カナダのカーニー首相は9日「2025会計年度内に国防支出の2.0%基準を達成する」と発表、さらに演説の中で「米国に対する強烈な不信感」と「今後協力していく欧州への信頼感」を表明し、追加支出する投資についても「国内の防衛産業を強化して米防衛産業への支払い削減が目的だ」と述べた。
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参考:Canada to meet NATO’s 2% defence spending target this year: Carney
参考:Canada to boost defence spending to 2% of GDP this fiscal year
今回の発表で浮き彫りになったのは「米国に対する強烈な不信感」と「今後協力していく欧州への信頼感」で非常にパンチの効いた内容
ロシアの違法なクリミア併合を受けてNATO加盟国は2.0%基準の国防支出で合意し、NATOが4月に発表した年次報告書によれば22ヶ国が2024年まで「2.0%の合意」を達成、まだクロアチア、モンテネグロ、イタリア、ポルトガル、カナダ、スロベニア、スペイン、ルクセンブルク、ベルギーの9ヶ国が未達だが、NATO加盟国は6月末の首脳会談で「国防支出3.5%」と「軍事インフラとしても活用できる分野への投資1.5%」を組み合わせた「総額5.0%基準」を採用する見込みで、モンテネグロは2025年予算で2.0%をクリア、未達の主要国3ヶ国=ベルギー、スペイン、イタリアも追加資金を調達して年内達成を約束している。
Le nouveau gouvernement du Canada va investir pour rebâtir et réarmer les Forces armées canadiennes afin d’affirmer la force de notre nation, tant chez nous qu’à l’étranger.
Notre plan pour défendre la sécurité et la souveraineté du Canada : https://t.co/ISwPuGGogs
— Mark Carney (@MarkJCarney) June 9, 2025
カーニー首相も9日「カナダは冷戦時代から今日まで国際舞台で支配的な役割を果たしてきた米国と肩を並べてきたが、もはや米国の優位性は過去のものになった。現在の米国は覇権的地位を金銭獲得のため利用し始めており、米国市場へのアクセスに料金を課し、集団安全保障への相対的な貢献度も減らしつつある。世界は重大な転換点に差し掛かっており、カナダは自らの道を切り開く時が来た」と述べて「カナダ軍と装備品への投資、カナダ軍の能力向上、防衛産業の基盤強化、パートナーシップの多様化に資金を追加投資して2025会計年度内に2.0%を達成する」と発表。
具体的にはカナダ軍の人員維持や拡張(2030年までに現役と予備役を合わせて1.3万人増)に26億加ドル、インフラ整備に8.4億加ドル、デジタル基盤に5.6億加ドル、領土と北極圏防衛の既存戦力強化と新たな戦力導入に10億加ドル、カナダ防衛産業の基盤強化に21億加ドル、より強固な防衛パートナーシップに20億加ドルを投資する予定で、特に防衛パートナーシップへの投資については「パートナーシップを米国以外にも広げる」「カナダの国益に叶う場合にのみ米国とのパートナーシップを活用する」と述べている。

出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Mark Goss
さらにカーニー首相は演説の中で「追加投資の目的は国内の防衛産業を強化することで国防投資の3/4を米防衛産業に支払わなくて済むようにすることだ」「カナダ国内の製造業とサプライチェーンを優先する」「カナダ軍への武器供給は欧州再軍備計画に参加することで『信頼できる欧州のパートナー』によって多様化されるだろう」「カナダは新型潜水艦、航空機、艦艇、戦闘車輌、大砲、海中と北極圏を監視するため新型レーダー、ドローン、センサーに投資する」と述べたが、具体的な調達内容については詳しく説明していない。
今回の発表で浮き彫りになったのは「米国に対する強烈な不信感」と「今後協力していく欧州への信頼感」で、多くの西側諸国首脳が言い出せない=覇権的地位を利用した関税政策への不満もストレートに述べており、非常にパンチの効いた演説内容となっている。
因みにカナダ国防省は今回の発表を反映させた新しい国防政策を策定する予定で、意志決定を一元化して調達を迅速化するための新しい調達機関も設立するらしい。
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※アイキャッチ画像の出典:Mark Carney
流石に併合したいとまで言われたら、カナダとはいえ警戒感を顕わに、離れるしかないわな
FCASやGCAPにMGCSへの参加もあり得るが、それを受けた米国の動きが全く読めない
流石に本気で武力制圧はせんだろうけど、北米の安定が崩れるようなことにはならんことを祈る
カナダ目線で見て、トランプ政権後を見据えて自国がやりやすい政権を後押ししたいときに、米国製兵器を買うカードを得たともいえるかなと。
世界を見渡せば、政府間の関係が悪化したとしても、観光客が訪れたり・経済交流してるわけですから、それなりの関係として続いていくのでしょうかね。
とりあえず。タイフーンかラファールの調達開始しそう。
ヨーロッパが梯子外さないといいが