軍事的雑学

音声によるコマンド制御が可能?トルコ、未完成の第5世代戦闘機「TFX」を400機発注

トルコ政府は、まだ完成もしておらず現在も開発中で、今年6月のパリ航空ショーでモックアップを公開しただけの第5世代戦闘機「TFX」を計400機発注した。

参考:Turkey has received 400 orders for TF-X fighter jet – pro-gov’t newspaper

トルコがF-35Aの代案に考えているのはTFXではなくSU-57が本命だ

トルコは米国主導のF-35プログラムに参加し「第5世代戦闘機」導入を進める計画だったが、ロシア製防空システム「S-400」導入を理由にプログラムから追放された。

しかしトルコは、F-4E 2000(49機)が2025年までに、F-16C/D(250機)が2030年代までに(初期に取得した機体は2020年代前半に)退役予定で、この航空戦力の空白を埋めるため、F-35とは別に、国内でも独自の第5世代戦闘機「TFX」開発を進めており、現在のスケジュールでは試作機を2023年までに完成させ、初飛行を2025年までに行い、2032年までに運用を開始する予定だ。

当初、開発リスク分散のため国産戦闘機「KFX」開発を検討していた韓国に共同開発を提案し、何度が話し合いが持たれたが、ニーズや優先度について両国の溝は埋まらず、結局、トルコによる単独開発で計画が進められることになった。

最近、トルコ政府は、まだ完成もしていない、今年6月のパリ航空ショーでモックアップを公開しただけの第5世代戦闘機「TFX」を計400機発注したと言う。

この400機という発注数は、250機前後という計画当初の調達予定数よりも150機も多く、これは100機導入を予定していたF-35A調達が「絶望的」になっても、トルコは決して米国の圧力には屈しない=国産ステルス機で対応可能という意思を示すための発注数であり、政治的な「パフォーマンス」としての意味合いが強い。

これを裏付けるように、トルコのエルドアン大統領は、8月に行われた「MAKS国際航空ショー」に出向き、プーチン大統領の案内で、ロシアが開発した第5世代戦闘機「SU-57」を視察し、プーチン大統領に直接「SU-57は購入可能か?」と尋ねている。

もちろん、プーチン大統領の回答は「YES」だ。

恐らくF-35Aの代案はTFXではなく、ロシアの第5世代戦闘機「SU-57」である可能性が非常に高く、SU-57導入が決まれば、TFXの発注数は元の水準に戻るだろうと推測されるが、ロシア空軍向けの量産が始まったばかりのSU-57が、トルコのアンカラに到着するのは随分先の話になるだろう。

TFXには音声によってコマンドを制御するインターフェスが採用予定?

では、トルコが開発している第5世代戦闘機「TFX」の現状について見ていこう。

先程の述べたように、トルコは今年6月、フランスで開催された「パリ航空ショー」にTFXのフルサイズのモックアップを展示し「TFXは欧州において最高の戦闘機になるだろう」と話した。

出典:JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 TFXのモックアップ

その時に公開されたTFXの仕様は、これまで知られていた数値とは異なる部分がある。

TFX:機体仕様
全長 19m → 21m
全幅 14m
翼面積 70㎡
最大離陸重量 27,215 kg
エンジン 25,000lbf×2基 → 27,000lbf×2基
最大速度 マッハ2.0 → マッハ1.8
作戦半径 900km
兵器搭載量 9トン

TFXは、優れたステルス性能を持ち、空対空戦闘や空対地攻撃に使用でき、最先端のレーダーやセンサーを搭載、現在、流行中のネッツワークを通じた無人機制御が可能で、超極音速ミサイルの運用能力を備えた、双発の単座型ステルス戦闘機だ。

第4世代機で言うところの多用途戦闘機に相当するが、各種センサー類の進化や、ネットワークを通じて得られる情報など、1人のパイロットが扱う情報量は飛躍的に増え、さらに無人機制御まで管理することになれば、単座型のパイロットは「タスク飽和」に成りかねないので、高度な自動化が取り入れられ、その結果、パイトットは目の前の脅威に集中できるようになると言う。

さらにTFXでは、パイロットが音声によってコマンドを制御するインターフェスも採用される見込みで、冷戦時代のハリウッド映画「ファイヤーフォックス」に登場した思考誘導装置(注:ロシア語で考えろ)ほどではないものの、トルコ語で話せば各種のコマンド制御が実行可能になるのは非常に画期的だ。

ただし、正しく音声認識が反応すればの話だが・・・

問題は、このような第5世代戦闘機がトルコ単独で開発できるのかという点だ。

TFXには、欧州の大手防衛企業が複数参加しており、TFXの開発方針や目標性能など定める概念設計には「グリペン」で有名なサーブ社が、ソフトウェア開発には「ラファール」で有名なダッソー社が、TFX全体の開発には第6世代戦闘機「テンペスト」の開発を主導しているBAE社が協力しているため、額面通り受け取ればTFXの実現性は高いだろう。

さらに、トルコの防衛産業はF-16C/Dの機体や搭載エンジン「F110」のライセンス生産、エアバス「A400M」の胴体生産、特にF-35の部品製造においてトルコ防衛産業は、F-35の機体や降着装置、搭載エンジン「F135」の主要部品製造など、比較的製造難易度の高い部分を担当し経験を積んでいるため、軍用機製造に関しては一定の技術力を持っていると判断出来る。

トルコ企業のF-35部品製造の内訳
Alp Aviation 機体構造体、降着装置の部品、エンジンのチタン製ブレードローター等、100余りの部品
Ayesas ミサイル・リモートインタフェースユニット、パノラマ・コックピット・ディスプレイ
Fokker Elmo 電気配線システム
Havelsan 国内に建造されるシミュレーター訓練装置、メンテナンス要員のトレーニングセンター
Kale Aerospace 機体構造体、F-35全て(A/B/C型)の降着装置の部品、P&Wと合弁でF135用の生産用ハードウェア
ROKETSAN、Tubitak-SAGE F-35用の巡航ミサイル「SOM-J」を、ロッキード・マーティンと共同開発
Turkish Aerospace Industries 中央胴体、ウェポンベイの扉、エアインテークのダクト

TFXは欧州とロシアの軍事技術が融合した、世にも奇妙な戦闘機?

しかし、TFXの開発を難しいものにしている問題がある。

搭載エンジンの確保だ。

当ブログでも、この問題について何度も言及してきたので、改めて詳しい経緯は省略するが、当初、ロールス・ロイスがタイフーンの使用されたエンジン「EJ200」の技術を提供し、トルコと共同開発する予定だったが、突然、トルコが共同開発したエンジンの権利について、全てトルコ側に帰属することを要求したため開発からロールス・ロイスが撤退。

とりあえず、F-16C/D用にライセンス生産している「F110」を使用して、TFXの開発を進める予定だったが、F-35プログラムからのトルコ追放により、このBプランも不可能になってしまった。

そこでトルコは、海外のジェットエンジン製造企業に対しTFX開発への参加を呼びかけたが、参加条件に「開発するエンジンに対し、輸出に制限がなく、全ての技術がトルコに帰属し、トルコが全ての権利を所有すること」を挙げているため、新しいエンジンの供給先は見つかっていない。

しかし、TFXの窮状を救うため名乗りを挙げた国がある。

ロシア連邦軍事技術協力局のドミトリー・シュガエフ局長は、トルコのエルドアン大統領が視察に訪れた「MAKS国際航空ショー」の会場で、ロシアはトルコの第5世代戦闘機「TFX」開発を助ける事ができるかもしれない」と語り、航空機に搭載されるアビオニクスやエンジン開発について支援の可能性を示唆した。

果たしてロシアは、トルコが掲げる一方的な条件を飲んでまでTFXを支援するだろうか?

引用:TURKISH AEROSPACE トルコが開発中のTFX

通常ならあり得ないだろうが、TFX開発の支援を行うことで、トルコをNATOから離脱させ取り込めるなら、ロシアにとっては政治的にお釣りが来るレベルで、欧州にしてみても、ロシア支援を理由にTFXから手を引けば、益々、トルコがロシアへ接近することになり、それこそプーチン大統領の思うツボだ。

この奇妙な政治的均衡を欧州とロシアが保とうとすればするほど、トルコのTFXは欧州とロシアの軍事技術が融合した、世にも奇妙な戦闘機として完成する可能性がある。

このようにトルコの第5世代戦闘機「TFX」は、もはや単なる戦闘機の開発という枠を飛び越え、欧州とロシアの思惑が絡む、政治的駆け引きの舞台となっている非常に興味深い事例だ。

本当に目が話せない。

 

※アイキャッチ画像の出典:JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 TFXのモックアップ

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 16日

    音声指示はユーロファイターやラファールで採用事例がありますから、BAEシステムズからの提供の可能性が高そうです。
    コックピット内は高ノイズですから、あまり有効には使われていないようですし、基本は英語での指示になるようです。
    TFXも英語ベースの指示ではないでしょうか。

    • 匿名
    • 2019年 9月 16日

    >>参加条件に「開発するエンジンに対し、輸出に制限がなく、全ての技術がトルコに帰属し、トルコが全ての権利を所有すること」を挙げているため、新しいエンジンの供給先は見つかっていない。

    誰が考えても無理な条件、トルコで単独開発するしかないが世界標準の半分程度の性能が得られれば御の字。
    当然のことながらステルス機には使えん。
    この先中国を筆頭になんちゃってステルス機がいっぱい出てくるだろう、見た目だけはステルスだが実際に戦闘に使わなければ問題ないんだが。

    • 匿名
    • 2019年 12月 18日

    絵空事に発注かけてお茶を濁す感じかw ま、好きにしなー。
    もうシナかロから買うしかねーべ

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