軍事的雑学

英海軍が頭を抱える問題、原潜用原子炉「PWR2」の欠陥と退役済み原潜の処分費用

英海軍のヴァンガード級原子力潜水艦は核燃料交換が不要な原子炉「PWR2(コアH)」を搭載しているにも関わらず、核燃料の交換が行われており予定よりも9ヶ月以上遅れている。

参考:UK SSBN refuel runs behind schedule

英海軍の原子力潜水艦が搭載する原子炉「PWR2(コアH)」と退役済み原子力潜水艦の処分問題

英国の核戦略を支えるため建造されたヴァンガード級原子力潜水艦は核燃料交換が不要な原子炉「PWR2(コアH)」を搭載しているが、1番艦「ヴァンガード」は原子炉の核燃料被覆管に破損が見つかり1次冷却水から低レベルの放射能が検出されたため、予定されていた大規模なオーバーホールを前倒しして核燃料の交換を行うことになった。

2015年12月にドックに入ったヴァンガードはオーバーホールとは別に約2億ポンド(約260億円)の費用をかけて核燃料交換を進めており、当初の予定では2019年半ばに全ての作業が完了するはずだった。しかし2020年3月になってもヴァンガードはドックから出渠していない=予定よりも9ヶ月以上遅れていることが確認されたと英国のジェーンズが報じている。

出典:LA(phot)Mez Merrill / MOD / OGL v1.0 ヴァンガード級原子力潜水艦

そもそもヴァンガード級原子力潜水艦の原子炉「PWR2(コアH)」は建造後に行われた1回目のオーバーホール時に搭載されたもので、コアHに変更することで以降の核燃料交換が不要になりライフルサイクルコストが抑えられるという触れ込みだったが実際には多くの問題を抱えており、2回目となる今回の核燃料交換によって同艦の原子炉に関係する総費用は予定の倍以上に膨らんでいる。

特に原子炉「PWR2(コアH)」の安全性については2011年に英国の国防原子力安全規制当局が提出した報告書の中で、コアHの密閉式1次冷却水機構は構造的な故障に対する堅牢性が低いため民間原子炉の安全基準と比較した場合、冷却水を喪失するような事故に対して脆弱だと警告しているのだが、この問題に対処するには原子炉自体の設計をやり直す必要があるため英海軍は何も対策を講じていない可能性が高く、結局ドレッドノート級原子力潜水艦用に新しい原子炉「PWR3」を開発したのは上記のような問題が影響しているのかもしれない。

出典:Royal Navy / OGL v1.0 ドレッドノート級原子力潜水艦用

さらに付け加えるなら英国は1980年以降に退役した20隻もの原子力潜水艦を1隻も廃棄しておらず、その内9隻は核燃料を搭載しまま放置しており、このような退役済みの原子力潜水艦を保管するためだけに5億ポンド(約650億円)以上の費用を投資中で廃棄が行われない限り保管にかかる費用は右肩上がりに増えていく。

この退役済みの原子力潜水艦を解体して廃棄するために必要なコストは1隻あたり約1億ポンド(約130億円)と言われており、保管中の全てを廃棄するには約20億ポンド(約2,600億円)もの大金が必要なので、これと比較すれば廃棄せず保管しておく方が経済的に優れた選択とも言えなくはない。

しかし核燃料を搭載しまま放置している潜水艦の管理は核燃料を除去済みの潜水艦より手間もコストかかる上、原子炉管理のため原子炉を扱える機関要員を潜水艦の中に常駐させなければならず、このような高度な技術を持つ要員を無駄にしているという批判もある。

そのため英海軍も重い腰を上げ、原子炉に核燃料を搭載したままの9隻から核燃料を除去する作業を2023年から始める計画を進めているが、英海軍はドレッドノート級原子力潜水艦を調達中なので保管リストにヴァンガード級原子力潜水艦が追加される日もそう遠くはなく、そうなれば再び核燃料を除去する費用が必要で保管にかかる費用も今以上に必要になり英海軍の予算を蝕んでいく。

このような問題は原子力潜水艦を保有する国の共通した悩みだが、米海軍だけは退役したロサンゼルス級原子力潜水艦から原子炉を取り出し処分し続けているため、まだ優秀だと言えるかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:POA(Phot) Tam McDonald / OGL v1.0 ヴァンガード級原子力潜水艦4番艦「ヴェンジャンス」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 24日

    一方ソ連は日本海に捨てた。保管してるだけマシ・・・?

    • 匿名
    • 2020年 3月 24日

    一方ロシアは原子炉を海に捨てた
    俺は核アレルギーではないが作るならせめて廃棄予算確保した上で作ってくれよ…
    核関連のあれこれって民間も軍事もあまりにも後世に丸投げ過ぎるだろ

    • 匿名
    • 2020年 3月 24日

    大陸プレートが潜り込む場所に、コンクリで埋めた原潜を沈めるのが一番無害な処理方法に思えるのだが、人類の寿命を1万年と考えれば。

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    原潜欲しがる君は先々のことまで考えてないからね、
    ロシアみたく無人の海域に投棄とかできない国なんだから。
    テクノロジーを極めて、原潜に代わりうる潜水艦を開発するほうが現実的かもよ

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    原潜は金食い無視だってはっきり分かんだね

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    原子力潜水艦は現代の戦艦ですからね
    最強の兵器、なんて物は無いが敢えて挙げるなら原子力潜水艦になってしまう
    戦術面でも戦略面でもその他の兵器を大きく上回る能力を発揮します

    そりゃ莫大な予算を掛けても保有したいと考えるでしょう
    ディーゼル機関の在来潜水艦などただの可潜艦に過ぎない(小林氏、中村氏談)のだから

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    潜水艦を欲しがっているオーストラリアが引き取るってことは・・・ないですね。
    (笑)

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    https://www.afpbb.com/articles/-/3012053
    この辺の開発が結実するかどうか、ですね。
    願わくは日本が作って欲しい。

    • 匿名
    • 2020年 3月 25日

    英国で退役原潜が放置(てか存置)ってことは、日本が原潜持っても同様の事になる?
    オーストラリアは英国に退役原潜の燃料保管を僻地で引き受けるよって言えば、原潜作ってもらえるんじゃ。

    ロシアが日本海に沈めた退役原潜の放射性物質の流出状況は、日本はモニタしてるんでしょうか?
    (結果が問題無いレベルならば、福1の処理水はタンカーに積んで大洋放流て手もある)

      • 匿名
      • 2020年 3月 25日

      福一と原潜じゃ放射線レベルが違いすぎるだろw 

      • 匿名
      • 2020年 3月 26日

      韓国も原潜欲しがっていますね。

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