軍事的雑学

空母不足が続く米海軍、空母打撃群を「空母なし」という異例の編成で派遣

米海軍の深刻な空母不足は、ついに空母打撃群を「空母なし」で出撃させる状況にまで悪化してしまった。

参考:Escorts Deploy Without USS Harry S. Truman as East Coast Carrier Shortage Persists

電力システムのトラブルで空母「ハリー・S・トルーマン」がダウン

米海軍の原子力空母「ハリー・S・トルーマン(10万3,800トン)」を中心とする空母打撃群は、空母不在が続く大西洋・地中海方面へ展開予定だったが、空母「ハリー・S・トルーマン」がトラブルでダウンし、空母が「ない」という異例の編成で母港、ノーフォーク海軍基地から海外展開のため出撃していった。

これは8月末、空母「ハリー・S・トルーマン」の艦内電力システムに深刻なトラブルが発生し、運用することが不可能になったためで、担当者によれば、海軍は現在、空母「ハリー・S・トルーマン」の問題解決に取り組んでいると話しているが、修理にどれほど時間がかかるのかという質問に「分からないので答えられない」と話したという。

本来なら、空母「エイブラハム・リンカーン」が地中海に展開しているはずだったが、イランによるホルムズ海峡での問題に対処するためアラビア海へ移動し、空母「ロナルド・レーガン」と、空母「セオドア・ルーズベルト」は太平洋・インド洋方面に配備されているため、大西洋・地中海方面には空母が1隻も展開していない。

米海軍が保有する、残り7隻の空母は以下の通りだ。

出典:public domain 建設中に乾ドックに座っているジェラルドR.フォード

空母「ジェラルド・R・フォード」は、2017年に就役したものの、動力部の欠陥を解決するため1年以上ドックで過ごし、最近、やっと海へ戻ってきたばかりだが、電磁式カタパルトや、艦内エレベーターの不具合が未解決のままで、いつになれば本当の就役を果たすのか誰にも分かっていない。

空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」と、空母「ニミッツ」はドックから海に戻ってきたが、再訓練のため2020年初頭までは海外への展開が不可能で、空母「カール・ビンソン」は海外展開を終えて定期メンテナンス中、空母「ジョージ・ワシントン」と、空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」はオーバーホール中で、2021年まではドックの中で過ごすことが確定している。

空母「ジョン・C・ステニス」は任務から戻ってきたばかりで、今後はオーバーホールを行うためのドックが空くのを待ちながら、艦載機パイロットの空母着艦資格取得を支援する活動を行う予定だ。

このように空母「ハリー・S・トルーマン」代わりに、派遣可能な空母の「余裕」は、現在の米海軍には存在しない。

中国と艦艇の数を競えば米海軍は自滅するだけか?

現在、米海軍は艦艇のメンテナンスプログラムに重大な問題を3つ抱えている。

1つ目は、中国の急速な海軍力拡充に対抗するためトランプ大統領は米海軍の保有艦艇276隻を、355隻にまで拡充することを決定したが、予算不足という根本的な問題もさることながら、国内の造船能力不足=ドックと造船技術者の不足が、この計画の実現を妨げており、新造艦が増えれば増えるほどメンテナンスのために割けるドックと技術者の数が減るという悪循環に陥っている。

2つ目は、米海軍の艦艇とドックの施設が全般的に老朽化し、メンテナンスに要求される時間が増加する傾向にあり、メンテナンスプログラムの進行を妨げている。

3つ目は、大型化で複雑な「原子力空母」のメンテナンス(オーバーホールを含む)を行える施設が限られている。

この3つの問題が相互に作用し、問題を大きくしている。

例えば、空母「ジェラルド・R・フォード」の欠陥修正や、今回の空母「ハリー・S・トルーマン」のトラブル解消のために、万が一、ドック入渠が必要になってもドックに空きはなく、その場合、ドックが空くまで待機するか、ドックの中でメンテナンスを行っている空母を一旦、海へ戻す必要があり、どちらにしても予定が狂うのは確実だ。

米海軍の中でも、世界一の造船能力を誇る中国と艦艇の数を競っても米国が不利なのは明白で、トランプ大統領が進める空母12隻体制、355隻体制を危惧する声が高まっている。

出典:public domain 自律型軍用無人船の実験艇「シーハンター」

そのため米海軍内部では、大型艦建造に投資するのではなく、小型艦や無人水上の建造に投資しコストを圧縮、浮いた予算をドックやメンテナンス施設へ投資し、既存の艦艇に対するメンテナンスプログラムの効率化を図ったほうが、結果的に艦艇の稼働率向上に繋がり、より現実性の高い戦力強化になるだろうという意見がある。

もし、このままトランプ大統領が進める空母12隻体制、355隻体制実現に突き進んだ場合、数字上では中国と張り合えても、実際に稼働している艦艇は1/3を切ることになり、ノーフォーク海軍基地や、サンディエゴ海軍基地を訪れれば、メンテナンス待ちの豪華な艦艇群をいつでも見学出来るようになるかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain ニミッツ級空母8番艦「ハリー・S・トルーマン」

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    需要不足どころか供給不足なんて贅沢な悩みだ
    10年かけるつもりがあれば解決可能な問題だ
    アメリカは出生率も高いし人口減の恐怖が薄いしな

    • wyuki
    • 2019年 9月 19日

    正面装備を揃えて悦に入るのは、御国を問わず同じですね。
    肝心・要なのは、それ無くして何も行えなくなる後方支援体制の筈なのに。

      • 匿名
      • 2019年 9月 19日

      後方支援体制を整えても誰もビビらんからな

      中国にしたって、今猛烈な勢いで建造している艦艇の更新時期になったら、米国以上にヤバい事態になる
      米国と違って、強烈な少子高齢化もプラスでな

    • やまちゃん。
    • 2019年 9月 19日

    横須賀で空母修復出来るんだし、出来る修理は日本が手掛けても良いのではないか?
    もちろんもこれは妄想ネタということでお願いしたい。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    空母打撃群から空母抜いたらイージス艦3隻で構成する水上戦闘群(SAG)に攻撃原潜足しただけになるので、通常運行と大差ないですね。
    アメリカの原子力空母を建造、長期オーバーホール(13年から25年に1回、約4年かけて実施する燃料交換RCOH含む)ができる設備はニューポート・ニューズ造船所しかなく、建造中のフォード級ジョン・F・ケネディ、RCOH中のニミッツ級ジョージ・ワシントンでドックは最低二つは数年間空かないですし、他のニミッツ級はRCOHより短い期間とはいえドックを占有するので空き待ちになる状況は厳しいですね。

    ニミッツ級は40年間かけて10隻建造したので、建造時期によって仕様が異なることも長期化の一因でしょう。
    とは言え、スーパーキャリアを建造、もしくはメンテナンスできる設備を別の場所に作るにも相応の費用がかかりますし、投資してもメンテナンスの仕事はあっても、新規建造の仕事は数十年に10隻程度、となかなか厳しい状況です。

      • oominoomi
      • 2019年 9月 20日

      炉心交換不要のジェラルド・R・フォード級への置き換えに期待ですね。
      ニミッツ級の末娘ジョージ・H・W・ブッシュがRCOHを終えるのが2030年代半ばでしょうか?
      それまでの辛抱ですね。気の長い話ですが。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    アメリカの造船業界は戦後一気に衰退したからねぇ……

    • ユウジタチバナ
    • 2019年 9月 19日

    造船王国 ニッポンで造ればイイのに。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    ジェラルド・R・フォードはいつまでニートやってるかな

      • 匿名
      • 2019年 9月 19日

      最低でも弾薬エレベーターが全て実装されて前級同等に動くことが確認でき、電磁カタパルトと電磁アレスティングワイヤも問題無いことが確認されるまでだな
      全然ダメじゃネーか、おい

        • 匿名
        • 2019年 9月 20日

        動画上がってたけど弾薬エレベーターのテスト、ミサイル一発を下ろして
        扉の前で待ってる乗員がチンタラ引き出して持っていって
        また運び入れて甲板へ上げるってな作業を延々とやってた
        乗員の訓練も兼ねてるんだろうけどこんなんでいいのか??と正直思ったよ
        ああいう試験って何千何万回ってやるだろうにいつ終わるんだろうな…

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    群司産業に金突っ込めばすむ話だが、流石に財政赤字が大きすぎるアメリカも根本的に軍の再編を見直さなければいけない時期に来てしまった。国債を中国に買って貰ってるわけだし。日本の財政赤字もアメリカ国債を償却したら一気に・・・って話を橋本総理がしたら凄いことになりましたね(笑)

    戦争をするには必要なモノが3つあるそれは、『マネー』『マネー』『マネー』
    兵隊雇うのに金がいる、兵器買うのに金がいる、訓練するのに金がいる、整備するのに金がいる、開発するのに金がいる、色んな所に金がいる。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    日本では空母をメンテナンス不可能。
    原子炉交換や核燃料交換出来る施設に空母4隻以上停泊させるスペースが必要。度々日本にメンテナンスのため空母が寄港してくる。空母4隻のスペースの他にイージス艦数隻、計10隻の軍艦を置けるスペースに、費用20兆円くらいかかりそう。

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    日本では空母をメンテナンス不可能。
    原子炉交換や核燃料交換出来る施設に空母4隻以上停泊させるスペースが必要。度々日本にメンテナンスのため空母が寄港してくる。空母4隻のスペースの他にイージス艦数隻、計10隻の軍艦を置けるスペースに、費用20兆円くらいかかりそう。
    空母2隻で1セットなんです。理由は、1隻メンテナンスしてる間に代行で代わりの空母が日本に配備されるから。空母から編成される艦隊2個分、20隻の軍艦が停泊出来るスペースが本当に必要。

    • ライトニング空母の出番
    • 2019年 9月 19日

    今こそ、強襲揚陸艦とF-35Bの出番です。
    いずも級やキャンベラ級強襲揚陸艦も運用できるようにしないと。
    チャクリ・ナルエベトは、無理かな?シンガポールのF-35Bと組合せられれば、なあ。

      • oominoomi
      • 2019年 9月 20日

      ライトニング空母はそれまでの軽空母の存在意義を一変させる、まさにドレッドノートに匹敵する存在だと思います。
      米海軍も、不足する空母を強襲揚陸艦で補う運用を考えているようですね。
      これに日豪が加われば、「アメリカ」「いずも」「かが」「キャンベラ」「アデレード」の5隻でスーパーキャリア1隻分程度の戦力にはなるんじゃないでしょうか?

    • 匿名
    • 2019年 9月 19日

    フォード級の建造を三隻に留めたのも、ドック不足が原因か….その前に、ネームシップの就航はいつになるのやら。

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    これこそが、今のアメリカの衰退を象徴しているんではないだろうか?
    一つ一つはやむを得ない事情にしろ、それが方々で発生することにより、連鎖し互いに相互に干渉しあい
    機能不全に陥っていく。
    お金以上に今、この軍事分野に優秀な人材が集まらないということがひょっとしたら最大の原因かもしれませんね。
    民主主義国家では皆、職業選択の自由がある。それが故、若く優秀なぞ脳を持った人材は魅力的に感じられない分野には人が集まらない。
    原子力の分野も同様ですね。日本の大学で原子力工学科の偏差値はさほど高くない。
    その結果は、今の現状を見ての通り、技術の停滞・・・ということになるでしょう。高速増殖炉や核燃料再処理のように。
    アメリカにおいても、優秀な人材は情報や金融、生化学分野に集まっているのを見れば、軍需産業の技術的停滞も納得できるのではないか?

    • 匿名
    • 2019年 9月 20日

    トランプ大統領はMMTを弄り倒しつつもMMTと同じ理屈に沿って経済政策しているみたいだから
    他所の先進国と比べるとだいぶマシになりそうね、これからは
    けど1979年から世界的に流行りだした我田引水と経済音痴による国家運営の尻拭いはそう簡単には達成できんわな

    • 匿名
    • 2019年 9月 21日

    造船所やメンテナンスドックって
    諜報工作とか沢山出来そう
    セキュリティにも神経使いそう

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