米国関連

豪州のアタック級潜水艦より安い? 米海軍、バージニア級原潜ブロックV建造に3.8兆円を投資

米海軍は12月2日、ゼネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボートに対しバージニア級原子力潜水艦9隻、総額222億ドル(約2.4兆円)の契約を与えたと発表した。

参考:US Navy awards largest-ever shipbuilding contract to Electric Boat for new attack submarines

バージニア級原潜の最新型ブロックV建造に掛かる費用は総額3.8兆円

この契約で建造されるバージニア級原潜ブロックVは、新しく「バージニア・ペイロード・モジュール(VPM)」を組み込むことで全長が約140m(約30m延長)になり、水中での排水量は7,800トンから10,200トンへ増えることになる。

新しく組み込まれる「バージニア・ペイロード・モジュール(VPM)」とは、オハイオ級ミサイル原子力潜水艦が引退しコロンビア級ミサイル原子力潜水艦が就役するまでの間、失われる大陸間弾道ミサイルの発射機能を補う機能を持っていると言われているが、詳しいことはよく分かっていない。

補足:バージニア・ペイロード・モジュールが提供するのは、あくまでも大陸間弾道ミサイルの発射機能を補う機能なので、水中発射型大陸弾道ミサイル「トライデント」ではなくトマホークか新しく開発される中距離弾道ミサイルを搭載するチューブを備えている可能性が高い。

しかし建造中のブロックV1番艦はVPMを搭載しておらず、2番艦から搭載が予定されており、この契約にはオプションとして10隻目のブロックVが含まれているので、もし米海軍がオプションを行使すれば契約の総額は241億ドル(約2.6兆円)になると予想されている。

出典:public domain 建造中のバージニア級原子力潜水艦

バージニア級原潜ブロックVを建造するゼネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボートはコスト削減のため、88ヶ月(ブロックI)掛かっていた建造スピードを68ヶ月まで短縮し、年間2隻のブロックVを海軍に届けることで44億ドル(約4,900億円)を節約できるらしい。

但し、海軍が購入してゼネラル・ダイナミクス・エレクトリック・ボートに与える機器や装備まで含めると、ブロックVプログラムの総費用は約350億ドル(約3.8兆円)まで膨らむことになり、1隻あたりの調達価格は約35億ドル(約3,800億円)となる。

フランスがリュビ級原子力潜水艦(2,400トン)の後継艦として建造中のシュフラン級原子力潜水艦(5,000トン)は、プログラム総費用が約103億ドル(約1兆1000億円)と言われており、1隻あたりの調達価格は約17億ドル(約1830億円)になり、大きさも価格も、ちょうどバージニア級原潜ブロックVの半分だ。

このニュースにオーストラリアが敏感に反応している。

オーストラリアはコリンズ級潜水艦を更新するため、フランスから次世代潜水艦「アタック級潜水艦」を12隻調達する予定だが、12隻全てを調達するには10年以上掛かり、しかも調達価格が800億豪ドル(約6兆円)掛かると言われており、米国のバージニア級原潜ブロックVと比較して疑問が多いと報じられている。

要するに米国は、調達期間を圧縮することでコストを下げる努力をしているのに、オーストラリアはブロックVの倍以上の時間を掛けて建造し、原子炉を搭載していないにも関わらず調達価格は、ブロックVよりも高価(アタック級1隻の調達価格は5,000億円)だと言いたいのだろう。

出典:海上自衛隊 そうりゅう型潜水艦2番艦「うんりゅう」

バージニア級原潜ブロックVは、基本的な潜水艦の能力以外に対地攻撃能力も備えているため日本の潜水艦(そうりゅう型潜水艦11番艦おうりゅうは643億円)と単純比較はできないが、やはり1隻3,800億円と言うのは高価で、非原子力潜水艦のアタック級が5,000億円というのは法外すぎると言える。

 

※アイキャッチ画像の出典:public domain バージニア級原子力潜水艦ブロックIII ノースダコタ

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コメント

    • 匿名
    • 2019年 12月 05日

    あれこれ腰が定まらないコアラも困ったものですな
    買う以上はお値段以上なものにしたいという要求はわかりますが
    自分で製造できていないから過剰な要求かどうかも判断できていないので新規計画に目移りし
    計画の整合性を自分で破壊してしまっている
    鴨として最適化されてるの……

    3
    • 2019年 12月 05日

    原子力潜水艦を導入するならばフランスじゃなくてアメリカから導入した方が良いな
    売ってくれるかは分からんけど

    3
    • 匿名
    • 2019年 12月 05日

    そもそもオーストラリアは反原子力とかで原潜は導入しないと初めは言ってたんだけど。
    だから日本の潜水艦を購入してアメリカのシステムを搭載する話になってたが、政権交代で国内建造を重視する事になりひっくり返った。

    2
    • 匿名
    • 2019年 12月 05日

    アタック級の調達費用の中には、建造に必要な技術指導や技術移転、建造施設への投資も含まれてたのでは?

    1
    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    アメリカは何十年も莫大な予算と人員を投じて研究開発を続けてきたからこの予算で開発できるのであって、ぽっと出の新興国がまねできると思ったら大きな間違い。
    国内の労働者叩き直すところから始めた方がいいと思うよ。

    • 匿名
    • 2019年 12月 06日

    SLBMを大陸間弾道…と言うのはどうなんでしょう
    クラス分けするのってそんなに一般的でしたっけ?

      • 匿名
      • 2019年 12月 06日

      アメリカのSLBMトライデントはICBMと同等の射程を持っていますが、インドや北朝鮮以外のSLBM運用国の射程もアメリカと同様です。

      ご指摘のとおりSLBMの区分は射程で分けるものではありませんが、現代の運用では安全な自国海域から離れた敵国へ攻撃するため、ICBMと同等の射程が求められ、SLBM=ICBMと考えて良いでしょう。

      アメリカは地上・空中・水中発射型の全てのタイプのIRBMを廃止したため、INF破棄後の対策としてトライデントSLBMを通常弾頭IRBMとして運用することも検討していますが、相手国から核搭載のトライデントと誤認される可能性もあり、実際の運用には課題があります。

      1
    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    フランス人のほうがビジネスの狡智に長けてるよ
    契約後にあれよあれよと価格を釣り上げ、いつの間にか建造までフランスで、と話が変わる
    親方日の丸で育った日本防衛産業じゃ負けて当然

    2
      • oominoomi
      • 2019年 12月 08日

      防衛事業では親方日の丸かもしれませんが、三菱重工や川崎重工自体は厳しい国際競争を戦っている企業です。
      豪への潜水艦輸出はもともとアボット首相からの要請が始まりであり、首相同士の個人的な友好関係から官邸が前のめりになっていただけで、三菱・川崎や海自は技術漏洩を懸念して腰が引けていました。
      武器輸出を焦る必要はないし、そういうあざとい商売のやり方を真似るべきでもありません。

      2
    • 匿名
    • 2019年 12月 07日

    フランスは商魂たくましいし、インドやインドネシアと言った(交渉する際の態度が)ろくでもない国々ともビジネス経験があるからなぁ。
    オーストラリアも(交渉する際の態度が)割ととんでもない国だからフランスに譲って正解だと思う。
    オーストラリアは割と親中の勢力が強いから技術の横流しなども怖いし。

    2
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