北米/南米関連

フランスによる横槍? ブラジル、空母「サン・パウロ」の売却プロセスを突然停止

ブラジル国防省は退役した空母「サン・パウロ」をスクラップとして正式に売出し、最終入札者まで決定していたにも関わらず売却プロセスを突然停止してしまった。

参考:Brazilian Navy suspends sale of aircraft carrier São Paulo

ブラジル海軍の空母「サン・パウロ」売却プロセスが突然停止した背景に潜むものとは?

ブラジル海軍は1990年代に空母「ミナス・ジェライス(元英コロッサス級軽空母)」の後継艦として仏空母「フォッシュ(24,200トン)」を購入、修理や改造を施して2001年に空母「サン・パウロ」としてブラジル海軍に編入したが、購入した時点でフォッシュの艦齢は37年に達しており幾ら改修を行ってもまともに運用するには限界があり、最も問題だったのはフォッシュに搭載されていた蒸気式カタパルト(英国製ミッチェル・ブラウンBS5型)の能力不足や老朽化からくるメンテナンス性の悪さだ。

出典:Public Domain ブラジル海軍の空母「サン・パウロ」に搭載されたA-4スカイホーク

結局、ブラジル海軍が空母「サン・パウロ」をまともに運用できたのは2004年までの3年間に過ぎず、その後は港に留まることが多くなり何度か搭載機器のアップグレードや改修を受けたものの2012年発生した火災事故でブラジル海軍は同艦の運用を諦めることになった。

ブラジル国防省は昨年9月に空母「サン・パウロ」をスクラップとして売り出すための入札を行うと発表、年内に最終落札者を決定して売却プロセスを完了すると言っていたのが、2020年5月にブラジル国防省が売却プロセスを開始した。

空母「サン・パウロ」の最低入札価格は127万ドル(約1.4億円)に設定されており、この入札には計8社が参加したが内7社はブラジル国防省が指定した要件を満たしていないと判断されたため、Mediterranean Ships Breaking社のみが正式な入札者に選ばれたにも関わらず、空母の売却プロセスが突然停止されてしまった。

現地メディアによれば、フランスが建造した空母「フォッシュ」には約900トンのアスベストと重金属が使用されており、フランスとブラジルが締結した契約には空母を解体する際は環境に悪影響を与えないという条件が含まれているため、フランスは契約に含まれていた条件を盾に空母「サン・パウロ」の売却に介入、同艦の解体は設備や技術が整ったEUの造船所で行う事を要求してきたというのが事の顛末らしい。

確かにフランスの要求は契約に基づいたものなので間違ってはいないが、2019年1月に就任したブラジルのボルソナーロ大統領とフランスのマクロン大統領は非常に仲が悪く、特にアマゾンの森林地帯で繰り返し発生する大規模な火災について両者は互いに非難しあう間柄。

出典:Palácio do Planalto from Brasilia, Brasil / CC BY 2.0 大阪サミットでのボルソナーロ大統領とマクロン大統領

アマゾンの森林火災については国際社会からの批判されているが、特にフランスのマクロン大統領は「ブラジルが国連サミットで確約した気候変動対策を守っていない=嘘つき」だと非難してブラジルが加盟するメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの自由貿易協定を阻止すると牽制すると、これ激怒したボルソナーロ大統領はG7が消火活動費用として提供を申し出でた2,000万ドルの受け取りを拒否して「マクロンは自国と植民地の面倒でもみてろ」と応戦。

さらにアマゾンの森林火災についてボルソナーロ大統領は「私への侮辱をマクロン大統領が撤回しない限り応じない」とまで言い出す始末で、全く噛み合わない両者の関係はブラジルとフランスの関係にも影響を及ぼし始めており、フランスがギアナ(仏領)からブラジルに侵攻してくることを想定して作成されたブラジル軍の防衛シナリオがマスコミに漏れ世間を驚かせたことがある。

当然、フランス側もボルソナーロ大統領やブラジルのことを快く思っていないため、案外マクロン大統領の差し金で空母「サン・パウロ」の売却を妨害している可能性も無くはない。

今のところブラジル国防省も海軍も空母「サン・パウロ」の売却プロセス停止の理由や、いつ再開されるのかについて何も語っていないため真相は闇の中だが、もしフランス側の意図的な妨害であればボルソナーロ大統領が黙っていないだろう。

関連記事:空母「遼寧」の二番煎じ?韓国、空母「サン・パウロ」購入を訴える国民請願が登場
関連記事:ブラジルが空母「サン・パウロ」を約2億円で売りに出す、勿論スクラップとして
関連記事:原子力潜水艦を建造中のブラジル、不安要素はフランスとの関係悪化

 

余談だが正直、空母「サン・パウロ」の売却話だけで3回も記事を書くことになるとは思っても見なかった、、、

 

※アイキャッチ画像の出典:CC BY-SA 3.0 空母「サン・パウロ」

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    スクラップになってからの方が話題になってる。
    これはこれでレア。

    16
      • 匿名
      • 2020年 9月 08日

      重金属じゃなくてレアメタルが回収出来たらよかったのにねー

      5
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    変な所に売却されて、遼寧の二の舞にならないようにしてくれ。
    ところでアトランティコは、F-35Bを運用できるだろうか?

    5
      • 匿名
      • 2020年 9月 08日

      就役年考えるとF35の運用可能性を想定してるとは思えないしまず無理、無理やり運用するにしても相当改装しないと運用するのは無理じゃないですかね

      ところで携帯で見てるとやたらと広告が出て広告後の最初の行の字が半分潰れてるのは自分だけかな…
      いや広告が多いのはまだ理解できるけど字が読みにくいのは少し気になる

      4
        • 匿名
        • 2020年 9月 08日

        ブラジルだったら、改造しかねないな。
        表示については、Chromeだと問題無い感じ。

        3
          • 匿名
          • 2020年 9月 09日

          同じく二号。

          うーんそういや、ブラジルとフランスのトップ仲悪いんだっけか。忘れてた。

          2
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    >特にアマゾンの森林地帯で繰り返し発生する大規模な火災について

    これさぁ、ある意味予定調和として受け入れるべき問題だと思うよ
    森林火災は必然的に起こるし、地球温暖化ガーとかアホの心配だと思う
    アマゾンの森林を焼く焼畑農業は確かに問題だけどさ、筋が悪すぎる

    6
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    マクロン氏が大統領だからなのか、元々そうなのかはあまり知らないのですが、対トルコの時にも感じましたがフランスは対応が短気というか何だか子供っぽいですね。

    9
      • 匿名
      • 2020年 9月 08日

      日本だと良いイメージだけど、欧州じゃフランスはよくプライド高いとかいまだに大国気取りとか言われてるしなw

      13
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      ボルセナロもかなりヒドイ。

    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    いまやスクラップ艦サン・パウロが2か国の運命を握っている?
    いろんな意味で、安全を期して、まっとうな場所で解体処理してもらいたいね。

    1
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    3度ある事は4度ある

    3
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    身の丈に合わない買い物はすべきではないのはお金だけの問題ではないということですね。
    買い物の正体を見極められないほどの技術力では欠陥品を掴まされても受け入れ時点で気づけません。
    そして、こういった先輩の行動を他山の石とすることができない国が東アジアにありましてね。
    なんでも日本を軍事攻撃することが夢なのだとか。
    彼らの夢は果たして叶うのでしょうか。

    9
      • 匿名
      • 2020年 9月 11日

      叶って欲しくないなぁ……

    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    日本に押しつけたらもう笑うしかないね。(技術的には文句言えない国として)

    3
    • LLLLL
    • 2020年 9月 08日

    ブラジルさん!今なら近所にカモが居ると思いまっせ!
    多少吹っ掛けても頭おかしいから大丈夫じゃないかな?
    (´・ω・`)

    8
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    蒸気カタパルト絡みで中国の影でもチラついたのかと思ったら全然違ったw
    ボルソナーロもマクロンもちょっとどうなんだ?って人物だし
    変な人間代表に選ぶとほんと世界が不安定になるな

    9
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      世界が不安定だから、変な人が指導者になるんじゃない?

      4
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      昨今、そんな変なヤツや国がデファクトスタンダードだと思えるようになってきた件

      所詮、世界は生き馬の目を抜くキチガイに満ちた修羅場よ
      フランスじゃ、リアルに生き馬の目を抜くキチガイが居るしな!

      3
    • 匿名
    • 2020年 9月 08日

    中国の例もあるけど、中古の空母ってそんなに魅力的なのか。
    カタパルト不要のF-35Bを使うのなら特に技術的な問題はないはずだと思う。
    もに日本が5万トンの空母を作るならカタパルトの装備とF-3の艦載機化計画が動き出すかも。
    F-3は国産主導だからやる気さえあれば不可能ではない・・・・翼の折り畳みやエアフレームや足回りのl強化が必要だから可能性は小さいが。
    そしてそれが実現出来たらウエポンベイを潰潰して燃料タンクにした長時間飛行可能な撃墜されないAWACSも作れる。
    ミサイルの小さなレーダーではよほど接近しないとステルス機にロックオンできないし、F-3の速度があれば相手機に接近されない。

    1
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      できるだろうけど予算の関係でやるとは思えんな…
      ロマンあるけど…

      4
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      カタパルト装備の中型正規空母なんぞ作ったら建造費と維持費に乗員確保で海自の財政を大きく圧迫するからまず無理だろう。

      6
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      韓国内では大真面目に、将来の空母保有に向けて研究の為に購入すべきだという声が高まったりもしたね

      2
      • 匿名
      • 2020年 9月 09日

      そこでFー14ベースFー4ですよ!!(ロマーン)
      つかFー14ってFー15より強ぇえのな知らなかった。

        • 匿名
        • 2020年 9月 09日

        毎回思うのだけど、こういう人が言う強さとは何についての強さなのだろう…
        いつも疑問に浮かんでは答えをくれなくてモヤっと来る

        11
          • 匿名
          • 2020年 9月 10日

          自分の妄想力の強さ

          3
    • 匿名
    • 2020年 9月 10日

    環境配慮するのが先進国のあるべき姿、まあ反論はないけど。
    しかし、その環境対策を口実に他国への干渉を画策する欧米流も見え隠れする
    最後は抜け道だのダブルスタンダードって話になるなら、聞くだけ時間の無駄だね
    だいたいが、危険物の後始末を途上国に押しつけるのは欧米の始めたビジネスなんだけど、それをひっくり返すのか

    3
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