北米/南米関連

カナダの潜水艦調達、オフセットの一環として現代自動車の進出を要請か

カナダ国営放送は潜水艦入札の評価割合について昨年「潜水艦の維持管理パッケージ=50%、潜水艦の能力=20%、企業の財務状況=15%、オフセットの内容=15%」と言及したが、韓国政府高官は「潜水艦調達に関連して現代自動車の工場建設を要請している」と明かした。

参考:강훈식 “캐나다 정부, 잠수함 수주 대가로 현대차 현지 공장 건설 요청”
参考:Canadians call for a new automotive strategy to build Canada strong: new KPMG Canada survey Français

TKMSとHanwha Oceanの戦いは潜水艦の能力以外の評価=残り80%の評価で「どれだけ多くのポイントを稼ぐか」に懸かっている

カナダのブレア国防相は2024年7月「最大12隻の通常動力型潜水艦の取得手続きを正式に開始した」「正式な情報提供依頼書(RFI)を秋に発行する」と発言し、待望のRFIが9月に発行され「魚雷、対艦ミサイル、陸上攻撃用の長距離攻撃兵器搭載」「契約締結は2028年」「1番艦引き渡しは2035年」「海外建造=完成品の輸入」「サポート、訓練、インフラ分野へのカナダ企業参入=技術移転」を要求していることが判明。

出典:海上自衛隊

この入札にフランス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、韓国、日本が応じると予想され、誰がカナダからの受注を獲得するのかに注目が集まったが、カーニー首相は昨年8月にTKMSの造船所を視察した際「潜水艦入札のShort List=適格候補をドイツと韓国に絞った」「公正で透明な競争に尽力する」と発表、カナダ国営放送のCBCも「ドイツと韓国の競争は熾烈だった」「スペインとスウェーデンも情報提供に応じたが要件に基づく徹底的な評価で排除された」「カナダは2027年までに最終決定を下す予定だ」と報じ、カナダ連邦防衛投資庁はTKMSとHanwha Oceanは正式な入札関連文書を送付した。

カナダはCF-18A/B後継機プログラムでも「提案された戦闘機を3つの要素で評価する」と事前に発表し、その割合は「戦闘機の能力評価=60%」「戦闘機のコスト評価=20%」「カナダ産業界への再投資を含むオフセットの内容評価=20%」で構成されていたが、CBCは入札の評価割合について「カナダが最も重視しているのは潜水艦12隻導入後の維持管理だ」「入札評価の割合は維持管理パッケージ=50%、潜水艦の能力=20%、企業の財務状況=15%、オフセットの内容=15%だ」と言及。

出典:Public Domain CF-18A/B

防衛投資庁のジェームズ・ルーク氏もCBCの取材に「潜水艦調達は機密事項なのでコメントできないが、今回の調達はカナダ防衛産業を最大限活用して質の高い雇用を創出し、経済成長を促進しつつ、カナダに大きな経済的利益をもたらすものでなければならないと言及してきた」と述べ、韓国のカン・フンシク大統領秘書室長も現地メディアの取材に「カナダは潜水艦調達に関連して現代自動車の工場建設を要請している」と明かし、韓国の経済紙は2日「カナダは米国との関税問題で国内の自動車産業基盤を拡充したいと考えている」「そのため潜水艦調達と自動車工場建設をパッケージにして交渉に臨んでいるのだろう」と報じた。

KPMGが12月29日に発表した世論調査によれば、カナダ人の72%が「関税問題に起因した自動車産業界の不確実性(CUSMAの関税特権)で新車価格が高騰する」と予想、76%が「経済的余力が減少したため新車購入に手が出せなくなる」と懸念、23%が「関税問題の影響で新車購入が事実上困難になった」と、38%が「新車価格が10%~15%上昇すると新車購入を完全に断念する」と、72%が「購入する車がカナダ国内で組み立てられるか製造されることが重要だ」と回答し、KPMGも「カナダ人は製造業の雇用を守りつつ自動車産業全体のエコシステム基盤を強化する戦略的な投資を求めている」と指摘している。

出典:Hanwha Ocean Polska

韓国の毎日経済新聞も「カナダ政府は潜水艦調達について契約額と同等=100%のオフセット取引を要求してきた」「具体的にはカナダ製装備の購入、現地生産、技術投資、資源、エネルギー協力などをパッケージして提出するよう求めている」「オフセット取引は輸入国が輸出国に対して『受注の見返りに我々の産業や経済にも利益をもたらして欲しい』と要求する一種の補償要求だ」「カナダは12隻の潜水艦調達に最大20兆ウォン=約2.1兆円、30年間の運用・維持コストまで含めると事業規模は最大60兆ウォン=約6.5兆円と推定され、受注に成功すれば韓国防衛産業にとって最大規模の単一輸出契約になる」と報じた。

適格候補=競争入札の最終候補に選ばれた212CDとKSS-IIIのスペックを比較して「ここはどうだ?」「こっちの方が優れている」と言ったところで、入札における潜水艦の能力の評価割合は20%しかなく、最終候補に選ばれた時点で「カナダ海軍が要求する最低限の要件は満たしている」と考えるの妥当だ。

出典:TKMS

つまりTKMSとHanwha Oceanの戦いは潜水艦そのもののスペック以上に「残り80%の評価項目でどれだけ多くのポイントを稼ぐか」に懸かっており、この文脈でカナダが「自動車産業への投資」を求めている点は非常に興味深い。

見方を変えれば静粛性を追求する潜水艦の選定において、カナダ政府は「経済の騒音(不確実性)」を打ち消すための投資パッケージを何よりも重視しているとも解釈でき、防衛調達のあり方として中々皮肉が効いている。

関連記事:カナダが潜水艦調達の入札手続きを開始、勝敗を左右するのは維持管理パッケージ
関連記事:ドイツ国防相がカナダに212CDをアピール、韓国の潜水艦よりも優れている
関連記事:カナダの潜水艦調達を巡る戦い、最終候補をドイツと韓国に絞ったと発表
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関連記事:カナダの潜水艦調達を巡る戦い、欧州再軍備計画によって欧州調達が有利なる
関連記事:カナダ、韓国製潜水艦の戦闘管理システムが非米国製なのは重要なポイント
関連記事:対米関係見直しを公言するカナダ、韓国が2兆円以上の防衛装備品購入を提案
関連記事:カナダメディア、日本はカナダ海軍の潜水艦入札に参加しない
関連記事:日本メディア、カナダの次期潜水艦にたいげい型が有力候補として浮上

 

※アイキャッチ画像の出典:Hanwha Aerospace Europe

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コメント

  • コメント (15)

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    • Miriota
    • 2026年 1月 03日

    現代自動車はこの入札に全く関係ないのに、この要請に応じるメリットありますかね?それに、カナダに現地工場建てると韓国からの輸出額が減る = 韓国内の就業人口が減る、なので、政府としても慎重になりそうですね。
    あと、韓国高官が引用元のようですが、ドイツにも同じような要請(VWのカナダ工場新設)をしたかも気になります。

    29
      • 酢と塩
      • 2026年 1月 03日

      「連邦政府「潜水艦事業を受注するには現代自動車の工場を建設せよ」
       600億ドルの次世代潜水艦プロジェクト最終候補である韓国とドイツに同等の要求」January 2, 2026
      リンク
      ドイツにも自動車生産施設建設を求めててカナダの産業大臣はVWに言及していたようです。

      15
    • Mr.R
    • 2026年 1月 03日

    本記事と関係なくて申し訳ないですがベネズエラとうとう始まったっぽいですね
    首都カラカスで空爆及び複数のヘリ(チヌークその他)が飛行している様子が撮影されています。

    9
      • US
      • 2026年 1月 03日

      つい30分前の情報ですが、マドゥロ大統領と夫人の身柄が拘束され、既にアメリカの作戦は完遂したそうです。

      2
      • KEI
      • 2026年 1月 03日

      日経電子版にも記事がアップされていますし、どうも本当のようですね。米軍が地上攻撃を行い、マドゥロ大統領を拘束して国外に移送したと記載されていました

      2
    • たむごん
    • 2026年 1月 03日

    韓国自動車メーカーは北米輸出が多くいんですよね。

    現代・起亜グループを見ると、アメリカへのハイブリッド車輸出の販売台数が多く、200億ドル以上の投資も発表しています。

    NAFTA内の輸入について、トランプ政権が厳しい見方を示している中で、カナダだけで自動車新工場の需要を満たすのは難しいような気もするんですよね。

    >輸出先は北米が55.6%で最も多く、欧州が18.7%で続いた。

    >米国では、2025年から2028年までの4年間にわたり、210億ドルを投じると発表している(2025年3月31日付ビジネス短信参照)。ジョージア州の「メタプラント・アメリカ(HMGMA)」の生産能力を年産30万台から50万台に拡大する。米国トランプ政権の関税政策に対応する動きとみられる。

    (2025年1月15日 現代自の環境車輸出、70万台超で過去最多 NNA ASIA)
    (2025年4月23日 2024年の自動車産業は輸出が牽引するも、販売・生産は低迷(韓国) JETRO)

    3
      • たむごん
      • 2026年 1月 03日

      追記です。

      (別件ですが)ベネズエラ攻撃が、始まったというニュースがあり、攻撃やヘリボーンらしき動画が出回ってますね。

      2
    • ななしのシロウト
    • 2026年 1月 03日

    カナダのメーカー別自動車販売台数(2024年)
    1位 GM      294,315台 カナダに工場アリ
    2位 フォード    278,571台 カナダに工場アリ
    3位 トヨタ     238,933台 カナダに工場アリ
    4位 現代自動車   138,755台
    5位 ホンダ     135,692台 カナダに工場アリ
    6位 ステランティス 129,945台 カナダに工場アリ

    9位 VW       81,742台

    上位メーカーでは現代自動車のみがカナダに工場がない状況

    17
    • 足柄
    • 2026年 1月 03日

    過度なオフセットの要求は入札に参加する企業が減るからなあ
    隠す事が無い陸の輸送系や枯れた火砲系、海の補助艦艇しか提案してもらえなくなりそう

    1
    • 名無し
    • 2026年 1月 03日

    こういうの要求されるから日本は速攻で降りたんだろうな
    輸出するにしてもデメリットが多すぎるし旨味もない

    17
      • 特盛
      • 2026年 1月 04日

      それでも技術移転の要求は厳しくないし潜水艦の自国生産も求めてないからデメリット多いとは思いませんが…

      4
      • ネコ歩き
      • 2026年 1月 04日

      現行移転三原則運用指針の規定で潜水艦輸出・技術移転は共同開発必須案件で、それには相手国と「防衛装備品・技術移転協定」を締結していることが前提です。カナダとは締結してませんし、締結に向けた協議を行っている様子もありません。
      つまりオフセット条件等以前の問題で、日本政府が許可できない案件なのが現状での本筋です。
      経産省ではなく駐カナダ大使を通じて断りを入れたのはそういうことだと思います。

      7
    • あうあうあー
    • 2026年 1月 04日

    リバー級もどえらい事になってるのに、カナダは真面目に軍備増強する気あるんですか?と疑われるレベルではないですかね。

    2
      • トブルク
      • 2026年 1月 04日

      真面目に増強する気はもちろんありますが、防衛費増額を国民に認めてもらうためには説得する材料が必要です。
      ただし、オフセットを要求すればするほど事業計画が複雑化し、リスクを抱え込むことになります。
      仮に雇用確保のため潜水艦をカナダで建造するとか言い出すと、確実にコスト増大と事業遅延のリスクが発生します。この計画ではカナダでの建造は要求していませんが、その分、ほかで要求するということです。
      自動車メーカーの工場進出なら、潜水艦事業とは別物なので、事業上のリスクは小さいと思います。ただ、韓国やドイツがこれに応じるかは分かりませんが。

      2
        • タルト
        • 2026年 1月 04日

        カナダ国内に、vwはEV用バッテリー工場を建設中なだけで、自動車工場はなく、現代も自動車工場がないようなので、↑の方が示されている自動車販売台数を見るとカナダ国内に工場を求める気持ちも理解できます。
        もし、日本がこの場に居たらさらなる自動車工場建設を求められたのかは気になります。

        2

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