米国関連

機体寿命は残りわずか? 米空軍、爆撃機「B-1B ランサー」維持ため低空飛行を禁止

米空軍が開発した可変翼の大型爆撃機「B-1Bランサー」は、機体がこれ以上疲労するのを防ぐため、より高く、より遅く飛行するよう運用方法を変更する。

参考:Aging B-1 Bomber May Soon Have to Restrict the Way it Flies

もう超低空飛行は行わない?少しでもB-1Bの寿命をまもるための選択

1974年に初飛行したB-1A(B-1Bの原型)は元々、高高度と低高度の双方を高速(最高でマッハ2.0)で飛行できるよう設計されていたが方針の変更(大型爆撃機よりも弾道ミサイルや巡航ミサイルの開発・配備を優先)により調達が中止されてしまった。

出典:public domain B-1Aの試作機

その後、長距離戦闘航空機として復活したB-1Aは、B-52の代わりに通常兵器を搭載し、超低空飛行から高速で侵入し爆撃を行う仕様への変更に伴い、最高速度の引き下げや、超低空飛行中の乗り心地を改善するためのフィン(低高度ライド・コントロール・ベーン)が追加されるなど多くの修正が加えられた。

しかし、実際の戦場でB-1Bに求められたのは「一撃離脱」ではなく、大量の通常兵器を搭載し、戦場を超低空で何時間も飛行しながら前線部隊の要求に応じて近接航空支援を行う役割だった。

特にアフガニスタンやイラクでの長距離近接航空支援任務は、B-1Bの機体に致命的なダメージを与え続け、その結果、機体の構造的寿命を使い果たすことになる。

米国下院議会の委員会は「現時点で、作戦任務を完全に遂行可能なB-1Bの数は、一桁に過ぎない」と話し、B-1Bの状況が悪化していることを認め、さらに必要な訓練に使用する十分な量のB-1Bがなく「B-1B搭乗員の練度を維持することが難しくなっている」と指摘した。

出典:Oletjens / CC BY-SA 3.0 2004年の飛行中のB-1B

戦略軍司令官のジョン・ハイテン空軍大将(当時)は上院軍事委員会の公聴会に出席し、資金さえあれば保守点検施設でB-1Bの問題を解決できると訴え、そのための資金を空軍に与えるよう要請しているが、あと20年、B-1Bを飛ばすためには機体構造の大幅な補強が必要で、主に「主胴体、主力付け根部分、可変翼機構、昇降舵」についての補強を行う必要があり、この費用をどう捻出するのかが問題となっている。

現在の米空軍参謀総長はB-1Bを維持するためにコストを掛けるのは勿体ないと主張しており、機体寿命が付きたB-1Bは順次退役させ、浮いた予算でB-52のエンジンを燃費の良い新エンジンへの換装を前倒しすれば、B-52の運用コストを劇的に節約(B-52へ空中給油を行うコストが削減できると言う意味)でき、結果的に空軍予算のコスト削減に繋がると主張しており、B-1Bの寿命延長策は空軍の中でもあまり支持が得られていない。

その上、米空軍は今後5年間の予算を約300億ドル(約3兆2,000億円)を削減し、将来の新しいプログラムへ投資すると発表したが、問題はこの資金を何処から捻出するかだ、米空軍は大型爆撃機のB-1BやB-2、攻撃機A-10、早期警戒管制機E-3などの老朽化し航空機を2023年までに全機廃止することで、資金を捻出する案を検討しているという噂もある。

B-1Bを運用する現場部隊は、機体寿命延長が望めない状況下で、少しでもB-1Bを長く飛ばすため「TERFLWモード(低高度地形追従機能)」をOFFにすることにした。

この機能は、超低空飛行を安全に行うため、B-1Bの機首に搭載されたレーダーで地形を読み取り飛行を自動調整する機能で、これをOFFにするということは、機体構造にストレスを与える超低空飛行を行わないという意味だ。

これはあくまでも実戦以外で超低空飛行を行わないという措置だが、超低空飛行の訓練すら禁じて、残された少ない機体寿命を守らなければならないほど、B-1Bの機体構造にはダメージが蓄積していると言う証明でもあり、この状況が続けば開発中のステルス爆撃機「B-21 レイダー」が登場する前にB-1Bは、機体寿命が尽きて退役に追い込まれるだろう。

米空軍はB-1Bについて、海軍の艦載機40機が運搬できる爆弾量をB-1Bなら1機で賄うことができ、高度な防空システムが存在しないアフガニスタンやイラクでは長距離を高速で飛行できるB-1Bが、B-52やB-2よりも役に立ったと大きな評価を与えている。

 

※アイキャッチ画像の出典:Fotoluminate LLC / stock.adobe.com

130億ドルの価値を示せるか? 順調なら2023年頃に空母「ジェラルド・R・フォード」戦力化前のページ

日本、F-35A国内組立価格を93.7億円まで圧縮に成功!最終組立ラインでの生産継続へ次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    欠陥発覚から約1年、米海軍の新型空母「ジェラルド・R・フォード」が戻ってくる

    米海軍は、空母ジェラルド・R・フォードの動力部問題について修正が完了し…

  2. 米国関連

    豪州の希望が叶う?現実味を帯びてきた「B-21レイダー」輸出の可能性

    オーストラリアが希望していたステルス爆撃機「B-21レイダー」導入がに…

  3. 米国関連

    米外交官、独裁者がやると言ったことを民主主義国家は疑わず信じるべき

    米外交官のロバート・ピアソン氏は「独裁者がやると言ったことを民主主義国…

  4. 米国関連

    余裕のない米造船業界、海軍はメンテ作業遅延で約7.5隻分相当する原潜を失う

    米潜水艦部隊の司令官は「メンテナンス作業の遅れによって昨年約7.5隻分…

  5. 米国関連

    バイデン政権、ウクライナ支援のため国防総省の資金活用を検討か

    バイデン大統領はウクライナ支援の継続について「必要な資金は別の方法でも…

  6. 米国関連

    米国が長距離攻撃兵器を含むウクライナ支援パッケージを準備中、GLSDB提供か

    ロイターは長距離攻撃兵器のGLSDB(地上発射型小口径爆弾)が含まれる…

コメント

    • 疲労限度
    • 2019年 12月 12日

    空軍大将って恐らく理系では無いのですね。
    指導層の質も落ちているようですね。
    恐らく彼は何が起きているのか未だにわかってないでしょう。

    アルミは疲労限が無いため繰り返し荷重により歪みが蓄積しやがて必ず破壊する。
    航空機の機体はアルミ複合合金。
    米軍の技術者によれば既に構造部材の最弱部位においてその歪みは破壊の直前まで蓄積していると警告している。
    にも関わらず『補強すれば大丈夫』と述べているが、根拠が希薄である。
    いくら予算があっても疲労の蓄積した機体を補強しようなどと普通は考えない、なぜなら破壊を管理できないから。
    仮に補強したとしても、別の部位で同様に歪の蓄積は続き遅かれ早かれ破壊するしその時期は彼の期待よりもかなり早い。つまり機体寿命は大して伸びない。

    厄介なことに、補強により最弱部位は破壊の予測が不可能な部位に移動する可能性が高い。

    その最弱部位が日常点検できる部位であればまだ観測と日常点検により最悪でも最小のヒビの段階で検知し、その破壊部位の周囲を切り取るなど大掛かりな修復作業で墜落を免れる可能性はある。
    しかし現実的には補強による新たな破壊部位の予測は困難だ。
    『どこで何が起きているか観測できず遅かれ早かれ間もなく破壊する』飛行機などに空軍大将の部下は乗りたくはないだろう。

    • 匿名
    • 2019年 12月 12日

    >空軍大将って恐らく理系では無いのですね。
    >指導層の質も落ちているようですね。

    ジョン・ハイテン空軍大将(当時)は空軍予備役将校訓練課程(AFROTC)出身
    一般大卒(ハーバード大学卒)の工学・応用科学の修士(理学)MBA取得
    士官として入隊・任官された後、専門は航空宇宙とサイバー戦
    軍務の傍らイリノイ大学・ハーバード大学・空軍指揮幕僚大学で教鞭取ってたガチガチの理系

    本来は空軍宇宙軍団・戦略軍畑で軍事衛星・大陸間弾道ミサイル他、宇宙関連システム運用任務に就いて
    ASAT(対衛星)BMDはじめとする航空宇宙兵器の開発整備を担当してた上級エンジニア

    だが、軍歴の途中でB-1Bの要員訓練部隊指揮下に置いたり国防総省に派遣され調達・整備、延命にも関与し、
    アフガン・イラク戦では司令部スタッフとして長距離近接航空支援任務に就くB-1Bの実運用も支援していた
    このためB-1Bの支援能力を知悉しており、B-1Bを運用する現場部隊の声を代弁したのだろう

    ただし老朽機処分前提のリストラ派であることも踏まえると、代替する新型機B-21レイダー整備が軌道に乗るまでの間は
    「過度な戦力削減は避け、長距離近接航空支援任務に就ける爆撃機勢力を最低限延命維持すべき」という常識に基いて
    一種の安全策を主張したものと見るべきだろうね

    2
    • 匿名
    • 2019年 12月 12日

    >空軍大将って恐らく理系では無いのですね。
    >指導層の質も落ちているようですね。

    ジョン・ハイテン空軍大将(当時)は空軍予備役将校訓練課程(AFROTC)出身
    一般大卒(ハーバード大学卒)の工学・応用科学の修士(理学)MBA取得
    士官として入隊・任官の後、専門は航空宇宙とサイバー戦
    空軍宇宙軍団・戦略軍畑で軍事衛星・大陸間弾道ミサイル他、宇宙関連システム運用任務に就いて
    ASAT(対衛星)BMDはじめとする航空宇宙兵器の開発整備を担当してた上級エンジニア
    軍務の傍らイリノイ大学・ハーバード大学・空軍指揮幕僚大学で教鞭取ってたガチガチの理系

    ただし軍歴の途中でB-1Bの要員訓練部隊指揮下に置いたり国防総省に派遣され調達・整備にも関与し、
    アフガン・イラク戦では司令部スタッフとして長距離近接航空支援任務に就くB-1Bの実運用も支援していた
    このためB-1Bの支援能力を知悉しており、B-1Bを運用する現場部隊の声を代弁したのだろう

    大将が老朽機処分前提のリストラ派であることも踏まえると、
    「B-1B代替する新型機B-21レイダー整備が軌道に乗るまでの間、爆撃機勢力の過度な戦力削減は避け、
    長距離近接航空支援任務に就けるB-1を所要最低限は整備し延命維持すべき」という常識に基いた
    一種の安全策を主張したものと見るべきだろうね

    • 匿名
    • 2019年 12月 13日

    B-1Bの近接支援ってどの程度の高度でやるんだろうな?
    MANPADSのせいで高高度での作戦が増えたと聞いてたけど
    サーチアンドデストロイをライトニングポッドでやるわけじゃなくて、地上部隊が交戦中の敵に攻撃したり、偵察機が見つけた敵に攻撃するなら、割と高高度からでいけるんだと素人的には考えてたんだけど
    そういう運用でもできそうだからそうしますという事なのか?
    AC-130の一番新しいタイプも高高度からのミサイル攻撃重視にシフトしてたし、代替手段はありそうだよね

    • Rex
    • 2022年 5月 12日

    B21って想像図しかできてない機体でどう補うというのか。どう考えても間に合わなさそうだし、しばらくはB52で補っていくしかなさそう。まぁ、中国相手なら爆撃機の出番少なさそうではあるわな。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  4. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP