米海軍は、艦船と航空機との通信方法について、第2次世界大戦時代に使用していた投下式の通信袋を復活させようとしている。
参考:Navy Ships Look To WWII Era Message-Filled Bean Bags To Communicate Without Radios
GPSと通信を失った場合の保険は、原始的なコンパスと通信袋?
8月4日米海軍所属、強襲揚陸艦「ボクサー」の飛行甲板上空でホバーリングするMH-60S「シーホーク」から、飛行甲板に向けて黄色の袋が投下され、この袋は直ぐにデッキクルーによって回収され、同艦に乗船している飛行隊司令官の元に届けられた。
これは電子的な装置を介すこと無く、航空機(回転翼機を含む)から艦艇に、タイムリなー通信を行うことが可能だということを実証するための実験だ。
米国はイラン軍がGPS信号及び通信信号の妨害しているとし、中東地域のペルシャ湾、ホルムズ海峡、オマーン湾、アラビア海で活動する艦船や航空機に対し、偽装された位置情報や、偽メッセージについて警戒するよう注意を促している。
さらにロシアが関与していると言われている欧州や地中海での大規模なGPS信号の妨害は、世界中に展開する米軍に深刻な影響を及ぼし始めた。
もしGPSによる位置確認や、電子的な通信による情報伝達が途絶するような事があれば、一体どのように軍を動かすのか?
米軍が問題解決のためホコリを被った倉庫から引っ張り出してきたのは「通信袋」と「コンパス」だ。
海上を航行中の複数の艦艇間の通信については、信号灯や信号旗を用いたモールス通信も引き続き利用できるが、艦と艦の位置が離れていれば通信が困難になる。そこで登場したのが、MH-60S「シーホーク」による通信袋を用いた情報の伝達方法で、これなら信号灯や信号旗を用いたモールス通信では難しい「複雑な情報」のやり取りが、より迅速に行える。

出典:public domainドーリットル空襲
この方法が生まれたのは第2世界大戦時の「ドーリットル空襲」にまで遡る。
当時、日本本土空襲を目指し、ウィリアム・F・ハルゼー中将率いる空母艦隊が日本に接近する際、搭載されたB-25爆撃機を発進させる予定地点よりも前で、日本の哨戒艇らしきものを発見、これを確認するためSBDドーントレス爆撃機を向かわせ、日本の哨戒艇を確認する。
その時、SBDドーントレス爆撃機は無線による報告を行えば日本に無線を探知される可能性を危惧し、メッセージを書き込んだ紙を袋に入れ、空母「エンタープライズ」の飛行甲板に投下し、空母艦隊は哨戒艇を避けるための回避行動に繋がった。このアイデアを正式に採用した米海軍は1942年、飛行機からの投下に耐え、内容物を保護するための通信袋を開発した。
米海軍は、通信が妨害された際、最終手段として70年前の方法を再び活用しようとしている訳だ。
さらにGPS信号が妨害され、正確な位置情報が取得できなくなった時のために、米軍は「コンパス」を使って位置を特定するための訓練を大幅に増やしている。
米国は、ロシアや中国との戦いを望んではいないが、同国から高度な妨害システムや電子装置を購入した国との戦闘を排除することが出来ない以上、米国のGPSや通信システムが破壊されることを考えておく必要がある。
勿論、このような原始的な方法以外にも、妨害に耐性が高いGPSアンテナの開発や配備など、テクノロジーによる問題の解決も行っているが、やはり最終的な手段は、全く干渉されることがないアナログな手法しかないのだろう。
そのうち、伝書鳩や狼煙までもが、現代に蘇るかもしれない。
※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Kyle Carlstrom
映画「バトルシップ」で戦艦のボイラー式蒸気タービン機関と重装甲を復活させて戦艦ドリフトキメた気分ですが、海軍はGPS不能地域での活動のために20世紀前半の海軍の測位方法などを海軍兵学校で教育するようになったみたいですね。
データリンクを用いたネットワーク中心の戦いを補うには従来のローテクも必要なのでしょう。
高度3万キロを飛ぶ高高度偵察機は昼間も星が見えるので、それを使った測位機器を積んでますが、海軍は高高度を飛べる航空機を持っていないのと、情報伝達のスムーズさから今回のような方法を取っているのでしょう
>高度3万キロを飛ぶ高高度偵察機
すごい偵察機だ
原始から原子まで、というやつですね
松村氏の戦争学は昔繰り返し読みました
お互いが見える程度の距離の艦船間はレーザー通信位は欲しいもんですね
今の空母打撃群や遠征打撃群は各艦が集中打撃を受けないように数キロから10キロメートルほど離れて進行するので、レーザー通信では小容量の通信になりそうですね