欧州関連

エンジンが決まらないトルコの第5世代戦闘機「TFX」、ロールス・ロイスとの再交渉を希望

第5世代戦闘機「TFX」を開発中のトルコは、エンジン供給問題で交渉が決裂した英国のロールス・ロイスに対し、交渉の再開を希望していると報じられている。

参考:Turkey to Rolls-Royce: Let’s renegotiate terms for TF-X fighter jet support

一度決裂した交渉を、再び再開しようとするトルコの思惑は?

トルコは現在、第5世代戦闘機「TFX」を国内で開発中で、トルコ空軍が運用中のF-16C/Dの後継機需要と海外輸出を狙っている。

出典:public domain トルコ空軍のF-16C/D

このプロジェクトはトルコ単独では不可能なため、英国のBAEが協力企業として選ばれ、機体設計やシステム開発をサポートし、搭載エンジンに関しては英国のロールス・ロイスがEJ200の技術を移転し、TFXのための新しいエンジンをトルコと共同で研究・開発を進めていた。

しかし、知的財産権でトルコとロールス・ロイスは揉めることになる。

トルコはロールス・ロイスに対し、共同開発したエンジンの知的財産権を、全てトルコ側へ譲渡することを要求したが、ロールス・ロイスが拒否、その後、交渉でも溝は埋まらず、ロールス・ロイスはTFXプロジェクトから完全に手を引いた状態だ。

ロールス・ロイスはトルコと共同で研究・開発ため、アンカラに派遣していた研究者や技術者を全て引き上げ、他のプロジェクトへの再配置を済ませており、ロールス・ロイスにとってトルコとの契約は完全に終了していると言っても良い。

出典:JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 TFXのモックアップ

一方のトルコもロールス・ロイスとの交渉決裂後、国防衛産業庁長官のイスマイル・デミル氏が、国内で開発している第5世代戦闘機「TFX」プロジェクトへ参加を考えている海外のジェットエンジン企業に対し「扉は開かれている」と話すなど、新たなエンジン供給相手を探す動きを見せていたが、TFXプロジェクトへの参加条件に「開発するエンジンに対し、輸出に制限がなく、全ての技術がトルコに帰属し、トルコが全ての権利を所有すること」を挙げていたため不発に終わった。

ロシアの連邦軍事技術協力局、ドミトリー・シュガエフ局長がトルコの第5世代戦闘機「TFX」の開発に参加し、技術移転を行う準備が完了したと語り、行き詰まりを見せているトルコの第5世代戦闘機「TFX」開発へ接近しているが、ロールス・ロイスへの再アプローチを見る限り、トルコは軍事面でロシアへの依存度を高めることを望んでいないように見える。

ロシアとしてはロシア製防空システム「S-400」導入をきっかけに、NATO加盟国であるトルコへの軍事的な影響を強めようとしており、米国からの調達を拒否された第5世代戦闘機「F-35A」の代わりに、ロシア製の第5世代戦闘機「SU-57」の輸出や、第5世代戦闘機「TFX」開発への協力を餌にトルコへ食い込もうとしている。

出典: Dmitry Zherdin / CC BY-SA 3.0

しかし、トルコは今でも米国からのF-35A調達を諦めておらず、再三に渡り、トルコは今でもF-35プログラムの一員であることを主張しており、S-400導入以降、ロシアへの軍事的な接近には歯止めがかかっている。

今回報じられたロールス・ロイスとの再交渉希望は、NATOからの離脱は望んでいないというトルコからのメッセージである可能性が高く、欧州もトルコのNATO離脱は望んでいない。

ビジネス的にはトルコとロールス・ロイスの再交渉は不可能なのかもしれないが、政治的な思惑=NATOにトルコを繋ぎ止めるという配慮から、もしかするとロールス・ロイスとの再交渉が実現するかもしれないが、交渉が決裂することになった知的財産権についてはトルコが譲歩する必要があるだろう。

果たしてトルコは、政治的な駆け引きを駆使してTFX用のエンジンを入手することができるだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:JohnNewton8 / CC BY-SA 4.0 TFXのモックアップ

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    ポピュリストによるディール()がろくな結果にならないっていうお手本

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    どう駆け引きしても無理だろこれ
    自分ちの飯の種全部よこせと言われて渡す奴がいるかよ…
    自分自身を人質に西側と東側への天秤外交してる姿は韓国と似た感じだけど
    トルコは傲慢すぎるというかいかにもイスラム国家って感じだなぁという印象

    2
    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    もはや中東の韓国(あるいは、ヨーロッパの東端の韓国)だな

    1
      • 匿名
      • 2019年 12月 14日

      これでもあの地域では頭2つくらい飛び抜けてまともな国家という事実

      それは民族とか宗教の問題ではなく、部族単位でまとまっていた中東以南と、WW1後しばらくまでは大帝国として纏ってた(国家・国民意識がある)トルコという国家形態の差だけど
      いずれにせよ、まだ国として対話できるだけマシで
      ちょっと近くの国に目をやれば、国家元首の他に有力部族やら宗教指導者やらに話をつけないと何もできない国しかないっていう

      1
      •  
      • 2019年 12月 15日

      反米感情から道を誤って行く国つながり
      経済もダメになって行くでしょうね

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    なんかアルタイでもコケてなかったっけ?
    色々がっばってはいるみたいだけどやること成すことますます韓国に似てきてるかなぁ
    まあ輸出解禁といいつつやる気ゼロの日本が言えたことではないかもしれんが

      • 匿名
      • 2019年 12月 15日

      日本のヤル気がゼロの件、企業サイドからするとリスクの割に得るものが少ないからかな?
      トルコみたいな変な顧客に絡まれたくないだろうし。

      1
      • 匿名
      • 2019年 12月 15日

      オーストラリアの潜水艦もインドのUS-2もトルコの戦車エンジンも
      全部技術よこせと言われて断ってる案件なんだけどね

      1
        • 匿名
        • 2019年 12月 15日

        US-2に関しては、10月29日に新明和が下記を契約したみたい。

        「US-2の海外移転に伴う外国人運用者への教育・訓練に係る検討役務」

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    テンペスト開発への出資と100機単位での大規模導入をトルコが飲めばひょっとしたらひょっとするかもね。

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    おまえ(トルコ)金ねーじゃん

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    いい加減にしておかないとまた軍事クーデターだぞ

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    流石にこの条件で、参入します!って企業が出てくるはずがない(汗

    • 匿名
    • 2019年 12月 14日

    KFX買え

    •  
    • 2019年 12月 15日

    Su-57のモンキーモデルに気持ち程度の改変をして「トルコの誇らしい自国製戦闘機」ってやるオチなのでは?
    韓国の自国製()ロケットみたいなさ

    • 匿名
    • 2019年 12月 15日

    二兎を追う者は一兎をも得ずの典型ですね。

    • 匿名
    • 2019年 12月 15日

    西側では信用を失ったら終わりなんだが…

      • 匿名
      • 2019年 12月 20日

      特に知財が絡むと致命的だね
      先進国と後進国の線引は知財理解で線引が全てと言っても良いくらい
      知財無視は割れOSまでにしとけってw

    • 匿名
    • 2019年 12月 15日

    トルコにしろ韓国にしろどういう思考回路したらエンジンのIPを渡してくれるディールが可能だと考えるんだろう。
    素直に完成品買って組み込みでうればいいだけだろ。まさに強欲。

    1
    • 匿名
    • 2019年 12月 15日

    >共同開発したエンジンの知的財産権を、全てトルコ側へ譲渡することを要求した
    これって無茶苦茶な要求に聞こえるけど、中国が欧米諸国に要求して、実際に通った経験があるからな。
    中国とトルコでは国力が違うけど、トルコとしては中国の成功を見て「あいつが良いなら俺だって!」と
    思ったんだろうな。

    気持ちはわかる。
    その要求が通るとは思わんけど。

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