北米/南米関連

カナダ産業相がF-35契約維持に追加利益を要求、駄目ならグリペンE調達を示唆

カナダのジョリー産業相は「戦闘機契約の判断は首相に委ねられている」「もしF-35契約を維持するならLockheed Martinに追加の経済的見返りを要求すべきだ」「それに応じないなら調達数を削減してグリペンEを第2の戦闘機として取得するかもしれない」と言及した。

参考:Industry minister pushing F-35 maker for economic benefits in Canada

政治的、経済的、商業的、軍事的立場から発信される様々な意見は非常に興味深く、部外者として見ている分には中々楽しい状況だ

カナダと米国の2ヶ国間関係はトランプ政権のカナダ併合発言や関税問題の影響を受けて大幅に悪化し、New York Times、Defense News、War Zoneなどは「トランプ大統領の併合発言に執着するのではなく取引に集中すべきだ」「どうせトランプ大統領が脅しをかけてきたとしても冗談半分なのだから」「オタワとワシントンの関係がどうであれ装備品調達から米国製を排除するのは懸命ではない」と訴え、F-35A契約の維持や早期警戒機入札へのボーイング参加について楽観視していた。

出典:The White House

しかし、カナダのカーニー首相は「防衛と安全保障上の優先事項」に関する演説の中で「米国の優位性は過去のもの」「現在の米国は覇権的地位を金銭獲得のため利用している」「安全保障分野への追加投資は国内産業を強化して米防衛産業への支払いを少なくすること」「カナダは欧州再軍備計画に参加する」と発言したため、米メディアは「防衛産業がカナダ市場へのアクセスを本当に失うかもしれない」と危惧し、首相が指示したF-35A導入見直し結果に注目が集まっている。

カナダ国防省はF-35A導入見直し作業について「2025年夏までに完了する予定だ」と回答していたが、この問題は軍事的合理性ではなく2ヶ国間関係の行方に大きく左右されるため、未だに見直し作業の結果は発表されておらず、ベック国防副大臣は8日の会計委員会で「我々は公僕なので事実を提示し決定が下される」「我々は選挙で選出された指導者から新たな指示を受け取るまで既存の取り決めに従って契約を維持する」と言及し、War Zoneは「今回の発言で重要なのはカーニー政権が依然として16機以降の戦闘機調達に選択肢を残していることだ」と報じた。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee

“ベック氏が言及したのは契約済みのF-35Aに関するもので、重要なのはカーニー政権が依然として16機以降の戦闘機調達に選択肢を残している点だ。そのため88機購入は保証されていないと改めて確認された。現状のところカナダと米国の関係は低迷し続けている。昨日行われたカーニー首相とトランプ大統領の会談でも関税問題で合意出来ず、カーニー首相は関税引き下げを実現するよう国内から相当圧力がかかっている。これはトランプ大統領がカナダに課した35%の関税、これにカナダが報復措置として米国に関税を課したのが原因だ”

カナダ国営放送のCBCは「カーニー首相が今後の戦闘機調達についていつ決断を下すのか不明だが、駐カナダ米国大使は頻繁に『戦闘機戦力を複数機種で構成すべきではない』『カナダに異なる戦闘機を2機種運用する余裕はない』『F-35から離脱すればカナダとの相互運用性は低下する』と発言して首相を苛立たせている」と報じ、ジョリー産業相は現地メディアの取材に「戦闘機契約の判断は首相に委ねられているが、(産業大臣の立場から言えば)契約を維持するならLockheed Martinに追加の経済的見返りを要求すべきだ」「それに応じないなら調達数を削減してグリペンEを第2の戦闘機として取得するかもしれない」と言及。

出典:SAAB

最終的な決断を下すカーニー首相は沈黙を守っているため、カナダ国内では「各立場に基づくF-35A調達への様々な意見」が飛び交っており、ジョリー産業相の発言も担当する職域の利益を代弁したものに過ぎないものの、政府高官が代替戦闘機としてグリペンに言及したのは今回が初めてだ。

カナダ空軍は第5世代戦闘機に移行することの重要性を主張しているが、グリペンの現地生産を提案しているSAABは「第4世代、第5世代、第6世代といった表現は戦闘機の能力を表すものとして頻繁に使用されるもの、その定義自体も議論の対象になることがある。我々はグリペンEの構成技術や能力が日々向上しているため、何年も前から『世代』という表現を止めた」と主張し、第5世代かどうかで戦闘機を選ぶ議論から距離を取っている。

出典:SAAB

政治的、経済的、商業的、軍事的立場から発信される様々な意見は非常に興味深く、部外者として見ている分には中々楽しい状況だ。

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※アイキャッチ画像の出典:SAAB

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コメント

  • コメント (13)

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    • SB
    • 2025年 10月 20日

    そういう仕事とは言え首相も大変だな

    F-35の導入決めたら間違いなく国民に叩かれるし、かといってグリペンだの米国以外の武器システム導入したらしたで、今度は15~20年後にポピュリズムに迎合して軍事的合理性に欠けた選択をしたとか叩かれるだろうし…

    22
    • AH-X
    • 2025年 10月 20日

    機種の統一は確かに望ましいですが、カナダの防衛環境見てたらハイローミックスでもいい気もします。

    12
      • 匿名希望係
      • 2025年 10月 20日

      ぶっちゃけてカナダの立地的には入れるのってアメリカだけでは?
      NATO加盟しているから足並みそろえるんならタイフーン、ラファール、グリペン、F-35になるけど

      1
    • Rex
    • 2025年 10月 20日

    まぁ、カナダの立国的に敵国と接して無いしf35だと費用対効果が悪すぎる。
    アメリカへの依存度を下げるぐらいの気持ちでグリペンE採用するのもいいかもね。、

    3
    • 溜池
    • 2025年 10月 20日

    結局アメリカとの関係をアピールするためのF-35A導入なんですよね。

    そのアメリカがカナダをぞんざいに扱ってきている状況でも、カナダの選択肢は
    1.「このまま何事もなかったかのように、そして今後何があってもF-35A導入する=縋り懇願して、振られないようにする」
    2.「グリペン導入を”示唆”してからF-35Aを導入する=選択肢が他にあることをアピールして、振られないようにする」
    のいずれかしかないと思います。

    日本を含め、アメリカとの関係性や後ろ盾なしに国防が成り立つ国はほとんどない。
    「核兵器と高効率の兵器でコンパクトな軍隊を」という話は、実際にはアメリカとの関係性ありきでしか成り立たず、
    なんならアメリカに基地提供や武器購入でお金を払うことで世界はすでに実現していたとすら言えます。

    勇ましい発言とは裏腹に、各国実際覚悟を持って国防支出を増えているとは言い難い。
    今のロシアのように全体歳出の3割を投じてでも対抗していかないと、単独での国防などできない。連帯すればいいというが、そのNATOも、EUの国防すらも、やはりアメリカ前提、アメリカの影なしに成り立たない現実。

    28
      • タルト
      • 2025年 10月 20日

      まったくその通りだと思います。
      「アメリカからの独立」だとか、「アメリカが日米安保で守ってくれないかもしれないから自力で」とか言ったり、「核保有」と言ったりする人が居ますが、ズレてる思います。
      現実的を見れば、今考えるべきは「いかにアメリカを引き止め続け、確実に極東有事に関与させるか」だと思います。
      (私は前述のような「勇ましいこと」を言う人たちは極右だと思ってしまいます(言い過ぎ?)。一般に左翼は理想主義・感情論的、右翼は現実主義と言いますが、そういう意味では左翼も極右も大差ないと思ってます。)
      また、台湾・日本の島嶼の地理的重要性は絶大で、第一列島線を破られた後のアメリカから見たの防衛の難易度は爆上がりするので、自国防衛のためにも関与してくれる公算は高いと思うのですが甘いですかね?(その可能性を少しでも高めるために 日米関係、QUAD、日英、日欧の関係を密にするのが大切だと思いますが)

      7
        • せい
        • 2025年 10月 21日

        アメリカを引き留めるためにどうするかが重要なのはそうだけど、そうなると結局自衛隊に力を付ける方向にはなると思う
        米国が軍備の負担で悲鳴を上げてる以上、負担の肩代わりをするしかない
        いくら米国に投資をしても、国その物を支えることは出来ないんだから、軍事的負担の肩代わりをする事になるんだろう
        まあ表現する言葉は違うんだろうけど、結局日本の軍事強化、戦える国に変わることは避けられないと思う

        7
          • タルト
          • 2025年 10月 21日

          それは私もそう思います。
          私は国家の役割は国民の生命と財産、国家の主権と名誉を守ることだと信じています。
          その時、国家が自国を守れるだけの防衛力は当然のことだと思いますし、国際情勢を見れば、日本を守るためには軍備の強化が必要だと思ってます。
          憲法9条を守れば平和に過ごせると言っている人たちのことは、理想論としては理解できますが、現実を生きる者としては理解できません。
          ただ、私は現実を無視して極端なことを言う人に失望してるだけです。

          3
    • kitty
    • 2025年 10月 20日

    日本もこれくらいモノ言ったらいいのになあ。
    金はともかく、AAM/ASM統合こっちでやるからイスラエルの8割くらいのアクセス権をよこせとか。

    10
      • 匿名希望係
      • 2025年 10月 20日

      カナダの持っている兵装アクセス権とか売ってくれないかなー
      とはいえイギリスですら後回しだしな

      2
    • 戦略眼
    • 2025年 10月 20日

    リースでいいから戦闘機を仕入れないと、CF-18が飛べなくなってしまうぞ。

    2
    • DEEPBLUE
    • 2025年 10月 20日

    本気だったらタイフーンかラファールでしょうから、本音は関係回復でしょうな。麻薬なんて取り締まればいいだろうに。

    3
    • 樺太
    • 2025年 10月 20日

    カナダに本来必要なのはアローの様な大型戦闘機であって、グリペンの様な機体は真逆ではなかろうか

    7

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