米国関連

建造費も維持費も足りない? 米海軍、予算不足で「310隻体制」に規模縮小か

米海軍は、トランプ大統領が掲げた「355隻体制構想」の実現を放棄するかもしれない。

参考:Navy May Scrap Goal of 355 Ships; 310 Is Likely

米海軍にとって「355隻」ではなく「310隻」が本当に最善なのか?

中国の急速な海軍力拡充に対抗するため、トランプ大統領は米海軍の保有艦艇を「355隻」にまで拡充することを提唱し、米海軍も構想実現のために努力してきたが、現在の予算では「310隻」の維持が最善だという結論に達した。

これは今後5年間の艦艇建造予算の規模が、横ばいで推移するという予測に基づくものであり、もし今後30年で355隻体制を確立するなら、艦艇建造予算を毎年31%つづ引き上げる必要があり、現時点で米海軍は約290隻の艦艇を保有し、来年の今頃には300隻に達する。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class T. Logan Keown/Released

このまま艦艇を「355隻」まで建造し続ければ、恐らく米海軍は「深刻」な問題に直面することになる。

米海軍が新造艦を建造し続け、保有艦艇の数を増やしたところで、米造船産業は米海軍に提供できるメンテナンス能力が限られており(追いついていないとも言う)、昨年、メンテナンスを受けた約7割の米海軍駆逐艦は、スケジュール通り港を離れる事が出来なかった。

空母「ハリー・S・トルーマン」は8月末に出撃するはずだったが、艦内電力システムに深刻なトラブルが発生、結局、トルーマンを中心とする空母打撃群は、空母が「ない」という異例の編成で母港、ノーフォーク海軍基地から海外展開のため出撃するためになった。

出典:public domain 建設中に乾ドックに座っているジェラルドR.フォード

この問題は、予算不足という根本的な問題もさることながら、国内の造船能力不足=ドックと造船技術者の不足が原因で、新造艦が増えれば増えるほどメンテナンスのために割けるドックと技術者の数が減るという悪循環に陥っており、下院議会の軍事委員会議長、ジョン・ガラメンディ議員は「海軍は290隻の維持すら出来ていないのに、これ以上艦艇を建造すべきではない」と警告を発している。

もう一つ問題点を付け加えるなら、米造船産業界は、米海軍が求める高度な品質を「大量」に「早く」建造するための能力を失っているのかもしれない。

例えば最新の空母「ジェラルド・R・フォード」は2017年に就役して1年も経たず、動力部に問題が発生し再びドックで1年以上の修理が必要となった。

バージニア級攻撃型原子力潜水艦を建造したハンティントン・インガルス・インダストリーズ社のエンジニアは、同社が建造したバージニア級原潜のステルスコーティング(所謂、無反響タイルの接着や防音処理のこと)は、特殊な接着コーティングを扱うため資格を持った技術者が処理する必要があるにも関わらず、無資格の技術者が不適切な方法で処理していると告発した。

バージニア級原潜は就役以来、航行中にステルスコーティングが剥がれ落ちる問題に悩まされ海軍は、この問題の改善を要求したが、同社はどんな対策を講じること無く、試験結果を偽造した書類を海軍に提出することで問題の隠蔽を図っていたと言う。

出典:Public Domain 潜水艦の垂直発射管 ※この画像はロサンゼルス級潜水艦のもの

さらに、バージニア級原潜に搭載されている12基の垂直発射管の溶接部分に問題が見つかり、この溶接を担当した企業はコロンビア級原潜(オハイオ級原潜の後継艦)や、英国海軍のドレッドノート級原潜(ヴァンガード級原潜の後継艦)の垂直発射管製造(米海軍はミサイル区画の設計を英海軍と共有することした)を担当することになっていたため大問題になっている。

このような事例が多発した結果、米国国内でも米造船業界の「技術力」や「品質管理」を危惧する声が挙がっており、管理人も米海軍が新たに挙げた「310隻」という数字が、本当に「最善」なのか疑問に感じざるを得ない。

 

※アイキャッチ画像の出典:pixabay

韓国の原潜保有を承認? 米海軍、協力はしないが韓国の仏原潜導入に反対しない前のページ

米国、日本のF-15J近代改修仕様「Japanese Super Interceptor」を45億ドルで承認次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    GA-ASIが新型UCAV「モハベ」を公開、支援装置なしで軽空母や強襲揚陸艦からの運用も可能

    ジェネラル・アトミックスは9日、以前から公開を予告していた新型無人戦闘…

  2. 米国関連

    新たな戦場の神、新型155mm自走砲「M109A7」を米第1騎兵師団が受領

    米陸軍第1騎兵師団傘下の第3旅団戦闘団「通称グレイウルフ」は最新の15…

  3. 米国関連

    視界外戦闘も可能、F-35のステルス性能を損なわない新型「AIM-9X」は万能か?

    ドックファイトで活躍することを前提に設計されたAIM-9「サイドワイン…

  4. 米国関連

    T-50にRED6のATARSを統合、米戦術訓練機を受注するための布石か

    ロッキード・マーティン、韓国航空宇宙産業、RED6の3社は20日「RE…

  5. 米国関連

    米空軍のF-22Aにトラブル、機首を滑走路に擦り付けながら着陸か?

    エグリン空軍基地に着陸したF-22Aにトラブルが発生、ノーズギアの問題…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 30日

    ズムウォルト級とLCSがコケて前者はアーレイ・バーク級フライトIII、後者はSSCでフォローする予定ですが、これも予定通り出せるのか怪しいですね。
    建造、運用、保守で一定レベルを維持するためには定期的な仕事を作らなければならないのは必然ですが、アメリカの軍事費は今でもGDP比3.1%、6100億ドルと莫大ですから、軍事費の増額や軍事メーカーへの発注も大きくは増やせないのでしょう

    • 匿名
    • 2019年 10月 30日

    予算不足というより、予算の無駄遣いが大きすぎるんじゃあないですかね。
    組織と予算規模が肥大化しすぎて、コントロールが上手く出来ていないように見受けますが。
    無駄と決めつけられるプロジェクトの関係者は当然反発するでしょうが、あまりに「失敗に終わった」開発案件が多すぎてそれらに使われた予算はどういう扱いになって誰が責任をとっているのかいつも疑問に思っているのですわ。
    失敗は成功のもとという考え方をすれば100%の無駄なんてないのかもしれないけれど、最近は下手な鉄砲数撃ちゃ当たる的な開発やってるようにも見えるし、そのジャブジャブ振りはある意味羨ましくもあるけどもうちょっと上手くやろうよと思わなくもない。

      • 匿名
      • 2019年 10月 30日

      失敗したら責任を取るなんて日本的なやり方では誰も育たないんだけどね。失敗した時にやるべきことはフィードバックなんだよ

        • 匿名
        • 2019年 10月 30日

        そのフィードバックがなされていないという話では?
        アメリカの新規開発案件がほんとどれもこれも目を覆うばかりに失敗しまくって
        結局従来型の発展型というお茶濁しでなんとかしてる現状
        なんでそこまで失敗するのかは検証しなけりゃマズイと思うけどねぇ…
        アメリカがコケると日本にも影響デカイし

        1
        • 匿名
        • 2019年 10月 31日

        その結果がG.R.フォード級の開発費偽装分割請求ですか

    • 匿名
    • 2019年 10月 30日

    そう考えると、年一隻新造の潜水艦を送り出し、また毎年満載5000tクラスの戦闘艦を起工する予定の日本は相当頑張ってますね……

      • 匿名
      • 2019年 10月 30日

      むしろ特に潜水艦なんか、建造技術を維持する為に無茶をしているともいう

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
PAGE TOP