軍事的雑学

米空軍の爆撃機戦力は減少の一途、ステルス爆撃機「B-21」完成まで大規模戦争は不可能?

米空軍の爆撃機部隊は米空軍にとって今後も欠かせない重要な戦力なのだが開発中のB-21が完成して量産されるまでの期間、力を維持することは難しい状況になってきた。

参考:America’s bomber force is too small and getting smaller

F-15EやF-16では到底カバーしきれない爆撃機の威力と運用コスト

米空軍が莫大なコストを支払い続けてまで巨大な爆撃機をなぜ維持し続けるのか、爆撃機に比べ機体の大きさは小型だが兵器搭載量が多いF-15Eなどで代替可能ではないのかと思われがちだが、米軍が戦争を行う上で今だに爆撃機が持つ特性は必要不可欠だと実証されている。

2001年9月に発生したアメリカ同時多発テロ事件以降に始まったアフガニスタンのタリバンに対する「不朽の自由作戦」に置いて爆撃機が果たした役割は偉大だった。作戦開始から3ヶ月間で生じた作戦機の延べ出撃数に対する爆撃機の割合は20%に過ぎないが、投下弾薬の延べトン数に占める爆撃機の割合は76%に達し、如何に爆撃機が米空軍の航空作戦において重要かが分かるデータだ。

出典:public domain B-52

最も分かりやすいのは爆弾や巡航ミサイルなどの搭載量でB-52Hは約31トン、B-1Bは約57トン、B-2Aはステルス爆撃機のため機体内部に全ての弾薬を収容するため18トン~20トンしか搭載できないのに対し、F-15Eは増槽を含めて約10トンしか搭載量がない。

さらにB-52HやB-1Bは機体に設けられたウェポンベイ以外にも主翼下にハードポイント(兵器懸下箇所)を持ち多種多用な爆弾やミサイルを同時に搭載することが出来るため、戦闘爆撃機F-15Eや一般的なマルチロール機と比べると攻撃手段の柔軟性が高く、例えば一般的なMk.82通常爆弾(500ポンド)を搭載する場合、F-15Eの搭載量なら40発搭載することが出来るパワーがあるのだがハードポイントの関係上最大でも26発しか携行できないがB-52Hなら最大108発携行することが出来るのだ。

出典:public domain ベトナム戦争中のB-52

もしF-15EでB-52Hと同じ量のMk.82を投下するためにはF-15Eを4機用意する必要があり、1時間辺りの飛行コストで比べた場合でもB-52Hの35,788ドルに対しF-15Eは69,632ドル(4機分)となるため爆撃機の方が経済的で、貴重なパイロットの数も半分(爆撃機は2人パイロットが必要)用意するだけで済む。

関連記事:F-22は1時間の飛行に440万円必要?米国防総省が公表した米軍機の飛行コスト

こういった利点があるため米空軍では爆撃機を維持し続けているのだが、2021年会計年度予算案で示された予算削減=正確に言えば予算の付け替えが実行されれば危機に直面することになる。

厳重に防空システムで守られている敵勢力圏に唯一侵入可能なステルス爆撃機B-2Aに施される能力の近代化改修はコックピットのディスプレイ更新以外はキャンセルされ、最大の爆弾搭載量を誇るB-1Bは約20年間、本来の任務からかけ離れた長距離近接航空支援任務へ投入されアフガニスタンやイラクで酷使を続けた結果、機体の構造的寿命の大半を使い果たしてしまったため実戦任務に対応できる機体の数が一桁にまで落ち込んでいる。

出典:public domain 爆撃を行うB-2爆撃機

米空軍はB-1Bの主胴体、主力付け根部分、可変翼機構、昇降舵などの構造補強を行い寿命延長を検討しているが、もはや全61機に構造補強を実施する予算はなく状態の悪い17機については2021年度に退役させる方針を明らかにした。

関連記事:米空軍、正式に「B-1Bランサー」や「A-10サンダーボルトII」など7機種の退役計画を発表

最後に開発中の新型ステルス爆撃機B-21と共に爆撃部隊を構成するB-52Hは今後大規模な改修が予定されており、この改修には燃費の良い新型エンジンへの換装も予定されているのだが問題はコストだ。B-52Hは1960年代に製造された機体なので改修作業を行う為に分解した際、構造体の疲労や腐食、配線の劣化など予想外の問題に直面する可能性が高く必要なコストの計算が難しいと指摘されている。

出典:Pedro Aragão – Gallery page / CC BY-SA 3.0

これはB-52Hと同じように世界最大級の軍用輸送機C-5に新型エンジンへの換装を含む近代化改修を施した際、予定していなかった機体の劣化や腐食の問題が続出しコスト超過に陥ったため、全機に近代化改修を施せなくなり初期型の一部を退役させることになった苦い経験があるため、B-52Hを分解してみないことには幾ら掛かるのか判断出来ないという意味だ。

もしB-52H 78機に対する近代化改修に必要な予算が付かない場合、米空軍はC-5の時同じく一部のB-52Hを退役させなければならなくなり開発中のB-21が完成し調達が始まるまで、米空軍爆撃部隊の規模は縮小の一途をたどることになる。

そうなれば爆撃機による火力投射能力が減少するのは目に見えており、F-15EやF-16など小型機で無理やりカバーすればコストが上昇し戦費を直撃することになるため、もはやイラクやアフガニスタンで行った規模の戦争実施は難しくなる可能性が高い。

出典:public domain F-15E

今直ぐならまだしも、爆撃部隊の戦力が最も減少している2020年代後半にイランや北朝鮮との全面戦争が勃発すれば、米軍の最高司令官はきっと青ざめるに違いない。

どちらにしても爆撃機は、あくまで他国を通常兵器で破壊し尽くせる力を求める米国など一部の国だけに必要とされるレアケースであり、全面戦争を単独で行えない=想定していない国にとっては不要な兵器であることは変わらない事実だ。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Clayton Cupit

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日


      • 匿名
      • 2020年 3月 16日

      コメントのチェックって必要?

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日

    イランや北朝鮮との全面戦争なら大丈夫な気がする
    あいつらの戦力って張り子の虎みたいなもんだし、おそらく国内の反体制勢力相当いるだろ

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日

    アメリカ軍が爆撃機を戦力投入するのは制空権確保した時だけだろ
    古い爆撃機を退役させて、ジェット旅客機に爆弾積むだけで事足る
    それでも任務遂行が難しいときはステルス爆撃機を投入すればええ

      • 匿名
      • 2020年 3月 15日

      軍事系サイトに来てその見識はいかがなものか…
      否定するのも面倒くさいとすら思える

        • 匿名
        • 2020年 3月 15日

        激しく同意します!

          • 匿名
          • 2020年 3月 16日

          でも、737をベースにP-8作ったりしているし、B-1BやB-2の代わりは無理だけど、B-52の代わりは作れそうだが。
          そもそも、今の大型旅客機は重爆撃機の構造を受け継いでいるから、意外といけるかも。
          胴体構造は、大分いじることになりそうだが。

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日

    F-15EのペイロードはWW2のB-29を上回っていますが、フェリー航続距離比較でB-29の半分くらいですし、ひとつの作戦に投入できる機体数がWW2の頃より桁違いに少ないので航続距離が1万キロを超える現代の戦略爆撃機の代替は困難ですね。

    B-52はペイロードがF-15Eの3倍でも機体設計が古いので5名の乗員が必要、B-1も4名なのでB-2やB-21のような2名運用の戦略爆撃機への移行は必須でしょう。

    タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の後継艦のように極超音速兵器の大量搭載用にB-52を近代化・再設計した新造機と実質B-2の近代化・再設計となるB-21の2機種体制で21世紀後半は乗り切ることにするのがベストに見えます

      • 匿名
      • 2020年 3月 15日

      >B-52を近代化・再設計した新造機と…
      たしかに今ボーイングの旅客機部門は大変なことになっていますから仕事を回すには良い機会ですね。
      雇用第一のトランプさんならやりかねません。

        • 匿名
        • 2020年 3月 16日

        ロッキードに大型機開発能力を維持させる必要もあるので…

          • 匿名
          • 2020年 3月 16日

          LM社の大型軍用機で残ってるのはC-5とC-130Jの2機種くらいですね。

          C-130Jは各国に売れるので従来機のリプレース需要もありますが、C-5はアメリカ以外に買うところがないし、C-17はMD社の買収でボーイングに持っていかれたのでC-5/C-17のリプレースまでは新規調達の契約はないでしょうね。

          旅客機からは撤退したので、早期警戒機や哨戒機、空中給油機など旅客機改造型の大型機はないですし、戦闘機改造型の戦闘爆撃機はFB-22がコケたので、F-35とF-16Vで弾数稼いだ方がLM社的には儲かるでしょう

        • 匿名
        • 2020年 3月 16日

        B-52の新造機は、要るのかな。
        制空権を確保した後に、大量の爆弾を遠くに安く運ぶのなら、別の手段を取ると思う。

    • 匿名
    • 2020年 3月 15日

    アメリカはマジで新型機の開発力を喪失してしまったようだ、利益優先の財務ビジネスマンがCEOになりM&Aで高給取りのベテラン設計者は首になり、大学を出たばかりの新人が設計しソフトは下請けの5段重ねでろくなものができない。
    もはや旧型機のアップグレードしかできない体になってしまった、この先20年はB21以外の新型機は出てきそうにない。
    F-35のように超巨額の開発費をかければ何とかなるだろうが、これからのアメリカにそれほどの費用を出す力は無くなった。
    F-3以降は日本主導で開発し、アメリカやイギリスがライセンス生産することになるだろう。
    数年後にはアメリカはC-2の、ヨーロッパはP-1のライセンス生産をすることになると予想している。

      • 匿名
      • 2020年 3月 16日

      流石に夢が有りすぎ。

    • 匿名
    • 2020年 3月 16日

    お前の中ではな。妄想は布団被って一人でやっとくれ

    • 匿名
    • 2020年 3月 17日

    数年後にはアメリカはC-2の、ヨーロッパはP-1のライセンス生産をすることになると予想している。

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