欧州関連

戦闘機「タイフーン」の極超音速化?英国、極超音速兵器+推進システム開発に着手

7月17日、英空軍は戦闘機搭載用の「極超音速兵器」開発計画について、計画の概要を発表した。

参考:UK Develops Warplane to Fly at Speed of 5,000km per Hour to Tackle ‘Adversaries’

極超音速空対空ミサイル、極超音速機の開発を始めた英国

7月17日、英国のロンドンで始まった「航空宇宙航空会議2019」で英空軍は、第4世代戦闘機にも、今後開発される新しい戦闘機にも搭載可能な「極超音速兵器」開発に関する計画を発表した。

英空軍によれば、この計画は10年後の2030年代、NATO戦闘機戦力の80%を占めると予想される第4世代戦闘機で、第5世代戦闘機や、将来登場が予告されている第6世代機戦闘機の脅威に対抗するため「極超音速空対空兵器」を開発するという。

極超音速(ハイパーソニック)兵器は、一般的にマッハ5.0以上の速度で飛翔する兵器のことで、ロシアでは既に、幾つかの極超音速兵器が実戦配備され、米国や中国でも研究が行われている。

現時点で実用化されている極超音速空対空ミサイルは、ロシアの極超音速空対空ミサイル「R-37M」、台湾の極超音速空対空ミサイル「天剣2型C」しかない。

補足:ロシアにはもう一つ極超音速で作動する空対空ミサイルがある。そのミサイルは「R-77-PD」で、ロシア版AIM-120といわれる「R-77」をベースにラムジェットを搭載した「R-77-PD」はマッハ5.0に到達するだろうと言われているが、1999年に開催されたモスクワ航空ショーで一度だけ展示されて以来、後続の情報がなくロシア軍に配備されているのかも不明だ。「R-77」の発展型「K-77ME」が開発中でラムジェットを搭載していると言われているが、極超音速に到達しているのかは今の所、不明。

英国は既に、マッハ4+で飛翔可能なダクテッド・ロケットエンジン搭載の空対空ミサイル「ミーティア」を開発・運用中で、恐らく、ミーティアをベースに「極超音速空対空ミサイル」を開発するのだろう。

Author:ILA-boy / CC BY-SA 3.0 空対空ミサイル「ミーティア」

もし、ダクテッド・ロケットエンジンを搭載した「極超音速空対空兵器」が完成すれば、「ミーティア」のように速度の調整が可能で、巡航時は燃料消費を抑えながら飛翔し、目標へ着弾する際のみ、極超音速に加速するなど柔軟なコントロールが出来るため、ノーエスケープゾーン(回避不能ゾーン)の広さは「ミーティア」以上になるだろう。

更に英空軍は、マッハ5.0以上で飛行が可能な「極超音速機」開発の計画も発表した。

これは、英国のリアクション・エンジンが開発中の「ジェットエンジン」と「ロケットエンジン」が1つになった、全く新しい仕組みを持つ「サーブル・エンジン」を元に、超極音推進システムの開発を行い、その過程で得た技術で、戦闘機「タイフーン」に搭載されているエンジン「EJ-200」を改良し、極音速化させることも選択肢の一つらしい。

補足:サーブル・エンジンとは、大気圏内ではジェットエンジンとしてM5.0以上で作動し、大気圏外ではロケットエンジンとしてM25で作動するという極超音速複合予冷空気呼吸ロケットエンジンだ。2つのエンジンの仕組みを両立させる為に重要なのは、高温で流入してくる空気を如何に管理するかが重要で、リアクション・エンジンが開発した革命的な冷却装置「プリ・クーラー」は、1,000度Cの高温空気を、たった1/100秒で-150度Cまで冷却できると言う。
参考:リアクション・エンジン製の空気吸入式ロケット「サーブル」の試験始まる

英国防省のスポークスマンは、極超音速推進システムの開発は世界的な関心事で、過去、英米等の航空戦力は、敵対国に対し圧倒的優位性をもち、敵対国空域へのアクセスは比較的容易だったが、進化した防空システムの登場により、敵対国空域へのアクセスが困難になった。

出典:Public Domain イラク戦争に参加するGR.4

再び、敵対国空域へのアクセスを取り戻すには、進化した防空システムをM4.0以上のスピードで「回避」するというもの1つの方法だと語った。

本当に「サーブル・エンジン」の開発が順調に進むのか未知数だが、もし開発に成功すれば、英国の第6世代戦闘機テンペストは「極超音速機」になり「極超音速空対空兵器」を搭載することになるのだろうか?

これまでも英国は、航空機の速度に革命を起こす「ジェットエンジン」の概念を発明し、空母の運用を一変させた「アングルド・デッキ」を考案し、実用的な「VTOL機」を世界に先駆けて実用化してきた。

もしかしたら、この革命的な「サーブル・エンジン」を本当に実用化してしまうかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Jason Wells / stock.adobe.com

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 19日

    サーブル・エンジンか、パンジャドラムの香りがそこはかとなく・・・・。

    1
      • 匿名
      • 2019年 7月 19日

      挑戦の無いところに結果は無いですよ。

    • 匿名
    • 2019年 7月 19日

    プリ・クーラーは冷却材に液体ヘリウムを使うそうですが、ヘリウムの密閉に高度な溶接技術が必要みたいで、かなり高額になりそうな予感がします。核融合でも問題になっているヘリウムバブルによる金属脆化がどの程度影響するのかも気になりますが、実戦配備可能な水準の量産化と保管性が保たれるのか、興味があります。

    1
      • 匿名
      • 2019年 7月 20日

      訂正
      液体ヘリウムではなく、気体のヘリウムのようです。

  1. サーブル・エンジンでマッハ5が可能なのはすばらしいですが
    機体の熱はコントロール可能なのでしょうか
    Mig25はマッハ3で機体をアルミではなくスチールにしましたが
    レドーム、主翼、動翼のエッジからエアーを出すなど新たな冷却技術が必要ですが
    ステルスとの兼ね合いが気になるところです

    1
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