米国関連

予想を超えるダメージ蓄積?米空軍、可変翼爆撃機「B-1B」維持を断念か

米空軍参謀総長のデービッド・ゴールドファイン氏は9月17日、爆撃機「B-1B ランサー」を手放す可能性について示唆した。

参考:Goldfein Forecasts B-1 Cuts, More B-21s

半数以上のB-1Bを計画よりも早く退役させ、予算を他の爆撃機へ回す?

米空軍は爆撃機「B-1B ランサー」の退役を前倒しすることで「再整備」に掛かるコストをカットし、現在開発中のステルス爆撃機「B-21 レイダー」導入スピードの引き上げや、爆撃機「B-52 ストラトフォートレス」のエンジン換装に、より多くの予算を投資する可能性について示唆した。

米空軍参謀総長のデービッド・ゴールドファイン氏は、中国の脅威に対し太平洋上の長距離飛行や、米国以外の国に爆撃機が存在しないことを挙げ、米空軍における爆撃機の需要は非常に高く、将来、より多くのステルス爆撃機「B-21 レイダー」が必要になると訴えている。

出典:public domain

米空軍は現在、中東やアフガニスタンで酷使し続け、機体構造に重大な問題を抱えている爆撃機「B-1B ランサー」を、もう一度飛べるようにするためのメンテナンスを行おうとしているが、B-1Bの機体構造に蓄積したダメージは予想を超え、これを元に戻すためのコスト負担が問題になっている。

そもそもB-1Bは、高高度を高速で飛行するように設計されたB-1Aが原型となっており、これを低高度を高速で飛行するように設計変更したものがB-1Bで、どちらの機体も可変翼の主翼を後退(空気抵抗減少)させることで高速飛行を行う想定だった。

しかし、米空軍がB-1Bに求めた実際の任務の多くは、可変翼の主翼を後退させることなく、空気の密度が高い中高度を亜音速で飛行する任務で、これはB-1Bの可変翼構造に長期間ストレスを与え続ける結果になってしまった。

以上の理由から、米空軍は機体構造に激しいダメージが蓄積したB-1B=元に戻すのにコストが掛かるB-1Bについては退役させ、浮いた予算でB-52のエンジンを、燃費の良い新しいエンジンへの換装スピードを引き上げることで、B-52運用に必要になる空中給油機の運用コスト削減が早まり、結果的に多くの予算が節約できる。

出典:public domain

このように爆撃機運用に掛かるトータルコストを削減することで、ステルス爆撃機「B-21 レイダー」購入予算が、今以上に確保しやすくなるため、より早く、より多くのB-21を調達することが出来るという話だ。

もしこの計画が実行された場合、61機あるB-1Bが、どれだけ退役することになるのかは不明だが、7月30日、共和党上院議員マイク・ラウンズ氏は、空軍が保有する61機のB-1Bの内、全ての任務を完全に遂行できるは6機しかないと明らかにし、米国下院議会によれば、現在15機のB-1Bが再整備中で、39機のB-1Bが機体構造等の問題により飛行を停止していると公表している。

このような状況を踏まえると、恐らく半数以上のB-1Bが退役に追い込まれることになるかもしれない。

B-1BやB-2Aは、B-21の量産ととも退役することが確定(現時点)しているが、最古参のB-52については、今後も退役すること無く運用が継続される。

生き残ったB-52と、退役するB-1B・B-2Aの運命を分けたのは、両機を特徴づける技術(可変翼機構・ステルス性能)の採用であり、革新的な技術の採用が結果的に寿命を縮めるという、とても皮肉な結果になってしまったと言えなくもない。

 

※アイキャッチ画像の出典:

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    B-52とかTu-95は本当に寿命が長いけど機体構造の問題は出てないんですかね…

    1
    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    またひとつ、可変翼ロマンが消える。

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    やっぱり、高度な技術=長続きする技術、とは言えないって事が改めて明らかになっちゃいましたな。
    素材技術とかがもっと進化すればステルスはもしかすると、と思わんでもないけど、可変ギミックは「複雑な構造物程壊れ易い。可動式なぞ以ての外」って経験則そのままだし、やはりダメだったかと。

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    元々冷戦終結で使い道無かったから使い潰しただけマシなのかもしれない
    しかしB1でCAS任務とか当初の開発者は何を思うんだろうw

      • 匿名
      • 2019年 9月 21日

      当初の想定は兎も角、B-1はB-52よりも高速で搭載量も多いので、CAS任務においては即応性や攻撃目標数で優位で便利だったとか
      それ故に、B-52以上に酷使されて構造寿命を食い潰してしまった訳ですが
      更には、B-52は砂漠に多数の機体が保管されており、予備部品は勿論、機体その物を引っ張り出して来て再就役させられるという裏技も有るので……

        • 匿名
        • 2019年 9月 22日

        デビスモンサンからリストアするの、発掘戦艦っぽいですよね。
        ストラトフォートレスなので発掘成層圏要塞なわけですが、B-1の退役が早まるなら不足分を埋めるためにB-52の発掘も視野に入りそうです。

        B-21が予定通りIOC獲得しても、1機5億ドル程度はかかるしすぐにフル機能が使えるわけでもないので、B-52を1機数千万ドル+数年かけて復帰させても割に合いそうです。

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