北米/南米関連

カナダがNASAMSを購入してウクライナに提供、但し製造に2年必要

カナダのトルドー首相は「NASAMSを購入(約4億ドル)して提供する」と発表したものの、これを製造するレイセオンは「納品まで2年はかかる」と主張しているためウクライナにいつ届くのかは未知数だ。

参考:Ukrainian ambassador says ‘ice’ is breaking on allied arms shipments
参考:“Leopard” wäre vor 2024 nicht lieferbar

高度で複雑な西側製装備品はウォーゲームのように1ターンでは生産できず、防衛産業も資金供給の裏付けがない限り動けない

ロシア軍のインフラ攻撃に直面するウクライナを支援するためカナダのトルドー首相は「NASAMSを購入(約4億ドル)して提供する」と発表したものの、これを製造するレイセオンは「納品まで2年はかかる」と主張しており「米国に働きかけて可能な限り納期を短縮する」とカナダ側は説明しているが、NASAMSの納品待ちには顧客の長い列が出来ているため「ウクライナ提供分」を優先できるかは微妙な状態だ。

出典:Raytheon

NASAMSのバックオーダーにはオーストラリア、ハンガリー、カタール、エストニア、ラトビア、クウェートからの発注が積み上がっており、米国もウクライナに提供するためのNASAMS(6基)を発注したばかりで、レイセオンは「システムに必要な電子部品やロケットモーターの調達にリードタイムが発生するため、現在の製造ペースでNASAMSをゼロベースで組み立てるには24ヶ月かかる」と説明している。

つまり構成部品の調達とNASAMSの組み立てに「2年かかる」という意味で、これを短縮するには発注済みの顧客からシステムを奪う必要があり、これに同意する国が登場しなければ「米国に働きかけて可能な限り納期を短縮する」というのは実現不可能だ。

出典:Bundeswehr/Ralph Zwilling

さらにラインメタルも「レオパルト2の提供が明日発表されてもウクライナへの提供は2024年になる」と説明して注目を集めている。

ラインメタルの話は「自社保有のレオパルト(Leopard1を88輌とLeopard2を22輌所有)をウクライナに提供する場合のケース」で、保管状態のレオパルト2を現役に復帰させるためには1度完全にバラして再整備する必要があるので「納品までに1年はかかる」と述べているのだが、この作業には数億ユーロの費用が必要となるため「ラインメタルは正式決定後に政府から支出される資金が届かないかぎり作業を始める事はできない」と付け加えているのが興味深い。

出典:Mateusz Włodarczyk/CC BY-SA 4.0

ドイツがポーランドやフィンランドが要求する「自国保有分のレオパルト2のウクライナ移転」を承認しても、ドイツがレオパルト2の提供を行うかは未知数なので「ラインメタルの心配」については何とも言えないが、高度で複雑な西側製装備品はウォーゲームのように「1ターンでは生産できない」という点と、防衛産業の経済活動は慈善事業ではないため「正式な資金供給の裏付け」がないと動けないという点を浮き彫りにした格好だ。

因みに英国政府がチャレンジャー2とAS90の提供を15日に発表後、Mirror紙が「英国はヘルファイアーを搭載した4機のAH-64Eもウクライナに提供する」と報じたためSNS上で話題になっていたが、この情報はMirror発のものなので他のメディアは追従せず同紙も当該記事を数時間後に削除、英国防省も「AH-64E提供は事実ではない」と否定したためMirror紙の報道は「デマ」だと確定している。

追記:ドイツのランブレヒト国防相が正式に辞任を発表した。

関連記事:英国政府、チャレンジャー2とAS90のウクライナ提供を公式に発表
関連記事:英国がウクライナにチャレンジャー2提供を伝達、ドイツとの政治的な駆け引き
関連記事:ポーランドがウクライナへのレオパルト2提供を発表、但しドイツ承認がネック

 

※アイキャッチ画像の出典:Soldatnytt/CC BY 2.0 NASAMSランチャー

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コメント

    • 通りすがりの動物号
    • 2023年 1月 16日

    西ヨーロッパ諸国の軍備は戦争に対応できる状態ではなかったということですね。これじゃロシアに足元を見られるわけだ。。。

    21
    • 無印
    • 2023年 1月 16日

    ラインメタルは何でバラして再整備しないと使えないようなレオパルド2を22両も持ってたんだろ?

    2
      • hogehoge
      • 2023年 1月 16日

      普通に部品取りにしてるんだと思いますよ。
      なので完品に何量戻せるか微妙でしょうし、戻してみたところでジャンク品というのは問題だらけでしょう。
      日本も海自が未使用で完品状態の新古品KC130Rを購入しましたがそれでも問題児みたいなんで。

      5
        • たぬき
        • 2023年 1月 18日

        C-130Rは未使用ではなく、米海軍(海兵隊?)の使用していたモスボールだったかと。

    • あああ
    • 2023年 1月 16日

    そりゃ中古車屋が金貰わんで納車準備なんかするかって話ですが、メーカー買い戻しの保管品でも中古販売向けか部品取り向けかでは全く別。前者は今すぐ自走するでしょうが後者は野積みの可能性さえある。納期2年となれば後者に近いはずです。
    となると現役運用状態のを軍から抽出する他ないでしょう。チャレンジャー2はそれなので年内戦力化です。重AFVを提供するよう判断を迫る上に納期明確な現役運用品の拠出を求めるのが米英と東欧です。仏もこれに乗りAMX10RCです。PZH2000はそれでした。レオ2もそうするべきです。稼働車が不足してるのは独側の怠慢が原因と言わんばかりですね。
    ですので独軍現役のレオ2をまずは少数でも工面する事態になるはずです。しかし独政府がレオ2供与の認可となれば独以外の国々が現役運用のをどんどん引き渡すでしょう。メーカー保管の物はその供与国向けの代替品で準備とするほうが現実的です。

    5
    • 黒丸
    • 2023年 1月 16日

    普通に手に入るスマホや家電・自動運転車向けの汎用電子部品や半導体で製作可能な各種誘導武器の設計を準備し
    戦時に汎用品ベースで精密誘導兵器を急造生産できることは、これからの軍需産業や補給体制の課題になるかもと思います。
    核戦争級の電磁パルスへの対応を無視すれば、車載半導体でも十分軍事に活用できるような気がします。

    10
    • おにぎり
    • 2023年 1月 16日

    日本が法改正してペトリオット供与とかの話が一部であるが退役品無いし部隊改編もないから同じ様になりそう

    2
    • 58式素人
    • 2023年 1月 17日

    ここでの問題は、サプライチェーンなのでしょうね。
    サプライチェーンは、平時にしか機能しないのでしょうね。
    だから、戦時体制に変わる前は、ストックだけで戦わないとですね。
    まして、チェーンの中に潜在的な敵性国家がいたら、でしょうか。
    戦時でもチェーンを機能させ続けられるのは、現在は米国だけでしょうか。
    ロシアのストックが大きいために、西側は混乱させられ続けていますが。
    話を戻して、SAMですが、古い機体の誘導部分を更新することで
    使用できる機体数を増やせないものでしょうか。
    汎用品を使ってですね。先日のシースパローの様に。

    3
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