。
    太平洋艦隊にちくったとしても、今回のように巻き添えを食う可能性もありますし。

    太平洋艦隊は以前からこの艦長に問題ありと睨んでいたような気がします。
    ネットワークが切れたなら原因調査はすると思いますし、その過程で
    「匿名にしたるし、評価に影響しないようにしたるから事実を言ってみ」ってなったような気がします。
    あくまで、絶対に、うちの会社のことじゃないですから!

      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      お見舞い申し上げますw

      上手く上司の首だけ飛ばせられれば良いんですが
      平時ではなかなか難しいでしょうねえ…

      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      確か米軍は法的に違法な命令には上官の命令であっても従ってはいけないという決まりだったはず。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    ほんとのところはコロナだったりして。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    昔、米原子力空母が1941年の12月にタイムスリップするという映画があり
    最後のシーンで艦長が「空母が3日間も太平洋で行方不明とは、どういうことだ」
    と怒られていて、あの艦長はどうなるんだろうかと気になっていたが
    やはり原因が何であれ、報告をさぼると即解任か一時待機になるんだろうか?
                     

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    こういうケースで部下にも厳しい処罰をしたらそれこそ組織ぐるみでの隠ぺいがまかり通りそうだから、部下にはそれほど厳しい処分はされないのでは

    • 匿名
    • 2020年 4月 15日

    米海軍は機関の故障で艦長の首が飛ぶような組織ではなかったような
    もっと深刻な状況だったか、信じられないほど艦長が間抜けだったのか

      • 匿名
      • 2020年 4月 16日

      以前に何かやらかした事があって「次は無い」状況だったのかもね。

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